“エンタテインメントの未来を考える会 2015年度大賞”が決定!

 おなじみ黒川文雄氏による“黒川塾 (三十四)”が、東京・御茶ノ水 デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて2016年3月18日に開催された。

“黒川塾 (三十四)”エンタテインメントの未来を考える会 2015年度大賞を選定! 未来のエンタメに求められるものとは_01
▲黒川文雄氏

 黒川塾とは、“すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考える”というテーマのもと、各界の著名人を招いてトークを行う会。今回は、『週刊ファミ通』の林編集長のほか、ゲーム・エンタメ系メディアの有識者が集合し、未来のエンタメの方向性などを語り合うほか、その結果としての “エンタテインメントの未来を考える会 2015年度大賞”を選定する内容となった。以下より、そのトーク内容をお届けしよう。

【登壇者】
林克彦……『週刊ファミ通』編集長。
平信一氏……リインフォース代表取締役。ゲーム情報アプリ&サービス『電ファミニコゲーマー』編集長。ゲーム情報サイト『4Gamer.net』の初期メンバーのひとり。
佐藤和也氏……テクノロジー&ビジネス情報サイト『CNETJapan』編集記者。ゲーム情報サイト『GameSpot Japan』の編集長を歴任。
辻英之氏……スマートフォンゲーム情報配信メディア『Game Deets』編集長。同メディアの立ち上げに尽力。

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▲左から黒川文雄氏、林編集長、平信一氏、佐藤和也氏、辻英之氏

WEB時代のメディアのふたつの機能とは?
 初めのトークテーマでは、“いまの時代にメディアをローンチする理由”や“WEBのメディアに求められていること”を語り合うことになった。

 辻氏はスマートフォンゲーム情報配信メディア『Game Deets』を立ち上げた理由として、“雑誌でインターネットを使ったゲームが取り上げられ始めた時代のおもしろさが忘れられられなかった”ことを挙げていた。また、同メディアにおいて、“寝る前に読む攻略本のように”なることを目指しており、“コアゲーマーにささる記事を提供する”、“(スマートフォン)ゲームのエヴァンジェリスト(伝道師)的な役割を狙う”という信念があるのだそうだ。

 平氏は、WEBメディアの“見られかた”に変化が生じてきていると語った。Twitterのタイムラインに記事が載るようになったこともあり、2011年ごろから“おもしろい記事を作ってお客さんに来てもらうという基本はあるが、一方でそれだけでは成り立たない”状況になってきているのだという。メディアの機能として、“情報を抽出してピックアップすること”と、“ゼロから情報をつくること”の2種類があり、Twitterで情報が拡散される現代のWEBメディアは、やはり紙媒体で求められるピックアップのしかたとは違うところがあるため、ライターたちと協力して試行錯誤をしていると語った。

 林編集長は“メディアどうしは競合というよりは、相互に送客ができるようなものであるべき”と語る。媒体が増えることで、ゲームファンが「あの媒体のあの記事がいいよね」と言い合うことなどで、より多くのユーザーを引きつけるようにもなれるのだという。
 辻氏も、「ライバルのWEBメディアが出てきてしまったというようなギスギスした関係ではなく、メディアがいっしょに盛り上がっていけるとうれしい」と語っていた。

紙媒体は過去のものではない
 辻氏は、紙媒体とWEBで求められていることが大きく違うということはないが、WEB媒体では記事のクオリティーだけでなく、アップのスピードが同じくらい大事になっていると語る。記事の中身いかんよりも、やはりいちばん初めに情報を出したWEB媒体に人がたくさん来るという現状があるのだという。

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 林編集長は、いまはユーザーが自分でネットの情報を更新していく時代になったため、ニュースサイトでは基本的に誤りがないという“信頼性”も重要になってきていると語った。
 また、攻略動画など、情報提供の手段が多様化してきているため、やはり攻略本などの書籍は相対的に売れなくなっている現状があるという。しかし、『Splatoon(スプラトゥーン)』(以下、『スプラトゥーン』)はアート本や攻略本が快調な売れ行きとなっており、“紙媒体でも残るものは残る”時代になってきているのだそうだ。

 平氏は、紙媒体に掲載されているインタビューを読むと、そのデザインや構成をうらやましいと思うことが多々あるのだという。平氏は、紙媒体だからでこその魅力はまだまだあると感じていると語った。
 また、平氏は、2016年2月よりスタートしたゲーム情報アプリ&サービス『電ファミニコゲーマー』の編集長も務めており、「変わったサービスということもあり、期待感があります。ゲームメディアをやってき人間だからでこそ、できることをやっていきたいです」と、その意気込みも語っていた。

これからのエンターテインメントに必要なのは“濃い体験”!?
 ここからは、“エンタテインメントの未来を考える会 2015年度大賞”を決めるため、2015年の注目ワードやメディアの転換を語ることになった。

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 辻氏は昨今のスマートフォンゲームは、昔の家庭用ゲーム機クラスのものが無料でプレイできる一方で、『ねこあつめ』のような素朴なグラフィックで、かつ簡素に楽しめるゲームもヒットするという、“両極端”の状況になっていると指摘する。スマートフォンゲームの多くは遊ばれずに埋もれてしまいがちでもあるが、大衆に受け入れられるキャラクターがあれば、素朴で簡素なものでもヒット作になりうる、夢のある媒体であるという。

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 佐藤氏は、“バーチャルリアリティー(以下、VR)”と“eスポーツ”がキーワードになると語る。スマートフォンゲーム系の企業の大半がVRへの進出を狙っており、eスポーツもやはり注目の前線にあるのだという。

 平氏は、“濃い体験ができる”エンターテインメントにユーザーが戻って来ることも考えられると語った。昨今はスマートフォンで遊べる“手軽な体験”のゲームが流行っていたが、ここに来て“濃い体験”ができる家庭用ゲームなどにも芽が出てきているのだそうだ。
 たとえば、映画業界では、『ガールズ&パンツァー 劇場版』での座席の振動や各種演出が楽しめる“4DX上映”が大ヒットしていたり、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』では映画館で声援を贈ったりする“ライブコミュニティー”的な楽しみかたがされるなど、日常では体験できないことが求められつつあるそうだ。その流れのひとつにVRがあり、そうした濃い体験が新しいユーザーの“入口”として重要になるのだという。

 林編集長は、『スプラトゥーン』の大会に行った際、お父さんが娘さんを肩車して、娘さんが「あの武器こうだよ」と教えていたところを見て、いまでもコンシューマータイトルで濃いゲーム体験が受け入られつつあると感じたと語った。
 それ以外でも、『Bloodborne(ブラッドボーン)』などのオリジナルタイトルが牽引してプレイステーション4の売れ行きがよくなっているという現状もあるという。スマートフォンゲームの“気軽さ”の反動の一面として、そうしたコンシューマーゲームの注目度が高まっているのだそうだ。