ピノキオワールドの魅力に迫るインタビュー完全版
2015年5月28日に発売された、セガゲームスのニンテンドー3DS用ソフト『初音ミク Project mirai でらっくす』。本作に収録されている楽曲『はじめまして地球人さん』と、『ありふれたせかいせいふく』を手掛けたアーティスト、ピノキオピーさんのインタビューをお届け。
今回のインタビューは、ピノキオピーさんのルーツに迫る第1部、『初音ミク Project mirai でらっくす』に関するお話をうかがう第2部から成る2部構成。ピノキオピーさんが曲作りを始めたきっかけや、ポップでちょっとシニカルな歌に込められた思い、ゲーム内の映像への感想をうかがった。
※本記事は、週刊ファミ通2015年6月4日号(2015年5月21日発売)に掲載されたインタビューに、加筆・修正を行った完全版です。
■ピノキオピー
2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表を始め、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル曲をコンスタントに発表しつつ、コラボレーションや自身で行うニコニコ生放送なども積極的に行う。作風は、お祭りどんちゃん盆踊り型ダンスミュージックから、しっぽり都市近郊型ノスタルジックフォークトロニカ、屈折したセンセーショナル青色ロックまでと、幅広いサウンドを発信する。また、作曲活動のみならず、動画内のイラストや漫画の執筆、様々な商品プロデュース等のクリエイティブワークも手掛けるサウンドクリエイター。
■始まりは「ニコニコ動画に動画を投稿したい!」という気持ち
――始めに、ピノキオピーさんが音楽活動を始めたきっかけを教えていただけますか?
ピノキオピー VOCALOIDの曲作りに関しては、「なんでもいいから、ニコニコ動画に動画を投稿したい。」というところから始まりました。別に、音楽じゃなくてもよかったんです。最初はゲーム実況をやろうと思ったのですが、やってみたら、おもしろいものが撮れなくて。これはやだな、と思って。ほかにできることを考えて、VOCALOIDについて調べていったとき、「これなら自分でも曲を作れそうだ」と思って、そこからVOCALOID楽曲を作り始めました。というわけで、“ニコニコ動画に何か動画をあげたかった”というところから、僕は始まっています。
――「動画をアップしたい」という思いを抱いたのはなぜですか?
ピノキオピー それまでも曲は作っていたんですけど、親しい友人にしか聴かせていませんでした。多くの人に聴いてもらう機会がまったくなかったんですね。自分の中ではおもしろいと思うものを作っているのに、いろんな感想が得られず、これはおもしろいのか、それともおもしろくないのか、まったくわかっていない状態だったんです。だから、まずはいろんな人に聴いてもらいたいな、と思って。そこからですね。
――なるほど。ピノキオピーさんが動画を最初に投稿したのは2009年ですが、その前からニコニコ動画はご覧になっていたのですか?
ピノキオピー ずっと見てました。でも、VOCALOIDの動画はそんなに見ていなかったんです(笑)。どちらかというと、おもしろ系の動画を見ていて。
――では、初投稿作品「ハナウタ」を公開されたときは、どのようなお気持ちでした?
ピノキオピー 怖くてしょうがなかったです。ネットにいる不特定多数の方とコミュニケーションを取るということを、それまでまったくしていなかったので。
――どんなコメントが来るかわからないですから、更新のボタンを押すのにも、けっこうな勇気が要りますよね。
ピノキオピー 必要でしたね。ひどいことを言われているんじゃないか、って。でも、いざ動画を上げたら、意外と温かいコメントもあって。「いいじゃん」って言ってもらえたとき、めちゃくちゃテンションが上がったことを覚えています。
――「ハナウタ」のときから、ピノキオピーさんは曲だけではなく、絵もご自身で手掛けていますが、絵も昔から描いていたのですか?
ピノキオピー はい。小学生のころは、描いた絵を周りに見せたりもしていました。マンガ家になりたいという気持ちがあったんですね、小学校時代は。でも、中学生になったらなぜか描かなくなって、高校に入ってから、また沸々と描き始めて。それがいまに続いているという感じです。
――以前はギャグマンガを描かれていた、とうかがったことがありますが。
ピノキオピー そうです。投稿もしていました。マンガを描いて送って、賞には引っかからなかったんですけど、「もう1回送ってよ」という電話はきたんです。それなのに、マンガを送らずに、VOCALOIDの曲を作り始めるという……。曲を作るのが楽しくなっちゃって。
――お話を聞くと、ピノキオピーさんは“何かを作ること”がずっとお好きだったようですが、創作へとご自身を駆り立てたのは何だと考えていますか?
ピノキオピー 曲だったりマンガだったり、受け手として見たものの影響が大きかったからだと思います。生活の基準になったと言いますか。
――たとえば、どんな作品・作家さんに影響を受けましたか?
ピノキオピー 藤子・F・不二雄さんです。『ドラえもん』ではなくて、SF短編集とか。もともとは親が好きで、家にあったので、子どものころから読んでいたんですけど、読んだときの衝撃が強くて。そのときの気持ちが、根強く自分の中に残っています。
――藤子・F・不二雄さんのSF短編集は、ピノキオピーさんの作風に近いように感じます。シニカルと言いますか。
ピノキオピー そうですね。自分の好きなものがそこにあるな、と思います。
■初音ミクの“人間らしくないところ”がいい
――2009年の初投稿から6年が経とうとしていますが、長年ニコニコ動画と初音ミクを見てきたピノキオピーさんが改めて考える“初音ミクのよさ”とは、どんなところですか?
ピノキオピー 本来、音楽って、メタルとかテクノとか、いろいろなジャンルがあって、ジャンルごとに人が固まっていることが多いんですよね。その、それぞれに固まっていたはずの人たちが、VOCALOIDというひとつの記号のもとに集まって、それも全員が対等な感じだったという、すごくおもしろいと思う時期があったんですよ。それがよかったですね。クロスオーバーの場と言いますか。いまは時間が経って、またそれぞれのジャンルに散らばったり、新しい場所を見つけたり。あと、初音ミク自体については、“人間らしくないところ”が僕は好きです。人間たりえない、足りない感じがあるというか。人間が歌ったらダメな歌詞、しっくりこない歌詞も、ミクには歌わせられるので。そういうよさがありますね。
――曲を作るときは、“誰が歌うのか”ということは意識していますか?
ピノキオピー うーん、どうでしょうね。いまでは、初音ミクが歌うという前提で作っているのかもしれないです。VOCALOIDの曲を作るようになる前も、呼吸のポイントは作っていませんでしたね。メロディーのクセは、意外と昔から変わっていないんですよ。それがさらに、ミクが歌うなら好き勝手できるということで、拍車がかかっているのかな、と思います。
――ピノキオピーさんの楽曲は、人生や死生観をテーマにしていますが、そのテーマを人間ではないミクが歌うからこそ、活きているのではないかと思います。
ピノキオピー “人じゃないものの視点”というニュアンスが出るから、その歌詞が書けるのかな。人間の方が歌ったとしたら、それはそれでアリだと思うのですが、またニュアンスが変わると思います。
――ところで、ピノキオピーさんは初音ミクのVOCALOIDソフトを好んで使っていますが、その理由は?
ピノキオピー 人間たりえない感じがいちばん強い気がするんです、ミクは。気の抜けた感じ。ほかのVOCALOIDには表情がある気がするので。一時期はダーク(『初音ミク V3』のデータベースのひとつ。落ち着きと憂いのある声)を使っていましたが、最近はソリッド(緊張感のある、張りつめた声)を使っています。はっきりしている声のほうが、気が抜けた感じでいいな、って。