VRコンテンツを制作する際の注意点とテクニック

 2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2016。8月24日には、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによる、プレイステーション VR関連のセッションが複数行われた。ここでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(SIEJA)ソフトウェアビジネス部次長、秋山賢成氏による“VR体験向上チャレンジ!:VRの体験を上げるためのテクニックとチャレンジ”の模様を紹介する。

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プレイステーション VRで1ランク上の体験を提供するためのテクニックとチャレンジ【CEDEC 2016】_02
▲秋山賢成氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア)

 秋山氏はこれまでに、プレイステーション4やプレイステーション VRの技術講演を、日本・アジアエリアにおいて多数実施してきた。今回は「VRコンテンツを制作する際の注意点とテクニックの紹介」と、「VRの体験を向上するためのSIEJAのチャレンジ」というふたつのテーマで、開発者に向けて講演が行われた。

 まずは「VRコンテンツを制作する際の注意点とテクニックの紹介」から。開発者が最初に頭に叩き込むべき最重要ポイントとして秋山氏が語ったのは、プレゼンス(実在感)を壊さないための最低必須条件として、レイテンシー(遅延)を極力減らすことと、フレームレートが常時60fps以上であること。そこで鍵となるのが、CPU/GPUのパフォーマンスチューニング。処理を最適化することで効率を上げ、もっとたくさんの処理ができるようにしようというのだ。そのためには、まずパフォーマンスを解析して最適化を検討すること。効果が高そうな処理に狙いを定めて最適化すれば、少しの改善が全体の処理時間に大きく影響するというわけだ。

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 続いて、秋山氏は具体的な最適化例を紹介。GPUについては、左目と右目の画像を作ってVRシステムに渡すVRレンダリング処理時に、実際には歪み補正で消えてしまって見えない領域まで処理させているケースがあると指摘した。描画の必要がない部分をステンシルバッファでマスキングしたり、ポリゴンで型抜きしたりすれば、無駄な処理が省かれ、効率化できるということだ。

 また、“見た目をもっときれいにしたいが大きな処理負荷をかけたくない”という場合には、レンズ特性を考慮したレンダリングを、というテクニックも紹介された。VRヘッドセットで見ると、視界の多くは画像の中心部が占めるため、中心部だけを高解像度レンダリングすればきれいに見えるという。

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 CPUの最適化については、プレイステーション VRにおいてゲームの処理、トラッキング処理、リプロジェクション処理の各処理が連携して動作していることに触れ、なかでもとくにリプロジェクション処理が重要だと強調。リプロジェクションとは、アプリケーションの描画とは別に、将来のフレームをヘッドセットの動きから予測して描画する処理。プレイステーション VRの場合、60fpsのゲームを約120fps相当で動作させることができる。セッション冒頭で触れた、プレゼンスを壊さないためのフレームレートを確保するためにも、「リプロジェクション処理を優先的に」と秋山氏は語った。

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 さて、「VRコンテンツを制作する際の注意点とテクニック」というテーマでは、最適化のほかに「プレイステーション VRのハードウェアを意識した制作の考えかた」というトピックも。3D空間座標を指定して音を鳴らすことのできる3Dオーディオや、ヘッドセットにデフォルトで装着されているマイク、装着センサーなどを活かしたゲーム作りが提案された。

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VRの体験を向上するためのSIEJAのチャレンジ

 セッション後半は「VRの体験を向上するためのSIEJAのチャレンジ」をテーマに講演が進められた。VR体験向上のための鍵となる4大要素は、前述の3Dオーディオに、VR空間を活かした表現、UI、そしてVRコンテンツデザインだという。

 そのうちVR空間については、360度上下左右だけでなく、前後の距離感を活かすことが重要とのこと。しかし、実写映像を使う場合は、CGと異なり距離感を出すのが難しく、課題となっているそうだ。また、UIについての挑戦は、既存のゲームの手法ではなく、VRならではのものを生み出せるかどうか。VRコンテンツデザインについては、VRでしか体験できない気持ちよさや、VRだからこそ表現できる空間の演出による新体験、自分がそこにいると錯覚する実在感の追及などが課題となってくる。

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 そこでSIEJAでは、コンテンツ制作会社の面白法人カヤックとともに、VRの体験向上を目指し、これらの課題にも取り組んでいる。今回は課題実証実験として、映像の世界に自分がいるという体験ではなく、映像が投射されている未来の空間に自分がいる感覚を演出するコンセプト映像を制作。セッションで紹介された。

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コンセプト映像では、PlayStation Moveのモーションコントローラで空間上のサムネイルを選択するという、VRならではのSF的なUIを表現。また、VR空間へのプロジェクションマッピング、映像に合わせた空間の変化、風景を変化させることによる時間経過の表現など、VR空間を活かした表現の数々に挑戦している。あくまでもコンセプト映像で、実際のVRコンテンツではないが、このようにしてVR映像の演出や空間表現装置が検証されているそうだ。

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 最後に秋山氏は、今回紹介した考察、論法、手法が、VRコンテンツ制作のさまざまなところで役立つとし、「VRの演出に迷ったら、一度立ち止まって体験の向上を再検討すると、素晴らしい答えが出てくるかもしれません」と締めくくった。