希少な国産ハイエンドタイトル――開発の中核スタッフを直撃!

 アニメ『NARUTO-ナルト-』の忍術バトルを忠実に再現した世界的人気作『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム』(以下、『ナルティメットストーム』)シリーズ。開発を手掛けるサイバーコネクトツー(以下、CC2)は、卓越したセンスと技術で、毎回ゲームファンを驚かせてきた。そして待望の最新作となる『4』は、対応ハードを切り替え、新世代機専用タイトルとして開発されている。

 すでにゲームイベントでの試遊版や、PVなどを通じて、尋常ではないクオリティーの片鱗を見せている本作だが、完成版はいったいどれほどのものになるのか……? 開発スタッフへのインタビューから、その真相に迫る!(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

※本記事は、週刊ファミ通2015年12月10・17日合併号(2015年11月26日発売)に掲載された記事を、加筆・編集したものです。

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PS4「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4」第4弾PV

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【写真左から】
バンダイナムコエンターテインメント プロデューサー
中河美穂氏(文中は中河)
サイバーコネクトツー 代表取締役社長
松山洋氏(文中は松山)
サイバーコネクトツー ディレクター
西川裕貴氏(文中は西川)

「アニメがすごい」「演出がすごい」ではなく「1本のゲームとしてすごい」ものに

――実機で見せていただきましたが、ここまでスゴイものになっているとは、本当に驚きました。改めてお聞きしたいのですが、企画の当初から、ここまでイメージされていたのでしょうか?

『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』国産最高峰PS4タイトルの秘密に迫るインタビュー!_04

松山 じつは、ここまでおよそ2年半をかけて開発してきましたが、最初の1年は、PS3とPS4のマルチタイトルとして開発していました。でもPS4のローンチ以降、PS4に対する期待が、世界中ですごく大きくなっていくのを感じたんです。『ナルティメットストーム』シリーズは、世界で結果を出してきたプロジェクトでもありますので、やはり世界に向かなければいけない。そこで、バンダイナムコエンターテインメントさんにも、本当に勇気あるご決断をいただいて、「完全に新世代機にシフトしましょう」と決めて。それからここまで、1年半かけて作ってきました。

――バンダイナムコエンターテインメントさんにとっても難しい決断だったでしょうね。
松山 じつはバンダイナムコエンターテインメントさんも、最初にご相談した時点から、「確かに『ナルティメットストーム』は、世界で売らなければいけないタイトルだよね」というリアクションだったんですよ。ただ同時に、「どこまですごくなるのか見せてほしい」ともリクエストされたので、数ヵ月ほど時間をもらって、最初の柱間vsマダラ戦を作ったんです。PS3で作っていたものを全部作り直してね。それを見てもらったら、「ここまですごくなるのなら、もうPS4でいきましょう」と、即座にご判断いただけました。

――それほど説得力のあるものだったんですね。
中河 はい、クオリティー的に段違いなものになるということを、はっきり見せていただけました。そして、このまま続けてもPS3が枷になり、やりたいこともできないし、世界で戦っていけるタイトルにならないということで弊社も判断をし、「では、いっしょにPS4タイトルとして、世界で戦っていきましょう」と、すぐに決断しました。「CC2さんなら絶対にカッコいいもの、いまよりすごいものを作ってくれるだろう」という、信頼関係もありましたからね。

PS4『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』第1弾プロモーション映像

――開発現場としては、PS3からPS4への大きな方向転換を、どう受け止めたのでしょう?
松山 ただの悲鳴だよね(笑)。「松山のヤツ、また勝手に決めてきた~!」って。
西川 (苦笑)。もともとPS3やXbox 360で作っていたタイトルですし、スケジュール的にもギリギリ間に合うかどうか、というところでしたからね。新世代機に特化するという話になったときに、いったいどれだけ時間がかかるのかもわからず、手探りの状態から始まりました。

――そもそも『4』の、根本のコンセプトとは、どんなところにあったのでしょうか?
松山 当初は、PS3で生まれた『ナルティメットストーム』シリーズの集大成として作ろうという思いでした。でも、途中で新世代機にシフトした瞬間から、『ナルティメットストーム』シリーズの集大成ではなく、我々がPS2時代から作り続けてきた『ナルティメット』シリーズの集大成として考えるようになりました。新世代機のゲームソフトとして、そして言わば『NARUTO-ナルト-』ゲームのひとつの区切り、到達点として、特別な意味での集大成にしようと。スイッチを完全に切り替えて、舵取りをやり直しました。

――実際に制作を進めてみて、もっとも困難だったのはどんなところでしたか?
西川 やはりグラフィックですね。『ナルティメット』シリーズは、ボスバトルや奥義などの映像表現に、とてもこだわって作っています。まず、その映像を作る時間と物量が、単純に増えました。
松山 あとは、遊びの幅ですね。PS4になって、他社さんのタイトルを見ても感じることなのですが、いままではプレイヤーに操作を委ねていたところを、ゲーム側で先回りしてやってあげるという部分が、多分に増えているんですよ。そういった遊びに対する配慮が、「適当に遊んでいてもなぜか気持ちいい」につながっているんですね。それをどこまでやれば「スゲー!」と思ってもらえるのか、その答えが我々にもなかなか見えてこなくて。掘っても掘っても、「まだいけるのかPS4!」っていう……あれは苦しかったよなぁ(苦笑)。
西川 最初の産みの苦しみは、本当に、初めてPS3で『ナルティメットストーム』を開発したときと同じくらいでしたね。

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――開発現場的に「これはいけるな」と確信できたのは、どのタイミングでしたか?
松山 正直に言うと、今年の春になってようやく、ですね。
西川 そうですね。2014年12月のジャンプフェスタ用として最初の体験版を作ったあと、その続きを作るという時期に差し掛かったときには、正直に言って、はたして本当に同じクオリティーのものが作れるのか、心配な気持ちもあったんです。春に、最初のクオリティーと同等以上のものを作り上げることができて、ようやく「いけるな!」となりました。

――最初の映像を見たファンが期待を膨らませている裏で、そんな苦悩があったとは!
西川 あのジャンプフェスタ体験版は、たまたま生まれた奇跡のゲームだったんですよ(笑)。2014年末の段階では、実際にそれを作るワークフローが確立できず、かなり不安定な状態でした。
松山 量産体制どころか、全部手作りで、1個1個コードを打って作るような状態で(笑)。ゲームの設計も、たとえば序盤にシューティング的なパートがあったとしたら、中盤にその応用があって、後半にそれをさらに応用して……とならないとダメじゃないですか。それをバラバラの担当が、バラバラに作ろうとしていましたから。ロックオンのシステムからそれぞれ作ろうとしていたくらいで、「いやいやいや、待ちなさいキミたち!」と(笑)。

――その調子で作っていたら、いつになっても完成しませんよね。
松山 仕組みと体制が整ってないと、そういうことが起こりうるんですよ。制作フローが確立されたのは、夏に差し掛かってからですね。当初は夏で完成予定だったはずが、ようやくワークフローができ上がったのが、まさに夏という状態でした。

――バンダイナムコエンターテインメントさんとしては、そうした進捗状況を見て、どのように感じておられたのですか?
中河 ジャンプフェスタ体験版での手応えはすごく感じていましたし、ユーザーさんからの反応もよかったのですが、その後は、なかなかそこまでのクオリティーが出せない状態が続きましたので、毎週の定例会議でも、「何だか違うよね」と。
松山 バンダイナムコエンターテインメントさんとは、毎週定例ミーティングを行っているのですが、その定例の場で、夏に大きな話し合いをしたんですよ。「いまのままでも、商品を仕上げて秋に発売することはできます。それはおそらく100点の商品にはなるでしょう。ただ、200点の商品にはなりません」と。結果的に言われたのが、「『NARUTO-ナルト-』は、100点じゃ困るんです」ということでした。世界で結果を出さなければいけないので、「特別な作品として見てもらうためには、ただの100点のゲームソフトじゃダメです」とハッキリ言ってくれたんです。バンダイナムコエンターテインメントさんって、日本一タイトルが多いゲーム会社だから、発売スケジュールの編成も綿密に決められているんですよ。それを変更するって、相当なことですよね。
中河 しかも、けっこう急でしたからね。先ほどお話しした通り、4月くらいのタイミングで、「よし、これでいけるね!」と安心していたら、「ちょっとお話が……」って(苦笑)。これを量産するとなると、ちょっときびしいかもしれない、と。やはり最終的には、それを実現することが、今回の『ナルティメットストーム』に求められる部分だという結論に達し、「ともに来年2月までがんばりましょう」とお答えしました。

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PS4はサイバーコネクトツーと相性がいい!

――ここからは、具体的にゲームの中身について教えてください。まず今回のいちばんのウリというと、どのあたりになるのですか?
松山 進化したフリーバトル、ストーリーモード、ボスバトルの体験、ドラマ表現。そして、いままで1対1の対戦アクションだったものが、リーダーチェンジも含めて、事実上の3対3が実現したことなど……。でもこれはもう、我々としては当たり前のことかな、と思っています。

――ファンが期待するような進化は、あって当然だというわけですね。では、PS4ならではの部分で、まだ知られていない要素などありますか?
松山 じつは開発中に、「PS4とCC2は相性がいいな」と感じたんです。今回PS4になって、ポスト処理という、いわゆるフィルム的な演出ができるようになりました。光源の位置を、3Dではなく2D的観点から、上からフィルターを入れることによって、ちょっと映画風な絵作りにしたり。じつは今回、いわゆる“銀残し”のような表現を、随所に入れています。これが、ゲーム中でリアルタイムに描画した上からやれるようになったのは、アニメの世界での仕上げかたと同じなんですよ。それを可能にしてくれるPS4というのは、我々にとってはすごく相性がいいハードだなと思いますね。

――プレイヤーからすると、それによっていままで以上に感情移入できたり、没入感を得られたり、するわけですね。
松山 はい。それと今回、真のシームレスが実現できているんです。いままでは、ムービーパートと、実際のバトルパートでは色味が違ったりするのは、正直当たり前だったじゃないですか。

――ちょっとした違いがありましたね。
松山 それが、ずーっと同じその場所、戦場にいる感覚で、ちゃんとアニメが動いているような感じで動かせるという、この臨場感がようやく……『ナルティメットストーム』シリーズで思い描いていたものが、今回初めて実現できたと思っています。

――なるほど。そのシームレス感ともつながる話ですが、今回は前作までと比較して、ロード時間も飛躍的に短くなっていますよね。
西川 そうですね。直前のドラマがどんなにいいものでも、ローディング画面が長すぎると、バトルに入るまでに冷めてしまいますからね。
松山 今回はローディングだけではなく、演出としてのシームレスを意識しています。いままでは、ブツッとドラマが終わって、ボーナス条件がシャっと提示されて、ふつうにゲーム画面が極彩色でボンって出てくる、という流れでした。でもそれは、ただ作ったものを順番に並べているだけじゃないですか。そうではなく、本作では、回想シーンに突入するタイミングでホワイトを入れて、そのホワイトが出たところでボーナス条件を見せて、ボーナス条件が消えたらそのままワッ、とバトルに入る、というように、感情曲線に合わせた演出を意識しています。

――プレイヤー的には極めて自然に見えるのでしょうが、それを実現するのは並大抵ではないですよね。
松山 それぞれのパート担当は、バラバラに作っていますからね。ムービーパートを担当している人間、ボーナス条件のUIを作る人間、ゲームの中のバトルインの演出を作る人間、バトルを作る人間、バトル明けの演出を作る人間……全員バラバラです。でも、それらをつなげたら、はっきり見えてしまう部分なんですよね。今回は、ハードの機能的に、ローディング面でのシームレスができることはわかっていたので、そこを感情的につなげることも、絶対にできると思ったんです。ですので、そこは口を酸っぱくして徹底しました。

――派手なアクション演出に目を奪われがちですが、ドラマの演出にも、とても力が入っているんですね。
松山 回想にも、今回は2種類のフィルターと演出を作りました。言葉をカッチリ決めていないので、“思い出す系”と“思いを馳せる系”と呼んでいます(笑)。思い出系というのは、過去の回想シーン用で、ややセピアです。と言っても、昔のアニメと違って、いまのアニメのトレンドは、単純にセピア調にして「はい、ここから回想シーンです!」なんて単純なものではないんですよ。たとえばフィルムの、映画のスクリーンに投影しているような滲みを、画面の中にジワって入れつつ、ゆっくり明滅させたり。『4』の演出は、そういう最新のトレンドに合わせたものになっています。

――それはゲーム中では、どのように使われているのですか?
松山 思いを馳せるというのは、いま生きている人のことを思う……たとえばナルトが我愛羅のことを思うシーンがあったとして、我愛羅は生きているけれど、昔の我愛羅ではないですよね。そういう「いま、風の国で我愛羅はどうしてっかな」というのが、思いを馳せる系です。表現としては、ちょっと白いモヤがかかった回想という感じですね。その使い分けはルールを決めて、スタッフ間で共有しました。

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