国内インディーゲームシーンの“いま”を収めたドキュメンタリー映画

 2016年7月9、10日に京都市で開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit 4th”で、MAGICAL PRESENCE AWARD (ビジネス的・PR的なチャレンジのあるタイトルに贈られる賞)を受賞したことでも話題になった『Branching Paths』。フランス人の映像クリエイター、アン・フェレロ氏が、オニオンゲームスの木村祥朗氏との対話から着想を得て撮影を始めたという本作は、インディーゲームブースが初めて設けられた2013年の東京ゲームショウからの2年間にわたる、日本インディーゲーム・シーンの出来事と変遷が収められている。日本に在住する国内外のクリエイターをはじめ、シーンを支援するメディア、パブリッシャー、ミドルウェア企業、プラットフォーム企業など総勢40名にも及ぶインタビューが収録されているなど、ゲームファンの資料映像としての価値も高い。

 本作は、英語版、日本語版ともに、2016年7月29日より、PLAYISM、STEAMにてダウンロード販売が開始される。価格は980円[税込]。

国内インディーゲームシーンの過去と未来をつなぐカギが、ここにある! 『Branching Paths』試写会レポート_01
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▲『Branching Paths』の試写映像から。「撮影を始めた時は、同人とインディーの違いがわからなかった」というアン氏が、インディーゲームにまつわる大小さまざまなコミュニティ・イベントを取材する過程で、シーンへの気づきを得ていくさまが、フラットなタッチで綴られる。余談だが、作品冒頭には、週刊ファミ通編集長・林克彦氏のインタビューも。
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▲フリーランスの映像ディレクターのアン氏は、2011年から東京に在住し、海外向けの日本紹介番組を企画・プロデュースしている。もともと自身も日本のテレビゲームが好きで、大学では日本文化を学んでいたとのこと。

インディーゲームを扱うメディアへの本音も飛び出した出演者トークイベント

 試写終了後は、作品に出演している3人のゲームクリエイターをゲストに迎え、PLAYISM代表の水谷俊次氏の司会進行のもと、トークイベントを実施。映画を製作することになったきっかけや、各クリエイターがインディーゲーム開発を始めた時の経緯などが語られた。

トークイベントのゲスト出演者

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▲オニオンゲームス代表の木村祥朗氏。作中では、自社ゲーム開発の紆余曲折が赤裸々に描かれつつ、インタビューでは「自分が作りたいゲームを作れていること」こそがインディーゲームの醍醐味であることを熱く語っていた。「(試写を観て)僕らが通り過ぎてきた世界を映像として残してくれていて、泣きそうな感じで観ました。この数年間の思い出アルバムのようでした」
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▲NIGOROの楢村匠氏。作中では、新作『LA-MULANA 2』の、海外クラウドファンディングサイト(Kickstarter)を利用した開発資金調達関連のトピックを中心に、多数出演している。「(試写を観て)他人につけられている日記を見ているような感覚でしたね。この映画の話を聞いた時に、完成時期を逆算して、『LA-MULANA 2』の完成でエンディングにしてやろうと企んでいたんですけど、現在も開発中で、しかもこういう人(隣に座っているもっぴん氏)が出てきてしまったりで、いろいろな思いがあります」
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▲世界的にヒットした個人開発ゲーム『DOWNWELL』の作者の、もっぴん氏。作品後半は、シーンに彗星のごとく現れた彼の言動に、多くの時間が割かれていた。「(試写を観て)自分の作ったゲームを人生で初めてプレゼンテーションした場に、アンさんがたまたま居合わせていて、そこからずっと撮っていただきました。改めて観返して恥ずかしかったですけど、感慨深いですね」

 「現在のインディーゲームシーンに必要なことは? 」という話題になった時、木村氏は「3年前だったら”メディアが相手にしてくれない”というところから喋ったでしょうね」と注釈を入れつつ、ファミ通などのゲーム系メディアの、インディーゲームに対する待遇の変化を歓迎した。楢村氏も「『LA-MULANA 2』のクラウドファンディングが成功したことも記事になるのはありがたかったですね」と、インディーゲーム開発者共通の悩みだった、宣伝力の弱さがある程度改善された状況に満足げだった。

 もっぴん氏は、メディアの取り上げ方に対する本音を明かすひと幕も。「『DOWNWELL』が完成前にIGFの学生部門にノミネートされた時、日本のメディアで”日本人の学生が2か月で作った!”みたいに書かれて、耐えきれないくらいのプレッシャーでした。これでリリースしてイマイチって評価を受けていたら、立ち直れなかったと思います」と、担ぎ上げた神輿を一斉に下ろす世論のムードを、肌で感じたという。

 これを受けて木村氏は、「ゲームそのものの出来を見る文化は必要」とコメント。さらに、自社作品の欠点を痛烈に指摘したレビューが某ウェブメディアに掲載された経験談とともに、メディアの的を射た批判力がゲームの質を高めていくことを訴えた。「海外の“メタスコア”のような評価指標が日本でも根づくべきでは」という水谷氏の意見に対しても、「インディーはどんな点数をつけられても宣伝のようなものだから嬉しい(木村氏)」、「しがらみがないぶん、ゲームの内容・おもしろさだけで判断してほしいですね(楢村氏)」と、国内インディーゲームの発展を見据えた上での見解を述べた。

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 「今後のリリース予定は?」との記者質問にたいし、木村氏は「『Million Onion Hotel』は2016年11月、『BlackBird』は2017年春の予定です!」と力強く宣言。楢村氏は、現在開発中の『LA-MULANA 2』について「今年の東京ゲームショウ出展のタイミングで、リリース時期を発表できると思います」と、開発がいよいよ最終段階に入ったことを明かした。つい最近、新作を作り始めたというもっぴん氏は、「来年末か、再来年かな」と答えるにとどまった。

『Branching Paths』監督 アン・フェレロ氏インタビュー

──本作を撮影しはじめた時の状況を教えてください。
アン 2013年の東京ゲームショウから、緩い感じで始まりました。当初は、日本にインディーシーンがあるかどうかわからなかったのですが、東京ゲームショウにインディーゲームエリアができたりと、ちょうどシーンが変化がする時期から追っていけたのは幸運でした。

──撮影時、印象に残ったことは?
アン 楢村さんたちのKickstarterがあった時ですね。ゲームでは『DOWNWELL』を初めて見た時、(シーンの流れが)変わったと感じました。映像編集も、『DOWNWELL』のリリース(2015年10月)を見届けてからにしようと決めていました。

──撮影や編集を通して見えてきた、国内インディーゲーム・シーンにたいする、監督なりの見解は?
アン ナレーションは私自身が担当していますが、とくに結論づけはしていません。各クリエイターたちが、それぞれの分岐点(Branching Paths)でどの道を選んだのか、ということが映像に収められていますが、それが成功なのか失敗なのかはわかりません。そもそもインディーゲームにとって、何が成功で何が失敗なのか、という判断も人それぞれですからね。

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──日本のインディーゲームシーンに新しい風を呼び込むのは、もっぴんさんのような、海外のインディーゲームシーンの文脈をふまえた方のセンスが必要だと思いますか?
アン ずっと日本のゲームで遊んできた人でも、いい作品を作れると思います。もっぴんさんのようにすればいい、というよりは、作品をどのように、どのようなタイミングで発表するかが大事だと思います。イベントに参加したり、SNSを積極的に利用することも大事ですね。あと、海外には、インディー開発者向けの相談サイトがあったりするのですが、日本にはそうしたコミュニティやツールが不足しているように思います。

──映画用の取材を終えてもなお、日本のインディーゲームシーンは注目すべき対象でしょうか?
アン すぐに続編を、というつもりはありませんが(笑)、これから1、2年の動向は気になります。作品では紹介できなかったゲームの中には、開発期間が大幅に延びているものもあって、それがリリースされたらどうなるんだろうという関心はありますね。あとはつい最近、任天堂がインディー開発者向けのプログラムを提供したことに、本当にびっくりしました。同時に、「ああ、やっと来たか」という思いもあるので、そこから生まれる新しい何かにも期待しています。

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