週刊ファミ通2016年3月10日号に掲載された特集“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”から、プランナーの齋藤富胤氏と佐藤弥詠子氏へのインタビューを紙幅に収まらなかった部分を含め、お届けする。

●絶望から希望へ。現実とリンクしたシナリオ

 特集“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”の第2回は、シナリオについて。カットシーンの演出やシナリオも手掛ける、プランナーの齋藤富胤氏。そしてプレイヤーから高い評価を得たウィンダスミッションや『プロマシアの呪縛』のストーリーなど、数多くのシナリオを担当した佐藤弥詠子氏。ふたりの物語のキーパーソンたちに、最終章“ヴァナ・ディールの星唄”(以下、“星唄”)に込めた想いを尋ねた。

プランナー 齋藤富胤氏
初期から開発に関わり、『ジラートの幻影』のミッションや、それ以降のイベント演出などを担当。
プランナー 佐藤弥詠子氏
数々の名シナリオを生み出してきたほか、ミッションのエンディングテーマの作詞も手掛ける。

──『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のシナリオを支えるおふたりですが、“星唄”にはどのような形で関わられたのでしょうか?

佐藤弥詠子氏(以下、佐藤) 私はメインシナリオとエンディングテーマの作詞を担当しました。

齋藤富胤氏(以下、齋藤) 佐藤がプロットを作って、セリフを起こしたものを、これまで培ってきた世界設定から逸脱していないか自分がチェックを行い、必要があればリテイク出し。あとは、自分でもシーンを組み立てつつ、各スタッフにシーンの作成を依頼していました。

──ということは、“星唄”のストーリーはおふたりの共作とも言えますか?

齋藤 そうですね。シーン作成については、僕のほかに京屋(京屋陽子氏)という女性にも加わってもらいました。彼女がいなかったら、たぶん“星唄”は完成していなかったです。彼女はシーンを組むのがすごく早いので、助けられました。

──シーン作成とは、具体的にどんな作業になるのでしょうか?

齋藤 キャラクターの配置や演出、カメラワークを付けていく作業です。この工程を経て、モーションチームやエフェクトチーム、サウンドチームなどの作業が加わります。つまり、皆さんがゲーム中で見ているシーンの土台を作る感じですね。

──“星唄”のシナリオで、ひんがしの国を舞台にしたのはなぜですか?

佐藤 まず、ディレクターの伊藤(伊藤泉貴氏)やプロデューサーの松井(松井聡彦氏)から、「舞台はひんがしの国だ」という話がありました。

齋藤 じつは、つぎに拡張ディスクを作るなら、舞台はひんがしの国だろうなというムードが開発チームにあって、各自いろいろと構想を練っていたんですよ。

──なんと、さらなる拡張ディスクの構想があったのですね……。ほかに、事前の決めごとはあったのでしょうか?

齋藤 松井から、「絶望からストーリーを始めてください」というのと、「主要キャラクター総出演」というオーダーがありました。

佐藤 絶望からストーリーは始まり、でも最後には、世界はまだ続くよという希望を残す。いまの『FFXI』に突きつけられた現実とリンクした内容にするということですね。また、伊藤からは冒険者への感謝の気持ちを込めたセリフをヒロインに言わせてほしいという、いちばん大きなオーダーがありました。

齋藤 総出演については、『FFXI』はメモリー容量がギリギリなので、カットシーンでどれだけキャラクターを動かせるか不安でした。いざ作ってみたら、なんとかなるものですね。むしろ、ここまで出せるんだと驚いたくらいで(笑)。

──主要キャラクターが総出演となると、これまでのストーリーすべてをご自身の中で整理する工程が必要だったと思うのですが……。

佐藤 そうなんですよ。自分が関わったのは、最初の三国のお話から『プロマシアの呪縛』まで。その後、途中から制作に加わった『アドゥリンの魔境』もある程度は把握していたのですが、チームを離れているあいだに作られた『アトルガンの秘宝』や『アルタナの神兵』はそうではなくて……。シナリオを隅々まで確認することになりました。

齋藤 確認作業をくり返していくうちに、ほかのミッションの進行状況を考慮して、セリフ分岐の量がどんどん増えていきましたね。たとえば、プリッシュが乙女モードになるところ(編注:『プロマシアの呪縛』の後日談クエスト『日輪を担いて』進行中)のセリフを入れてくださいとお願いしたのですが、これ、いったい何人のプレイヤーが見てくれるんですかって(笑)。

佐藤 すごく少なそうですよね(笑)。

──でも、『FFXI』のプレイヤーはあなどれませんよ(笑)。

齋藤 そうなんですよ。ちゃんと乙女モードがあることに気づいてくれて、それに対する反響があったんです。

佐藤 気づいてくれたのは、とても驚きましたね。

齋藤 “星唄”の制作中は、ときおり挫けそうにもなりましたが、こうして皆さんの反響を見て、やりきってよかったと感じました。

──そうした細かな作り込みが、ファンにはたまらない要素なんですよね。たとえば、『アルタナの神兵』の最後に追加されたリリゼットとの後日談クエストを進めていないと、とある事情で“星唄”の進行も止まってしまう。特定のキャラクターと“星唄”のストーリーをどう結びつけるのか、その調整がとても難しかったのではないでしょうか。

佐藤 たしかにそういった意味だと、リリゼットには泣かされますよね。

齋藤 いないのか!って(笑)。『アトルガンの秘宝』のヒロインであるアフマウも、ルザフについていってしばらく帰ってこない期間があるので、そうした状況で止まっているプレイヤーには、申し訳なく思いながらも“星唄”の進行をロックさせていただきました。
(編注:『アトルガンの秘宝』ミッションを特定のところまで進行させれば、“星唄”のロックも解除される)

佐藤 たくさんの分岐があるので、各ストーリーとキャラクターの進行状況を把握するための表を慌てて作りましたね。

──極端なことを言えば、ほかのミッションの進行がどうであろうと、いっさい無視してストーリーを綴ることもできたとは思うのですが……。

佐藤 そこは『FFXI』なのだから、こだわらないとダメだろうと思っています。

齋藤 世界設定を好きでいてくださる方も多いですからね。なんでこのキャラクターがここにいるの? という矛盾だけは感じてほしくなかったんです。

佐藤 それぞれのつながり、整合性を含めて、“星唄”は各拡張ディスクへの導線の役割も担っているので、その調整はとても苦労しました。

──すべてのお話のパイプになるという、すさまじいストーリーですよね。

齋藤 そこは佐藤の技ですね(笑)。

佐藤 何とかなりましたが、齋藤にはいっぱい迷惑をかけました(笑)。

──“星唄”のストーリー後半では、アクションシーンが多いですよね。歴代のヒロインが登場して、ハチャメチャにアクションをくり広げる場面は圧巻でした。

齋藤 あれは、ちょうど“星唄”第2章が公開された時期にモーションチームに入った、元アニメーターの方の手によるものです。

佐藤 すごい方なんですよ。

齋藤 『FFXI』のカメラシステムでこんなこともできるんだ! って感動しましたね(笑)。

──走るキャラクターを正面から捉えつつ、キャラクターが抜き去ってカメラが背後に回る……みたいな、非常にアニメ的な演出もありましたね。

佐藤 クオリティーが高いですよね。プロ中のプロだなって感心しました。

齋藤 あれは悔しかったですね。自分じゃこんなことできないって(笑)。

──そして、終盤で訪れる醴泉島は、雰囲気のあるすばらしいエリアだと思いました。

齋藤 ああいった密集の表現は、プレイステーション2ではとても難しいのですが、デザイナーがずっとやりたかったらしく、がんばってくれました。開発途中、カメラを回すとなぜか竹林が消えるという不具合に悩まされていましたが(笑)。ちなみに、特徴的な虫の声は実際の虫のサンプリングではなく、合成音らしいです。

──シナリオチームから、ほかのチームに何かオーダーしたことはありますか?

齋藤 こういう敵と戦いますよ、であったり、アイツにはエクスカリバーを持たせてください、など大枠だけですね。たしか、エクスカリバーにしようという話は伊藤からあったのかな。

──ひとつどうしてもお聞きしたかったことがあって、“星唄”の第1章で、とあるアイテムを3つ集めてこいという内容があるのですが、このアイテムがなかなか敵から出ないんですよ(笑)。

齋藤 そのあたりはアイテム班の仕業ですね(笑)。僕たちは、ミッションでこういうアイテムを集めてくるという内容までは決めますが、それがどのくらいの確率で手に入るかは、アイテム班が設定しています。僕らからドロップを渋くしてほしいとかは言っていないですよ(笑)。
(編注:ディレクターの伊藤泉貴氏、アソシエイトディレクターの藤戸洋司氏へのインタビューでも同内容の質問をぶつけてみたところ、対象のアイテムを落とすモンスターの生息域が狭いことが影響している可能性が高いとのこと。ミッションを終えたプレイヤーには不要なアイテムになるうえ、通常のドロップ品も入手できにくくなってしまうため、対象となるモンスターを限定しつつドロップ率もそれほど高くはしていないようだ)

──『FFXI』って、こういうゲームだったなあと、しばし呆然としました(笑)。話を戻しまして、音楽も“舞台はひんがし”というのがオーダーの核に?

齋藤 楽曲については、今回に限らず水田(水田直志氏)に基本おまかせなので、大まかなイメージを伝えるのみですね。醴泉島は、楽曲発注時にまだデザインが上がっていなかったので、「最後に行き着く島です」という、とても雑なオーダーでした(笑)。

──あの竹林を見ていたら、アプローチも変わっていたような……(笑)。

齋藤 確かに、もう少し“和”に寄った感じになっていたかもしれませんが、ひんがし=日本でもないので、いまの楽曲がマッチしているとは思います。

──そして、最終決戦の場となるバトルフィールドですが、これまでの冒険のシーンがフラッシュバック的に浮かび上がる仕掛けになっていて、驚きました。

齋藤 あれは、フィールド上にスクリーンのようなものを配置して、思い出のシーンをランダムで投影しています。たしか、伊藤が出したアイデアで、そのまま採用されてしまったという。

佐藤 あれはいいアイデアですよね。

──そこで対峙するラスボスにも驚かされました。

齋藤 これまでの歴代『FF』シリーズのボスを振り返ったとき、どれがいちばんしっくりくるのかという話になり、“すべてを超越するもの”というテーマから、『FFIII』のアレだろうと自然に行きついた答えでしたね。

──オリジナルのボスを作ろうということにはならなかったのですね。

齋藤 すでに神様も登場していますし、ここで完全オリジナルのボスを出しても、「誰だ?」と拍子抜けになってしまう。

佐藤 それではちょっと寂しいですよね。

──なるほど。あと、女神アルタナの登場にも驚きました。あのデザインは、天野喜孝氏による『アルタナの神兵』のパッケージイラストに近いですよね。

齋藤 あれは、デザイナーに「アルタナを出したいのでお願いします!」と、無理を言ってお願いしました。

──女神アルタナの存在は『FFXI』初期のころからあったわけで、冒険者が対面するということに抵抗はありませんでしたか?

佐藤 神と会うわけですから、大きな決断ですよね。

齋藤 “星唄”は『FFXI』の集大成となるシナリオなので、ここでアルタナを出すしかないだろうと話はまとまっていました。また、これと同じ流れで、いままで実体のなかったフェニックスにも、がんばって3Dモデルを用意しました。

──フェニックスの存在は、尾羽や刀に宿るエフェクトだけでしたからね。

佐藤 私は当初、光の玉になるかなと思っていました(笑)。

齋藤 そこは各セクションに、「集大成なのでどうしてもお願いします」と、無理を言いました。