1994年、ある殺人事件について残された、女性参考人の映像記録。
推理アドベンチャーゲーム『Her Story』を紹介する。本作はPC/MAC/iPad/iPhone版が配信中。参考までにSteamでの販売価格は定価598円(執筆時点では15%オフのセール中)で、iOS版は600円。
本作でプレイヤーは、1994年に起きた殺人事件の真相を、残された映像記録を頼りに探っていくことになる。重要参考人として7度にわたって取り調べを受ける女性は、何を語ったのか? 果たして彼女は犯人なのか? そう、このゲームは文字通り、映像の女性が語る物語(Her Story)を追っていく話なのだ。
古いコンピューターの検索システムを駆使して新情報を見つけ出せ
本作を開発したのは、『サイレントヒル シャッタードメモリーズ』のシナリオとゲームデザインを手掛けたSam Barlow氏。
推理ゲームとしては一種の安楽椅子探偵ものになっており、プレイヤーができるのは検索システムを駆使して新たな記録映像を発見し、再生することだけ。すべては当時の記録を再生可能な古いコンピューターが映し出す、アスペクト比4対3のクラシックなコンピューター画面上で展開される。
例えばゲーム開始時に入っているキーワード「Murder(殺人)」で検索をかけると、4つのファイルがヒット。断片的に語られる内容(言語は英語のみだが字幕付き)から、新たに使えそうなキーワードを自分で考えるのが最初の仕事だ。
検索に使うキーワードは映像に出てきた単語をそのまま使ってもいいし、会話から連想した単語を入れてもいい。もっと言えば映像から離れて、適当に当たりをつけたモノの名前を入れて検索してもいい。すべては自由で、該当する記録があるかもしれないし、ないかもしれない。ヒットした新映像があったとして、それが真相に関係あるのか、ないのかを判断するのもプレイヤー自身で、システムは“正解”を教えてくれない。
システムは正解へと導かず、プレイヤーが探偵になるしかない
そう、このゲームはエンディングまで“正解”を求めるようなことがない。推理した事件のあらましを組み立ててぶつけてみるとか、新たに関係者を尋問するといったゲーム的な要素もなく、すべては検索&再生だけ。それどころか、何が新情報なのかも教えてくれはしないし、それまでに知った情報を記録しておいてくれるシステムすらない。
本作において、重要だと思う情報をピックアップして残しておくのは、プレイヤーがゲームの外側で物理的にメモを取ることで補完すべきことなのだ。クリップに任意のタグをつけたり、これはと思うものを“ユーザーセッション”に入れておくことはできるが、現行のバージョンではただ追加する以外の操作ができないので、推理ノートを自作するのがオススメの方法だ。気になったことをメモしていけば、やがてページのあいだに真実がうっすらと浮かび上がってくることだろう。
こうしてプレイヤーはわざわざ古いコンピューターを使って1994年の事件を追っている、本作の主人公自身と一体化していく。最初からある変わらない過去の真実にどういう経過で辿り着くかはプレイヤー次第。その途中の「先入観によって間違った推測をしてしまう」とか、「意外な新情報で再整理を迫られる」といった推理モノでありがちな展開は、すべてプレイヤーの頭のなかで勝手に起こることだ。まさに本当に安楽椅子探偵になったかのように。
この非推理ゲーム的な推理体験は、ネタバレ厳禁かつ、ほぼ一回きりの体験だが、だからこそゴージャスで、じわじわと新たな情報を掘っていく時間がとてつもなく心地よい。字幕を読み解く多少の英語能力は必要だが、静かな夜に紅茶でも飲みながらじっくりとプレイしてみて欲しい。