前作から15年目で発表された『シェンムー3』

 2015年6月16日~18日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて世界最大のゲーム見本市、E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2015が開催。その前日にあたる2015年6月15日のソニー・コンピュータエンタテインメントのカンファレンスでは、『シェンムー3』のプロジェクトが、クラウドファンディングサイト”キックスターター”を用いて始動と発表された。驚きと感動をもって迎えられた『シェンムー3』は、キックスターターでの募集開始からわずか8時間という早さで最低目標額を達成。現在はストレッチゴール(出資額が増えるに従ってゲーム内に要素を追加する)の達成を目指し、2015年7月17日午後6時51分(太平洋夏時間)の締切に向けて順調に出資額を増やしている、
 本記事では、『シェンムー』シリーズの生みの親であり、今回のプロジェクトの発起人でもある鈴木裕氏に行った、インタビューの模様をお届けする。なお、2015年6月18日発売の週刊ファミ通でも、6ページにわたって『シェンムー3』のインタビューを掲載しているので、そちらもぜひチェックしてほしい。

キックスターターで始動した『シェンムー3』プロジェクトを鈴木裕氏に訊く【E3 2015】_02
▲株式会社YS NET 代表取締役 鈴木裕氏。

—-ソニー・コンピュータエンタテインメントでのカンファレンスで『シェンムー3』が発表されましたが、あの瞬間、歓声がひときわ大きかったですね。発表の瞬間のステージを見て、いかがでしたか?

鈴木裕氏(以下、鈴木)  私はステージの袖にいたので、客席は見えませんでした。『シェンムー3』の前に行われた発表が、どれもすばらしいタイトルばかりだったので、大丈夫かなと、ちょっと心配だったんです。というのも、通常の発表というのは、ある程度ゲームを作ってからの発表になります。今回はキックスターターでの募集開始という発表ですから、作っている部分が少ないのです。ただ、発表の瞬間の歓声が聞こえてきて、近くにいた方が「おめでとう」と声をかけてくれて……あのときは、グッと来ました。

——発表のときに上がった歓声が、ほかのタイトルとはちょっと違ったように思います。驚きよりもうれしさが勝っているという感じで。

鈴木 よく皆さん15年も待ってくださったなと思います。

キックスターターで始動した『シェンムー3』プロジェクトを鈴木裕氏に訊く【E3 2015】_03
キックスターターで始動した『シェンムー3』プロジェクトを鈴木裕氏に訊く【E3 2015】_04
▲カンファレンスでの『シェンムー3』発表の模様。鈴木氏も登壇。

——ガッツポーズをしている観客の方もいましたし、根強い人気を感じました。しかし、なぜ15年目のいまになって、『シェンムー3』を作ることになったのでしょうか?

鈴木 いつも、ユーザーさんから、『シェンムー3』を作ってほしいという声を聞いていました。たとえばフランスに行ったときなどは、お客さんが「トロワ、トロワ」と言うんです。トロワというのはフランス語で”3”の意味ですから、つまり『シェンムー3』を作ってほしいということです。そういうこともあって、ずっと作る方法がないものかと思案していました。ただ、やはり『シェンムー』というのは重厚長大なイメージがありますから、仮に低予算で作ると、ユーザーさんの期待外れに終わるのではないかと思っていたのです。がっかりさせてしまうのではないかと。しかし、ユーザーさんは「小説でもいい、マンガでもいいから『シェンムー』の続きが見たい」とおっしゃってくれた。であればどんな形であれ、『シェンムー3』を世の中に出すのと出さないのとでは、世の中に出して何かを問いかけたほうがいいだろうと。最終的には、そこが今回の決断に踏み切った理由です。

——ユーザーの期待に応えるために、形に残しておくべきだろうと。

鈴木 応えようと思ったら、なかなか踏み切れるものではありません。何らかの形で私がクリエイターとしての痕跡を残すのか、作品としての足跡を残したほうがいいのかと考えたときに、やったほうがいいだろうと思いました。ただ、オープンワールドというゲームジャンルを築いたのは『シェンムー』ですが、オープンワールドでやるには、お金がかかる。オープンワールドのことだけを考えていたら、一生作れないなと思っています。つねに何とか実現の方法がないかと思い悩んできていて、その中で取り組み先やパートナーを捜していました。
 
——では、今回なぜキックスターターという形に?

鈴木 前述の通り、何とか『シェンムー3』を形にできないかと動いていましたが、ユーザーさんの中には当然、『シェンムー3』がオープンワールドであることを期待している方もいると思います。そんなことを考えているときに、キックスターターの存在を知ったのです。それで、もともとユーザーさんの声に動かされた企画なので、この際、ユーザーさんに委ねてみようかと思いまして。

——「本当に作っていいの!?」と問いかけるという。

鈴木 ちょっと、運命共同体になってもらおうかと思いまして。もちろん、集まった予算内でベストを尽くします。『シェンムー3』が世の中にあるのとないのとでは、やはりあったほうがいいと思いますから。

——そこも含めて、ユーザーさんといっしょにやっていく、という感じですね。キックスターターの『シェンムー3』ページの短縮URLが”saveshenmue”(『シェンムー』を救おう)となっているのも、運命共同体を感じさせます。

鈴木 15年間『シェンムー』を支えてくださったコミュニティーの方たちがいたからこそ、『シェンムー2』の発売から15年目に『シェンムー3』を発表できたのです。彼らに対しての敬意や感謝を含めて、今回このような名前をつけました。

——現在(ロサンゼルス時間で2015年6月15日午後11時。『シェンムー3』発表から約4時間後)、200万ドルの最低目標に対して、130万ドルがすでに集まっています。10000ドルを出資した方が4人もいるという状況です。この数字は、予想通りなのでしょうか?

鈴木 私にとっては初めての経験ですから、正直なところ、わかりません。ただ、募集がスタートした瞬間にサイトへのアクセスが集中して、サーバーがパンクしたとうかがいまして、そんなに大きな注目を集められたことは、よかったのではないかと思っています。また、もちろん出資していただいた方には、とても感謝しています。
 今回は、最低目標の上にストレッチゴールを設けておりまして、お金が集まれば集まるほど、ゲーム内に実装できる要素が増えていきます。ユーザーさんが望まれること、こちらがやるべきと思っていること、私がやりたいこと、という3段階あると思っていまして、その中の私がやりたいことをすべて実現しようとすると、けっこうたいへんです。ですから、いまからでも、ぜひ協力をお願いします。現在、出資10000ドルのリワードは締切状態になっていますが、今後また追加していきますし、ストレッチゴールについても、いま公開しているよりもさらに先の段階まで用意しています。

——どんな要素が出てくるのか、楽しみです。では『シェンムー3』のゲーム内容についてうかがいますが、本作のストーリーはどのようなものになるのでしょうか?

鈴木 『シェンムー2』の続きになります。横須賀が舞台だった『シェンムー』から、『シェンムー2』では舞台が香港に移り、街が大きく広がりました。しかし、『シェンムー2』の終盤は、ヒロインのシェンファといっしょに白鹿村というところに行って終わっていた。世界を狭めたところからのスタートですが、『シェンムー3』では、リソースを主人公の涼とシェンファのふたりに注ぎ込んだ展開になってくるわけです。

——リソースの使いかたを変えたことで、ゲーム性にはどのような影響が出るのでしょう?

鈴木 たとえば、10あるリソースを10人に割り振ると、ひとりひとりは1の深さにしかなりません。ですが、10のリソースをふたりだけに使えば、5の深さまで掘り下げられるわけです。ずっと前から、『シェンムー3』は、物事を深く掘り下げることをテーマに作ると考えていましたので、そこを狙っていきます。なお、ストレッチゴールのほうでは、広い街を作る計画もあります。

——現状は、400万ドル達成で白沙エリア追加コンテンツの実装が予定されていますね。引き続きストーリーについてですが、もともと『シェンムー』シリーズのストーリーは、全11章で構成されていたとうかがっています。『シェンムー3』で、11章までのストーリーがすべて描かれるのでしょうか?

キックスターターで始動した『シェンムー3』プロジェクトを鈴木裕氏に訊く【E3 2015】_01

鈴木 いえ、11章というのは、最初に作った構想です。これは、ゲームのストーリーを考えるためのおおもとになっているもの、とお考えください。ゲーム用のシナリオは、この構想をゲームに合うように変更しています。
 『シェンムー』のストーリーは重厚長大なので、今回一気に完結まで持って行くと、あまりいい形にならないのではないか、と考えています。完結させていい形にならないよりは、まだ段階を踏ませていただいて、区切りのいいひとかたまりの物語を描くほうがよいのではないかと思います。

——先ほど、少しオープンワールドの話が出ましたが、『シェンムー3』はやはりオープンワールドなのでしょうか?

鈴木 『シェンムー』はオープンワールド要素で有名になりましたが、私の性質としては、いつも新しいことにチャレンジしたいという思いが強いです。つまり、チャレンジした結果、『シェンムー』がオープンワールドゲームになった、ということです。『バーチャファイター』などのタイトルでもチャレンジを続けてきましたし、『シェンムー3』でも、新しいことをやりたいと思っています。そのチャレンジが世間からどういう評価を受けるかはさておき、チャレンジ自体が私のクリエイターとしてのスタイルになっているので、よりチャレンジできるような資金が集まるとありがたいです。

——そのために力を貸してほしいと。

鈴木 チャレンジというのは難しいものです。新しいことに挑戦するとき、それは誰も見たことがありません。誰も予測ができませんし、説明しても、理解していただけないこともあります。しかし、それでも”物事を深く描く”という新たなチャレンジはぜひやってみたいと思っています。

——きっと、鈴木さんのファンの方は、チャレンジを大切にする姿勢に理解があるからこそ、いまも支持しているのだと思います。

鈴木 前作から、本当に長く待っていただきました。余談になりますが、『シェンムー2』の発売から10年近くが経ったときに元開発チームの飲み会を開いたら、100人以上が集まったんです。そのときも「こんなに集まってくれるのか」と驚きましたが、15年目の今年の驚きは、そのときよりもさらに強かったですね。
 『シェンムー』というタイトルには多様性があります。ですから、ファンの方が『シェンムー』のどこを好きかというのが、一様ではないのです。たとえば猫が好きだという方もいれば、フォークリフトのミニゲームが好きな方もいる。すべての要望にお応えするというと全方位で行かなければいけないので、そこが悩みの種ではあります。ですが、温かい目で見ていただいけると助かりますね。