カプコン 巧舟氏×ストーリーテリング イシイジロウ氏 アドベンチャーゲーム制作者対談

ニンテンドー3DS用ソフト『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』発売を記念してファミ通.com編集部が企画した、カプコン巧舟氏とストーリーテリング イシイジロウ氏のスペシャル対談!

 2015年7月9日にカプコンから発売されたニンテンドー3DS用ソフト『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』。『逆転裁判 蘇る逆転』以来、約10年ぶりに巧舟氏が『逆転裁判』シリーズのディレクターを務めていることで、アドベンチャーゲームファンの話題を集めている。ファミ通.comでは、この機にアドベンチャーゲームクリエイター対談企画をカプコンへ打診。巧氏と、『428〜封鎖された渋谷で〜』や『タイムトラベラーズ』などの名作アドベンチャーゲームを手掛けたイシイジロウ氏との対談が実現する運びとなった。じつは、巧氏がゲーム制作者と対談を行うのは、なんと今回が初!

■プロフィール
巧 舟氏(写真左、文中は巧)
たくみしゅう/1971年生まれ。
1994年、カプコンに入社。代表作は『逆転裁判』、『逆転裁判2』、『逆転裁判3』、『逆転裁判 蘇る逆転』(企画・シナリオ・ディレクター)、『逆転裁判4』(シナリオ原案、監修)、『ゴーストトリック』(シナリオ・ディレクター)、『レイトン教授VS逆転裁判』(逆転裁判パートディレクター)など。

■プロフィール
イシイジロウ氏(写真右、文中はイシイ)
1967年生まれ。チュンソフト、レベルファイブでの活動を経て、2015年独立。現在(株)ストーリーテリング代表。代表作は『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(監督)、『428~封鎖された渋谷で~』(総監督)、『TRICK×LOGIC』(企画・プロデューサー)、『タイムトラベラーズ』(ディレクター)など。

●脚本はすべて自分で書く? 書かない?

――巧さんはゲーム制作者との対談は初めてとうかがいましたが……。

 そうなんです。ミステリー作家の方とはお話ししたことがあるんですけど(笑)。

イシイ 巧さんは作家っぽく、表に出てこないイメージがありました(笑)。

 イシイさんとは『レイトン教授VS逆転裁判』(2012年11月29日にレベルファイブから発売されたニンテンドー3DS用アドベンチャーゲーム。レベルファイブとカプコンの共同開発)制作時、レベルファイブにおうかがいしたときにお会いましたよね。

イシイ たまたまお会いしましたね。

――おふたりが初めてお会いしたのはそのときだったのですか?

イシイ その前に、ゲームショウのパーティーのときにお会いしたのが初めてですね。『428~封鎖された渋谷で~』が発売されてからちょっとあとです。パーティー会場でご紹介いただいて。

 そのときが初めてですね。『428~封鎖された渋谷で~』は興味があって、スタッフの名前のところに“イシイジロウ”と書いてあったので、そのときにイシイさんを認識した記憶があります。

――ご挨拶したときはお互いに作品も名前も知っていらっしゃるタイミングだったのですね。

 同じアドベンチャーというジャンルを手掛けていましたので、記事などを拝見していたため初めて会ったという感じはしませんでしたね。すでに知っているような気分だったので、余計に“出会い”という部分が自然に入ってきました。話が合って波長も近いところがあったので、緊張してどうのこうのはありませんでした。イシイさんは引っ張ってくれる方なので心地よくお話ができました。

イシイ 聞きたいことがお互いにあったという感じで。「(シナリオを)どう書いているんですか?」とか「何人で書いているんですか?」とか、そういう話になりましたね。

――お互いにシナリオを手掛けられているからこそ、通じる感覚があったということですね。

 ただ、イシイさんが手掛けられている作品は、作家の方が参加されていたので、イシイさんのお仕事の正体がいまだつかみきれていないところがあったんですよね。

イシイ 「自分では脚本を書いていないんですよ」とか、その理由の話をして。「脚本を全部書くと自分がボトルネックになってプレッシャーがすごくないですか?」という話をしましたね。僕はボトルネックになるのが嫌で……。自分の作業が進まないと10人、20人を待たせることになりますから。会社のクセもあると思うんですけど、これまで僕が手掛けた作品の多くはプロデューサー、ディレクターをある程度ひとりでやっていたんですね。お金の管理に対しての責任もありましたから。

 プロデューサーとディレクターを兼任されていたんですね。

イシイ ほぼいっしょですね。宣伝権限は別ですが、制作費のマネージメント権限を渡されるのでたいへんなんですよ。巧さんはマネージメント権限を持ってないと言ってらしたのでいいなと思いましたね。

 正直なところ、僕には荷が重すぎる部分ですね(笑)。

イシイ いや、そこは本来は別にしたほうがよく働く場合が多いんですよね。

 そうかもしれませんね。集中する部分が変わってきますから。

イシイ いまはフリーになったので、個人で書くということにこだわるようになってきたこともあり、ぜんぜん仕事のやりかたが変わりましたね。

 それはなんだか、非常に楽しみですね。

イシイ プロデュース的なことは逆にあまりやりたくないからフリーになったというのもあるんですよ。

 どちらかかな、とは思いますね。僕から見るとイシイさんはプロデュース的な、全体を見るほうを選んだのかな、と思っていました。

イシイ じつは逆なんですね。やりたいところだけやると言ったら子どもみたいに聞こえますが、作り手として直接書きたいというところって立場が上になるほどできなくなってくるんですよ。

 僕の場合、いつのまにかベテランですけど、いまも現場ひと筋でやらせてもらっています。

イシイ けっきょく、クリエイター職はある程度守られている文化があって。ただ、その文化は会社ごとに違いますよね。

 大学の同級生の友人が別のゲーム会社で働いているんですけれど、ひさしぶりに会ったら名刺にけっこうな役職がついていて「偉くなったな」と感じて。自分の名刺を見ると、ディレクターとだけ書いてあって「変わっていないな」と思うときがありますね。カプコンに、あまり細かい役職がないというのもありますけど。

イシイ それはビックリしました。もっと『逆転裁判』シリーズのマネージメントも含めてやっていらっしゃると思ったので。でも、演出と脚本というところに徹しているというところは「なるほどな」と感じますね。『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』も途中まで遊ばせてもらいましたが、「本当に巧さんの作品だな」とすごく感じました。

 そういう形でやってやらせてもらえるのが、じつは珍しいのかもしれませんね。おっしゃる通り、もっといろいろなタイトル、シリーズを通してプロジェクトを見たほうがいいんじゃないですか、と言われることもあるのですが、自分としては、できれば1本のゲームに深く関わりたいという考えかたなので。それが許されてきているというのは本当にありがたいと思っています。仕事の範囲が広がれば、関わりかたが変わりますからね。

イシイ クリエイティブに専念したい方は、外に行かれる感じがしますね。ただ、クリエイティブと両立してマネージメントも背負って、クリエイターを守る親分のような方もいらっしゃって。

 現場を知っている方がトップにいてくれるのは、我々にとっては大事なことだと思いますね。

イシイ カプコンさんは外から見ていて、そういった組織のような気がします。自分が守ってもらっていたから、その立場になったときに同じように現場を守ろうという。ほかのことをやらせない、クリエイティブに集中できる人たちがいられる組織を作っていらっしゃいますよね。

 そこは非常にありがたいですね。個人的にはそれだけを武器にやっていますから、それをパキンと壊されたら何も残らないので、そういう恐怖感はあります。

イシイ 逆にフリーと仕事のやりかたが似ていますよね。クリエイティブしかやりませんというのは。営業活動はあるかもしれないですけれど、そういう部分って僕とか巧さんはゼロじゃないですか。僕よりも巧さんのほうがフリーの作家っぽいですよね。小説家とか脚本家に近いですから。

 自分ひとりでは、本当に頼りないですからね。いつも、まわりに助けてもらっています。たぶん今日も、ひとりでこの大東京に放り出されたら、この対談の会場にたどり着くことができたかどうかも怪しいです(笑)。ゲームを作れるので、なんとか一人前の顔をしています。

イシイ そういえば、巧さんはワープロをチューニングされているとうかがったことがあるのですが……。

 キーボードを打ちすぎて身体的に支障が出てきたので、なるべく最少の打鍵で最大の効果を上げるためにいろいろ最適化していますね。あと、いつもミステリーのシナリオばかり書いているので、それ以外のメールを打つときに、かならず物騒な方向に変換されますね。「血痕、おめでとう」とか……。職業あるあるですね。

――アドベンチャーゲームクリエイター対談ならではの話題ですね(笑)。

 イシイさんのインタビュー記事などを拝見すると、すごく造詣が深いと言うか。アドベンチャーゲームはこう分類できる、という分析のお話があったり、アドベンチャーに対する情熱がすごいですよね。僕自身を振り返ってみると、PC-8001とかPC-8801とか、その辺の世代なんです。

イシイ じつは、僕は19歳か20歳くらいのときにPCゲームを作っていたんですよ。

 そうなんですか。僕は小学生のころ『ミステリーハウス』というアドベンチャーゲームをやっていました。

イシイ その当時よりちょっとあとです。コマンド入力式の時代でしたね。

 それはすごいですね。その後、ファミコンが発売されたのですが、買ってもらえなくて、そこからすっぽり10年くらいゲームの歴史がまったくないんですよね。『パックマン』や『マッピー』、『ゼビウス』が最後です。大学に入って、友人の家でひさしぶりにゲームを遊んだ際、スタッフロールが流れて衝撃を受けたりしたのですが、イシイさんはそのあいだにもアドベンチャーゲームを遊ばれたり、制作されていたんですよね?

イシイ 一時期はアドベンチャーゲームから離れていたのですが、戻ってきたきっかけはサウンドノベルシリーズなんですよ。本当にびっくりして。当時、アドベンチャーゲームはRPGに吸収されたと思っていたんですね。『ドラゴンクエスト』が発売された瞬間、アドベンチャーゲームはもういらないんじゃないかと思ったくらい、RPGにドラマを持っていかれたと感じて。そんなときにサウンドノベルの『弟切草』が発売されて、すごく衝撃を受けるとともに文法的な確信を得て。ほかには、海外製の『スペースシップワーロック』というゲームがあって。CGをプリレンダしたのをレイアーにして動いている作品で、しかも英語でフルボイスでしゃべるという。こういう作品が作れるのだったらアドベンチャーゲームは変わるな、という技術的な確信を得ました。『逆転裁判』とは違うタイプになりますが、バッドエンドがあって、もう一度プレイすると話の内容が変わってというのを見た瞬間、すごく可能性を感じて。そこからは、どんなゲームがあるのか、どんなゲームなのかを調べたり、こういう理屈でこれを作っているのかとか、そういうことにハマりだしたんですよね。

 決定的に違うのはそこですね。僕が作っているのは基本的に一本道ですけど、サウンドノベルはマルチエンディングなど、物語に変化がありますよね。

イシイ 『逆転裁判』が発売されるまでは、一本道のアドベンチャーゲームについては限界を感じていて。たとえば、『バイオハザード』は謎解きもあるし、十分アドベンチャーゲームになっていると思っていたんですね。そんなときに『逆転裁判』が発売されて驚いて。じつは、『逆転裁判』の影響を受け、物語を整理してひとつの物語を解いていくということに対して力を入れようと考え、『 3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』は企画し直しているんですね。プラットフォーム選びでもすごく悩んでいたので、『逆転裁判』をDSで追いかけたいなという悩みもありました。そのときから巧さんというクリエイターに注目していたんです。

 『逆転裁判』はアドベンチャーゲームですけど、その下にミステリーってついているんですよね。あくまでも、事件を解決する物語は、本当に美しい道筋は、一本しかないと思っていて。マルチシナリオを検討したこともあるのですが、それはどうもミステリーのおもしろさとは違うものになってしまう。それよりも、ひとつの物語を自分の推理力で進めている感覚を楽しんでもらいたいという考えかたなんですね。いま話しながら、そこが僕がマルチシナリオにいかない理由なんだな、と思いました。自分にとっては、あくまで「ミステリー」がテーマなんですね。

イシイ マルチシナリオのミステリーもないことはないんですけれど、メタっぽくなったり、SFっぽくなるような概念が入ってしまうんですよね。

 ミステリーのゲームの大先輩は、やはり『かまいたちの夜』ですよね。ミステリーがサウンドノベルと融合していますからね。

イシイ ミステリーでメジャーと言うと『ポートピア連続殺人事件』があって、『かまいたちの夜』があって、『逆転裁判』があるくらいですよね。ほかなにかありますか?

 語弊があるかもしれないですけど、ミステリー好きでありながら、あまりミステリーのゲームにこだわりはないかもしれません。僕が好きなアドベンチャーは『MYST』や『アウターワールド』だったり。「ミステリー」と銘打ってはいないけど、ミステリーのおもしろさが味わえるんです。

イシイ 『逆転裁判』は基本的に王道のミステリーじゃないですか。王道ゆえにキャラクターが立っていて、トリッキーな演出が多い。さらに、『逆転裁判』はプレイヤーが介入しているインタラクティブ性というのはすごく強いと思うんですよね。

 ありがとうございます。ゲームの文法をよく知らないまま業界に入ったので、ほかのアドベンチャーゲームを知らずに作ったのがいい方向にいったのかなと思います。アドベンチャーゲームは好きだ好きだと言っていますが、それほど数はやっていなかったので……。

イシイ でも、だいぶ舞台を絞り込んでいらっしゃいますよね?

 法廷ですか?

イシイ 法廷だけではなくて、周りのところも限定されていて。キャラクターのバリエーションを突っ込むというところからミステリーを作るとああなるんだ、と。

 基本的に、ミステリーって登場人物が多くなりがちなんですよね。たとえば、連続殺人だと、被害者役がたくさんいて、容疑者役も必要だし。でも、『逆転裁判』は犯人を追い詰めるゲームなので、登場人物が最小限で済むんですね。最初から犯人がわかっていても、それをどう追い詰めるかというゲームなので。ミステリーで感じるストレスを全部排除したのが『逆転裁判』なんです。インパクトのあるキャラクターにしたのも、そのほうが覚えやすいからです。