山口雄大氏が語る!

 先日、セガより日本国内発売のアナウンスがあった『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』(→こちら)。北米ではすでにSEGA of Americaから発売(2014年10月7日発売)されていることを知っている人も多いだろう。北米版の対応機種はプレイステーション4、プレイステーション3、Xbox One、Xbox 360、PC。映画『エイリアン』の世界を踏襲したホラー要素の強いアクションアドベンチャーである本作は、一部のファンから熱狂的な支持を集めていることをご存じだろうか。映画監督・山口雄大氏も『Alien: Isolation』に魅了された人のひとりだ。ここからは、『Alien: Isolation』をやり込んだ、山口雄大氏のプレイインプレッションをお届けしよう。

映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_01
山口雄大氏
映画監督。2003年『地獄甲子園』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のヤングコンペ部門でグランプリを受賞。『魁!! クロマティ高校』や『エリートヤンキー三郎』など、とても実写化できそうにないギャグ漫画を、あえて実写化するのが得意芸でもある。現在、某有名マンガの映画化を進行中だとか。また、無類のゲーム好きが高じて、週刊ファミ通でのコラム連載や、『KILLER IS DEAD』 のカットシーン制作など、ゲーム業界でも精力的に活動。発売直前の『バイオハザード リベレーションズ2』では、カットシーンの制作を担当している。

“あなたも、映画『エイリアン』の主人公になれる!!”

 1968年、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』は、それまで、銀色のスーツに身を包んだコスチュームプレイに捕われていたSF映画が、芸術たりうることを証明しました。そして1979年、リドリー・スコット監督により作られた『エイリアン』はSFホラー映画というものの価値を引き上げました。

 もちろん、SFという観点で言えば1977年の『スター・ウォーズ』の影響は避けて通れないのですが、着ぐるみとわかってしまうロボット、宇宙人とともに冒険する壮大なるマンガ/スペースオペラである『スター・ウォーズ』に対して、リドリー・スコットの提示したのは、宇宙船の乗組員を労働者として捉え、その所有者を日本企業と設定し、船員たちは『平凡パンチ』を愛読する、我々の生きている世界と地続きの世界観でした。

 いまでは、『エイリアン』と『ブレードランナー』によって現代SF映画の基礎を作り上げたと称されるリドリー・スコットですが、『エイリアン』以前はそれほどSFに対する造詣が深いわけでもなかったといいます。イギリスでCM監督として確固たる地位を築いていたリドリーは、1977年、かねてより念願だった映画監督デビュー作『デュエリスト/決闘者』を作りました。中世の史劇を独特の映像美で綴ったこの作品は、高い評価を得たものの興行的には成功せず、映画監督を続けていくには次作ではヒット作が必要でした。

 そんなとき、たまたま見かけたフランスのマンガ家メビウス(ジャン・アンリ・ガストン・ジロー。SF・ファンタジー作品を手掛けるときのペンネームがメビウス)のイマジネーションの虜となり、彼のビジョンを再現したSF映画を作りたいと熱望するようになります。

 しかし当時、空前の大ヒットとなっていた『スター・ウォーズ』を見て、激しい挫折を味わいます。「俺が作りたかったSF映画とはこれだ!」。作る前に完成形を見せられてしまい困惑するリドリーの前に、ホドロフスキーの『DUNE』が制作中止になって途方に暮れていたダン・オバノンが現れます。彼が暖めていた脚本”スタービースト”を読んで、メビウスとも『スター・ウォーズ』ともまったく違う世界観を持ったこの企画にリドリーは歓喜します。さらにオバノンは現在のホラー映画の頂点としてリドリーに『悪魔のいけにえ』を見せて恐怖映画というものを理解してもらいました。

 そうしてインスピレーションを湧かせたリドリーは、従来の着ぐるみ宇宙モンスターが当たり前のように闊歩していたSFホラーというジャンルに新風を吹き込むべく、『DUNE』よりデザイナーのロン・コッブ、そしてクリーチャーデザインにスイスの画家で彫刻家のH・R・ギーガーを徴集し、タイトルも『エイリアン』と変え、誰も見たことのないSFホラー映画の制作に着手することになったのです。

 こうして作られた『エイリアン』は大ヒットして続編も作られたことは皆さんもご存じでしょう。しかし、SFホラーと堂々と言えるのはリドリーが監督した1作目だけで、ジェームズ・キャメロンが監督した『エイリアン2』は戦争映画、デヴィッド・フィンチャーが監督した『エイリアン3』は宗教色の強いSF、ジャン=ピエール・ジュネが監督した『エイリアン4』はまさにフランスのバンドデシネ(マンガ)からそのまま抜け出たようなコミックテイストのSFでした。
 
 ところで、先ほど名前を挙げた映画『悪魔のいけにえ』についても補足しておきます。1974年にトビー・フーパーによって作られたこの映画の元になったのはエド・ゲインという実在の殺人鬼。彼はアメリカ・ウィスコンシン州で殺人、または墓荒らしで集めた死体を使って自宅の家具を作っていたという狂人で、『悪魔のいけにえ』ではこれを殺人一家として拡大。殺した人々の肉はミートソースにして販売、その他の部位で家具を作っているというさらなるおぞましさを追加。

 さらに殺人鬼のレザーフェイスはその名の通り、醜い素顔を隠すために人皮で作ったマスクを被り、巨体を揺すぶらせながらチェーンソーを振り回して襲いかかるというビジュアル系殺人鬼に変化を遂げました。そうして完成した作品は、フーパー自身をして「二度と作れないし、作りたくもない」と言わしめた奇跡的な名作として知られています。

 この『悪魔のいけにえ』をベースにしたわけですから『エイリアン』が純然たる恐怖映画になるのは当然のことで、殺人一家の棲む家が宇宙船ノストロモ号、レザーフェイスがエイリアンに、と図式はそのままです。さらに両者において顕著なのは、恐怖の対象が“絶対恐怖”の存在であり、襲われる側はその圧倒的な恐怖の前にひれ伏すのみで、ひたすら逃げるしか術はないということです。1980年代になると、ホラー映画の“絶対恐怖”の黄金律は崩れ、『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』などによって襲われる側が攻撃を仕掛けられるようになり、場合によっては恐怖の対象に打ち勝ってしまう、というのがふつうになってしまいました。ですから、1985年に作られた『エイリアン2』でリプリーがエイリアンクイーンに戦いを挑むのも、時代の流れの中で受け入れられたというわけです。

 ですが、やっぱり『エイリアン』はリドリーの1作目に限る! というファンの支持はいまでも熱くあります。僕なども、はじめて見たときはあまりの怖さにクッションを握りしめ、顔を隠しながら薄眼で見ていた記憶があります。それほど、リドリーの『エイリアン』というのは“絶対恐怖”の存在だったのです。点滅する非常灯の合間からチラリと見えるエイリアンの姿がどれだけ怖かったか。エイリアンの全体像がなかなか掴めないリドリーの演出がすばらしく、はじめて全体像が現れたときの巨大さ、そしてグロテスクでありながらも神々しくも見える絶妙なデザインにはため息が漏れたものです。

 その感覚は、残念ながら『エイリアン2』以降の続編には感じられなかったですし、スピンオフである『エイリアンVSプレデター』には微塵もなくなってしまっていました。またあの感覚を味わいたい。“絶対恐怖”の存在に震え上がりたい。そうしたファンの渇望は、長年、叶えられずにいました。

映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_02

 ところが2014年、突然現れたゲーム『Alien: Isolation』がそれを成し遂げてしまったのです。ほかの『エイリアン』フランチャイズのゲームにはなかったストイックさとマニアックなまでのこだわりを満載にして。

 旧20世紀フォックスのロゴがブラウン管の画面加工で現れる冒頭から、本気さが伝わります。そして、シンプルなタイトル画面に被さるジェリー・ゴールドスミスのサウンドトラック。雰囲気はバッチリです。そして肝心のゲームの中身はというと、画面はFPS、でもシューティング要素はなく、ほとんどがステルス。もちろん“絶対恐怖”の存在であるエイリアンからひたすら逃げるだけ。火炎放射器といった武器も手に入りますが、それはあくまでもエイリアンを足止めするだけに留まり、攻撃は加えられない。それによってゲーム中、「いつどこからエイリアンがやってくるのか?」という、すさまじい緊張感でゲームを進めていくことになります。ひたすら逃げるだけと言うと、目的もなにもないゲームに見えてしまいますが、ストーリーもファンの勘所をガッチリ掴んだすばらしいものです。

映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_06
映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_05

 リドリーの『エイリアン』の最後でノストロモ号のただひとりの生き残りとなったエレン・リプリーはコールドスリープに入りました。そして『エイリアン2』の冒頭で、漂流しているところを発見されたリプリーに、衝撃的な事実が告げられます。彼女は57年間漂流しており、そのあいだに両親も、愛娘も亡くなっていた、と。映画では彼女が漂流していた57年間になにがあったのかは語られていませんが、そのあいだを埋めるのが、本作のストーリーというわけです。

 リプリーがコールドスリープしてから15年後、娘のアマンダ・リプリーは母親と同じ航海士になっています。そして、アマンダのもとに音信不通となった宇宙船の捜査依頼が舞い込み、もしかしたら行方不明の母親の消息がわかるかもしれないとアマンダは宇宙に旅立ちます。しかし、そこには母親を苦しめた、あのエイリアンの姿があった。

映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_03
映画監督・山口雄大氏が語る『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』【プレイインプレッション】_04

 本作のすべては30年前に作られたリドリーの『エイリアン』から外れることはありません。現在のSFではもっとハイテクノロジーとして描かれる宇宙船内の描写も、徹底的に30年前のままです。ですから、船内で操作するパソコン画面も簡素な緑の文字が羅列されているだけですし、入力も、旧式のキーボードです。唯一エイリアンを補足できる装置として持っているモーショントラッカーも、まったく性能がよくありません。エレベーターを呼ぶにも時間がかかりますし、自動ドアはいちいち大きな音を立てて開きます。これらの手間取る要素のすべてがリドリーの世界観を完璧に再現しているばかりか、そのもどかしさこそが本作独特の緊張感を生み出しているのです。

 たとえば、現代のゲームに倣ってもっとギミックを増やしたり、派手な見せ場の連続にすることも可能だったでしょうし、『エイリアン2』に登場した強力なプラズマライフルなどを登場させれば、シューティングゲームとしてはおもしろくなったでしょう。ですが開発者たちは、その道を選ばずにストイックにシンプルにこのゲームを仕上げました。それこそがリドリーの作った『エイリアン』だったからです。

 これほどまでに、愛情を込めて作られたシネマゲームがかつてあったでしょうか? 名前だけ借りて、ストーリーをなぞっただけのおざなりなゲームが多い中、こうした“本物”のゲームがようやく登場したということがうれしくてなりません。現在のゲームにおける技術の進歩はめざましいものがありますが、なんでもかんでもリアルにするのではなく、こうして過去を振り返ることによっても完璧な“追体験”を生み出せる、と教えてくれたような気もします。日本での発売が待ち望まれていた作品ですので、この機会にぜひプレイしてみてもらいたいです。

 最後に、ファミコン時代のシネマゲームにあったようなダサいキャッチで締めたいと思います。

“あなたも、映画『エイリアン』の主人公になれる!!”

 これ、ようやく本当になりました。