『タガタメ』の世界を知る

『誰ガ為のアルケミスト』描きたかったのは、心の葛藤~プロデューサーインタビュー_01

 高い戦略性とドラマが好評を得ている『ファントム オブ キル』を生み出したFuji&gumi Games。同社がこの1月28日からサービスを開始した、ドラマ要素を重視したシミュレーションRPGが『誰ガ為のアルケミスト』(以下、『タガタメ』)だ。今回は同作の設定やストーリーなどに注目し、同社の副社長であり、このタイトルのプロデューサーでもある今泉潤氏に話を聞いた。

 高さや方向など、戦術性の高さを誇るシミュレーションパートのシステム解説については、以下のファミ通Appの記事をご覧いただきたい。

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 こちらの今泉氏へのインタビューでは、設定やストーリーを中心に尋ねた。まずは前提としてこの『タガタメ』の世界を理解しておこう。

 物語はさまざまな国を有するバベル大陸を舞台に、錬金術の力を持った7人の主人公が活躍してくり広げられる。章ごとに主人公が異なり、それぞれの物語が語られるのだ。

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 物語の舞台であるバベル大陸の中央には、巨大なバベルの塔の残骸がそびえている。これはかつては天まで届く巨大な塔であり、錬金術の始祖と呼ばれるふたりの錬金術師が、戦乱の世界を統一した証として建造したと言われている。この塔がなぜ残骸となってしまったのか、そして塔の中心にいまも存在する賢者の石と呼ばれるものの集合体“グランエクシエル”が本作のストーリーにおいて重要なポイントとなる。

 主人公たちが活躍する現代では錬金術自体が禁忌のものとなっており、厳しく取り締まられているのだ。

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心が葛藤することでドラマが生まれる

──『タガタメ』はモバイルゲームではめずらしいほど、がっつりとストーリーを楽しむタイプのシミュレーションRPGですが、このコンセプトはどういう経緯で生まれたものなのでしょうか?

今泉潤氏(以下、今泉) モバイルゲームには、現状では主人公=ユーザーという文法の作品が多く、僕がいま運営している『ファントム オブ キル』という作品も、その文法をもとにしています。『ファントム オブ キル』はドラマと戦略性に重きを置いていて、ムービーを押井守監督に監修していただいて制作し、さらにドラマ性を押し出しています。ですが……主人公がユーザーだと、しゃべらせることができないんです。

──意志が持たせられないと。

今泉 ええ。僕にとって「ドラマとは何か」というと、“心の葛藤”なんです。ストーリーによって心に葛藤が生まれたうえで、どこへ主人公が踏み出すかというところに、人は感動したり、勇気づけられたりするのだと思うんです。けれど、主人公が意志を持ちづらいとなると、この葛藤が生み出せなくなります。重要な決断を、周囲のキャラクターに委ねたり、周囲のキャラクターに促されたりして進めないといけないのはまわりくどい……。なかなかストーリーが展開していかないので、イライラしちゃうんですよ(笑)。

──制作者としてもまどろっこしいと(笑)。

今泉 モバイルゲームはどちらかというとカジュアル寄りで、ストーリーを簡潔にする必要があったり、情報量を少な目にしたりしたほうがいいという意見があります。そのなかで、「元来RPGはロールプレイ(役割を演技)するものだ」という観点から、『タガタメ』では、まず主人公のキャラクターを確立させようと思ったんです。そのうえで、いろいろな世界を旅してもらいたかったので、世界を分けました。そして、年齢も性別もバラバラの7人の主人公を作り、“錬金術”を根幹に彼、彼女らそれぞれの心の葛藤を生み出すストーリーを描いたんです。

──一方、シミュレーションRPGとして、高さや方向の概念を導入したのはなぜでしょう?

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今泉 「スマホで遊ぶゲームで、いちばんゴッツいゲームにしてやろう!」と思って(笑)。いま、ここまでのものはなかなかないので。『ファントム オブ キル』のときにも言われましたが、やっぱりユーザーの皆さんにとって、シミュレーションRPGって難しいものなんですよ。時間をかけて遊ぶゲームですし、「モバイルゲームではあのおもしろさは表現できない」とも言われていますが、逆に、ないものをやるのがおもしろいのではないかなと。

──確かに、シミュレーションRPGにとっつきにくさを感じる方もいらっしゃるようです。おもしろさがわかれば、どっぷりハマれるジャンルだとも思いますが。

今泉 とっつきにくさは、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の提示のしかたで乗り越えられると僕は思っています。バトルでマス目が表示された瞬間、引いてしまう方もいらっしゃいますよね。だから、マス目などにはとくに気を遣いました。『タガタメ』でも何回も検証して、タップで直観的に動けるようなマス目を採用しています。そういう工夫で、接しづらさやテンポについては解決できるだろうと。

──ただストーリーを進めるだけでなく、マルチプレイやPvPなどのモードもありますね。

今泉 僕は社交的な人間ではないので、じつは通信対戦が苦手なんですね(笑)。だから、ひとりでもガッツリ遊べて、ストーリーに浸れるものにしながら、モバイルゲームらしく、ちゃんと友だちとも遊べるようにしています。

──これまでのアナウンスでも、マルチプレイやPvPがサブ的な位置付けで語られているのは、そのせいですか?

今泉 どちらかと言うと、映画的な作りになっているからだと思います。オンラインゲームは、ユーザーと対話しながら作り上げていくものですが、映画は完成品を映画館でドーンと観せているわけで、より個性が強く出せるんです。そういう棲み分けをしたかったんですね。「これは僕でしか作れないゲームです」と言って提供する部分があって、でも、それだけは押し付けでしかないので、ユーザーさんが自分なりの遊びかたを見い出せる部分も提供する。そこが、マルチプレイやPvPになります。

──たまたまプラットフォームがモバイルというだけで、PCや家庭用ゲームと制作方法が同じですね。

今泉 僕はもともとテレビドラマや演劇を作っていたので、人間ドラマが好きなんですね。僕自身が感動したいし、人も感動させたくて。だから、モバイルゲームというフォーマットに乗っかりながら、プロデューサーとして作品を成立させつつ、自分のやりたいことと両立させるのが大事だと思っています。

人と人とが絡み合い、無限に広がっていく

──サービス開始に先行して、1章の最後、第5話まで進めたのですが、かなり長いシナリオですね。

今泉 長いですよね? でも、めちゃめちゃカットしたんですよ、あれでも。

──シナリオは、今泉さんの指示に則って、複数の方が書いているんでしょうか?

今泉 あれは、僕がテレビの仕事をしていたときからいっしょに仕事をしている脚本家が書いています。最初は小規模なWebドラマをいっしょに作っていましたが、いまは有名アニメなどの脚本を書いていますよ。現代劇を書いていた人なので、ゲームのシナリオを書くことには慣れていなくて……。そこを、僕がゲームシステムを解説しつつ作りました。『タガタメ』の世界設定には、国家ひとつをとっても綿密な設定があるのですが、そういうことを全部説明していると、さらにテキストが長くなってしまうので語られてはいません。語らないけど、感じさせるように意識しています。

──カットされたわりには、流れに淀みがないような印象を受けました。バトルありきでシナリオを挟み込んだわけではないのですね。

今泉 いや、同時進行です。制作的にも間に合わないスケジュールでしたから。「ここでこういう会話がされ、心情的にはこうなって、この場所でバトルがあり、つぎにはここへ行かなくてないけないから、きっかけはこういうもので……」。という具合にプロットを作って、そこへセリフを入れていってもらうという。

──当て込みとは思えませんでした。

今泉 それはめちゃめちゃうれしい意見ですね。今年で5番目くらいにうれしいんじゃないかな(笑)。

──1章でこのボリューム。これが全部で7人分もあると。

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今泉 たいへんですよ(笑)。

──どのくらいのプレイ時間を想定しているんでしょう?

今泉 それは、本当に想像がつきませんね。皆さんに遊んでいただくうちに続きや横道は求められるでしょうし、それがこのコンテンツにおける最適な消費スピードでしょうから。イベントなどのサブ要素もいろいろありますしね。でも、ユーザーの皆さんもそうだと思うんですが、ひとつのゲームを遊ぶ期間って、だいた3ヵ月くらいですよね。

──そうかもしれません。

今泉 ストーリーがあるということは、必ず終わりがありますから、1年とか2年も持たせようとするのは異常なことなのかなと。ですから、だいたい3ヵ月ほど遊んだら、2章へ進めるでしょう。2章へ行っても、錬金術というテーマをもとにしていますから、1章の主人公であるロギも出てくるでしょうし、仲間を増やしていっている感じは演出できるのではないかなと思っています。

──大前提としての疑問ですが、全主人公のストーリーを終えた場合、モバイルゲームとして継続していく際の折り合いはどうつけていくのですか?

今泉 基本的に話は完結させますが、けっきょくは“自分がおもしろいかどうか”です。今回僕がやりたかったのは、ゲームシステム的な問題と、ドラマを合致させることなんです。僕の持論では、モバイルゲームのドラマが作れない理由が3つあるんですよ。

──教えてください。

今泉 ひとつは主人公=ユーザーであること。これは前述の通りです。ふたつめはコンプガチャの問題で、絵合わせがNGとなっていること。つまり、連携スキルが使えないんです。たとえば『ドラゴンボール』なら悟空と悟飯で親子かめはめ波を出しますよね。ゲームではキャラクターを揃えたときに出るその技で絆が感じられるなど、文字情報にないことまで楽しめるんですが、キャラクターはガチャで手に入れるものなのでできません。

──もうひとつは?

今泉 キャラクターは死なせられないことです。課金で入手するものなので、物語の都合で使えなくしてしまうことができないんです。僕は、人の生き死ににこそドラマが生まれると思っているのですが、それができないんですよ。そういうところを一切排除してしまおうと考えたこともあって、本作では主人公を全員固定のキャラクターにしたんですね。1章の主人公であるロギとディオスも、この先いっしょに戦うような場面がきたら、おそらく連携スキルを発動するでしょう。また、仮に主人公たちの誰かが死んでしまったとしても、仲間がそれを生き返らせる旅に出るという展開も考えられるわけです。

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──なるほど、一段落はするけれど、まだまだ続いていく余地はあるんですね。

今泉 そうですね。彼らのストーリーは無限に広がっていきます。世界地図の周囲には雲がかかっていますから。あの雲の下はどうなっているかわかりませんよ?(笑)

──今泉さんご自身も、よくわからないと(笑)。

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今泉 (笑)。モバイルゲームは生き物で、ユーザーさんの声を取り入れてこそ最適な形になると思っています。『ファントム オブ キル』でも、開発当初は予想もしていなかったことを取り入れていますから。なるようになっていくものだし、なりたい形にしていくのがプロデューサーの仕事だと思っています。自分のエゴはリリースするまで。あとはユーザーの皆さんの反応を頂戴して、よりよい作品にしていきたいです。