フランス人として、そしてテロを受けた国のライターとして

 ボンジュール、皆さん。お久しぶりの方も、初めましての方もいらっしゃるでしょう。ファミ通ドリームキャストを初めとして、そのころからいくつかのファミ通グループの雑誌にコラムを書いているグレグと申します。15年間、「フランスで“和ゲーム”はどういう風に受けとめられているか」ということを書いてきました。

 今回、パリ在住の身として、あのことについて触れたくて原稿を書きました。テロの話です。

 僕は元気といえば元気なんですけど、やっぱりパリ在住のフランス人として、そして被害者の知人として、元気はあんまりないですね。もちろん、皆さんはすでにいろいろなところで情報を得て、解析したり理由を読んだりしていると思いますが、フランス人として、そしてテロを受けた国のライターとしてゲームをめぐる文章を書いたら、きっと誰も読んだことのないものになるだろうと思いました。

パリ在住ライターから、テロとゲームについて少し_01

 テロが起きたとき、パリ在住の友だちや知り合いは皆もちろん、ゲームをやっていました。金曜日の午後9時20分。そりゃゴールデンタイムじゃないですか。翌日の土曜日は仕事がないし、一週間分のストレスや不満をFPSなどで吹っ飛ばすには最適の日! 一般メディアはそうしたゲームの悪影響をさんざん口やかましく言いますが、ゲームで敵を撃っていても、現実に人が撃たれたらショックは受けます。実際、テロの影響でゲームができなくなったり、やる気が出なくなった友だちが大勢いました。

 ひとりは、あるアクションゲームを遊び始めて10分程度のところで銃声が間近に聞こえ、そのままひと晩中、自分の部屋に籠もりながら、数十メートル先で行われたコンサートホールでの人質事件の解決を待つのみでした。その結果、トラウマのように当のアクションゲームを「数ヵ月は楽しめないだろう」と言いました。これはゲーム中で敵を撃つからではなく、パブロフの犬のようにそのタイトルがテロを思い出させるから。別のひとりは、あまりに近所でテロが起きたため、一週間ぐらいは何かに集中しないとおかしくなる気がして、一生懸命『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』をやり込み、プラチナトロフィーを取得したとか。

 以上は身近な友だちの例ですが、フランスの新聞“Le Figaro”は、ゲームとテロの関連を記事にしました。ゲームのプレイヤーにSNSで「今回のテロの影響でプレイできなくなったゲームはありますか?」と尋ね、その結果を記事にしたのです。

 結果は……やっぱり人気のFPSや暗殺アクションがダメでした。その一方でSF設定の『スター・ウォーズ バトルフロント』は大丈夫だったり。もちろん、ほのぼのとしたゲームが多い任天堂タイトルの名前がけっこう挙がりました。「木の竿で7メートル以上のサメを釣ったり、やっぱり『どうぶつの森』は現実逃避に最高!」や「いまは友だちに囲まれて、家でみんなで『マリオテニス』の最新作を遊びながら、お互いを和ませています」などの発言も見られました。

 それから、ゲームとテロに関して、フランス人としてのいくつかのゲーム会社に感謝を覚えました。テロが起きて数日後から、銃や軍人などが出ているゲームCMや広告のキャンペーンを3日間、国民の哀悼のためにキャンセルしたのです。Activisionの『コール オブ デューティ ブラックオプスIII』、Bethesdaの『Fallout 4(フォールアウト 4)』、UbiSoftの『レインボーシックス シージ』。あらためて感謝します!

 そしてオレの話……。テロが起きたときは半分仕事、半分音楽を聴きながら「なんだかパトカーが騒がしいな~」と思い、Twitterのタイムラインを見ていると、11区がヤバいという話に。テレビを点けて、テロが起きているという事実を知り、数分は戸惑いました。同時に誰かの役に立ちたいという気持ちも溢れてきましたが、医者でもないし警察でもないので何もできない。「自分は日本語しかできない」と思ったそのとき、観光客にも大人気なバーやコンサートホールがある11区だと気づき、状況や情報を日本語でツイートし始めたのです。現地や、ほぼ閉鎖状態のパリ市中には絶対に戸惑っている日本の観光客がいると思い、それにずっと集中していたため、結果的に友だちよりテロの影響を受けなかったかと思います。親戚や友だちがテロに合っていなくても、テロが起きたときは、自分の無力さが憎くなり落ち込む人がけっこう多いと言われますが、自分はまさにやるべきことを見つけたおかげで、落ち込まずにいられました。

 ちなみにゲームに関しては、別にFPSをやろうと思っていたわけではなかったし、ちょうど盛り上がり中の『ファイナルファンタジーXI』で遊ぼうかなと思っていたので、そのままプレイしました。あのファンタジーな設定が気分的にちょうどよかったし、MMORPGだからこそ他人とのコミュニケーションが取れますし……。個人的にそれ以上にそのときの気分と相性がいいゲームはなかっただろうと。

 愛と楽しさこそ人生! 明日は何かあるか予想できない世界だからこそ、存分に遊ぶがいい!


【編集部注】
 じつはグレグ氏のコラム連載を始める準備をしており、自己紹介の回から始まる予定でしたが、件のテロを受け、数回目に当たる内容を単独記事に変更しています。今後月一回程度の不定期更新になりますが、“パリより愛をこめて”と題し、グレグ氏のフランスと日本をつなぐエンターテインメントエピソードをお届けいたします。

パリ在住ライターから、テロとゲームについて少し_02
パリ在住ライターから、テロとゲームについて少し_03

【筆者紹介】
グレグ(Greg)

日本とフランスの架け橋を担うフランス人。16歳からゲームライターをしながら、通訳、日本のプロレスの実況、漫画編集など、フランスのエンタメ業界に日本を紹介するベテラン。1999年からファミ通グループの多数の雑誌に寄稿し、欧米のゲーム情報から、日本が知らない海外の日本好きぶりまでを紹介している。自称「ハンサムなオタク」。