メーカーの垣根を越えたクロストークインタビュー第四回
『PROJECT X ZONE 2:BRAVE NEW WORLD』(以下:『PXZ2』)のディレクター:森住惣一郎氏、プロデューサー:塚中健介氏の両名と、各メーカーのクリエイターを交えたクロストークを実施。メーカーの垣根を越えたクロスオーバータイトルの監修時のエピソードや苦労話、見どころをうかがってきた。第四回は『ベア・ナックル』シリーズなどを含めた“セガ3D復刻プロジェクト”のプロデューサーである奥成洋輔氏を交えてのクロストークをお届けする。
[写真中]モノリスソフト ディレクター 森住惣一郎氏
[写真右]セガ コンシューマ・オンラインカンパニー オンライン運営部 奥成洋輔氏
徹底したこだわりでクラシックタイトルを現代に蘇らせる
――まずは、奥成さんが『PXZ2』で監修された作品を教えてください。
奥成 今回は、『ベア・ナックル』シリーズと『Shinobi』シリーズを監修させたいただきました。前作の『PXZ』のときは、『ダイナマイト刑事』を見ていましたね。
森住 『ダイナマイト刑事』は奥成さんが監修されていたのですか。その節はありがとうございました。
――『ベア・ナックル』シリーズ、『Shinobi』シリーズともにかなり古い作品だと思いますが、奥成さんはどのような経緯からこれらのタイトルの担当になったのでしょうか。
奥成 『ベア・ナックル』シリーズに関しては、かつてセガが開発をいくつかの会社に分社化していた際に、オーバーワークスというところに僕は在籍していたんですが、社長以下数名がシリーズのオリジナルスタッフだったので、よく当時の話を聞いていたタイトルなんです。その後、WiiのバーチャルコンソールやXbox 360の『ベア・ナックルコレクション』、近年では3DSの“セガ3D復刻プロジェクト”として『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』(以下、『ベア・ナックルI』)と『ベア・ナックルII 死者への鎮魂歌』(以下、『ベア・ナックルII』)のプロデュースを担当させてもらったので、僕にとって縁の深いタイトルですね。『Shinobi』も、オーバーワークスの開発作品で、僕は広報を担当していました。それ以外に、『ザ・スーパー忍』や『ザ・スーパー忍II』などシリーズの移植もプロデュースしていたので、こちらも関わりの深い作品ということで、このふたつのシリーズを代表として監修させていただきました。
――今回、『ベア・ナックル』シリーズはどういった経緯で『PXZ2』に参戦することになったのでしょうか。
森住 まずは、旧ナムコの『ワルキューレの冒険』や、カプコンさんの『キャプテンコマンドー』といったレトロタイトルと肩を並べる作品として何が相応しいかを考えました。そこで、『ベア・ナックル』シリーズに白羽の矢が立ったというわけです。格闘系の作品なので、ほかの格闘系キャラクターとの親和性も高いと思いますし、主人公のアクセルの職業が刑事ということで、同じ刑事の春麗とも絡めやすかったりすることと、海外への訴求力の高さから、今回参戦していただきました。また、今年の春に“セガ3D復刻プロジェクト”の『ベア・ナックルII』が出ているのも、ちょうどいいタイミングではありましたね。
奥成 今回の話を伺ったのは、ちょうど“セガ3D復刻プロジェクト”に『ベア・ナックルII』を追加する稟議を会社に上程していたタイミングだったんです。ですので、『PXZ2』に参戦するから、慌てて出したというわけではないですよ(笑)。でも、僕が初めて『ベア・ナックル』シリーズ参戦の話を伺ったのは、前作『PXZ』の候補リストを見せていただいたときでしたね。
森住 これはシナリオを書くまえの話になりますが、まず最初に候補をリストアップして、「このキャラクターは使用可能でしょうか」と、各社に打診をさせていただくんですね。そのため、最初のリスト上では実際の参戦作品よりも多くのタイトルが含まれています。『ベア・ナックル』シリーズは以前から着目していた作品なので、『PXZ』の頃からリストには入れさせてもらっていたのですが、『PXZ2』で満を持して登場していただきました。
奥成 結果的に『PXZ2』で『ベア・ナックル』シリーズ参戦を発表してもらったタイミングと、“セガ3D復刻プロジェクト”版『ベア・ナックルII』のリリースが近いタイミングになったことは、たいへんありがたかったです(笑)。
塚中 今回、こういった奇跡的なタイミングがいろいろと起きているのは、こちらとしてもよかったなと思いますね。
森住 古くからのゲームファンの方であれば、当然『ベア・ナックル』シリーズのことは知っていると思いますが、最近のユーザーだと知らない方もいっぱいいらっしゃるはずですので、3DSで『ベア・ナックルI』と『ベア・ナックルII』が遊べる機会があることは、僕たちとしてもよろこばしいことです。『PXZ2』が出るまえに予習してもらうことができますからね。
――反対に、『PXZ2』で興味を持っていただいてから、“セガ3D復刻プロジェクト”で遊んでもらうというのもありですよね。ちなみに今回は、シリーズのどの作品を出典にしているのでしょうか。
森住 イメージとしては、『ベア・ナックルIII』です。作品としてきちんとしたシナリオが入っていることと、イラスト素材もけっこうあるので、今回はベースにさせてもらいました。ただ、アクセルはイラストでは赤い無地のグローブをしているんですが、ゲーム中のドット絵では白いラインが入っているんですよ。この部分も再現したかったので、監修で許可をいただきました。ですので、『PXZ2』に登場するアクセルのグローブには、白いラインが入っています。『ベア・ナックルIII』を遊ばれていた方のなかには、「あれ、こんなラインあったかな?」と思われる人がいるかもしれませんが、これは原作のドット絵の意匠を盛り込んだものなんです。
――イラストと画面で意匠が異なるということですが、実際はどちらが正しいものなんでしょうか。
奥成 この時代は、設定画からドット絵を起こすときや、ドット絵からメインイラストを起こすときに、アレンジを施すことが当たり前でした。正確な再現というより、格好良さや見栄えを優先していたんですね。だから、どちらが正しいというものではないんです。そういえば、『ベア・ナックル』のビジュアル監修の際、こちらからいくつか指摘をさせていただきましたが、あれはオリジナル版でキャラクターデザインし、実際にドット絵を打っていた者が監修していたからなんです。でも、当人はこうして活躍の場を与えてくれて、すごくよろこんでいましたね。
森住 そうだったんですか。そんな大御所の方に見ていただけたなんて、大変恐縮です。
――続きまして、『Shinobi』シリーズ参戦の経緯を教えていただけますでしょうか。
森住 『Shinobi』シリーズも『ベア・ナックル』シリーズ同様、海外での人気が非常に高い作品です。日本国内でも高難度アクションの秀作として認められていますが、じつは海外ではそれ以上の認知度があるんです。『PXZ2』は、海外の方にも楽しんでいただきたいと思っているので、訴求力という面で選ばせていただいた理由がまずひとつあります。もうひとつは、『PXZ2』では忍者キャラクターを揃えたいと思っていまして、そうなると『Shinobi』シリーズは絶対に外せないんですよ。現代の忍者代表として、『Shinobi』の秀真に登場してもらえたことで、過去忍者の凪津(『ソウルキャリバー』)、未来忍者の飛竜(『ストライダー飛竜』)と、3つの時代、3つのメーカーの忍者がそろいました。
――とくに今回は飛竜とペアを組んで、メーカーの垣根を越えた活躍をしていますよね。奥成さんは、このようなクロスオーバーにたいして、どう思われましたか。
奥成 カプコンさんの『ストライダー飛竜』と組ませていただいたことは、非常におもしろいことだと思いました。というのも、『ストライダー飛竜』は、最初に発売された家庭用バージョンがメガドライブ版で、カプコンさんの作品をセガで移植させてもらっていたんです。ですので、割とセガとも親しいキャラクターなんですね。今回、素晴らしいコンビが実現できてよかったです。
森住 その部分はまったく意図していなかったんですが、言われてみればそのとおりですね。
――時代を超えて、ふたつの作品が同じ場所で顔を揃えたといった感じですね。秀真は、これまでほかの作品に客演したことはあったんですか。
奥成 ストーリーには登場しない『Kunoichi -忍-』を除けば、秀真自身ではないですね。『Shinobi』シリーズとして捉えれば、『ソニック&オールスターレーシング』で、ジョー・ムサシという秀真の先代的なキャラクターが参戦していたこともあります。ただ、ジョー・ムサシが活躍しているシリーズは相当古い作品になるので、『PXZ2』ではストーリー性の高い秀真を選んでもらえたのかなと思っています。そのおかげで、『Kunoichi』の緋花も参戦できたようなものですからね。
森住 じつは、『Shinobi』と『Kunoichi』ってシリーズ的には繋がっているんですけど、秀真と緋花は出会ったことはないんですよ。だから、今回の共演は『PXZ2』のようなお祭り作品ならではになりますね。秀真と緋花との出会いに関しては、お互いのことをどうやって呼び合うのか、そういった細かい部分まで監修していただいたので、しっかり描けているかなと思います。
塚中 今回、秀真は本編での登場が早いので、ぜひその部分も楽しみにしてほしいですね。
森住 それから、『PXZ2』に登場する秀真は、『Shinobi』シリーズの歴史を集約する役目も担ってもらっています。セガさんにもきちんと許可をいただいて、『シャドー・ダンサー シークレット・オブ・シノビ』で忍犬ヤマトをけしかけたり、『ザ・スーパー忍』の、敵の足下から炎の龍が吹き上がるという“火龍の術”を使ったりといった、歴代シリーズのワザも盛り込んでいます。PS2版の『Shinobi』だけを遊ばれていた方は「こんなワザなかったね」と思われるかもしれませんが、じつはそういった仕掛けを施しているからなんです。反対に、古くからシリーズを遊ばれている方のなかには、「このワザは見たことある」という人もいるでしょうね。
奥成 弊社でもPS2版の開発スタッフが監修の際に、「火龍の術? 火焔の術じゃなくて?」って、首をかしげていましたからね。「そこはほっといて大丈夫です」って僕が引き取りました(笑)。
――基本的な出典元はPS2版だけど、シリーズの歴史が戦闘シーンに集約されているということですね。
森住 『Shinobi』シリーズに関しては、そういうコンセプトになっています。
奥成 『PXZ2』の戦闘シーンは2Dということで、メガドライブの頃のグラフィックの雰囲気を感じながら見させてもらっていました。今回、監修をしていていちばん印象に残っているのは、うららのワザで呼び出されるオマケキャラクターたちですね。『ファンタジーゾーン』のオパオパと『アレックスキッドのミラクルワールド』のアレク。井上喜久子さんがアレクの声を喋ってくれたら最高だったんですが(笑)。
塚中 ストーリー上で出てこないキャラクターを喋らせるのはなかなか難しいですからね(笑)。
森住 でも、ひと言入れるだけでもだいぶマニアックな感じになりますよね。
奥成 原作は8ビットゲームなのでしゃべらないんですけどね(笑)。それから『ファンタジーゾーン』のほうでは、オパオパが回転攻撃をしていることに驚きました。
森住 オパオパは前回からいましたので、何か新しい要素を入れたいなとは思っていたんですね。そこで考えてみたのですが、『ファンタジーゾーン』をいま遊ばれる方は、間違いなく“セガ3D復刻プロジェクト”版を選ぶと思うんですよ。こちらのスタッフロールでは、オパオパがずっとローリングしている演出があるんです。これは再現したほうが絶対おもしろいだろうと思ったので、しっかりと拾わせていただきました。
奥成 わざわざモーションを増やしていただいて、ありがとうございます。
森住 回転動作を2Dで起こすとなると、原画担当に「ポリゴンモデルを回すのとは訳が違うんだ」って怒られるんですよ。ただ、オパオパに関してはすぐに「いいよ」って返事をもらえました。デザインがシンプルなので、やりやすかったんでしょうね。ほかに、原作ではボス戦のときに地面付近で上下に機体を動かしていると、空中でオパオパの足が出たままになるという裏技があったんですが、これはさすがにわかりにくいだろうということで、再現しませんでした(笑)。それと『アレックスキッド』の小ネタも、アレクの好物をおにぎりにするか、ハンバーガーにするかでずっと迷っていたんです。日本版はおにぎりで、海外版はハンバーガーが好物なんですよね。
奥成 最初に出た『アレックスキッド』のカートリッジ版は、じつは日本版も海外版もおにぎりだったんですよ。その後、“MASTER SYSTEM II”っていうハードが欧米で発売されたときに、『Alex Kidd in Miracle World』(『アレックスキッドのミラクルワールド』の海外版タイトル)がプリインストールされていたんですが、このバージョンがハンバーガーになっているんです。
――『PXZ2』では、どちらになっているんですか。
森住 おにぎりです。でもそういうことなら、ふたつ用意すればよかったですね。おにぎりを食べ始めて、走り去りながらハンバーガーを取りだすっていう。そっちのほうがマニアックにできましたよね。
塚中 言っておきますが、マニアックな方向に走るのが目的ではないですからね。
一同 (笑)。
奥成 PS3のセガエイジスオンライン版とXbox 360の『セガクラシックコレクション』収録版だと、両方のバージョンが遊べますよ。
――ちなみに、監修時に実際に動いている画面を見られた際の印象を聞かせてもらえますか。
奥成 僕は個人的に『PXZ』をクリアーしていたので、「新キャラが入ってうれしいな」って、いちユーザー目線で楽しく見させてもらいました。じつは、はじめて実機を触ったのは東京ゲームショウ2015のプレイアブル版でしたからね。じっくり見ながら遊んでいたら、「はい、10分立ちました」って言われて、「えぇ、もう!」って思いました(笑)。