E3にゾンビがいるのはいつもの事だが、プロモ用ゲームまで登場
今年もアメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで行われたE3。しかしメイン入り口となるウェストホールのロビーでは、何体ものゾンビが徘徊していた……。
その原因は、マルチプレイFPS『PAYDAY』シリーズなどを展開するパブリッシャーStarbreeze。人気ゾンビコミック/ドラマの「ウォーキング・デッド」を原作とする、傘下スタジオOVERKILLの新作『OVERKILL's The Walking Dead』のプロモーションのために、ウォーカー(ウォーキング・デッドにおけるゾンビ)たちを歩かせていたのだ。
しかもそれだけに留まらず、Starbreezeはなんとゲーム本編から独立したプロモーション用のVRアトラクションを作成し、堂々出展。このデモはE3開幕直前に同社が買収を発表したフランスのベンチャー企業InfinitEyeの技術を利用したVRヘッドマウントディスプレイ“StarVR”のお披露目も兼ねており、Starbreezeファンだけでなく、「ウォーキング・デッド」ファン、VR界隈のガジェット好きなどが集まり、連日賑わっていた。
仲間が車椅子を押してくれるあいだ、ショットガンで自衛!
体験者はまず車椅子に座り、StarVRとヘッドフォンを被って、調整するとデモ開始。プレイヤーは設定として何らかの原因で負傷しており、自分で歩行できない状態。デモは現実でもVR世界でも、終始車椅子に乗ったまま進んでいく。
ウォーカーが集まってくる中、プレイヤーを含めた3人は病院からの脱出を試みようとしており、プレイヤー以外のふたりが斥候と車椅子を押す係を分担。プレイヤーも途中からショットガンを渡されて、迫るウォーカーから自衛するように言われる(このタイミングで実際にスタッフからショットガン型コントローラーを持たされる)。
つまりゲームとしては、移動を自分でやらない一人称視点のレールシューターといったところ。ARで使うようなマーカーを利用してStarVR本体とショットガンコントローラーの位置検出を行っているため、まず“VR内の視界と自分の顔の動き”、そして“VR内の銃と現実で持っているコントローラーの位置や角度”が一致し、現実と同じように狙って撃てる。この一体感はなかなかのものだ。
プレイヤーが車椅子に座っている設定にするのは、実はホラー寄りのVRではよく知られた手法だ。プレイヤーによる任意の移動を設定上ナシにすることで、「VR内の視界は自分の顔の動きと一致しているのに、移動はコントローラーというゲーム的手段のまま」という不一致によって没入感が損なわれるのを防ぐだけでなく、副次的に「恐怖の対象がある方向に、自分の意志ではなく強制的に近付いていく」というシチュエーションによる新たな恐怖までついてくる。
あくまでプロモ用のゲームでありながら、キャラクターモデルやモーション、病院内のさまざまなオブジェクトやライティングなどはちゃんとお金をかけて作られたデータを使っているため(恐らく本編のものだろう)、ビジュアル面のインパクトは十分。演出の巧みさもあって、かなり楽しめた次第だ。
ちなみに『OVERKILL's The Walking Dead』(OTWD)本編は、4人協力プレイのマルチプレイFPSで、プラットフォームはPC/Xbox One/PS4。海外では2016年の発売を予定している。価格については未定であるものの、『PAYDAY』シリーズ同様、手頃な価格帯を目指しているようだ。
関係者に話を聞いたところ、ゲーム内容はまさに「『PAYDAY』シリーズのウォーキング・デッド版」といったコンセプトで、協力プレイで強盗に挑む『PAYDAY』に対して、OTWDでは「食料や薬の奪取」などがテーマとなる。警備の目から隠れる要素の代わりにウォーカーを刺激しないようスニーキングしたり、NPCの警察が駆けつける代わりにウォーカーが集まってきたり、その他の要素もウォーキング・デッド的に置き換えられる模様。一方で、噛まれたりした仲間がウォーカーに転じるというようなウォーキング・デッドならではの要素の導入も検討しているという(ただし未確定)。
課題はまだ多いが、210度&5Kの魅力は確かにある!
さて、肝心のVRHMDとしてのStarVRの性能だが、まだ開発中のプロトタイプに過ぎないことや、デモ環境の不安定さもあって、位置検出がズレて視界や銃の位置がブレたり、(パーツの隙間があるのか、あるいは中で変に光が反射したのか)変な場所に光が見えたり、描画が若干重かったり、採用しているディスプレイ特性による問題があったり、いろいろ課題があったのは否めない。
しかしStarVRの最大の特徴である水平210度の圧倒的な視野角や、5K(5120×1440ドット)の超高解像度の恩恵は大きい。「視界の枠」が見えてしまうようなことはほとんどないし、ドットの隙間が見えてしまうスクリーンドア効果(網目感)もほとんど感じられず、Oculus Rift製品版やProject Morpheusの最新プロトタイプと比較しても、この部分の優位性は確かにあるというレベル。
1枚のディスプレイで両目分の画像を出力するのが主流なところ、StarVRでは両目それぞれにディスプレイを設けるド直球の力技で数字を稼いでいるので、当然物理的に重いし、高解像度すぎて処理が重くなるのも当然だし、多くの検討課題を必然的に抱える手法でもあるのだが、ひとつひとつ対処していって欲しいところ。今後の進展に期待したい。