サクセスストーリーの裏話から今後の野望まで!
2015年4月9日~10日、福岡にて、ベンチャー・スタートアップ向けのイベント“B Dash Camp 2015 Spring in Fukuoka”が開催中だ。本イベントでは、国内外のインターネット業界の第一線で活躍する経営者や業界関係者など、錚々たる面々が登場し、貴重なセッションなどが実施されている。ゲームファンにとっても見逃せないセッションが多いので、随時リポートをお届けしていく。
ここでは、グリー 代表取締役会長兼社長 田中良和氏による、“グリー10年の軌跡とこれから”と題したセッションのリポートをお届けしよう。
本セッションの趣旨は、グリーがネットビジネスにおいて最大手企業のひとつとなるまでの軌跡を振り返りつつ、いま、そしてこれから目指していくものを訊いていくというものだ。
というわけで、話はまず、グリーの起業当初のお話から。グリーは最初は田中氏を含めたふたりで2005年に起こした会社で、家賃14万円のマンションの一室から始まったのだそうだ。初年度の売上は2200万円、利益は200万円。それが、2014年度は売上が1256億円、利益が350億円の規模に。10年間の累計では売上5528億円、利益2264億円に達するというのだから、これ以上ないくらいの大成功と言えるだろう。
そんなグリーだが、田中氏が起業当初にもっとも苦労したのは、人材面だったという。会社を起こすとなれば社員を集めなければいけないが、それまでは楽天のいちエンジニアだった田中氏は、サラリーマン時代には部下がいたこともなかったし、面接をしたこともない。どうやって人を集めたかというと、友人のつてを頼るしかなかったのだとか。しかも最初のひとりは、エンジニアとして来てもらったはずが、やってきたのは経理しかできない人。それでもほかにいないので、ということで採用したのだそうだ。ふたり目、3人目は大学生のアルバイトをそのまま採用。4人目は、営業に来たサイボウズの社員に、「わかった、買うからうちにきてくれ」と口説き落として来てもらった……と、まるでマンガかドラマのようなストーリーだ。
いまや高い競争率をくぐりぬけた優秀な人材を、2000人近く抱えるまでになったグリーだが、田中氏は選んでもらうために精一杯だったころの苦労が強く心に残っているそうで、「いまでも、入ってきてくれる人への、ありがたいという思いは強いですね」(田中氏)とのことだった。
PC向けからフィーチャーフォンへの大転換
人材面と並んで苦しんだのは、やはり資金繰りの問題。前述の通り、口説き落として入社してくれた人たち、とくに大手企業でエンジニアをしていた優秀な人の場合、半分ほどの給料になってしまうこともあり、その点ではとても心苦しかった、と田中氏。
そしてグリーにとって大きかったのは、PCベースのサービスから、フィーチャーフォンへのシフトを決断したことだ。PCでも30万~40万人ほどのユーザーを抱えていたグリーだが、このままでは会社として大きくならないと考えた田中氏は、ちょうどフィーチャーフォンのデータ通信定額制が始まったこともふまえて、一気にフィーチャーフォン向けサービスに舵を切ることを決断する。PCである程度の実績を作っていただけに、社内からは反対の声もあったそうだが、田中氏が“うまくいったらこうなる、ダメならこうなる”とキッチリとプランを提示して説得したところ、結果的に社員全員が賛同し、一丸となって新しい道へと進むことができたのだそうだ。ここで改めて田中氏は、業態を転換するような大転換点では、「社長として問われるのは、どれだけ確信をもって実行できるかです」と強調した。
“コンプガチャ問題”、そのとき田中氏は……
さらに話題は、グリーが成長していく過程で起こった、“コンプガチャ問題”などにも及んだ。田中氏は当時を振り返り、「何が起きているのか、咀嚼するのに時間がかかった部分がありますね」と語る。いいサービス、ユーザーが求めてくれるサービスを提供して、楽しんでもらおうと努めてきたのに、突然社会問題となったことで、「自分たちがしてきたことの、何がよくなかったのだろう? と、問いかける時間が必要でした」(田中氏)。
しかし田中氏は、そんな自分たちが未熟だったのだ、と断言する。すでに累計で数千万人規模の人たちが遊ぶサービスを提供していたグリーだが、もともと小さな会社から始まっただけに、それほどの規模のサービスを提供することの重要性や、社会的な責任、説明することの必要性を理解できていなかったのだ、と。
とはいえ、それは一気に認識を切り替えられるものでもない。田中氏は、自身の経験を業界にフィードバックするべく、ベンチャーの集まりなどでは、ことあるごとに、会社として責任を持つべきことについて説明するよう意識しているのだそうだ。
ゲーム事業の展望・マーケットは今後もまだまだ伸びる!
グリーの海外展開についても語られた。海外展開については、チャレンジを進めるなかで、うまくいったことも、失敗したこともあり、さまざまな経験をしたという田中氏。いまでは、北米の信頼できるスタジオで多くのネイティブアプリ開発を任せているそうだが、田中氏がひとつの結論として語ったのは、現地の代表、CEOにすべて任せてうまくいかないなら、それはうまくいかないことなのだ、ということ。というのは、田中氏の分析では、日本で成功している会社は社長のオペレーション能力の高さに支えられてるケースが多い。しかし同様のことを海外の会社に対して行おうとしても、そもそも時差の問題がある以上、うまくいくはずがない、というわけだ。
そしてここからは、今後のグリーの展開に関するお話に。まずネイティブアプリへのシフトについては、人材の配置はほぼ完了したとのことで、いよいよ本格展開することになりそうだ。とくに『消滅都市』は順調に推移しているそうで、田中氏やスタッフたちも、大きな手応えを感じているそうだ。
そして改めて田中氏は、ゲーム事業については、あきらめずに継続していくことが大事である、と強調。田中氏の考えでは、ゲーム事業は、今後まだまだ伸びるはずだという。田中氏によると、ゲームマーケットの規模は、いまは日本:中国:北米が1:1:1だが、今後は中国が1.5~2倍に成長し、さらには現時点では市場になっていない東南アジアなどでも拡大することで、今後10年間で、ゲームマーケットは2倍、3倍に達するだろう、とのことだった。
消滅都市 CM「予告」篇 30秒
住まい、健康……近い将来の“eコマース”の形がそこに?
さらに、グリーのゲーム事業以外での展開についても語られた。グリーのいまの大きなテーマは、“大きな意味でのeコマース”なのだとか。田中氏は、Airbnb(個人宅を宿泊場所として貸し借りするためのサービス)や、Uber(タクシー配車サービス)などを見て、これこそが新しいネットの活用法なのだ、と強く感じたのだそうだ。
田中氏は20年前、Amazonを初めて知ったときには、「メールで注文を受けて、ガレージに集めた本を郵送するなんて、テクノロジーもないただの本屋だし、ネットビジネスじゃないよ」と感じたという。しかし、いまのAmazonのサービスはネットビジネスの最大手と言える存在に成長している。UberやAirbnbも、5年前には誰もネットサービスだとは思わなかっただろう、と田中氏。
同様に、5年や10年後になって、ネットビジネスだとは思われていなかったものが、超ハイテクなネットビジネスになっている……といったことが起こりうるし、それをつかめるかどうかが大事、というわけだ。そうした観点から、リフォームなど住まいに関係するプラットフォームや、健康やヘルスケアのプラットフォームを作りながら、新しい、広い意味でのeコマースを作っていこうとしているのが、いまのグリーの新しい挑戦、ということになる。これらについては、「当たると信じています。自信ありますね」と、力強く語る田中氏。どれほどの成功に導くのか、その手腕に注目だ。
最後に田中氏は、グリーほどの成功を達成した起業家として、また新たに起業をしてみては? との問いに、「よく言っていることですが、人生で二度とやりたくないことランキングの1位が起業なんです。こんなに辛いこと、二度としたくない(笑)」と、冗談めかしつつ否定。同時に、スティーブ・ジョブスが30年を費やして多くの製品開発を積み上げ、ついにiPhoneにたどりついたことを引き合いに出しつつ、積み上げたものがあってこそできることがある、と説明。今後も、グリーが10年をかけた積み重ねがあってこそできるビジネスに挑戦していきたい、との意欲を語ってセッションを締めくくった。