“誰でも簡単に作れること”をウリにしているノベルゲーム作成ツールに迫る
“誰でも簡単に作れること”をウリにしているノベルゲーム作成ツールの中でもズバ抜けた手軽さを誇る、『Script少女のべるちゃん』(以下、『のべるちゃん』)。キャラクターの立ち絵や背景、BGMや効果音といった素材があらかじめ揃っていて、ユーザーは必要なものを選ぶだけ。ゲーム進行を司るスクリプトも、絞り込まれた機能の中から適宜選択し、定番のタッチ系操作のみでスイスイ詳細設定……と、割りきったシンプル設計ゆえに、作品を完成させることに集中できる、スマートフォン専用アプリです。
iOS版のストアリリース開始から1年以上経過してもなお、新機能追加のアップデートが随時行われ、最近は対外的な動きも活発化してきた『のべるちゃん』。その実体に迫るべく、開発元のドロップシステムの、プロジェクト主要メンバーに、お話を伺ってみた。これからゲーム制作を始めてみたい人、本アプリのマスコットキャラクター”のべるちゃん”の存在が気になる人(?)は、要チェック!
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※ゲームプレイとゲーム制作の境界線の愉悦を!『Script少女 のべるちゃん』【とっておきインディーVol.30】
(左):萩原孝之氏
ドロップシステム プロダクト事業部長
(右):大井裕一氏
ドロップシステム ディレクター・企画・プログラマー
(中):のべるちゃん
ノベルゲームの妖精
”持たざる者”が世に出る手段も、簡単な方がいい!?
のべるちゃん のっべーる! ノベルゲームの妖精・のべるちゃんですです。よろしくお願いします!
──こちらこそよろしくお願いします。まずは、このアプリが誕生したきっかけを教えてください。
大井 弊社はIT系の受注開発企業で、これまで独自コンテンツは手がけてこなかったのですが、資金的に少し余裕ができたときに、「軽い内容のアプリを1個作って儲けられないか」という話がでました。そこでまず考えたのが、ファミコンの『マインドシ―カー』(1989年・ナムコ)をイメージしたミニゲームです。
──『マインドシーカー』……超能力開発をテーマにした、奇抜なアドベンチャーゲームですよね。
大井 超能力は受けつけないんですけど(笑)、画面をタップして正解したら、女の子が色っぽいポーズをとる……といった内容を想定していました。ステージ間などに入る会話イベントシーン関連のプログラム組んだのですが、いろいろ応用がきいたほうが楽しいと思い、そのスクリプトを読み込ませるエンジンを作ったのが、おおもとの始まりです。
──つまり、最初からノベルゲーム作成ツールを作るつもりではなかったと。
大井 はい。スクリプト自体は、ソースコード1行の命令のセットなので、それを可視化すれば誰でも作れるものができるんじゃないかということで、仕事の合間にちょこちょこと作り進めたものが、現在の『のべるちゃん』の原型です。
──現在リリースされているアプリに近い形になるまでは、どのくらいかかったのでしょうか。
大井 画面レイアウトやユーザーインターフェイスを含めて、基本的な部分は、初期段階ですでに完成していました。フラグやパラメータ関連は、あとから追加した機能です。入れると複雑になり過ぎるかな、と思っていたのですが、実際にゲームを作ってみると、やっぱり必要だなと(笑)。
──エンジンの利便性を、“誰でも簡単にノベルゲームを作れるツール“という形でユーザーに提供することになった、決め手は?
大井 僕は昔からバンドをやっていて、“自分の作品を世の中に出すためのたいへんさ”を、身を持って知っていました。ものつくりを志す人たちが世の中に出ていくためのサービスをいつかやりたい……という思いが、根底にあります。
のべるちゃん へーっ。それは私も初めて知ったわ。意外と純真なのね。
大井 心情的には、ノベルゲームというより、アドベンチャーゲームなのですが。
──それはどういうことなのでしょうか?
大井 子どものころ、父が趣味で買ったPC-8801MC(※NECが1989年に発売した、8ビットCPU搭載パソコン)で、エニックス(※現スクウェア・エニックス)さんやリバーヒルソフトさんのコマンド選択型アドベンチャーゲームをすごく遊んでいたので、ジャンルへの思い入れがあるんです。ただ、「何でもいいからとにかく作りたい」という、中高生にとって、ゲーム的に複雑なアドベンチャーゲームは、ハードルが高い。それだったら、シーンの演出や、テキスト、絵に注力できるノベルゲームのほうが作りやすいだろうということで、“ノベルゲーム作成ツール“という形に落ち着きました。
──先ほどの『マインドシ―カー』発言といい、『のべるちゃん』のルーツは、大井さんの“ちょっと古めのゲーム体験“の影響が大きそうですね。
大井 ゲーム作成ツールでいえば、小学生のときに、ファミコン版の『絵描衛門』(※アテナが発売したシューティングゲーム作成ソフト)や『RPGツクール』を使っていましたね。最後にやったのは、セガサターン版の『サウンドノベルツクール2』かな。
──やはり、そういう下地が(笑)。
広告費と収益見込みがゼロからの船出
──大井さんが『のべるちゃん』の生みの親だとすると、プロデューサーの萩原さんは『のべるちゃん』の育ての親、という認識でよいでしょうか?
萩原 僕はもともと、ギャルゲーや乙女ゲームのシナリオライターなんです。最初は「ノベルゲームを作るアプリを作ったから、試しに何か書いてみてくれ」と仕事つながりで頼まれたのですが、ソーシャルアプリのディレクター経験なども見込まれて、そのままプロデューサーを務めることになりました。
──では実際に、『のべるちゃん』でノベルゲームを作られたのですね。最初に触ってみての印象はいかがでしたか?
萩原 じつは最初、「スマホなんかでテキスト書けないよ」と突っぱねました(笑)。ところが実際に触ったら、ノベルゲームが簡単に作れてしまう。しかも、キャラのセリフの間など、演出まで自分の手の中である状態でシナリオを書けるのは、新鮮で嬉しかったですね。シナリオライターとしては、ト書きレベルでしか演出に介入できなかったので。ただ……これは、サービスとして儲からないなと思いました。
のべるちゃん 儲からなさそう。私もそれは思いました。
──(笑)。
萩原 社内実験的なプロジェクトとはいえ、どこでお金を稼ぐのか、まったくわからない。それ以前に、いまや無料でいくらでも時間を潰せる中、ここまでしてノベルゲームを作ろうと思う人がどのくらいいるのか、という疑問がありました。
──実際、リリース時のユーザーの反応はいかがだったのでしょうか?
萩原 iOS版は、2014年の2月に配信を始めたのですが、当時はプレスリリースや広告も打たず、ただ、作って置いてある状態でした。ストアでたまたま見つけたユーザーが「おもしろいアプリがあったよ」と、まさに口コミで、徐々に広がっていったという経緯があります。
のべるちゃん 私は、アプリリリースのだいたい2ヵ月後に入社してから、おもにTwitterを介して、広報・宣伝活動や、ユーザーと運営の橋渡しをしています。その成果も少なからずあった、という自負があります!
──ええと……のべるちゃんは、『Script少女のべるちゃん』の開発当初はいなかった、ということでしょうか?
のべるちゃん 私が入社する前は、外見だけで中身がない、空虚なキャラクターだったんです。そこに“オフィス・フェアリー”としての私の魂が宿ったことで、実体のある存在になったんです!
萩原 のべるちゃんが入社するまでは、twitterには複数の社員が手分けして書き込んでいましたね。
──そうだったんですね。