現代ファンタジーでありつつも……

 『働きたくなる育成ゲーム「マジギレカーチャン物語」』は、外界からの隔絶された小宇宙“引きこもり部屋”を舞台にした、異色の放置型クリックゲーム。本作を徹底的にプレイすれば、誰もが働きたくなってくる!?


カーチャンが潰すのは暇なのか、息子が働かない理由なのか? 『働きたくなる育成ゲーム「マジギレカーチャン物語」』【とっておきインディーVol.26】_08

 ニートと引きこもりを併発したおっさんのもとにあらわれたのは、愛らしい妖精……ではなく、気持ち悪い妖精だった! “エサ”の匂いを嗅ぎつけて大量発生し、働かない言い訳を増殖させていく妖精たちに業を煮やしたのは、おっさん自身ではなく、おっさんのカーチャンだった!! 『働きたくなる育成ゲーム「マジギレカーチャン物語」』はそんな、現代ファンタジーでありながら、設定のリアルさがイヤ~な感じに引き立っているタイトルです。やること自体は単純。放っておくとつぎつぎと増えていく妖精――通称、“NEET”を画面タップで倒す。これだけです。武器は、初期状態では近接戦闘用のふとん叩きのみ。プレイを進め、新武器を入手し強化することで、自分好みの爽快感を得られるはずです。NEETを仕留め損なって逃がしたり、画面がNEETで覆いつくされたとしても、何のペナルティーも発生しないのは、本作の舞台が“もはや好転する以外の変化が起きようがない状態”だからかもしれません。

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▲少し目を離しているだけで、画面を埋め尽くさんばかりに増殖する、小憎らしい妖精たち。一気に排除せよ!

 プレイの目標となるのが、おっさんの社会復帰。そのためには、ただがむしゃらにタップするだけではらちが明きません。社会復帰レベルに応じて投入するエサを変え、ありとあらゆるタイプのNEETを出現させて確実に仕留める、ある程度の攻略意識が必要になります。状況の進行度の目安となるのが、おっさんが綴る“日記”。最初のうちこそ、昨今のネット文化の影響を受けまくった文体で軽口を叩いているのですが、徐々に現状のままならなさを呪う発言が増えていき、ついには……といった具合に、怒涛の展開を見せます。物語としての最終的な落としどころはあまりに予想外でしたが、働かない言い訳を出し尽くさせた達成感は、しっかり味わえました。

 本作をプレイして痛感したのは、カーチャン的な存在・意識の大切さ。プレイヤーにとっての暇潰し行為の中、年齢(推定60代)をもろともせず、じつに活き活きと動き回る彼女の姿は、いかなる物事に取り組む際にもどこかしら持っていたい、“ワクワク感”の象徴のようです。デリケートなテーマを扱いながら、ペシミズムにも脳内お花畑世界にも傾倒しない本作のバランス感覚は、イイ感じに、リアルです。

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■カーチャン
引きこもりのおっさんを息子に持つ、年配女性。息子の部屋に大量発生するNEETを、ときに絶叫を上げながら、さまざまな武器で蹴散らす。

■似人(NEET)
深い溜め息とともに出現する、不思議な妖精。それぞれ、社会に出ない言い訳の決めゼリフを持っている。

■“攻めの放置主義”で汚部屋を浄化せよ

 エサを撒いておびき寄せたNEETは、画面上をタップして撃退できる。とどめを刺したNEETの“魂”はストックされ、エサの設置コストや武器の購入・強化コストとして利用可能。一定数のNEETを倒すごとに、レベルアップ。

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▲エサは、一度に設置する個数によって有効時間が15分~8時間に変化する。
▲武器は全部で5種類。それぞれ、独自の攻撃モーションを持っている。

■そして刻まれる母の闘争の記録

 新たに出現し、撃退したNEETは、図鑑に随時登録されていく。各NEETの出現条件は、到達レベルと設置するエサによって変化する。図鑑のヒントを参照しつつ、根気よくプレイしよう。ちなみに、NEETの捕獲が進むと、おっさんの日記が更新される。最初のうちは文面にも余裕があるが……!?

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NEET図鑑
息子の日記

開発者INTERVIEW 井村剣介氏(GAGEX代表)

■しっかり遊べるカジュアルゲームとして……

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――ニートをテーマにした理由は?
井村 実体験にもとづいているわけではありません(笑)。ご好評いただいた前作(『心にしみる育成ゲーム「昭和駄菓子屋物語」Google PlayApp Store)は、ゲームとしては、画面に出てくるものをスワイプするだけの内容でした。その基礎システムを使い回すといってはアレですけど、大きく変えずに、もう少しゲーム性を持たせられないだろうか……というのが、発想の大本です。「画面にいっぱい増える何かを倒す感じにしたらおもしろくなりそう」、「どうせやっつけるなら気持ち悪いもの、すぐにも追い払いたくなるものがいい」という連想から、汚い部屋がきれいになっていくイメージに結びつきました。

――開発体制について教えてください。
井村 弊社は企画とパブリッシングで、開発は、前作と同じゲーム制作会社、2D Fantasistaさんにお願いしました。開発期間は4ヵ月くらい。前回よりも生みの苦しみがありましたけど、比較的スムーズにいったと思います。

――生みの苦しみ、というのは?
井村 カジュアルだけど、ゲームとしてきちんと遊べる内容をどこまで突き詰められるかが、勝負でした。基本的には画面を連打するだけですが、敵が逃げ回ったりとか、武器ごとに違った感覚で遊べるので、ミニアクションゲーム的なおもしろさは前作よりも出せたと思っています。

――もっとも高価な武器“掃除機”を手に入れた時は、その性能に驚きました。
井村 掃除機は、ちょっと強すぎましたね(笑)。

――ゲームバランスを調整される際に心がけたポイントは?
井村 卑近な例でいうと、母親とか奥さんとか、ゲームプレイのリテラシーがそれほど高くない人がやってふつうに遊べるレベルで、かつ、攻略要素が少しあるものを心がけました。クリアーまでのプレイ時間は意図的に長めに設定しました。そこは開発スタッフと十分に相談した上での判断ですが、ユーザーさんにどう捉えられるかは、若干不安でもあります。

――ちなみに、クリアーまでの想定プレイ時間は?
井村 1日にどのくらいプレイするかによって変わってきますが、ふつうにやったら1週間から10日くらいですかね。本当にぶっ続けでやれば1日24時間で終わると思いますが……。

■デザインコンセプトは「カワイイ&気持ち悪い」!?

――本作の魅力は、キャラクターデザインによるところも大きいと思います。カーチャンをはじめ、NEETたちもかわいいですよね。
井村 カーチャンは、デザインが決まるまでがたいへんでした。おかげ様で、「カーチャンがんばれ」、「かっこいい」といったコメントをいただけるキャラクターになりました。NEETに関しては、デザイナーさんに、かわいいと気持ち悪いのちょうどいいバランスをとってもらったと思います。

――NEETは種類が多くて、新種が出現するのが楽しみでした。正直、あまり気持ち悪さは感じなかったのですが……。
井村 登場時のボイスといっしょに見ると、けっこう気持ち悪いですよ(笑)。図鑑で確認できる、それぞれの働かない言い訳とそれにたいするカーチャンのツッコミは私が書きましたが、外見と名前はデザイナーの方にお任せしました。それぞれの名前はデザイナーさんが仮につけていた名前がどれもよかったので、そのまま使わせていただきました。

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■ゲーム性と物語のバランス感覚

――前作の“手紙”に相当するものとして、今作では“日記”が、ゲーム世界のバックストーリーの表現手段として用いられています。こうしたスタイルはGAGEXの作風ととらえてよいのでしょうか?
井村 前作、今作とも、タイトルに“物語”という単語が入っていますが、「ゲームとして楽しい」というのと、「物語の先が気になる」という両輪でプレイしたくなる作品を作れればいいなとは、つねに思っています。シナリオは私が担当していますが、“物語を読み進めていくことのおもしろさ”を意識した構成にはこだわっています。

――物語が、ある種の哀愁を漂わせるテイストに仕上がっているのは、“ゲームのストーリーテリング手法に合わせたら、自然とそうなってしまった”ということでしょうか。
井村 どちらかというと逆ですね。シナリオがもともとゲーム世界の設定とともにあって、「それをどういう風に見せたら新しい見えかたになるかな」と考えた結果、このようなゲーム形態に落ち着いた……といったほうが正しいかもしれません。

――ということは、ペーソスの部分は井村さんの趣味だと?
井村 毎回そういうことをやりたいわけではないんですけどね(笑)。

■無料だからこそ作れるゲームを

――GAGEXではプログラマーを募集中とのことですが(※)、これはゲーム制作の規模拡張を見据えてのことなのでしょうか?
井村 リリースしたゲームを自社内で改良できる体制は、整えておきたいですね。先々を考えると、ゲームサーバーを使ったゲームも作っていきたいので、そういう部分のエンジニアリングもお任せできればと。

――これまでにリリースしたタイトルはいずれも、広告マネタイズによる無料配信アプリですが、今後は課金型のゲームを開発・リリースする可能性もある、ということでしょうか?
井村 課金要素を入れると、ゲームの規模を大きくせざるを得なくなります。変な言いかたですけど、課金要素を入れると逆にできない規模だったり、ゲームシステムがあると思うので、GAGEXとしては、“無料だから実現できるコンパクトなゲーム性”を追求していきたいですね。

――ゲームは、無料で提供し続ける意義が十分あるコンテンツだ、と?
井村 そう思います。いま、スマホで初めてゲームを体験する方、スマホでしかゲームをやったことがない方がいっぱいいるわけですが、そういう方々に「ゲームってもっと間口の広いもので、おもしろいものですよ」ということを伝えられれば、うれしいですね。その上で、きちんとゲーム性のあるものを提供していきたいという思いがあります。

※GAGEXでは、プログラマー、エンジニアを積極募集中。「いっしょにおもしろいゲームを作りたいという方は、弊社サイトやSNS経由でも結構ですので、ぜひご応募ください!」(井村氏)


働きたくなる育成ゲーム「マジギレカーチャン物語」
メーカー GAGEX
対応機種 iOSiPhone/iPod touch / AndroidAndroid
発売日 配信中
価格 無料
ジャンル シミュレーション
備考 開発:2D Fantasista 対応OS:iOS(iOS 5.1.1 以降)、Android(4.1 以上)