欧州の『GT』ユーザー達が集うファンイベントを実施

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、5月20日(現地時間)にイギリス・ロンドンのコッパーボックスアリーナにて、プレイステーション4用ソフト『グランツーリスモSPORT』(以下、『GT SPORT』)の欧州招待ユーザーイベントを開催。同イベントは、前日に開催された『GT SPORT』アンヴェイルイベントに続いて行われたもので、欧州の『GT』ファン達に最新作の試遊や、前日のアンヴェイルイベントでも体験できたプロドライバーの同乗走行体験、山内一典氏とのQ&Aディスカッションに参加することができるなど、『GT』ファンにはたまらない催しとなっている。本稿では、そのイベントの模様をお届けする。

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▲会場は、前日にアンヴェイルイベントが行われたコッパーボックスアリーナ。2日連続での『GT SPORT』イベントの実施となる。

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 これまで『GT』関連のイベントは世界中で行ってきたが、こうしてファンたちと直に接するイベントは初めてと山内氏は語り、集まった欧州ユーザーに対し、イベント開催にあたってのあいさつが行われた。
 山内氏「こうした機会を作っていただいたソニー・インタラクティブ・エンターテインメント・ヨーロッパの皆さんにまずは感謝いたします。そして、平日にも関わらずここに集まっていただいた皆さんにお礼を申し上げます。今日皆さんがご覧になる『GT SPORT』は、完成度でいうとまだ50%くらいのものになりますが、次の世代の『GT』の香りを感じられるものになっていると思います。このイベントすべてを楽しんで、皆さんがハッピーな気分で帰っていただけるよう願っています」

 山内氏のあいさつ終了後は、最新作の『GT SPORT』の試遊や、“Vision Gran Turismo”の撮影、プロドライバーの同乗走行体験を楽しむなど、思い思いに今回のイベントを楽しんでいた。

 今回用意されている試遊バージョンで選択できるモードは“Single Race”と“Time Trial”のふたつのみ。使用可能車種は23、選択可能なコースは6となっている。“ブランズハッチ”や“ニュルブルクリンク”といったおなじみの名コースに加え、今作で新たに登場するハーフマイル(800メートル)のオーバルコースとなる“NORTHERN ISLE SPEEDWAY”や首都高をベースにした“TOKYO EXPRESSWAY”なども走行可能。英国でのイベントながら、“TOKYO EXPRESSWAY”を走行するユーザーも多く見られた、

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▲山内氏曰く、開発度50%程度の『GT SPORT』試遊バージョン。
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▲選択不可となっている“Dirt Trial”も早く遊んでみたい。
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▲シリーズ初登場となるショートオーバルコース。コーナーのバンクが強く、つねにスリップストリームの奪い合いが演じられることに。
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▲一部のファンが熱狂しそうな首都高がついに『GT』に登場! セーフティーゾーンのない難コースに、苦労していた体験者も多かった。

 欧州ユーザーへのあいさつが終わった直後の山内氏に、昨日発売日が発表された『GT SPORT』についてインタビュー取材を行うことができた。ここで、山内氏への一問一答を紹介する。

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−−先ほどあいさつの中で、開発は50%ながら、次の世代の香りを感じられるものと言われていました。山内さんの考える次の世代のレーシングゲームとはどういったものでしょうか。

山内 今回僕らが提案したものというのが、少なくともこの次の世代のすべてです。レースゲームジャンルって最初の『GT』が登場してからほとんど何も変わっていないんですよね。『GT』のようなゲームは増えてきたけれども、新しい遊び方、新しい見せ方、そういったものを見せてくれるゲームってないんですよ。僕らもPS3の時代、『GT5』、『GT6』で新しいことをやりたいけど、いろいろな意味で機が熟していなかったり、あるいはハードウェアのアーキテクチャが追いついていないなど、ストレスの溜まった時代がありました。それが今回、プラットフォームがPS4になることで、いろいろな形で世の中に対してコミュニケーションできる素地が整ったことで、いまなら新しい提案ができるなって手応えを持っています。

−−今作に登場するスーパープレミアムカーは、何ポリゴンで構成されているのでしょうか。

山内 最近、ポリゴン数のカウントというのをあまり意識していないところがあって、というのも適宜テセレーション(※)されますから、何ポリゴンって言えないんですよね。
※……ポリゴンメッシュをさらに分割して表現することで、画像をより詳細かつ滑らかで現実感のあるものにする技術

−−登場車種のモデリングデータは、前作のモデルを流用されたりしているのでしょうか。

山内 基本的にすべてモデリングし直しています。

−−『GT6』のときにタイヤメーカーと提携されたと思いますが、このことによる挙動について話をお聞かせください。

山内 挙動の開発に終わりはないですね。つねに僕らが目指しているのは、リアルであるのは当たり前なんだけども、そのリアルを徹底すれば、乗りやすいものになるという、本来クルマの持っていることを当たり前に実現することなんです。ただ、それは大変なところでもあり、チャレンジはいまでも続いています。今回の『GT SPORT』は、初めてレースゲームを遊んだり、初めてクルマを運転する人たちに向けて作っているつもりです。ですから、徹底して乗りやすさにこだわっていきたいと思います。より敷居を下げつつ、より深みもあるものにしたいですね。

−−いま、初心者向けという話がありましたが、初心者救済にも使える巻き戻し機能を搭載しているレースゲームも登場してきています。こういったやり直しシステムの導入は考えられていますか。

山内 テクニカル面ではいつでもできます。昨日のレースでも、クラッシュが起きた現場をリワインドしてみせたりもしていました。ですので、システムとしてはすでに持っているんです。あとはゲームデザインとして、それをアーケードモードに入れるのか、あるいはあらゆるモードに入れていくのか。そういった部分をまだ決めていない状態です。

−−天候変化ですとか、ダメージ表現は今回実装されますか。

山内 いまは内部的にダメージのモデルを持っているので、当然やります。天候変化については、自由度とクオリティはトレードオフの関係にあるので、どこを自分たちが望むバランスに整えるかという話になります。今回はよりビジュアルを重視した作りにしているので、レース中に雨が降ってくるといった変化は実装しないと思います。ただし、レーススタート前に天候を選べるというオプションはユーザーに対して用意しようと考えています。やっぱり1080/60Pで動かしたいですからね。現在のバージョンでは60フレームを切っているところがありますが、僕自身、1080/60Pじゃないとゲームじゃないと思っているので、今後の開発でそれを達成していきたいということです。

−−今回、モータースポーツに向けた取り組みが数多く見られますが、FIA(国際自動車連盟)との取り組みに至った経緯をお聞かせください。

山内 元々はFIAの皆さんから僕のほうにコンタクトがあったんです。何か新しいことができないだろうかというお話があって、今回発表した大きなふたつの柱、チャンピオンシップを『GT』でやることと、デジタルライセンスを『GT』で発行することが思い浮かびました。それからFIAの皆さんに会うまでの間に、おおまかな骨子というか、プレゼンテーションを作って、パリに行ってFIAの皆さんとお会いしたんですね。それが3年くらい前の話になります。それから年に何度か行われる全世界のオートモビルクラブが集まる総会でプレゼンテーションをしていくことで理解を深めてもらい、いまから2ヵ月ほど前にようやく議決で協力が決定したことで、今回の発表に至りました。

−−FIAとの取り組みのひとつであるデジタルライセンスについて、日本ではまだ対応されていませんでしたが、今後の見込みや対応があれば教えてください。

山内 いま現在、全世界のモータスポーツで実際にライセンスを取られる方が減ってきているんです。そういった国の方々は危機感をもたれています。また、これからモータースポーツを始めようとしている新興国であるインドや中国、中東あたりの方たちにもすごく興味を持ってもらい、参加していただいています。一方で、現在モータースポーツがうまく回っている国というのも例外的にありまして、たとえばドイツがそうですが、いまでもモータースポーツ人口が増えていますし、新しいサーキットも作られているんです。そういう国は、いますぐには『GT』を通じた、アクセシビリティの高いライセンスの取得の仕方といったところにすぐに興味を示してくれなかったりと、国によって温度感に違いがありました。ただ、長期的に見ていくと、おそらくじわじわと増えていくのではないでしょうか。今回発表できたのは25ヵ国でしたが、ローンチの時点ではまたぐっと増えているでしょうし、毎年どんどんと増えていくことになると思っています。

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▲こちらがデジタルライセンス発給の対応を表明している25ヵ国。

−−これまで、“GTアカデミー”の取り組みなど、リアルレーサー育成などにも取り組まれており、今回はFIAとタッグを組まれました。今後、現実世界のレースと同様に、リアルにスポンサーがついたレースなどを行う予定などあるのでしょうか。

山内 僕はいま、現在のモータースポーツの姿が安定していないという考えでして、いまは新しいモータースポーツのあり方を提案しなければいけない時期なんじゃないかという問題意識を持っています。ですので、バーチャルの世界でスポンサー付きのレースを行うといったバーチャルの世界をリアルに近づけていく試みではなく、我々が働きかけることで、リアルのモータースポーツの世界を変化させていきたいと思っています。今回FIAとタッグを組んだ理由もそこにあります。僕らが理想として掲げているのは、僕らが働きかけることで、リアルな世界そのものが変化していく。そういう触媒みたいな役割ができたら幸せですね。

−−最近の自動車関連のニュースで、AIや自動運転技術が話題になっており、昨今の欧米系メーカーの自動運転車は、本格的なスポーツ走行をこなすレベルまできています。奇しくも、『GT』ではAIや自動運転といったシステムを早くから取り入れていました。今後、AI&自動運転技術の分野で、『GT』が自動車メーカーに協力したり、自動運転車開発をするなどといった構想はお持ちでしょうか。

山内 AIに関しては、すでに『GT』は、AIの開発に使われているんです。たとえば、NVIDIAはこの3年くらい、『GT』を自動運転の機械学習に使っています。自動運転車は、運転を学習させる必要がありますが、路上試験でのミスが一度も許されない世界なので、シミュレーターで機械学習させるのがいちばん安全なんですよ。彼らは実際にコントローラーを操作させて、画像認識、車速、対象物の物体認識といったことを機械学習しているわけです。ですから使おうと思えばすぐにでも『GT』自体は、AIの開発に使えますし、実際に使われてもいます。今後僕らが、コンシューマー向けのビデオゲームの枠を超え、産業向けの世界に踏み出すかどうかについては、いま目の前にあるタイトルを作り終えてからでないと考えられないですね(笑)。

−−『GT SPORT』はPlayStation VRに対応するという話がありましたが、いまはどういった開発状況でしょうか。

山内 『GT』シリーズは、過去に3DTVに対応していたり、『GT6』ではOculusに対応していました。そういったデバイスに対応している経験があるので、PlayStation VRに対しても、自然に対応できると思っています。『GT SPORT』のすべての機能をそのままVRで動かすということも、テクニカルには可能ですが、それがいいのか悪いのかについては、今後考えていく必要があります。

−−実装時期はいつくらいを予定されているのでしょうか。

山内 ローンチには間に合わせたいと、いまのところ思っています。

−−11月15日の発売日には、PlayStation VRで遊べるということですか。

山内 そうしたいと思っています(笑)。もともとドライビングゲームというのはVRとの相性がすごくいいんですね。座っていますし、コックピットビューがあるのも有利な点になります。さらにレースともなると、ヘルメットをつけますが、VRの視界内にヘルメットの縁が見えるだけで酔いが抑えられたりといった、いろいろ好条件も整っていますから、あとはそれをどう自然に表現できるかということですね。

−−最後に、日本で待たれている『GT』ファンの方たちにメッセージをお願いします。

山内 何度か申し上げてきたことになりますが、今回の『GT SPORT』というのは、僕や開発チームが『GT』第一作以来の高揚感に包まれながら作っているタイトルです。毎日8時間おきくらいに、目に見える進化があり、その度に会社の中で「凄いのができた!」という状態が続いています。これは第一作の『GT』のときもそうだったんですね。ですから、3日も4日もすると、ずいぶんとよくなるんですよ。いま僕らはすごくよい状態にあって、本当に心から楽しんで『GT SPORT』を作っていますので、かなりいいものになる自身があります。ですから、あとはそれを皆さんに届けて、僕らの幸せを皆さんと共有したいというのが、『GT』を待ってくれている皆さんへのメッセージです。