言語マイノリティの開発者を救うためのサイトを4月末より開始予定
今月頭にサンフランシスコで行われたゲーム開発者向けカンファレンスGDCで、オランダのインディーゲームスタジオVlambeerの共同創設者Rami Ismail氏の行った講演“We Suck at Inclusivity: How Language Creates the Largest Invisible Minority for Games”は、実に奇妙な内容だった。
講演の大半は、冒頭からずっと、エジプト人の父を持つ同氏がアラビア文字の読み方を教えていく内容。「はい、この文字はこう読みます。それじゃこの単語が読める人? はい、正解! 次はわかるかな?」 こんなノリが30分の公演中、8割を占めた。「こりゃあ、“ハズレ”を引いたかな」と思った人も多かったと思うが、それは大きな間違いだった。
「それじゃあ大分練習したから、これわかるかな」と提示されたのは、『バトルフィールド3』の初出時の“Fault Line”デモの1シーン。ビルの屋上で釘付けにされて、仲間の援護射撃とともにスナイパーが潜む対面のホテルへロケットランチャーを撃ちこむ場面だ。ホテルの看板には、何らかのアラビア語の下にHOTELと英字表記。普通はアラビア語の部分がなんかの固有名詞で「なんとかホテル」という看板だと考えるのが普通だろう。
しかし、習ったとおりに解読していくと、出てきた意味は「ホテル」の逆。つまり日本語なら「るてほホテル」(※)と書かれた看板だったのだ。間抜けなオチに笑いが起こった会場に対して、同氏は続けた。(当初「ほてるホテル」としていましたが、アラビア語の文字の並びが逆という部分を見落としていました。お詫びとともに訂正致します。)
「1億ドルかけたゲームでこの有り様だ。アラブ人を“リアルに”殺すゲームを作ってて、この程度の間違いを見直す手間を取らなかったんだ。このゲームだけじゃない。アラブ語が出てくるものはほとんど間違っている。まじでクソだ!」
そして話をゲーム業界における非主要言語の扱いから、ゲーム開発の情報流通におけるそれへと発展させる。「ゲームは主に英語と日本語が話されるところで作られてきた」。しかし時代は変わった。インディーゲームの広がりにおいて、優れたアイデアや切実な創作欲求を持つ人は世界中にいる。グローバルゲームジャムで、エジプトのカイロ会場には実に800人が集まったという。
しかしそんな状況下でも、ゲーム開発の主要言語は英語だ。アラビア語の場合、コミュニケーションのためのコピーアンドペーストすらまともに動作しないことがあるという。
「じゃあ英語を学べよ、と言うかもしれないが」と続けた内容は、英語圏から独立した独自のコミュニティがあったりする日本では伝わりづらいかもしれないが、それらがまったくなくて、イチから自分ですべて調べなければいけない場合を想定してみてほしい。
「ビデオゲームには業界内でしか通じない専門用語、業界用語だらけで、それが毎週のように追加されていく。英語のネイティブ(の非ゲーム開発者)すら意味不明なものが、どうやって平均的な開発者にわかるっていうんだ? 世界中をめぐっていろんな優れた開発者に会ったが、単純に情報へのアクセスが難しいんだ。だから……」
そうして発表したのが“gamedev.world”。ゲームデザイン論やセオリー、批評、論争など、英語圏で流通する有益なゲーム開発情報を非英語圏の開発者に向けて共有するウェブサイトで、4月25日頃からスタート予定。まずはスペイン語、ポルトガル語、ロシア語、アラビア語、中国語(簡体字)での情報提供を開始するという。
言語という壁を破壊して、まだ見ぬゲーム開発者の仲間を助けるという決意表明。延々と続いたアラビア語講座に「まだそれ続けるの?」と徐々にダレていた空気は最後の怒涛の展開に吹き飛ばされ、スタンディングオベーションへと変わった。