ユービーアイソフトのディレクターが基調講演

 2015年11月24日、東京都内の在日カナダ大使館にて、“第三回 日本・カナダ ゲームサミット”が開催された。このゲームサミットは、日本とカナダのゲーム関連企業が有益なパートナーシップを構築することを目的に、2013年度から在日カナダ大使館が実施している事業。今回も多くのゲーム関係者が会場に集うなか、基調講演やパネルディスカッションなどの催しが行われた。その模様をリポートしよう。

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▲サミットの会場には多くのゲーム関係者が詰めかけた。
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▲冒頭のあいさつを述べる、カナダ大使のマッケンジー氏。

 サミットは、駐日カナダ大使であるマッケンジー・クラグストン氏の挨拶でスタート。マッケンジー氏はまず、「サミットも今年で3回目となりました。毎年多くの皆さまのご協力のもと、カナダのエキスパートを囲んで内容が充実したセミナーをお届けでき、うれしく思っております」と感謝の意を述べたあと、「日本とカナダの協力事業が多くなる中、互いの国で活躍している企業は増えています。急成長を遂げるカナダとデジタルメディア産業は、この分野での海外投資を重視する企業にとって、たいへん魅力的だと言えるでしょう。世界トップクラスの開発力と、優れたビジネス環境は、世界的にも評価され、本日ご参加いただいた多くの日本企業が、カナダにスタジオを開設しています。またカナダのデジタルメディアにおけるイノベーションの歴史と成果も、海外企業から注目されています。カナダ大使館は、これからもデジタルメディア産業の発展を積極的に応援していきます」と結んだ。

 続いてはユービーアイソフト モントリオールのテクニカル・ディレクターであるデビッド・ラウトバウン氏が登壇し、基調講演が行われた。デビッド氏は、コンピュータグラフィックスの専門家として20年のキャリアを持ち、現在はゲーム開発のパイプラインおよびツールの性能強化を担当している。今回の講演では、ゲーム制作ツールの強化・改善の重要性を中心に語ってくれた。

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▲デビッド氏は、ツール改善のスペシャリスト。興味深い話を聞くことができた。

 デビッド氏はまず、ゼロックスやトヨタなどの大企業を例に出し、どんな企業においても“生産性の改善”が必要と説明。ゲーム開発でも、ツールの見直しで仮に200人の開発者が作業を1日20分短縮できたら、そのぶんでどれだけのことができるかと、ツールの改善の大切さを強調した。
 続いては実際のゲーム画面などを参照しながら、ツールから実際のゲームにフィードバックされる要素がいくつか説明された。たとえばコントローラーなら、『パンチアウト』のパンチのように、右側ボタンが右手、左側ボタンが左手とするのが常識で、逆の配置はありえない。また『スーパーマリオ』なら、ファイヤーフラワーを取ったマリオは、体が変身して能力ゲットがひと目でわかる。こうした数々のポイントを頭に入れて、ツールを使いやすくブラッシュアップすることが重要だというのが、デビッド氏の考えだ。
 さらにデビッド氏は、来場者の中からふたりの協力者を募り、ふたりはステージに。ここでは記憶・思考を試す簡単なテストや、道具を用いた作業などが行われ、ふたりの行動をもとにツールの概念がわかりやすく解説された。紙を切る作業では、多機能なアーミーナイフより、単純なハサミがいい。デビッド氏は、それと同様に“まず目的があり、そこから最善のツールを考える”ことが重要とまとめ、基調講演は終了した。

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▲実際のゲームの仕様を例に出して解説。
▲ふたりの来場者が、ステージでさまざまな作業にチャレンジ。

ゲーム先進国であるカナダの現状

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▲カナダのゲーム産業を説明してくれたアキコ・オノヅカさん。

 ふたつ目の企画は、“カナダゲーム産業の競争力”というセッションだ。ここではカナダ大使館商務部二等書記官のアキコ・オノヅカさんが、カナダのゲーム市場の現状をプレゼン。またケーススタディとなる企業として、DegicaとH+ Technologyの2社が、ステージで紹介された。
 オノヅカさんが語ったのは、ゲーム開発における、カナダの優位性という部分。具体的にスクリーンで紹介されたのは、低い税率、事業コスト、人件費など。グラフで詳細なデータが示され、カナダのゲーム産業の“いま”が解説された。

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▲数々のデータで、カナダがゲーム開発に適している根拠が示された。

 続いて最初に紹介されたのは、デジカ。Steamを日本に紹介したり、またSteamのコンビニでの決算システムなどを手掛けている企業だ。もう1社はH+ Technologyで、こちらは3Dシステム『HOLUS』のデモムービーを公開。同社の最高経営責任者であるヴィンセント・ヤング氏によると、『HOLUS』では「デジタルのキャンプファイアのように、みんなが集まって楽しめる3Dメディアを目指します」とのこと。両社とも、カナダでは期待の有力企業で、今後の動向にも注目が集まる。

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▲ふたつのメーカーが、カナダの有力企業として紹介された。
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▲『HOLUS』のデモムービー。ボックスの中心に、ホログラムで立体的なキャラが浮かび上がる。

VRをテーマとした白熱のディスカッション

 サミットの最後を飾ったのは、“VR(バーチャル・リアリティー)時代のゲーム開発 ―どのような環境と体制で挑むべきか”というテーマでくり広げられた、パネルディスカッションだ。司会進行はゲームジャーナリストの新清士氏で、特別ゲストはSCE ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏。パネリストとしては、Audiokineticのマーティン氏とジャック氏、Enzyme 代表取締役の池田栄一氏、Epic Games Japanのロブ・グレイ氏、Side Effects Software シニアマネージャーの多喜健一氏が参加した。

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▲総勢7名によるディスカッションが展開された。
▲司会進行の新氏(右)と、特別ゲストの吉田氏(左)。

 ディスカッションでは、「従来の技術とVRは何が違うか」、「3D酔いという問題点」、「一過性のブームではなく定着するのか」といったグローバルな視点からの話題はもちろん、各社ごとのVRへの取り組みなども語られるなど、多彩なテーマのもとに討論が盛り上がった。最後は「10年後のVRは?」という締めのクエスチョンとなったが、「ゲームのみならず、各分野に広がり、VRが生活に定着するのでは?」といった回答がほとんどだったのが印象的だった。

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▲パネリストの5人。左から、マーティン氏、ジャック氏、池田氏、ロブ氏、多喜氏。

 サミット自体はこれで終了となったが、フロアを移してカジュアルな懇親会も開かれた。立食パーティー形式の会には、サミットから引き続き多くの関係者が出席。こちらも大いに盛り上がっていたことを報告して、リポートを締めくくろう。

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▲サミットのあとは、おいしい軽食とドリンクがお出迎え。
▲『HOLUS』の実機も展示され、注目を集めていた。