違和感や疲労感をどの程度感じたか、テストプレイで評価

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 2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2016。初日の24日には、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)による、プレイステーション VR関連のセッションが複数行われた。ここでは、同社で一貫して周辺機器ビジネスやデバイスドライバー開発に関わってきた、プラットフォームソフトウェア設計部門ベースシステム開発部4課の大貫善数課長による“プレイステーションVR向けコンテンツに対するコンサルテーションサービスの取り組み”の模様を紹介する。

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▲大貫善数氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

 SIEの“VRコンサルテーション(以下、VRコンサル)”とは、VRに不慣れなユーザーに不快感のないVR体験を提供することを目的とした、VRコンテンツ開発者向けサービス。VRコンテンツを評価して、不快感を生じる可能性となる要因を見極め、改善するためのサポートを行なっているという。不快感とは、“3D酔い”、“映像酔い”とも言われるVR酔いをはじめ、不自然な映像を見ることによる目への違和感や刺激、ヘッドセットを長時間装着して首で制御することによる疲労などを指す。

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 なぜVR酔いをはじめとした不快感が生じるのかについては、国内外でさまざまな研究が進行中。日本でも産業総合研究所が解明に取り組んでおり、「身体の動きに対する感覚情報と、予測による情報との“ズレ”が、映像酔いを誘引する」という仮説を導き出している。研究では、被験者の心電図や呼吸などを検査して生体への影響を調べたり、“SSQ(Simulator Sickness Questionnaire)”と呼ばれるアンケートで不快感の程度を調べたりしているそうだ。

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 “VRコンサル”ではこれらを踏まえ、評価チームのテストプレイヤーたちにVRコンテンツを体験させて、独自の“SSQ”を実施。体験後に、頭や胃の違和感、目の疲労感などをどの程度感じたかを評価させ、2/3人以上が不快感を訴えた場合、テストプレイヤーを増員してさらに検証を進めている。

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不快感の要因を分析し、それに基づいた対応策をアドバイス

 ただ、不快感の評価をフィードバックするだけでは、開発側もどう改善していいのかわからない。“VRコンサル”では、不快感の要因の分析と、それに基づいた指摘やアドバイスも併せて行なっている。

 たとえば、VR酔いの要因のひとつには、プレイヤーの動きとVR映像の動きのズレが挙げられる。これには、VR映像のフレームレートやレイテンシ(遅延)が関わっていると見られる。また、目への刺激は、UIや字幕の配置とオブジェクトの位置関係による、距離感への違和感(Depth Conflict)が要因となり得る、などと分析されているそうだ。

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 そこで、フレームレートの低下については、一定のレベルを連続的に下回ると、デバッグメッセージが表示される仕組みを使って管理。また、レイテンシについては、2台のハイスピードカメラを用意し、1台は外の景色、もう1台はプレイステーション VRのディスプレイ映像を映し出し、同時にパンすることで遅延を観測。それぞれ、開発側に指摘を行なっている。

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▲2台のハイスピードカメラを使ってレイテンシを観測

 また、UIや字幕で生じがちという距離感への違和感の対策については、具体的な事例が紹介された。『サマーレッスン』はUIの模範的な事例で、プレイヤーへの指示は中央の見やすい位置に、オブジェクトに対する説明はワールド座標系に置かれている。また、『Motal Blitz』でヘッド座標系に貼りつけられた字幕は短く、頭を動かしても文字が切れて見えないことのないように工夫されているとのこと。

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▲『Motal Blitz』

 そのほか、不快感の主要因になり得るのがコントロールスキームだ。たとえば、探索系ゲームで操作キャラクターが向きを変えるとき、スムーズにクルッとターンするとユーザーが不快感を覚える傾向が見られ、“VRコンサル”では90度単位などで向きが変わるスナップターンを強く推奨しているのだそうだ。このため『バイオハザード7 レジデントイービル』でも、スナップターンが採用された経緯がある。また、ロボットに乗って移動するゲームの場合は歩行の際の上下動を抑えたり、レーシングゲームの場合はスピンの表現を第三者視点に切り替えたりすることが、不快感の低減につながると説明された。

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▲『バイオハザード7 レジデントイービル』

 さらに、カメラコントロールも不快感の要因となる可能性が。前述のクルマのスピンなど、視点の強制回転移動については、「やらないでください」と言及するほどプレイヤーへの影響が大きいのだとか。また、『Until Dawn:Rush of Blood』で描かれている、斜めに移動していくような不思議な体験は、VRだからこそ提供できるものだが、あまり長時間連続すると不快感につながってしまうということだった。

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▲『Until Dawn:Rush of Blood』

 以上のほかにも、“VRコンサル”では、コントロールスキームに慣れてもらうためのチュートリアルの重要性など、さまざまなアドバイスをVRコンテンツ開発者に対して行っているという。プレイステーション VRで、ユーザーが不快感を覚えず、安心して楽しめるコンテンツを提供するために、SIEとコンテンツ開発者の取り組みは続いている。