相次ぐ失踪事件と怪死事件。この街の裏側で何かが起こっている。
スペインのA Crowd of Monstersによる新作『Blues and Bullets』は、実在の人物エリオット・ネスを主人公に迎えた全5エピソードのアドベンチャーゲーム。犯罪との戦いから引退してダイナーを経営して余生を送ろうとしていたネスだったが、とある人物の依頼が発端となり、地元サンタ・エスペランサで発生する怪事件に巻き込まれていく。
現在はPC向けにエピソード1が配信されており、Steamでの価格は498円(エピソード5までまとめて購入する場合は1980円。現在はさらに10%オフのセール中)。日本語は未対応で、海外ではXbox Oneでの発売も予定している。
エピソード1は1時間半程度の内容で、かつて「アンタッチャブルズ」を率いて大マフィアのアル・カポネを追い込んだ元司法省捜査官のエリオット・ネスが、依頼に応じて探偵として活動し始める序盤部分が描かれる(なおネスもカポネも実在した人物だが、本作は彼らの設定を活かしたフィクション)。
トレイラーを見ると推理風のシーンや銃撃戦などいろんな要素が入っているので混乱するかもしれないが、基本的にはTelltale Gamesの『ウォーキング・デッド』や、スクウェア・エニックスが海外で発売している『Life is Strange』などのエピソード形式のアドベンチャーと同系統で、その場その場でどんな判断を下したが後に影響していく、インタラクティブなストーリーを楽しむのが主眼のゲームだ。
ノワールとしてのカッコよさにステータス全振り
詳細は後述するが、本作は推理アドベンチャーとしての要素は弱いし、戦闘も簡易的なものだ。では、『Blues and Bullets』は中途半端な3Dアドベンチャーゲームなのか? 否! 本作の醍醐味はその徹底した美意識の追求にあると思う。制作陣が「これがカッコいい!」と思う演出が隙間なく詰め込まれている。
白黒に赤だけが浮かび上がるアートスタイル、心理描写を背景と融合した巨大なテキストとして示したり主人公だけにスポットライトを当てたりする演劇的演出、バリバリに凝ったカメラワークとレイアウト、タランティーノ映画のように唐突に始まる雑談、歴史的ジョーク(「白人がブルース褒めるってどういうことだ? 次は黒人に投票させようってのか?」とか)、そしてエリオット・ネスやアル・カポネという実在の人物を中心に置いて“歴史的なリアリティ”に沿った作品と思わせておきながら大胆に外してくるヒネりの部分……挙げていくとキリがない。
一方でメインクリエイターが何役も兼ねるような小規模な作品ということもあって、予算の関係もあるのか3Dモデルやモーションはちょっと前世代っぽさがあるのも事実。しかしインタラクティブなノワール(犯罪物語)として見せたいものだけに絞ってパワーを振りきった作品として、センスが共鳴しちゃう人にはそういう粗がどうでもよくなるぐらい、正直たまらん作品に仕上がっていると思う。
推理や銃撃戦はあくまで一要素
というわけでグッと来た人で英語をそんなに苦にしない人はトライしてみて欲しいのだが(なんせ1話だけならワンコインだ)、すでに軽く触れた推理や戦闘などのプレイ要素についてもうちょっと紹介しておこう。
まず探偵物としてメインになりそうな推理パートは、実はエピソード1で出てくるのは一回だけ。構成も事件現場を歩き回って手掛かりを集め、それを用意された関係図に当てはめていくというもので、(後のエピソードでも同様かはわからないが)間違った場合のペナルティなどもなく、総当りで適当にやっていけば解けてしまう。
エピソード1を最後までプレイした限りでは、推理アドベンチャーというよりも、あくまでストーリー上の一要素といったところ。もちろん事件が進展するに連れてもうちょっと主軸になるとは思うが、推理だけを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。
銃撃パートも同様で、プレイヤーが動き回ってアクションするようなものではなく、カバーリングを切り替えながら身を乗り出し、ただ敵を撃って倒していけばいいというシンプルなもの。これもまたひとつのエッセンスというレベルだ。
しかしカポネ邸への殴り込みという燃えるシチュエーションがあったり、前述したような心象風景で銃撃戦が突然始まったり、使い方は面白い。あとは近接戦闘でたまにQTEが入るぐらいなので、アクションが苦手な人でもそう問題なくついていけるだろう。