日米を代表するクリエイターが格ゲーの未来を語る
ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカは、現地時間2015年12月5日、6日の2日間、アメリカ・サンフランシスコでプレイステーションの祭典“PlayStation Experience 2015”を開催する。その初日となる5日、“Fighting Games:The Next Generation”と題したパネルディスカッションが開催された。
このイベントには、『ストリートファイター』の小野義徳氏(カプコン)、『鉄拳』の原田勝弘氏(バンダイナムコエンターテインメント)、元カプコンUSAでEVO共同創設者でもあるSeth Killian(セス・キリアン)氏(Radiant Entertainment)の3名が参加し、格闘ゲームの将来をテーマにトークが進められた。
まずは小野氏に、無料アップデートやシーズンパスの販売といった『ストリートファイターV』の販売方法について、これが次世代の格闘ゲームのモデルなのか? どのようにこの方法たどり着いたのか? という質問が寄せられた。これに対して小野氏は、試行錯誤している段階で、このやり方がいまの格闘ゲームコミニティーにマッチしないようであれば修正していかなければならないと語った。
また、“ゲームの難しさ”についても議論が交わされた。複雑な操作を必要とせず、ボタンひとつで必殺技をくり出せる格闘ゲーム『Rising Thunder』の開発に携わるセス氏は、まずはものすごい格闘ゲームを作りたいと思っていると前置きしながら、それは“格闘ゲームのコア要素にすぐ手が伸ばせるゲームだという”。つまり、コマンド入力に高度なテクニックが必要とされるのではなく、“対戦相手との読み合い”や“判断力”などが要求されるものがよいと考えているそうだ。そして、「“難しいコマンド入力”という障害を取り除くことで、格闘ゲームの楽しさを知る人が増えるだろう」と語っている。また、セス氏は、「いくらコマンド入力を簡単にしたとしても、対戦で勝つための学習カーブが急であることに変わりはない」と考えているようだ。
こういったコマンド入力の難しさを取り払って敷居を下げることについて原田氏は、格闘ゲームがどんどん難しくなっているというのは誤解であり、格闘ゲームが誕生したばかりのころより現在の格闘ゲームのほうがコマンド入力の受付はイージーになっているという。また、簡単にすればいまの格闘ゲームファンが納得するかというとそういうわけでもなく、“初心者に興味を持ってもらう”ことと、“コマンド入力の難度”はわけて考えるべきだという持論を展開した。
そして話題はオンラインプレイに。なぜ『Rising Thunder』はオンラインプレイにフォーカスしているのか?という問いがセス氏に投げかけられた。するとセス氏は、「格闘ゲームは同レベルの人との対戦や、友人らといっしょに遊んで上達することが楽しいものであるが、オフラインではこういった機会が減っている。しかし、オンラインプレイであれば同じレベルの人と簡単に対戦でき、お互いに切磋琢磨することができるからだ」と、オンラインプレイにフォーカスしている理由を語った。これには小野氏も同じ考えを持っているようで、『ストリートファイターV』では通信品質を高めることは当然として、同レベルの人や対戦したい相手をオンライン上で探しやすくするサービスを提供するなど、「ゲームが難しいではなく、ゲームをいかに遊びやすい環境を作るか」という部分に力を入れているという。
この流れで司会者から原田氏に「マルチのみ、オンラインのみの『鉄拳』を作ろうと考えたことはあるか?」という質問が。これに原田氏は無料のオンライン特化ゲーム『鉄拳レボリューション』を例に挙げて答えた。『鉄拳レボリューション』は500万近くダウンロードされたタイトルだったが、それでもヨーロッパ、アジア圏から『鉄拳レボリューション』のオフラインパッケージ版の発売を望む声が届いたそうだ。意外なほどひとりで遊びたいユーザーがいたことから、原田氏の中ではオンライン専用ゲームの優先順位が下がっている状態だという。
つぎに上がったのは格闘ゲームのストーリーの話題へ。「格闘ゲームにおいてストーリー経験はどのような位置を占めているのか?」という質問が上がると、「『ストリートファイター』スタッフに突っ込んではいけないところですね。『ストリートファイターV』はストーリーもがんばっています。というのが精いっぱいの回答です」と小野氏は苦笑い。『ストリートファイターV』は6~7年続けるつもりなので、そのころには「『ストリートファイター』もストーリーモードというものがわかってきたな」と言われるようにしたいとのこと。困った様子の小野氏に、原田氏が「『ストリートファイター』はハリウッドのムービーはもう作らないんですか?」と問いかけると会場からは歓声が上がった。その歓声を聞いて調子に乗ってきた小野氏は、まさかのキャプテン・サワダ(実写映画や実写版格闘ゲームに登場したキャラクター』)の話題を振って話を脱線させてしまう一幕も。
話は戻り、ストーリー経験について原田氏は、約4500万本の家庭用ソフトが売れている『鉄拳』は、そのうち2200万本以上がヨーロッパで売れており、『鉄拳』ファンは必ずしも全員がeスポーツ選手のような人ばかりではないという。そのため、競技性の部分とエンターテインメントとしてひとりで楽しめる部分をバランスよく内包する必要があるそうだ。
そして、「将来の格闘ゲームはどうなると思うか?」という核心に迫る問いについてはセス氏が、「世界中の人とプレイできるオンラインが優先になるだろう」と答えた。格闘ゲームはタフなジャンルなので、どんな人でも対戦相手にボコボコにされる経験は避けて通れない。将来的にこういった障害を取り除く必要があり、それは多くの人にプレイしてもらうことで道は開けると思う。そのためにはクレイジーなコマンド入力を必要しないゲームだと語った。
最後は「将来の格闘ゲームのキーとなるフィーチャーは何か?」という質問。これに原田氏は、「ひとつは格闘ゲームに共通している対人戦のおもしろさという部分。これはここにいる3人でいっしょにコミュニティを盛り上げていきたい」とした。そしてもうひとつのキーはAIだという。「いまの格闘ゲームのAIはまだまだだが、ものすごくAIが進化したら、プレイヤーといっしょに成長してライバルになるようなAIが生まれる可能性がある。そうなったらひとりで遊んでも対戦アクション自体がおもしろくなるかもしれない」。と将来像を語った。一方の小野氏は「キーが見えている人は、ぜひカプコンに入ってもらっていっしょに格闘ゲームを作りましょう」と次世代のクリエイターの登場を願っていた。そして、最後に来場者全員と“波動拳”のポーズでイベントを締めくくった。