兵士ではなく、市民として戦争と向き合うということ
戦時下の日常を描いた2014年の傑作
戦争を題材にしたゲームは山ほどある。確かに戦争は“楽しい”。ヘッドショットは楽しい。ドッグファイトは楽しい。核ミサイルでの都市破壊さえ楽しい。ゲームの戦争は、いつだって楽しかった。そう、本作が登場するまでは。
本作は、ポーランドの11 bit studiosが開発した戦争生活シミュレーション。ゲームでの戦争は、これまで兵士や指揮官の視点で描いてきた。だが本作は、実際の被災者の証言を丹念に収集し、市民の視点から戦争を描き切っている。
ゲームは、昼と夜のパートに分かれる。昼は隠れ家で食事を取り、家具や道具を作る。夜は建物に侵入し、食料や資材を漁る。入手した素材は食料や道具に加工する。目的は、戦争終結まで生き残ること。『ザ・シムズ』のようなライフシミュレーションと似ているが、湧き起こる感情は別物。食料や薬をいかに配分するか。ゴミを漁るのか、人の物を盗むのか。楽しいとは言いづらいが、ゲームの枠を超えた体験がここにある。
それぞれの戦争、それぞれの人生
本作の主役は兵士ではなく、一般市民。市民といっても出自や性格は異なり、交渉事が得意な人間や収集に適した人間をうまく使い分けるのが攻略の近道。また、右下の顔のアイコンから人物の背景を閲覧可能。プレイには直接関係ないが、戦争の悲惨さが伝わる。今後の日本語化に期待したい。
<“サラエヴォ包囲”とは?>
本作のモデルは現実の事件“サラエヴォ包囲”。冷戦終結後、旧共産圏のユーゴスラビア連邦は崩壊し、つぎつぎと独立勢力が乱立した。ボスニアの首都サラエヴォでも民族対立は複雑化し、複数の軍によって都市が包囲された。無差別砲撃と狙撃を恐れた市民は、昼は家に閉じこもり、夜は物資を漁ったそうだ。死者は10000人超、包囲は3年以上続いたこの“悲劇”は、これまで多くの映画や小説の題材になっているが、本作ではゲームを通して実感できる。
<新DLCの収益は全額寄付!>
先日、公開されたダウンロードコンテンツ(DLC)“War Child Charity”。ゲーム内の落書きを発見するという単純な内容だが、売上は戦争孤児のための慈善団体“War Child”に全額寄附される。11 bit studiosは、社会貢献への意欲も見せている。