『サマーレッスン』開発秘話からVRの未来まで――原田勝弘氏&玉置絢氏に直撃!【インタビュー】

『サマーレッスン』(仮題)の開発を手掛けるバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏と玉置絢氏に、VRに関するさまざまなお話しを伺った。

●はたしてVRはほんとうに“来る”のか……!?

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が開発するプレイステーション4専用VRシステム、プレイステーション VR(以下、PS VR)の発売日が2016年10月13日に決定。その予約受付には希望者が殺到し、早くも入手困難となる気配が見えている。VRがもたらす新次元のゲーム体験への、ゲームファンの期待感は高まるばかりだ。
 しかしVRは、まったく新しいものであるだけに、今後どのようなコンテンツが生まれるのか、そしてそもそもVRは一過性のブームに留まらず、継続してコンテンツが供給されていくのかなど、未知数な要素は多い。

 そこで、VRのいまと未来を探るべく、『サマーレッスン』(仮)を開発しているバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏、玉置絢氏にインタビューを敢行。VRコンテンツ開発の最前線を行く者ならではのお話しをたっぷり伺った。

※本記事は、週刊ファミ通2016年8月4日号(2016年7月21日発売)に掲載された記事に、加筆・再編集したものです。

バンダイナムコエンターテインメント
『サマーレッスン』(仮)
チーフプロデューサー
原田勝弘氏(文中は原田)

バンダイナムコエンターテインメント
『サマーレッスン』(仮)
プロデューサー/ディレクター
玉置絢氏(文中は玉置)


【『サマーレッスン』(仮)とは?】
 バンダイナムコエンターテインメントが開発中の“VRキャラクターコミュニケーション”ソフト。仮想空間の中で女の子キャラクターとのコミュニケーションを楽しむという、VRならではの独創的すぎる内容は、ゲームファンからの大きな支持を獲得。当初は製品化が予定されていない技術デモという存在だったが、ファンから殺到した製品化要望を受けて、正式に製品化が決定した。
『サマーレッスン』(仮)公式サイト
※関連記事:キャラクターとのコミュニケーションを楽しめるVR専用ソフト『サマーレッスン』のリリースが到着


●今回のVRは“第3の波”。早くからVR研究に乗り出した理由は……

――原田さんや『鉄拳』プロジェクトの皆さんは、Project Morpheus(編集部注:プレイステーション VRの発表時のコードネーム)が発表されるよりもずっと前の、かなり早い段階からVRを研究されてきたわけですよね。VRのどんなところに魅力に感じられたのでしょうか?

原田 今回のVRは、個人的には“3回目の波”だと思っています。1回目は、鈴木裕さん(元セガ、現YS NET代表取締役社長のゲームクリエイター鈴木裕氏)が作った、『アウトラン』や『アフターバーナー』といった、いわゆる体感型VRゲーム。2回目は間違いなく、ポリゴン時代ですね。当時『バーチャレーシング』や『バーチャファイター』といった人気作には、だいたい“バーチャ”という名前がついていましたし、誰もが「そこに3Dの仮想空間がある」と捉えていました。そして3つ目の波が、このPS VRに代表されるヘッドマウント式のVRです。僕は2011年ごろに、ソニーさんが発売したヘッドマウントディスプレイ(VRではないもの)を友だちから借りて試してみたのですが、まず「スゴイ!」となって。映画はもちろん、ゲームをプレイしてもすごく迫力が増すんですね。そこから、「ちゃんとしたヘッドマウント装置で、『鉄拳』のキャラクターを表示させたら、キャラクターに感情移入できるかな?」と思い、その想いが、開発の最初のきっかけとなりました。とはいえ、その流れが直接『サマーレッスン』につながったわけではありません。

――では、『サマーレッスン』の企画は、どのような経緯で生まれてきたのですか?

原田 Oculus Riftもまだ出ていないころのことですが、社内で業務用ゲームに関わっている全部署を対象に、ドームスクリーン筐体で開発するゲーム企画を募集するコンペがあったんです。そのときに玉置が出してきた企画が、『サマーレッスン』の原型です。この手の企画コンペでは、“乗り物系”が多く出てくるのですが、彼の企画は、“女の子のキャクターと向き合って会話をする”といった内容でした。

玉置 ドームスクリーン筐体にも乗り物系以外の使いかたがあるはずだし、まったく違う方向性で作りたいと思ったんです。最初から「どんな乗り物のゲームを作ろうか?」という縛りになってしまうと、おもしろくないじゃないですか。そこで、そのときは3つの案を用意しました。コンペでは、最初にまじめな案をふたつ出してから、最後のひとつで「女の子と会話ができるゲームなんです!」とプレゼンしたのですが、正直なところ、力を入れて細かく書いたのは最初のふたつの案だったんです。3つ目の企画は、おそらく笑われて終わるだけで、「いちばん最初のヤツがいいね」と言われると思っていましたが……。

――予想以上にウケてしまった、と(笑)。

玉置 はい(笑)。“ドームスクリーン筐体の変わった使いかた”みたいなサブタイトルを付けていたくらいで、まさか通るとは思っていなかったのですが、その案を見せたら、原田が「コレだ!」って言い出してしまって……。その後も、社内で原田に会うたびに、ほかのゲーム企画を提案しても、「それよりもお前、あのドームスクリーン筐体で女の子と話せるヤツの企画はどうなったんだ?」と詰め寄られるようになって。もう逃げられなくなってしまいました(笑)。

――この玉置さんの企画と、原田さんが進めておられた『鉄拳』プロジェクトとしてのVRを研究する試みとは、別々の流れだったわけですよね?

原田 別ですね。そのころ僕の中では、ふたつの企画はまだ合致していなくて、両方を見ていたにもかかわらず、ドームスクリーン筐体はドームスクリーン筐体、ヘッドマウントはヘッドマウントで分けて考えていました。そんな中であるとき、SIEさんから「プレイステーション4用のVRとしてこんなものを考えています」とProject Morpheusを見せられて、そこで初めて「これは『鉄拳』ではなくて、ドームスクリーン筐体向けに立てていたあの企画をメインに押し出したほうがいいのでは?」と考えたんです。

――そこで大きな方向転換をなされた、おもな要因はなんでしょうか?

原田 ひとつの理由としては、『鉄拳』に関する研究がちょうど行き詰っていたということがあります。僕は当初、『鉄拳』のキャラをVRの仮想世界で目の前に出せたら、もっと親近感が湧くと思っていたんですよ。男キャラだったらカッコよく、女キャラだったらカワイく美人に見えて、「目の前で見るとドキドキする!」となるのではないかと。でも実際に試してみると、アリサやリリのような、いわゆるカワイイと言われているキャラでさえも、“カワイイ”というより“強そう”に見えてしまったんです。体格の威圧感もものすごくて、親近感が湧くどころか、単純に格闘家と対面しているような感覚になって、視線も鋭いですから怖かったんですよ。まあ、これはそもそも、最初に作ってみたキャラがブライアンだった印象のせいもあるとは思いますが(笑)。世の中のほとんどの人がヘッドマウントのVRを体験していない時代に、僕ら『鉄拳』チームが体験したVRのファーストインプレッションは、ブライアンがバーッと目の前に迫ってくるという怖いシーンだったんです(笑)。

――それはトラウマになりそうですね(笑)。『鉄拳』とVRの研究がそうした状況で、玉置さんの企画が出てきていた中で、タイミングよくPS VRに出会えたことが、『サマーレッスン』を生み出したわけですね。

原田 はい。SIEさんからアプローチを受けた翌日に企画を持ち込んだので、「原田さんがいちばん乗りですよ!」と言われました(笑)。