『プチコン3号 スマイルベーシック』対『KORG DSN-12』
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。28日のセッション“DETUNE VS SMILEBOOM サウンド対決2”では、ニンテンドー3DS上で動くソフトウェアシンセサイザーを使った、一風変わった実機実演が行われた。
■小林貴樹氏
ゲーム開発会社・スマイルブームの代表取締役社長。2011年に、独自開発のBASIC言語によるプログラミングが可能なニンテンドーDSi用ソフト『プチコン』をリリース。以降、『プチコンmkII』(2012年/ニンテンドーDSi)、『プチコン3号 SMILE BASIC』(2014年/ニンテンドー3DS)をリリースした。小林氏自身、プログラミング言語としてのBASICが大好きで、「本体電源を入れるとBASICが起動……という昔のPCのありかたを違う形で復活できないものか」という発想から、『プチコン』シリーズが生まれたとのこと。
■藍 圭介氏
VOCALOIDの販売メーカーなどを経て、スマイルブームに入社したプログラマー。個人的に楽器アプリケ―ションを作るのが好きで、『プチコン3号』でも、FMシンセサイザーやリズムマシンを自作したという。
■佐野信義氏
サウンドクリエイターにして、音楽制作会社DETUNEの代表取締役社長。ニンテンドー3DSや、スマートフォン・タブレット用に、数々の音楽ソフトをリリース。代表作に『I am Synth』(2012年/iOSほか)、『KORG DSN-12』(2014年/ニンテンドー3DS)など。本セッションでは、持ち味の軽妙な話術を生かし、司会進行を朗らか(?)に務めた。
■鈴木秀典氏
光田康典氏が代表を務めるサウンド制作会社・プロキオン・スタジオ所属のサウンドプログラマー。『KORG DSN-12』など、DETUNEがこれまでにリリースしたニンテンドー3DS用音楽ソフトのプログラムを担当している。最初に触れたプログラミング言語は、ファミリーベーシック(※ファミコン用の周辺機器)とのこと。
ニンテンドー3DSというラックに収められる、2系統の”楽器”
KORG社との共同開発による本格的なバーチャルアナログシンセサイザーを手がけるDETUNEと、独自開発のBASIC言語“SMILE BASIC”によるプログラミング環境『プチコン』シリーズを展開する、スマイルブーム。いずれも”パーソナルユースのクリエイティブツール”として、ニンテンドー3DSを活用するためのソフトウェアを開発・リリースしているメーカーで、イベントなどでの交流の機会もあるという。
今回のセッションは、『プチコン』シリーズ最新作で、サウンド機能の充実を謳っている『プチコン3号 スマイルベーシック』(以下、プチコン3号)が、本格的な音作りに特化したDETUNEのニンテンドー3DS用音楽ツール最新作『KORG DSN-12』(以下、DSN-12)に挑む……という、ふわっとした対決形式。まずは、それぞれのサウンド性能や特徴をおさらいし、両ソフトが“ニンテンドー3DSというラックに収められる、2系統の楽器”であることを再確認した。
続いて、スマイルブームの藍氏が、みずから『プチコン3号』で制作した音楽ソフトを実演。サウンドを制御するアプリケーションは、実行するマシンに相応の処理速度が要求されるが、「X68000(※1987年発売のシャープ製PC。アクション系ゲームの開発に適したハード設計が特徴)のマシン語プログラムよりも速い」(小林氏)という『プチコン3号』であれば、実用に耐えうるレベルのアプリが作れることが証明された。
「同期信号がなければ、作ればいいじゃない!」
いよいよ本セッションのメインとなる、『プチコン3号』と『DSN-12』の同期演奏。同期信号を入れる計画は「なくはないけど、保留中」(小林氏)という両ソフトをシンクロさせる方法として、スマイルブームが考案したのは、予想外の”アナログ手法”だった。
まずは、楽器としての精度が高い『DSN-12』が起動するニンテンドー3DS本体ををマスターとし、ステレオ出力の片方のチャンネルを”演奏させるサウンドのモノラル出力“、もう片方を”同期信号用の特定周波数出力“に割り当てて、ミキサーに接続。そして、分配した信号音を、『プチコン3号』が起動する3台のニンテンドー3DS本体に、それぞれ、ヘッドホン端子経由で送る(※ニンテンドー3DSのヘッドホン端子は、マイク入力が可能な4極タイプ)。『プチコン3号』では、サンプリングした音声の波形をリアルタイム解析できるので、あらかじめ設定した3つの周波数をコマンドと見なして、タイミング制御を行う……というわけだ。
ニンテンドー3DSの本体機能と、『プチコン3号』のやや特殊な機能をフル活用したことで、同期演奏の実演は見事に成功。かたちの上では、3つの『プチコン3号』が『DSN-12』の外部プラグインになった……と言えるが、構造的には、同期信号用の周波数(今回は880hz、440hz、220hzの”ラ”の音を使用)を規則的に出せる楽器であれば、マスターが必ずしも『DSN-12』ではなくてもいいことを、佐野氏は苦々しげに指摘。そして、対決結果を「スマイルブームの圧勝です」と宣言し、DETUNE×スマイルブームの”夢のセッション”は、終了した。
“ゆるく音楽を作る環境”の提案
小林氏の補足によれば、『プチコン3号』は、プログラムを最大4つまで同時に保有できるため、今回の同期演奏に近い処理をニンテンドー3DS一台で十分可能とのこと。今回あえてこのような“力技”を披露した意図について、小林氏は、 “自分が作りたいのはこういう音じゃない”、“もっとゆるく音楽を作りたい”と思いながら作業に従事するサウンド関連のクリエイターに、気軽な音楽制作環境を提示したかった……と説明。「ミキサーがあれば、ニンテンドー3DSを5台でも10台でもつないで、“自分のワールド”を構築できます。今回は、携帯ゲーム機1台から、いろいろできることをお見せしました」(小林氏)。
個々のクリエイターの創作意欲を刺激し、かつ、楽器としてクオリティーの高いソフトウェアをリリースし続ける、DETUNEとスマイルブーム。製品開発のコンセプトが変わらない限り、両メーカーの“コラボレーション”は、今後もさまざまなかたちで行われることだろう。