日本のプロゲーマーの活動と展望に迫る
週刊ファミ通2016年3月17日号(2016年3月3日発売)で、プロゲーマーに焦点を当てた特集“プロゲーマーがいまアツい!”を掲載。その中で、2D格闘ゲームと3D格闘ゲームの両方で、世界大会優勝の経験を持ち、2011年からプロゲーマーとして活躍するふ~ど氏にインタビューを実施した。ふ~ど氏は、ゲームのジャンルを問わず、積極的に新しい作品をやり込んで大会で結果を残しており、近年では『ガンスリンガー ストラトス2』(以下、『ガンスト2』)の賞金制公式大会で優勝するなど、活躍の場をさらに広げている。記事では、ふ~ど氏にプロゲーマーになった経緯や、限りある時間を割いてさまざまな作品をやり込む理由などを訊いているが、ページの都合上、盛り込めない話もあった。お蔵入りにするにはもったいない貴重なエピソードも多かったので、本記事にて改めてインタビューの完全版を掲載したい。
ふ~ど氏
(文中はふ~ど)
【プロフィール】
アメリカのゲーミングデバイスメーカー“RAZER”と契約したプロゲーマー。もともとは『バーチャファイター』シリーズの有名プレイヤーで、2009年にアメリカで行われた“World Cyber Games 2009”の『バーチャファイター5 ライブアリーナ』で優勝。さらに、翌年にフランスで開催された同イベントや2011年の“EVO2011”においては、『ストリートファイターIV』(以下、ストIV』)の大会で優勝に輝いた。
プロ格闘ゲーマーの先駆け的存在
――ふ~どさんが、プロゲーマーとして活動するようになった経緯から教えてください。
ふ~ど ゲームが好きで、『バーチャファイター』や『ストリートファイター』をプレイしていたのですが、2011年にアメリカで行われた“Evolution Chamapionship Series 2011”(以下、EVO。有志によって主催されている大規模なゲーム大会)で、『ストIV』の個人戦で優勝しまして。それが縁で、アメリカのゲーミングデバイスメーカー“RAZER”から、プロゲーマーにならないかとオファーをいただきました。
――オファーが来たときのお気持ちは?
ふ~ど もちろん、うれしかったのですが、驚きも強くて。当時は梅原さん(梅原大吾氏。日本人で最初のプロ格闘ゲーマー)がプロになったばかりのころで、いまよりもプロゲーマーという言葉が浸透していませんでした。そんな中で、自分にオファーが来るとは思ってもいなくて。ただ、当時もいまも、“プロゲーマーの活動はこれが正解”というものはないんです。自分で今後の道を切り拓いていけるという点に魅力を感じ、活動を始めました。
――なるほど。では、プロゲーマーとして、どのような活動をされているのですか?
ふ~ど 昨年は、海外で行われた大会など、10以上の大きな大会に出場しました。そこで賞金を得たりしているのですが、最近では大会への出場だけでなく、ゲームのプロモーション活動にも力を入れるようにしています。
――とくに昨年は、日本の大会よりも海外の大会に力を入れている印象を受けました。
ふ~ど サンフランシスコで行われたカプコンカップの決勝戦出場に焦点を当てていたので、世界各地の大会に出ていましたからね。そのような印象を持つ方がいるかもしれません。でも『ガンスト2』の賞金制公式大会で優勝できましたし、日本でもかなりゲームをやり込んでいましたよ。
――確かに、『ガンスト2』の大会直前はかなりゲームセンターにいらっしゃいましたよね(笑)。ふ~どさんはいろいろなジャンルのゲームで実績を残されていますが、遊ぶゲームはどのように選ばれているのですか?
ふ~ど プレイ人口の多いゲームをやり込むようにしています。ゲームがおもしろいかどうかというのは、人それぞれ好みがあると思いますが、プレイ人口が多いゲームはほぼ確実におもしろいので。
――“公式の大会であるか”や“賞金の有無”みたいなものは、あまり意識していないと。
ふ~ど そうですね。『ガンスト2』の全国大会で優勝したときも、賞金のことは意識していませんでした。ただ、おもしろいからとことん遊んで、大会に出場したという感じで。
――スポンサーである“RAZER”と、活動方針などを話し合うようなことはあるのでしょうか?
ふ~ど 『ストIV』に関してはありましたね。有名な大会には出場してほしい、カプコンカップではがんばってくださいという感じです。
――『ストIV』と『ガンスト2』ふたつのゲームを同時期にやり込むというのは、限りある時間を分散させている……という意味ではリスクがあるようにも感じますが。
ふ~ど 『ストIV』と同じく、『ガンスト2』がおもしろいからとことんプレイしただけです。スポンサーのRAZERからすると、『ガンスト』をプレイする時間で、もっと『ストIV』を練習してほしいというのが本音だったと思いますが(苦笑)。結果を残せているので、うまく両立できているかなと思います。
――なるほど。ふ~どさんは、「結果を出さなければ」といったプレッシャーのようなものを感じたりされるのでしょうか?
ふ~ど それはあまりないですね。僕はもともと、負けることに対する抵抗が薄くて……。もちろん、大会に参加するからには優勝を目標に全力で臨みますが、仮に負けても大会に「参加してよかったな」と切り換えられます。
――大会を楽しむ余裕を持つことも、プロゲーマーにとっては大事なんですね。それでは、最近ハマっているゲームはありますか?
ふ~ど いまは『ストリートファイターV』(以下、『ストV』)ですね。皆で集まってプレイしているので、あまり眠れない日もあって(笑)。これからしばらくは、そんな日が続くと思います。
日本の格闘ゲーム大会に必要なものとは!?
―ふ~どさんがプロゲーマーとして活動するなかで、印象に残っている大会や試合、人との出会いなどはありますか?
ふ~ど 印象に残っているのは、やはり『ストIV』の個人戦で優勝した“EVO2011”ですね。それと『ガンスト2』の大会も貴重な経験でした。『ガンスト2』はかなり人気のタイトルなので、大会もきびしいものになると感じていたのですが、その大会を勝ち残って優勝できたのは大きな自信につながりましたし、多くの方に一目置かれるきっかけになったと思います。
――異なるジャンルのゲーム大会で実績を残すのはすごいですよね。そのぶん、苦労もされていることもあるのでは?
ふ~ど そうでもないですね。確かに、格闘ゲームでも2Dと3Dのあいだには壁があると思いますが、僕はもともと両方プレイしていましたし、「自分はゲームがかなりうまい」という自信を持っているので。
――なるほど。では、日本のプロゲーマーを取り巻く環境は、今後どのように変化していくと思いますか?
ふ~ど 日本のプロ格闘ゲーマーだけに限ってお話しすると、このままではきびしいんじゃないかなと感じていて。国内でも賞金の高い格闘ゲーム大会が開催されると、ますます盛り上がると思います。
――確かに、格闘プロゲーマーとして生活の見通しが立つと、より多くの人が目指しやすいですよね。
ふ~ど お金が得られる仕事だと思われるのは大事ですよ。すべてがそうとは言いませんが、“プロスポーツ選手=お金持ち”のイメージがあるから、親は子どもにスポーツを勧めるし、子どもも将来なりたい職業として選ぶので。ただ、残念ながら現在は、ゲームをプレイしても仕事にならないという考えの人が多いでしょうね。
――多くの世代に、ゲームが仕事になるという意識を根付かせるのが重要だと。
ふ~ど はい。ですから、カプコンカップ2015でかずのこ選手が優勝したのは大きくて。彼は1500万円の賞金を得ましたが、日本人が優勝することによって、プロゲーマーの認知度が上がりますし、国内の賞金に関する問題を議論しやすくなると思います。
――ここからは、海外の大会についていろいろお訊きしたいと思います。日本と海外では、大会の観客にも違いがあったりするのですか?
ふ~ど 温度差が違いますね。これはお国柄だと思いますが、日本の観客が冷静というか、クールなのに対して、海外だと盛り上がりかたが半端ないです(笑)。日本だとエンタメはおもしろい人、たとえば芸人さんが中心になって作るものという認識の人が多い印象を受けますが、海外は皆でいっしょに作っていくという考えの人が多いんです。ただ、日本でもライブなどでは観客がいっしょに盛り上がるので、ゆくゆくは差がなくなるんじゃないかなとも思います。
――日本でも、たとえば『ガンスト2』の公式大会の準決勝や決勝戦で、いいプレイが出るたびに会場から歓声が自然と聞こえてきて、そういうのを見ると「あぁ、人間は感動すると勝手に声が出るんだな」と印象的に感じましたね。
ふ~ど 大きい大会は国内でも歓声が多いんですけど、たとえば店舗で行うような小さな大会だとやっぱり少ないですよね。海外では、サイドトーナメントでもすごい盛り上がりかたしてますよ(笑)。
――海外の大会は、主催側が場所を借りて行うという形だとお訊きしました。
ふ~ど はい。大きい大会だとホテルで開催することが多いです。ホテルのほかにも公民館、カナダだと学校で開催されたこともありましたね。
――利便性を考えた結果、そういった場所での開催が多いんですかね。
ふ~ど そうですね。ホテル街とか、ヒルトンとかのどこか一室を借りて。日本にはないと思うんですけど、海外はイベントスペースがあるので。日本もあるかもしれませんが、実際に借りてることは少なくて。一回体験すると、おもしろいですよ。その場の雰囲気が。
選手に注目して大会を観戦しよう!
――今後の展望についてもお聞かせください。
ふ~ど 展望というか、“プロゲーマーとして、こういう生きかたもあるよ”というのを伝えられたらいいなと思っています。周囲にプロ格闘ゲーマーが多いなかで、自分はいろいろなジャンルのゲームをプレイしているので。あとは、ゲームが好きなので、いずれゲームを作ってみたいなと思いますが、いまは自分の可能性を広げるために、いろいろなことを考えたり、チャレンジしている段階かなと。
――なるほど。今年も多くの大会に参加されると思いますが、配信などで観戦しているファンにはどんなところに注目してもらいたいですか?
ふ~ど 配信で大会を見てくれるのはもちろんうれしいのですが、もし興味があるなら、会場に足を運んでほしいですね。選手やファンの熱気、臨場感などを肌で感じられるぶん、配信で見るよりも何倍もおもしろいはずです。大会のライブ感を味わったら、ぜひ大会に出場してみてください!
――「こういうところに注目するとより楽しめる」というのはありますか? たとえば、プレイヤーの個性ですとか。
ふ~ど 応援したいと思える選手を作るのは重要ですね。そして試合を見るときは、誰のどういったプレイを見るというよりは、どういう意気込みで大会に参加しているのかなど、人なりの部分を見たほうが、共感できて応援する選手を見つけやすいと思います。いまでは、“GODSGARDEN(ゴッズガーデン)”や“TOPANGA(トパンガ)”など、格闘ゲームのコミュニティーが開催する大会もありますので、選手の試合を見やすいと思います。
――ふ~どさんは、『ガンスト2』の試合の後にチームメイトと反省会をしている姿が印象的です。どのようなことを話しているのですか?
ふ~ど 反省会は、チームメイトの意志の疎通を高めるために行っているのですが、「このときに何でこうしたの?」という話はしません。それよりも、「こうしたほうがいいか、それともしないほうがいいか」を話し合うことが多くて。よりよい選択肢を選び続けることが重要なので、岐路に立ったとき、咄嗟的にベストな選択ができるように、ずっと話し合います。ひとつの動画を見ながら、1時間以上話すことはよくありますね。
――チームの認識を統一するのは、かなり難しいと思いますが……。
ふ~ど 難しいですね。格闘ゲームの場合は、自分ひとりで正しい選択をしていくと勝利につながるのですが、チーム戦である『ガンスト2』の場合は大局的に見ないといけないので、個人で見るとそのときの選択が正しくても、チーム全体で振り返ると間違っているときというのもあって。ゲームなので、強制するのは好きではないのですが、これは本当に言わないといけないなというときは、伝えるようにしています。もちろん、僕が言われることもありますが(苦笑)。ただ、動画を撮っていない試合に関してはあまり話し合ったりはしないです。記憶をもとに話し合っても答えが出ない……というか、検証のできない振り返りは、あまり意味のある話し合いにはならないので。
――なるほど。では、格闘ゲームの練習で心掛けていることを教えてください。
ふ~ど 試合の結果を問わず、自分の対戦動画をよく見ています。あとは、質の高い練習ができる環境作りも重要だと思いますね。
――ありがとうございます。それでは最後に、メッセージをお願いします!
ふ~ど 今年もカプコンカップやEVOには、もちろん参加します! 『ガンスト』も、2016年4月に開催される公式大会に出場しますので、興味のある方は、ぜひ会場に足を運んでもらえるとうれしいです。