歴史を失った世界の危機を救う “地方創生”ストーリー!!

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_01

 古きよきスタイルを謳ったテレビゲームがあるとして、本当に懐古だけしかないゲームだとしたら、あまりプレイしたいとは思いません。温故知新、というとちょっと違いますが、そのゲームならではの“新しさ”に触れたいなぁという願望があるからです。その点この『ローカルディア・クロニクル』は、“地方創生RPG”という独自申告のジャンル名からして、センス・オブ・ワンダーに満ちています。メインのゲーム性は、ごくオーソドックスな2Dフィールド探索型RPGですが、その舞台のモチーフは、埼玉県の県庁所在地であるさいたま市。しかも本作には、ゲーム内の出来事が、現実世界のさいたま市と相互に干渉しあっているという、アクロバティックなシステムが導入されているのです。ゲームで遊んで、さいたま市内の協賛店舗で使えるクーポンをゲットしたり、逆に協賛店舗でゲーム内で使えるアイテムをゲットしたり。ゲームのフロンティアは、VR空間だけに広がっているわけではないのかもしれません。

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_02
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_03
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_04
▲一見、ふつうのファンタジーRPG風だが、セリフに登場する単語をよく見ると……。
▲フィールド移動時の操作は、位置固定のボタンアイコンを押す、クラシックなスタイルを採用。
▲戦闘は、最大4人パーティーのよるコマンド入力式バトル。オートバトルも用意されている。

Story

 10の国からなるその“世界”には、200年にわたって、平和で豊かな時代が流れていた。人々から伝統的な記憶が失われつつあったころ、モンスターが狂暴化するなど、各地でさまざまな異変が発生し始める。事態を重くみた大神殿の神官は、聖霊の巫女・ルーシェに、異変の調査を命じるのであった……。

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_13
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_15
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_16
▲シド=レヴィ
ノースノース王国の準兵士の少年。亡き父の背中を追って、日々修練に励む。
▲ルーシェ=プリムヴェーラ
ラージシュライン大神殿に仕える巫女。強い意志と博愛の心を持っている。
▲ロビカ=ゼル=ザリバ
時が人を結ぶ街・アクロース=ザリバにゆかりのある青年。剣術よりも読書を好む。
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_14
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_12
『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_11
▲ディゼ=ノックス
ロックゼルコバ王国の幼き王女の近衛兵を務める騎士。つねに自身
をきびしく律する一方で、他者への優しさも備える。
▲クラック=トルーマン
プリムローズ王国で暮らす少年。若き大魔道士・クロウリーを兄に持つが、自身は魔法を使えない。
▲カーヤ=コーヤ
強力な戦闘力を秘めていると言われる、謎の少女。

地域連携型ゲームという提案――開発者 井桁屋・高久田洋平氏に聞く

■あくまでも、さいたま市“公認”のゲームです

──『ローカルディア・クロニクル』は、昨年に開催された、さいたま市ニュービジネス大賞2015でビジネスプラン賞を受賞したことで、一躍脚光を浴びました。そもそも本企画は、賞への応募ありきの企画だったのでしょうか?

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_05
▲井桁屋、高久田洋平氏。
ヨーロッパ雑貨輸入業のかたわら、2011年からスマートフォンゲーム開発を手掛ける。

高久田 企画を思いついたのが、いまからちょうど2年前です。そのときは、さいたま市ニュービジネス大賞のことは知りませんでした。

──そうだったんですね。井桁屋さんの本業が、ヨーロッパのファッション雑貨輸入卸業と伺っていたので、てっきり一念発起しての新規参入かと思っていました。
高久田 じつは9256というブランド名で、2011年からAndroid用アプリをリリースしています。輸入卸業は、ヨーロッパへの支払いから、国内顧客からの集金までに丸1年も掛かってしまうため、月ごとの売り上げを確保したいということで(笑)、友人のフリーのプログラマーとふたりで、アプリを開発しています。タイピングゲームや、スマートフォン本体のジャイロセンサーを使った筋力トレーニング支援アプリにストーリー要素を追加して、結果によってエンディングが変化するという、ゲーミフィケーションを意識したものを中心に作ってきました。

──となると『ローカルディア・クロニクル』は、位置づけとして、井桁屋初の本格RPG、ということでしょうか?
高久田 私もプログラマーも、いわゆる“DQ・FF世代”ですので、以前から作りたいとは言っていました。ただ、うちの開発規模で大手メーカーと同じ切り口で作っても太刀打ちできないので、企画をひねった結果、地方創生RPGとなりました。

──開発の経緯を教えてください。
高久田 基本的にはこれまで同様、ふたりで開発しています。プログラムは、Cocos2D-X(※オープンソースの2Dゲーム開発用フレームワーク)にc++(※プログラミング言語のひとつ)を組み合わせた環境で、RPGのシステムを含めて一から構築しました。私は、プログラミング以外のすべてを担当しています。

──キャラクターイラストは?
高久田 うちは、タイトルごとに、ふさわしい絵師さんに声をかけてお願いしています。今回もそうですね。

──開発自体は順調でしたか?
高久田 2015年の6月には、ふつうに遊べるRPGとしていつでもリリースできる状態にはなっていました。ただ、地名や施設の元になった、実在の場所の種明かし画像を図鑑風に入れたいと思って、市役所に使用許可の相談に行ったのですが、断られてしまいました。さいたま市の観光にも役立ちますので……と説明したのですが、「それでも残念ですが、市としては一企業を特別扱いできないんです」と言われました。がっかりはしましたが、妙に納得もしましたね。

──行政から、思わぬ横やりが入った形になったと。
高久田 そのとき、たまたまそばに、さいたま市ニュービジネス大賞のパンフレットがあって、「これで受賞すれば、市としてもPR協力できますよ」と言われたのが、応募のきっかけです。

──売り言葉に買い言葉……ではないですが、市の協力を取りつけるために応募して、見事受賞したのですから、たいしたものですね。では受賞後は、手厚いサポートを受けて、現在に至ると。
高久田 ………そうですね。“市の公認”という肩書きがついたことで、(協力をお願いする)企業さんとのやりとりはしやすくなりましたね。

──やや微妙なリアクションですね。
高久田 ご指導やアドバイスはいただけますが、やはり自分で動かねばならない部分が多いので。そもそもさいたま市ニュービジネス大賞からは賞金も出ていませんし。

──えっ、そうなんですか?
高久田 数年前までは出ていたみたいですけどね。『ローカルディア・クロニクル』を発表してから、「市が地方交付金を使って……」みたいな噂がネットで流れているようですが、本作はさいたま市の公式事業ではないので、いち企業として収益を考えた作りにしています。

──たしかに“公認”と”公式”の違いって、伝わりにくいですよね……。

■プレイヤーの歴史観を問う、地方創生RPG

──地方創生RPGのコンセプトについて伺います。こちらはやはり、さいたま市を舞台にしたゲームを作ろうというのが、まずあったのでしょうか?

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_07
▲ストーリーが進行するにつれ、さいたま市の知識と理解が“なんとな~く”深まるとともに、自身の歴史観が揺さぶられる……!?

高久田 私自身、ずっとさいたま市で暮らしているということもあって、さいたま市のために何かしたい、という地元愛もありました。本作の企画前に、子供たちが笑いながら「ダサいたま」とか「何もない街」と言っているのを偶然聞いて、なぜそんなことを言うのか訊ねてみたら「パパがそう言っていたから」っていうんです。これは子どもたちがどうこうではなくて、大人が歴史を知らない、知る機会がないからだと思うんです。

──たしかに「何もないこと」を自虐ネタにしている反面、それをどこか、ステータスとして甘受しているフシがあるのかもしれません。
高久田 私は大学時代に歴史学を専攻していて、エジプト考古学や日本の民俗学を学んでいたこともあって、地元の歴史にも関心があるのですが、現代のさいたま市は、豊かさだけが求められて、伝統的なものが軽んじられているように感じます。じつはさいたま市にも魅力的な史跡があったりするので、本作を機に、「ちょっと行ってみようか」という動きが市民のあいだでできるのが、ひとつの理想です。

──ゲーム内には、さいたま市の風土が色濃く盛り込まれている……ということでしょうか。
高久田 6割がたは、うわべの部分にとどめています。今回は、さいたま市が地元ではない多くの人にも遊んでもらいたい意図があったので、露骨なローカルネタの乱用は避けました。その結果、どっちつかずになっちゃって「これのどこがさいたま市なの?」という意見をいただいてしまった点は、反省しています。

──このあたりのバランスは、正直、そうとう難しいと思います。
高久田 「回復アイテムはやっぱり“十万石まんじゅう(※埼玉県の銘菓のひとつ)”でしょう」という意見もいただいたのですが、ゲーム内では“十一万五千石まんじゅう”というものが会話の中で登場するにとどまっています。ちなみにこの数字は、岩槻藩(※市内岩槻区の前身となる藩)の最盛期の石高です。

──「さいたま」と聞いて連想するものの範囲も、人それぞれですしね。
高久田 ゲームプレイを通して、“ふだん生活している土地の歴史をどれだけ自分たちが知らないか”を知ってもらいたいという願いがあります。その上で、さいたま市やその近辺に住んでいる人は、クリアーしたあとにゆかりの地に行ってもらえると、嬉しいですね。

──いわゆる“聖地巡礼”は結果論として、地方創生RPG の特徴のひとつとして掲げられている“ゲーム世界と現実のさいたま市の連携要素”について教えてください。
高久田 特定のNPCに話しかけると、さいたま市に実際にあるお店の割引きクーポンがもらえます。画面に記載されている有効期限内であれば、おトクにお買い物できます。

──これは、地元民には嬉しいですね。お店としてもいい宣伝になりますし。
高久田 当初は、企業からクーポンの提携を得るのに難航しました。広告媒体としての価値が、うまく伝わらないんです。決定権のある方はお年配が多いので、(『ローカルディア・クロニクル』のキャラクターの)イラストを見た途端に「うちはちょっと……」って言われましたね(笑)。まずは「RPGとは」みたいなところから説明をはじめる必要があるんです。

──そのようなご苦労が……。
高久田 じつは現在も提携企業を調整中です。クーポン機能は、ある程度の数の見込みが立った時点で、実装する予定です。あとは、GPS機能を使った、特殊アイテムの入手要素ですね。ゲーム内に登場する場所のモデルになった、実際のさいたま市の場所に行くと、性能のいい武器がもらえる……といったことが、クーポン機能と相乗効果で利用されるのが、ひとつの理想形です。

──地方創生RPGの真髄は、まさにそこですね。
高久田 以上は短期的な目標です。今後のビジネスプランを中・長期で考えた場合、これ単体で利益をどう上げていくかというよりは、“地方創生RPG”というパッケージのシステムを全国規模で展開していくことに可能性を感じています。

──なんと! そのような野望(?)が……。
高久田 じつはすでに、ほかの自治体さんからもいくつかお声かけをいただいています。地方創生RPGの長期的な理想は、“ゲームを通じての異文化理解を深めること”です。

■プレイヤビリティに直結した課金システム

──『ローカルディア・クロニクル』の、ゲームとしての遊び応えは?

高久田 レベル上げがきつめに設定されているので、無課金でプレイすると、クリアーまでだいたい45~55時間かかります。

──ということは、課金要素によって、そのあたりがラクになるということでしょうか。
高久田 当初意図していた、本来のゲームバランスにより近づく……といった感じでしょうか。序盤のイベントで、グループ攻撃が可能な武器“聖霊剣”を入手できるのですが、これを装備するには、“聖霊の祝福”というジョブアップが必要です。ジョブアップしたキャラクターは、すべての武器防具を装備できるようになり、さらに、レベルアップ時の全ステータス上昇値が増えます。ジョブアップは1キャラごとに120円で、最大5人に適応可能です。あとは、攻撃力30パーセントアップとか、獲得経験値2倍、獲得ゴールド2倍……といった、パーティー全体に適応される“アビリティ”を、項目ごとに課金要素にしています。フルで揃えると360円ですが、120円ぶんでもだいぶラクになります。

──このあたりは、プレイスタイル次第ですね。
高久田 リリース後しばらくのあいだは、キャンペーン価格として、すべての課金要素をセットにしたパックを400~500円でご提供する予定です。最初の国までプレイして気に入ったら、ぜひ”聖霊の祝福”を受けてみてください!(笑)


■本作誕生のきっかけとなった、さいたま市ニュービジネス大賞とは?

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_06
▲「受賞したことで店舗との交渉がしやすくなりました」と、高久田氏。

 さいたま市ニュービジネス大賞は、公益財団法人さいたま市産業創造財団が、さいたま市とともに主催しているビジネスプランコンテスト。受賞プランに賞金は出ないが(2015年度現在)、プランが軌道に乗るまで財団および市が徹底支援するとのこと。


『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_08

ここがローカルディア1
“世界”のかたちと土地・人物の名称

 舞台となる世界の国々の位置関係は、さいたま市内10区に、ほぼ相当している。各国の名称も、ごくシンプルな法則性で対応しているので、地図やネット情報を参考に調べてみるのもいいだろう。

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_09

ここがローカルディア2
現実との接点

 ゲーム内情報もとに、現実のさいたま市にある施設・店舗に行くと強力なアイテムを入手できる……など、スマートフォン端末のGPS 機能を利用したサービス特典も予定。

『ローカルディア・クロニクル』現実と幻想の狭間のさいたま市が舞台のボーイ・ミーツ・ガールRPG【とっておきインディーVol.72】_10

ここがローカルディア3
川越市の存在

 さいたま市北西部に位置し、代表的な“小江戸”のひとつとしても有名な川越市も、本作の重要なシーンで登場するという。君は川越で、刻の涙を見る!?


ローカルディア・クロニクル
メーカー 井桁屋
対応機種 iOSiPhone/iPod touch / AndroidAndroid
発売日 4月配信予定
価格 無料(ゲーム内課金あり)
ジャンル RPG
備考 ※Android版は、ゲーム開発ブランド名“備考 9256”でリリース予定 ※本作品はさいたま市“公認”ゲームですが、税金や交付金などの公的資金は使われておりません