世界に挑戦するDeToNator『Overwatch』部門

 Blizzard Entertainmentの3Dオンラインシューティング『Overwatch』がすごいことになっている。

 2016年5月24日の発売後、約20日後には全世界のプレイヤー数が1000万人を突破したことを発表。対戦ゲームとしての完成度の高さはもちろん、魅力的なキャラクターが多数登場することもあり、FPSファン層以外からも支持を得た結果だろう。

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 『Overwatch』はeスポーツ界にも衝撃を与えた。世界中の有力なeスポーツチームがつぎつぎと部門を設立し、すでに小~中規模の大会は世界各地で開催されている。このまま成長すれば、『League of Legends』や『World of Tanks』の規模に肩を並べるのも時間の問題だ。

 さて。まだ「eスポーツは自分とは関係ない」と感じる人は多いと思う。そういう人でも、日本のチームが世界に挑むなら応援したくなるかもしれない。サッカーや野球の国際試合と似たような感覚で。

 あるのだ。そういうチームが。その名もDeToNator。2016年5月28日に台湾Blizzard Entertainment社主催の公式イベントが開催され、台湾選抜チームとのエキシビションマッチ出場チームとしてDeToNatorが招待されたのである。

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▲台湾公式イベントの様子。ファンからサインを求められる光景も見られた。

 結果は敗北だったものの、海外メーカー主催の公式大会に招待されたのは、日本のeスポーツ界にとって大きな一歩と言えるだろう。

 本稿ではDeToNatorマネージャーの江尻勝氏と『Overwatch』部門リーダーのYamatoN選手に、台湾で感じたことを中心に話を伺っている。eスポーツが盛んな台湾は、日本とは何もかもが違う。そこで彼らは何を得たのだろうか。

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▲DeToNator『Overwatch』部門リーダー・YamatoN選手(左)とDeToNatotマネージャー・江尻勝氏(右)。

DeToNatorの積極性が台湾Blizzard Entertainment社を動かした

――最初に、台湾Blizzard Entertainment公式イベントのエキシビションマッチに出ることになったきっかけを教えてください。

江尻 最初はこちらからアクションを起こしました。Blizzardさんは日本に支社がありませんので(※1)、本格的にやるには直接つながりを作る必要があります。アジア圏であれば、韓国か台湾。僕たちはもともと台湾に活動拠点があるので(※2)、台湾Blizzard社に連絡し、「DeToNatorとしては台湾の活動を強化していきます。もし、僕らにもできることがあるのなら、ぜひいっしょにやらせてほしい」という話をしに行きました。

(※1:日本ではスクウェア・エニックスがプレイステーション4版『オーバーウォッチ』を販売しているが、サーバーの運営はBlizzard Entertainment側が行っている)

(※2:DeToNatorの『Alliance of Valiant Arms』(以下、AVA)部門は活動の拠点を台湾に置いている)

――それはいつ頃の話ですか。

江尻 今年の5月に入ったばかりの頃ですね。たまたま先方の担当者さんが『AVA』の事情も知っていて、話が早かったんです。うちには『Hearthstone』の選手もいますし、『Overwatch』部門も作りました。たくさん国際交流をしていきたいので、何かあったら情報をいただけないですか、と。それが実を結んで、日台戦に呼んでいただきました。

――動きがめちゃくちゃ早いですね。イベント開催が5月下旬ですから、実質的に1ヵ月弱。

江尻 さすがにびっくりしましたけど、感謝もしています。Blizzardさんとこういった話をするのは初めてだったので、どういう反応が返ってくるか、まったくわかりませんでした。とはいえ、指をくわえて待っていても先には進めませんから、自分たちの存在とグローバルで活動する意義をしっかり伝えました。

YamatoN けっこうな急展開でした。

江尻 すでに台湾に活動拠点があったのがよかったんでしょうね。航空券だけ用意すれば、ホテルもいらないし、スケジュール管理に気を使う必要もほとんどない。僕としては、完全に実費でも構わないと思っていました。それだけ素晴らしい舞台を用意していただいたわけですから。未来への投資みたいなものですね。

――わざわざ日本チームを招待するということは、台湾Blizzard Entertainment社側も国際的な動きをやっていきたいのかもしれませんね。

江尻 そうだとすると、うれしいですね。前のインタビュー(※3)でも話したと思いますが、僕たちは最初から世界を見ている、世界しか見ていないので、これくらいのスピード感も当然だと思います。僕たちが本格的に『Overwatch』をプレイし始めたのは2016年2月のクローズドβテスト(第2フェーズ)。そのときにはすでに、世界で戦う画を思い描いていました。

(※3:関連記事 台湾に住んで『AVA』プロリーグに参戦、『Overwatch』部門に実力派プレイヤーが集結──DeToNatorが見ている未来をマネージャーに訊いた)

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▲2016年6月12日に開催されたイベントで『Overwatch』部門の選手が全員集合。

――DeToNatorが『Overwatch』部門の設立を発表したのは2016年1月ですよね。周囲の反応はいかがでしたか?

江尻 「まだ日本で大会ないじゃん」という反応が多かったですね。たしかにそうですけど、それって部門を作らない理由にはならないと思うんですよ。最初から世界で戦うことを考えているわけですから。

YamatoN 「日本の大会で優勝して日本一になって、それから世界に挑戦する」という図式がありますからね。『Overwatch』は世界同時にサービスしているので、そういう固定観念にとらわれなくていいのも魅力的です。

――何となく“現地のパブリッシャーがステップを用意しないと世界には挑戦できない”みたいなイメージがありますもんね。

江尻 受け身の姿勢が続くと、なかなか先に進めなくなっちゃんですよ。世界で展開するタイトルはパブリッシャーどうしの連携で進んでいますから、そこに自分たちから入らないと取り残されてしまいます。
 『Overwatch』部門はスタートから世界の動きに合わせて、メインストリームの輪に加わるための準備をしていました。クローズドβテストから参加できれば世界と同時にスタートを切れる。日本で話題になる前から海外の情報を調べて、長く計画を練ってきました。いざというときのために、戦えるだけの技術を蓄えておこうと。世界で結果を出せるチーム作りを目標にしてきたからこその、今回の出来事といった感じですね。

――オンラインゲームはデベロッパーとパブリッシャーが分かれていることも多いですけど、PC版『Overwatch』は基本的にはBlizzard Entertainmentの一社体制。だから、その輪に入りやすかったというのもありそうですね。

江尻 そういう面も、少なからず影響しているでしょうね。その国のパブリッシャーや大元であるデベロッパーと直接対話ができるのは大きいと思います。
 今回のBlizzardさんのほかに、GarenaさんやValveさん(※4)ともやり取りすることがありますが、やっぱり動きが早いです。「自分たちは○○ができる。あなたたちは○○ができて、○○を求める。では、やりましょう」みたいな。それで本当に実行に移しちゃうんですよ。日本だといろいろな思惑の渦に巻き込まれて、ビジネスになるかどうか、GOサインを出すかどうかの判断がどうしても遅くなってしまう。もちろん尽力してくださる方も多いんですけどね。

(※4:Garena、Valveともに海外の大手企業。DeToNatorは6部門で活動しており、海外のメーカーと直接やり取りすることも多い)

――儲かるかどうかの判断で慎重になるのは分かりますが、それで時期を逸したらもったいないですよね。企業体質の違いに大きく影響される感じでしょうか。

江尻 そうですね。日本がいいとか悪いとかの話ではなくて、僕たちの理想を実現するには、海外でやるのがベストだと思った。そして、それがうまくハマった。それだけだと思います。
 日本は運営側とのやり取りが目につくと癒着だとかズルいだとか文句を言う人がいますけど、僕たちはきちんとコストをかけてビジネスをして、よりいい舞台に立てるように自分たちを売り込みに行ってるわけです。パブリッシャーにお金をくれって言ってるわけじゃないんです。DeToNatorという存在があって、こういう実績を積んできていて、こういうことができます。ですから、いっしょにやらせてもらえませんか、と営業をかけているんです。

――相手としても、メリットがあると判断したらDeToNatorにオファーをする。一般的な企業間の付き合いということですね。

江尻 ふつうに働いている人からしたら、それほど特殊な感覚じゃないと思いますよ。ただ、業界内の様子を見ていると、パブリッシャーや関連企業からお金を取ろう取ろうとし過ぎる傾向もあるように感じます。僕たちとしては、きちんと自分たちのことを理解してもらったうえで参加させてほしい。必要であれば身銭も切りますしね。そういう考えは大切にしていきたいです。

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台湾チームは試合で150%の力を出してきた

――選手側の感想や意見も聞かせてください。実際に日台戦に参加してみて、率直な感想をお願いします。

YamatoN 熱がすごかったですね。ファンの歓声や試合中の盛り上がりから、1段高いものを直に感じることができて、『Overwatch』部門のモチベーションにもつながりました。僕らは負けはしたんですけど、試合後にサインを求められたり、アクションをいっぱい起こしてもらえて。

――正直な話、勝てると思いましたか?

YamatoN 純粋な実力だけを見れば、勝率は高いと思っていました。ただ、エキシビションマッチとはいえ、台湾代表・日本代表という国を背負った戦いじゃないですか。そうなったときに、彼らはより強くなって出てきたんです。僕らはいつもの練習で蓄えた力を100%出し切るつもりで試合に臨んだんですけど、彼らは150%の力を発揮してきた。それが大きな違いだと思います。

――そういう状況(国や地域の代表というプレッシャー)への慣れみたいなものがあったのでしょうか?

YamatoN オフライン大会への出場経験がないメンバーもいました。試合中に修正していきましたけど、向こうはさらに強くなっていたというのもあって。

江尻 独特の空気や熱狂ってあると思います。メンバーにSPYGEAという『スペシャルフォース』の元プロプレイヤーがいるんですけど、大舞台の経験が豊富な彼でさえ「頭が真っ白になった。歓声がすごすぎてテンパった」と言ってましたから。

YamatoN SPYGEAだけじゃなくて、ほかのメンバーも少なからずそうなっていたと思います。これまでの大会では感じたことのないレベルの盛り上がりでしたね。

――それを受けて、自分たちの中で変わったことはありますか?

YamatoN 日台戦のときはまだ煮詰まってない部分もありましたが、本番で十全な力を出すことを、前よりも深く考えるようになりました。もっと細かく、ひとつひとつ丁寧に準備をする。
 それと、精神力。国を背負って戦うことになったとき、150%の力を出せるように、ふだんから声掛けを多くしてモチベーションを高めることを意識するようになりました。本番でさらに力を出すための心の準備は大切なのかもな、と。それは練習の成果にも表れていて、前は勝てなかった海外トップレベルのプレイヤーにも徐々に勝てるようになってきています。

――精神的な負荷や緊張が、技術面にもいい影響を及ぼしているわけですね。

YamatoN あらゆる面でプラスにつながりました。

――台湾のチームと戦ってみて、日本との差や違いは感じましたか?

YamatoN 大きな違いがありました。欧米は『Overwatch』の研究が進んでいて、それを先導する形でプロリーグも行われています。僕らは日台戦の前まで、欧米のシーンを参考に練習していたんです。台湾チームは外の研究よりも自分たちで考えて動いている部分があって、そこが戦いにくかった点ですね。意表をつかれたというか、予想もつかない動きに翻弄されてゲームが長引いて負けてしまいました。
 日台戦後は欧米のトップシーンを見ながらも、自分たちで意味を理解しながら丁寧にやることを心がけました。そこから勝率は上がってきています。いいフィードバックを得られたので、台湾チームには感謝していますね。

――正式にリリースされて間もないですし、戦いかたも固まっていません。強いものを学べば強くなれるという単純な話ではないわけですね。違う強さもある。

YamatoN 主流を追っていたら大きな落とし穴があった感じです。

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▲2016年6月5日にヨドバシカメラ新宿西口本店で開催された店頭イベント。delave選手(左)、SPYGEA選手(中)、YamatoN選手(右)が来店したお客さんと対戦を実施。
▲寡黙なSPYGEA選手がテンパるほどの熱量とはどれほどのものなのか。

――少し軽い話をしましょうか。台湾で女の子のファンはできましたか?

YamatoN 急に変えてきましたね。えーっと、女性のお客さんも多かったのは間違いないです。

江尻 いや、もう、ほんとに(なぜか小声で)女の子多いんです。いちばん最初に女の子から単独で写真を撮ってくださいって言われたのはSPYGEAなんですよ。「なんだよ、単品で指名きたぞ」ってみんなで詰め寄りました。それなのに試合でテンパりやがって(笑)。

一同 笑

――『スペシャルフォース』のプロプレイヤー時代から人気があったみたいですし。

YamatoN いまでもSPYGEAという名前は台湾で轟いてますよ。

江尻 だからこそ、彼にゲームを続けてもらった甲斐があります。過去の経験がほかのタイトルでも活きるって、すごくいいなと思います。ゲームに真剣に取り組む気持ちは財産なんですよ。

――台湾で「あのSPYGEAが『Overwatch』やってるらしいぜ」って話が広がったらうれしいですよね。SPYGEA選手とは知り合ってから長いので、そんなことになったら泣いちゃうと思います。

オーディエンスの純粋な熱狂

――江尻さんは現地で見て何を感じ取りましたか?

江尻 人口は日本のほうが多いのに、台湾のほうが大きく見えました。市場も、何もかもが。初めての『Overwatch』公式イベントなので、ふつうは「どうやって盛り上がればいいの? どこで歓声を上げればいいの?」ってなると思うじゃないですか。でもね、違うんですよ。
 選手の誰かがULT(ULTIMATE ABILITY。いわゆる必殺技)を使う準備ができると、観客がざわざわするんです。「来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ~!」と。技が決まるとドッカーン! 「うおおおおお~!」ですから。失敗すると「あー、惜しいー!」みたいな雰囲気で。

――野球で言うと、「満塁で4番バッターに回った」みたいな状況ですよね。それでホームランが飛び出したらテンションが一気に爆発する。

江尻 試合の観戦の仕方を感覚で理解しているんだと感じます。

――それと、素直なんですかね。日本人は周囲に同調しようとして、人が声を出しているかどうかを気にしちゃいますから。

江尻 しかも、どちらの選手がULTを使っても歓声が上がるんですよ。多少は声の大きさに差はありますけど。そういう空気を体験して、コミュニティーを広げるだけじゃくて、試合を観戦する側もレベルが上がらないと、ショービジネスとしては厳しいんだろうなと感じます。作られた盛り上がりじゃなくて、自然に発生しないと。これは僕たち1チームが何とかできる問題ではありません。日本の競技制ゲームシーンは、いろいろなセクションにおいてまだまだ発展途上。海外の様子を見るたびに、危機を感じます。

――野球やサッカーみたいに、観客が自然な反応をすると「根付いたんだな」と思えますね。僕は業界内にはいい試合やショー的な演出があれば観客はついてくる、盛り上がると考えている人が多すぎると感じています。それは少し見立てが甘い。そこで満足してしまったら、別の手を打たなくなってしまいます。

江尻 お客さんがいいプレイを見て歓声を上げるのは、ゲームというものを自分のなかで別のものに昇華しているから、だと思うんです。あらゆるスポーツやショーと同じですね。わざわざ会場に足を運んで、応援や観戦自体を楽しむ。昔に比べたらそうとう進歩したと思いますが、「○○したら拍手!」みたいに説明しているうちは、まだまだですよね。自然に拍手や声援が出てきてほしい。
 「入場無料だから見に行こう」じゃなくて、チケット代を払って見に行く感覚も大事ですね。日本はゲームにしてもネットにしても基本無料の考えかたが多いからなのか、「僕たちをどうやって楽しませてくれるの?」みたいな調子でイベントに臨むんですよね。そうじゃなくて、自分たちでお金を払ったんだったら、自分たちでどう楽しむかなんですよ、本来は。
 お客様感覚の上から目線で、少しでも自分の好みから外れたら「何だよつまんねーな」ではなく、「せっかくお金を払ったんだから積極的に楽しむ! このチームを応援する! 盛り上がるぜ!」のほうがおもしろいと思うんですよ。こういう文化の違いはイベント運営の大きな足かせになり得ますね。

――なるほど、たしかに。

江尻 オーディエンスに気持ちよく応援してもらうのは、あらゆる業界の課題ですよね。音楽もそうだしスポーツもそう。そういう業界と比べても、まだまだゲームシーンは発展途上。お客さんがお金を払って、主催者側に透明な収益構造があって、そのうえでイベントを行う。ひとつのエンターテイメントして成り立つには、スポンサーを付けましたとか、大会で勝ちましたとか、そんなところで調子に乗っていてはいけない。
 僕たちは海外でお客さんの熱気に触れました。自発的にファン活動をしてくれる人が日本でも増えてきたら、僕たちも海外の経験をみなさんに還元していきたい。いまはとにかく、選手はストレートな熱気や熱狂に触れるべきです。

――そのために現時点でやれること、やりたいことはありますか?

江尻 いまは大きなビジネスとして考えるよりも、楽しみながら草の根的に広げていく段階なのかなと思います。大きな花火を打ち上げようとしても、まだ日本ではバックを得るのが難しいのではないでしょうか。結局、自滅しちゃうというか。無理やり盛り上がっているように見せたって、人は付いてきません。ゲームを愛している人に愛されないようでは、興行として成り立たないじゃないですか。
 ですので、まずは日本の市場とコミュニティーにマッチした人材育成が大切。まずは自分で楽しめる大会を開いたりして、有志で集まったスタッフにもノウハウを伝えつつ、いろんな方に協力していただいて。

――江尻さんが大会を主催するということですか?

江尻 そうですね。まずは僕自身でスタートしたほうがいいのかなとも思っています。東京ゲームショウ2015のなかで『Dota2』と『Counter-Strike: Global Offensive』のイベントをやったんですけど、それの『Dota2』の大会が最初の規模的にはちょうどいいかな。もうね、すごく楽しかったんですよ。規模は小さいんですけど、楽しくて楽しくてしょうがなくて。

――じゃあ、僕も個人で協賛しますよ。

江尻 あ、いいですか。ぜひぜひ。選手たちは真剣にプレイして、実況と解説もすばらしかった。決して大規模なイベントではありませんでしたが、あの空間は僕のなかで大きく感じました。参加者も観客も一体感があって、うまく盛り上がれるイベントにできたんじゃないかと思います。
 大会やイベントは“いろいろな目線で物事を見られて、ゲームに理解があって、ゲームが好きな人”が主催するべきだと思いますが、そんなに多くはないですよね、きっと。僕としては、まずは利益抜きにして、あのシーンを選手に経験させて、しっかり継続する必要があると感じました。
 まずはもう一度『Dota2』でやりたいですね。規模はミニマムなんですけど、賛同してくれる人と協力して、ちゃんと情報も出して、メディアの皆さんもお呼びして、試合をきちんと見せて、主催者側もゲームと空気感を楽しむ。そして、選手には自分のプレイで人をドカンと沸かせる雰囲気にふれてほしい。

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――主催者側がゲームを楽しむ、ゲームを愛する。ユーザーはそういうところに敏感だと思います。少なくとも僕は愛情のない人に適当にやられると腹が立ちます。きれいごとかもしれませんが、主催者にはゲーム好きであってほしいですよ、やっぱり。ここ最近だと、任天堂さんの『スプラトゥーン』のイベントとか、みんな楽しそうでよかったですよね。

江尻 車で全国各地を回ったりとかですよね。競技性ゲームのプレイヤー層の多くは10代後半から20代ですけど、低年齢へのアプローチも大事です。仮に20代のプレイヤーが増えたとしても、その下が減ったら意味がありません。そこはどのパブリッシャーも気にかけているでしょうけどね。タイトルによっては難しいにしても、若い世代にきちんとしたゲームシーンを見せたいですよ。

――個人的には『スプラトゥーン』で対戦ゲームの楽しさに触れた若い子が『Overwatch』あたりに興味を示してくれるとうれしい。キャラクターゲームとしても魅力的なので。

江尻 その子たちがもう少し大きくなったときの準備をしていきましょうよ。何度も言いますけど、まずは主催者が楽しめる大会を開いて、有志の皆さんにイベント運営のノウハウと興奮を伝えていく。種まきは積極的にやるべきです。
 台湾に行って海外のシーンに直接触れて、日本との違いが鮮明に見えてきたんですよ。自分の中では答えが出始めています。いまのままではどうしようもないな、と。