カタログIPに新風を吹き込む個人クリエイターのためのゲームジャム
バンダイナムコエンターテインメントのカタログIPオープン化プロジェクト主催のゲームジャムが、2015年11月6日から同8日までの3日間、東京都品川区のバンダイナムコ未来研究所(バンダイナムコエンターテインメント本社)にて行われた。
“カタログIP×ゲーム“をテーマに行われた、今回のゲームジャム。約80名の参加者には、バンダイナムコエンターテインメントが保有するオリジナルIP(カタログIP)17タイトルの2DグラフィックやBGM素材、新規作成を含む3Dモデル素材が、イベント限定のアセットとして用意されるなど、カタログIPに関連したゲームを開発しやすい環境が提供された。
■“カタログIPオープン化プロジェクト”とは
バンダイ・ナムコ統合10周年記念企画として、株式会社バンダイナムコエンターテインメントが実施している、ネットワークエンターテインメントのさらなる事業領域の拡大を目的とした取り組み。クリエイター登録することで、カタログIP(同社保有のオリジナルIP)17タイトルを使った二次創作が、デジタルコンテンツの領域において可能となる。参加には、クリエイター登録が必要で、作品の公開は日本国内のみとなる。
【本プロジェクトの対象17タイトル】
ギャラガ/ギャラクシアン/源平討魔伝/スカイキッド/スターラスター/ゼビウス/ディグダグ/ドラゴンバスター/ドルアーガの塔/パックマン/バトルシティー/バベルの塔/マッピー/妖怪道中記/ワギャンランド/ワルキューレの冒険 時の鍵伝説/ワンダーモモ
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バンダイナムコエンターテインメントの大森大将氏によると、今回のゲームジャムは、カタログIPオープン化プロジェクトを盛り上げるために欠かせない存在としての“個人クリエイター“向けに、企画・開催されたとのこと。同プロジェクト発表時の反響が大きかった個人クリエイターたちに、カタログIPを使用したゲーム開発の可能性を実感してもらいたい……という意図のもと、公認クリエイターの受け付けを正式に開始する以前から、準備を進めていたという。ゲーム開発にすぐ利用できるようにと、ゲームジャム専用に各種素材アセットが整理・提供されたということからも、個人クリエイターに寄せる期待の大きさがうかがえた。
1日目──開会式とチーム発表
開会式では、ゲームジャムの大まかな進行スケジュールと、提供されるアセットについての説明の後、1班につき4~5人編成の、全14の班が発表された。メイン会場となる、バンダイナムコ未来研究所内の食堂に移動した参加者たちは、メンバーどうしの顔合わせを行いつつ、翌日から本格的に始まるゲーム開発に向けての下準備を進めていた(※今回のゲームジャムは、泊まり込みではなく、深夜帯に一時帰宅して行うスタイルを採用)。
2日目──開発と中間発表
午前8時の開場から、企画・開発を進める参加者たち。同日12時には、昼食を摂りながらの中間発表、同日午後7時には、夕食をとりながらの進捗報告が行われた。
メンバーがあらかじめ用意したライブラリを活用して、早々にプレイ可能なバージョンを披露する班、作り込まれた資料とともに、軽妙なトークでプレゼンする班、メンバーのひとりが体調を崩して欠席し、他よりも少ない人数で奮闘する班……など、班ごとにさまざまなスタイル・ペースで開発が進められた。
3日目──発表会と授賞式
午後7時からの作品発表会ならびに表彰式に向け、参加者たちは、午前中からひたすら開発に没頭。運営面を担当したバンダイナムコスタジオの、湊和久氏によれば、今回のゲームジャムは、機材やネットワーク環境などの目立ったトラブルもなく、順調に進行できたとのこと。今年1月に、同一会場で行われたグローバルゲームジャム(世界各地の会場で一斉に行われる、最大規模のゲームジャム)の経験と反省が活かされたことに、満足した様子だった。
各賞の受賞作は、以下の通り。バンダイナムコスタジオ賞の審査員も務めた湊氏は、「最初は技術力重視で審査するつもりだったのですが、でどの作品もクオリティーが高く、甲乙つけがたかったです」と、作品のレベルの高さを称賛した。
★Unity賞『ニャムコ大戦争』(仮称)(3班)
カタログIPのキャラクターを生産して敵陣地を攻め落とす、どこかで体験したような気がする、リアルタイムストラテジー。素材として用意されていなかったキャラクター(ワギャンなど)を描き起こすなどの、ゲームとして作り込みの丁寧さに加え、キャラクターを生産するたびに、オリジナルゲームのBGMの一部がジングル風にかかるサウンド面のにぎやかさが、高評価を得た。副賞は、Unityアセットストアのバウチャーカード50USドル分。
★バンダイナムコエンターテインメント賞『ステルスパックマン』(仮称)(10 班)
パックマンを操作して、モンスターに見つからないようにエサを食べていく、3Dステルスアクション。モンスターへの変装や、段ボール箱に身を隠すなどのフィーチャーも盛り込まれていた。メンバー全員がプログラマーで、うちふたりがBlender(※3DCGアニメーション作成環境アプリケーション)を使ってみたいと提案したことから、ゲームジャム用に提供されたグラフィック素材を一切使わない、異色の作品となった。副賞は、バンダイナムコエンターテインメント公式通販サイト“ララビットマーケット”で取り扱っている“PAC-MAN×OUTDOOR PRODUCTS”シリーズの、スマートフォンケース。
★バンダイナムコスタジオ賞『パックローグ』(仮称)(1班)
パックマンを、一定のテンポに合わせて方向キーを入力して移動させ、空腹になる前にゴールまで導く、リアルタイム・ローグライクゲーム。フルーツターゲットが出現したり、パワーエサを食べると、一定時間、モンスターに反撃できたりと、オリジナル版の要素がしっかり盛り込まれていた。「アーケードやコンソールでリリースする際にかけられる“最後のひと手間“があったことが、受賞の決め手になりました」(バンダイナムコスタジオ・湊氏)。副賞には、“開発者の間で定評があるけど、ちょっと高いので買うのに躊躇する”という技術書が、後日、送られた。
★ネオゲーム喫茶876賞『パックマンスカイ』(仮称)(8班)
パックマンが自機の、全3ステージの横スクロールシューティングゲーム。倒した敵キャラの一部は、オプションとして自機に追随するようにな る。“カタログIP全17タイトルのグラフィック素材をゲーム内に盛り込む”というコンセプトと、各ステージ構成の巧みさが評価された。副賞 は、ニコニコ生放送番組“ネオゲーム喫茶876”内で使用されている、オリジナルデザインのタンブラー。
新たなカタログIPタイトルが生み出される場としての期待
「リソースとして作り込まれているので、キャラクターを表示するだけでうれしくなる」「各キャラクターに、汎用素材にはない“文脈”があるので、使いやすかった」──授賞式後、カタログIP素材を使ってのゲーム開発の感想を尋ねてみたところ、参加者たちの多くは、カタログIPキャラクター自体の魅力を訴えた。
今回のゲームジャムに参加したのは、下は18歳から、上は50代と幅広く、ボリュームゾーンは30~40代とのこと。ゲームセンターや家庭用ゲーム機で、カタログIPタイトルを“最新ゲーム”としてプレイした世代が中心となっているのは当然として、いざゲーム開発の素材として向かい合ったときに、「好き」「懐かしい」「古くさい」以外の感想が生まれ、それぞれの視点で発見した新たな魅力を、作りたいゲームに落とし込んでいるとの印象を受けた。
カタログIPタイトル素材を使った今後のゲームジャム開催について、正式なコメントを伺うことはできなかったものの、湊氏は、「あくまでも運営スタッフのひとりとしての意見ですが……」と前置きした上で、「こうしたイベントを続けていくことで、カタログIPの新規タイトルが生まれる、ひとつの道筋ができると思います」と語った。
現時点で200件を超えるデジタルコンテンツ企画の応募があり、教育機関からも、授業や研究で使用したいという問い合わせが数多く寄せられているという、バンダイナムコエンターテインメントのカタログIP。今回のゲームジャムは、クリエイターの創意工夫によって、往年の人気ゲームキャラクターたちに新たな命が吹き込まれる可能性を示すものとなった。