賢いローカリゼーションを行えばユーザーがゲームに親しみを感じるようになる!
2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。
会期4日目、Andrew Alfonso 氏によるセッション“ 『モンスターハンター』を世界規模にするためには”が実施。『Monster Hunter 4 Ultimate』を題材に、北米とヨーロッパのための高品質のタイトルを提供するための新たな課題に取り組む方法について紹介された。
なお、『Monster Hunter 4 Ultimate』はカプコンによると継続的・積極的なイベントの実施およびオンラインコミュニティーの運営や、シリーズ未経験者に向けたダウンロード体験版の配信などの施策がロングセラーに寄与したことなどで、これまでのファンに加え、新たなユーザーを獲得。加えて欧米でのNewニンテンドー3DS本体発売との同時展開も功を奏し、シリーズ初となる欧米のみでのミリオンセールスを達成している。
本セッションでスピーカーとして登壇したローカリゼーション・ディレクターのAndrew Alfonso氏は、本作のローカライズでアダプテーションとプロダクト・マネージャー(マーケティング活動全般の権限と責任を持つ管理者)を兼ねた仕事を請けおったとのこと。ハイクオリティなローカリゼーション、社内スタッフの育成、そしてゲームを洗練・改良することを目標に、ローカライズを進めて行ったそうだ。なおカプコンでは数年前よりプロジェクトに最初から参加してチームと肩を並べていっしょに仕事をするようになり、ローカリゼーションが大きく改善したと言う。
では、『Monster Hunter 4 Ultimate』では、ハイクオリティなローカリゼーションを実現するにはどうしたのか? Alfonso氏は以下の5点を例に挙げた。
・チュートリアルが冗長でなく、楽しめるものであること。
日本語では会話に70ライン使っていたところを英語では68ラインにする、32ラインを26ラインにするなど短くおさめる。意味を抜かすことはしないが短い言葉で伝えるようにして覚えやすい言葉を使うようにしたとのこと。確かに長々としたチュートリアルよりも、ある程度単調なほうが分かりやすいだろう。
・流行言葉や表現を使わない。
現在流行っている言葉を使ってしまうと、後で見たときに古くさくなるのでこうしたものには依存しない。
・略語の乱用は避ける。
略語がありすぎると分かりにくい。
・フォントは読みやすいものを使う。
『Monster Hunter3 Ultimate』のフォントは読みにくいというフィードバックから、ポータブルでも読みやすくするように。
・大型のゲーム(『Monster Hunter 4 Ultimate』は50万ワードを超える)では優れた外部ローカリゼーション会社とパートナーを組む。
メインベースの翻訳は任せて本部ではそれを管理する。外部ローカリゼーション会社とはつねにコミュニケーションをとるようにし、ハイクオリティな翻訳を予定通りにやってもらうことはとても重要である。また外部ローカリゼーション会社が、海外でどう見られるかというフィードバックを提供して貢献してくれることもある。
社内スタッフの育成も大事だ。『モンスターハンター』のような大きなフランチャイズは、新しく入ったスタッフにもきちんと知識を伝えてできるだけ多くの人に知ってもらうようにする。翻訳監修の仕事を自分以外のスタッフにやってもらうことで、ディレクターとしてゲームの変更、改良などに時間を費やすことが出来たそうだ。
また、ゲームの改良については、日本語版から北米版が大きく変わった例として『戦国バサラ』を例に挙げる。この北米版のタイトルは『Devil Kings』であり、キャラクターだけでなくゲームプレイも大きく変更されているのだ。欧米向けに織田信長をDevil King、伊達政宗をAzure Dragonというキャラに変えたが、これはアブラハム・リンカーンとジョージ・ワシントンをマーベルキャラクターのコロッサスやキャプテン・アメリカにしたようなものである。
『Monster Hunter 4 Ultimate』の改変前のチュートリアルでは、MAPと村を何度も行き来してその度にローディングしなくてはならないため、チュートリアルのペースを変え、一回のクエストでチュートリアルを済ませるように変更している。また、ハンターノートが有効的に使われていないのではと思い、ヒントとダメージマップを記載することを提案したそうだが、予算と時間がないために却下されてしまったそうだ。
これらの仕様改変をどう実現させたか、Alfonso氏はカプコン(日本側)の上司に提案する前に根回しをしておくことがとても重要だったと言う。「このゲームの欧米版をよくしたいので~~~をやりたい」と、このアイディアはすごいと周囲に思ってもらえば上手くいくといった具合だ。その際、大きな変更を求めるのではなく、ここを“少し”変えたらよいのではというように提案を持って行くと、肯定的に見てもらえるそうだ。なお、「日本の開発者は日本と欧米というふたつの大きく異なる文化に対応しなくてはいけないので大変な仕事を背負っているのは確かである」とAlfonso氏はフォローしている。
また欧米での本作のユーザー年齢層は19歳~34歳の90%の男性で、ハードコアレベルのプレイヤーが対象となるので、彼らには時間の制限があることを意識しないといけない。チュートリアルを何度もやっている時間はないので簡単に短時間に出来る方法が望ましい。一方日本では、小学生~高校生のユーザーが多いので、チュートリアルを何度もくり返したりする必要があるのだ。年齢層に合わせて、会話を飛ばしたりビギナー用チュートリアルを飛ばしたり出来るようにすることも大切である(もちろんストーリーに関係したチュートリアルは飛ばせない)。
なおUIが変更できない場合は(文字のスペースがないなど)、直感的に理解できるよう、アイコンにして表示する。例えば「火」となっていたところは誰でもわかるイメージアイコンに置き換えたそうだ。
●プロモーションについて
購入の決め手となるデモ(体験版)では、コア・ゲームプレイにフォーカスした、短くても味のあるデモがベストであるとAlfonso氏は主張する。
本作では、ニンテンドーeショップでフルフィーチャー・デモのデータを小売版に移せるようにしたかったが、プログラミングのスケジュール上無理だと判断。そこでTGSなどで使われるイベント版(マルチプレイ、コンバット中心)を使用し、スキルベースのマッチメーキングを導入したそうだ。
また日本では上手くなるためのヒントを画面写真とともに紹介するソーシャルメディア・キャンペーンを行っていたが、北米では画面写真ではなくビデオを使ってビギナー向けに変更している(#DidYouKnowMHキャンペーン)。60本のビデオを使ってヒントやトリックを紹介したと言う。このキャンペーンはお気に入りに入れたりリツイートする人のおかげで拡大。半年ほど続き成功だったそうだ。
この結果、前作の10~20%から40%のメディアにレビューで触れられ、その半分以上はローカライズを評価してくれたそうだ。このことについてAlfonso氏は、「これは社内グループが努力したおかげだと思う。モンハン開発チームの信用を得たことはとても重要だった。ゲームを翻訳するだけでなく、フィードバックで価値ある調整を提供し全体的にゲームをよりよいものにした。日本と海外でそれぞれうまくいくものが異なることを理解してもらう努力も大事だ。彼らの身になって考えたこともよかった」と語った。
しかし上手くいかなかったこともある。まず日本・アジアでは2014年10月11日に発売されているが、欧米では2015年2月13日と、4ヵ月の期間が開いている。これについて、できればローカリゼーションは5~6ヵ月前から着手したかった。始めたのが遅すぎたとのこと。またローカライズに関するファイル管理、バージョン・コントロールはエクセルを使ってなんとかしていた状況で、大失敗の可能性もあったそうだ。
今後はプロジェクトが始まる前からローカライズに取り組むこと。さらにクオリティを上げて50~60%のメディアでレビューが書かれるようになる。そして新しいプレイヤー、欧米プレイヤー向けにゲームプレイの改良に努めることを目標にしたいと述べた。
最後にAlfonso氏はまとめとして、ローカリゼーション・チームやディレクターは海外市場へのナビゲーターの役目をしてくれる。ハイクオリティ・ローカリゼーションによってゲームの魅力が高まるとし、変更を求める場合、顕著な変化ではなく具体的で計測しやすいものにフォーカスすることが大事であると主張した。そしてなにより絶対にあきらめないこと! ときには遠回りも必要であると述べ、セッションを締めくくった。