バグが現実を侵食していくホラーアドベンチャーゲーム

 『バグのセカイ』は、無料ゲーム紹介サイト“ふりーむ!”でダウンロード配信中の、ホラーアドベンチャーゲーム。ゲーム制作者が避忌すべき現象“バグ(コンピュータの動作不具合およびその原因の俗称)“を題材にした、異色の作品だ。

『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_02
▲グラフィックもさることながら、文字化けが著しい会話テキストが、バグに覆われた世界の無常さを物語っている。

 画面表示がバグった状態でのゲームプレイは、なるべくなら避けたいもの。プレイヤーにとっては、バグのせいで制作者が意図したであろうビジュアル(世界)が再現されていないだけでも、相当のストレスですが、加えて、ゲームがまともに進行できなくなると、それを“ゲームプレイ”と呼んでいいのかさえ、あやしくなります。本作は、画面表示がバグったその状態が、ビジュアル(世界)として意図されている、エッジの効いたコンセプトのゲームです。

 いざゲームを始めると、プレイヤーは何らかの理由で自室に引きこもっている少女の立場で、現実世界にも干渉する“呪いのゲームソフト“をプレイすることになります。もとは正統派ファンタジーRPGと思われる、荒廃したゲームフィールドの虚無感。ゲーム進行がフリーズしたり、行き止まり)状態になった時に、ゲーム機本体の“リセットボタン”を押す瞬間の、やるせなさ。いつの間にか条件を満たしていて、ストーリー(?)が進むこと自体への不信感……など、ありとあらゆる要素がネガティブに捉えられるゲーム世界の徹底ぶりは、好悪は別にして、じつに見事です。

 人によっては嫌悪感をもよおしそうな、グロテスクなシチュエーションがいくつかあり(※絵的な描写はなし)、驚かせ系のギミックも、プレイヤーの心の隙を突く頻度・タイミングで発生。のんきな成りゆきまかせでは遅かれ早かれ限界がくる、シビアな難易度設定も含めて、“いかにもフリーゲーム・テイストのホラーもの”といった印象の、本作。しかし、一見、取りつく島のなさそうなゲーム世界の水面下に、切実ともいえる感情の流れが垣間見えることから、本作の独特のバグ表現は、単に狂気のムードではなく、“伝えたいことをうまく伝えられないもどかしさ”の具象化であることが、ほのぼのと伝わってくるのです。「うまく伝えられない。けれど、伝えたい」──そんな世界観に遭遇した時、自分はどんな行動をとれるのか、本作でお手軽に試してみてはいかがでしょうか?

『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_01
『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_03
▲真っ暗な部屋でひとり、ゲームをプレイする少女。モニターに映し出された世界に、彼女は何を見るのか。
▲画面表示がバグったその状態が、ビジュアル(世界)として意図されている。

▼ふたつのゲームデータを注意深く管理すべし

  少女がプレイする、呪いのゲームの進行は、通常のゲームデータとは別に、ゲーム内のセーブポイントに記録する必要がある。うっかりセーブを忘れてリセットすると、恐怖の堂々巡りに……。

『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_04
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(1)プレイヤーのデータ
セーブは、少女の自室にある赤い本で行える。
(2)主人公のデータ
やや大きめの赤い物体を見つけたら、話しかけよう。

その悪@夢は、リセットしても終わらない……瓢瓢

 本作最大の脅威となるのが、少女がプレイする呪いのゲーム内に登場する、謎の女性NPC。突如出現しては、狂気に満ちた足どりで、プレイヤーキャラを追いかけ回す。一定時間逃げ切ると姿を消すが、捕まると、少女がゲームをプレイしている現実世界にやってきて、彼女の存在そのものを消してしまうのだ。少女への怨みの念をむき出しにするNPCの正体は……?

『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_06
『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_08
▲呪いのゲーム内のみならず。少女の住む“現実世界”でも猛威を振るう女性NPC。正直、かなりビビります。
『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_07
▲ゲームを進めることで、こもっていた自室から出て、少しずつ家の外に広がる世界を意識し出す少女。彼女の“自己実現”の行方は、いかに。

■攻略のコツ・ヒント

 フィールド上のものに、手当たり次第に話かけることが、基本中の基本。人物や動く物体はもちろん、ごくふつうの地形がイベントフラグになっている場合もあるからだ。イベント進行による、フィールドグラフィックの変化にも留意しよう。最終地点の謎解きは、自室クローゼットの中の本の文面に、大きなヒントが隠されている……とのこと。


■開発者・れんたか氏インタビュー
「バグった画面を見たときの不安感が契機に」

──本作を制作することになったきっかけは?
れんたか もともとは、友だちと『RPGツクール』でゲームを作ったのですが、完成したゲームは、非常に出来の悪いものでした。「自分はこんなクソゲーしか作れないのか?」と思い、ひとりでゲームを作り始めたのが、きっかけです。ストーリーは思いついたまま、一度も推敲せずに作り進めたら、なんとなく形がまとまりました。

── “バグ”と“ホラー”の要素を掛けあわせるにあたって、もっとも気を使った点は?
れんたか 子どものころ、ファミコンなどのいきなりバグった画面を見て、不安な気持ちになった思い出に、ホラー要素を加えることで、プレイヤーの過去のトラウマをえぐれるんじゃないかと考えました。既存の作品で、もっとも影響を受けているのは、『MOTHER2 ギーグの逆襲』(1994年/任天堂)のムーンサイド(※フィールド)です。あの独特の、狂った世界観を味わったときの気持ちを、そのままゲームに落とし込もうとしました。

──開発当時の雰囲気を教えてください。
れんたか 製作期間は約3週間です。とにかく作ることが楽しかったです。内容が内容だけに、作るのが大変そうに思われがちですが、自分が抱えている何かを吐き出せたような気がして、作り終わったあとは、ちょっとすっきりしました(笑)。


▼れんたか氏の最新作RxHpsychosisもチェック!

 最新作は、ホラー系のイベントや演出に彩られた、ローグライクゲーム。『バグのセカイ』同様、非日常世界が現実を脅かしていくストーリーが展開する。

『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_09
『バグのセカイ』君よ、死にたくなければバグの大海原をかき分けろ【とっておきインディーVol.60】_10
▲難度は相変わらず高め。絶望的な状況そのものを楽しむつもりで。

バグのセカイ
メーカー れんたか
対応機種 PCWindows
発売日 配信中
価格 無料(フリーゲーム)
ジャンル ホラーアンドベンチャー
備考 無料ゲーム紹介サイト“ふりーむ!”にて配布中。『RPGツクールVX Ace RTP(ランタイムパッケージ)』のインストール&実行環境が必要(『RPGツクールVX Ace RTP』は、“ツクールweb”にて無料ダウンロード可能 ※制作者推奨プレイ年齢は15歳以上