『ピクミン ショートムービー』は、後日ニンテンドー3DSで配信予定
2014年10月25日“第27回 東京国際映画祭”(23日~31日まで開催)にて、短編アニメーション映画『ピクミン ショートムービー』の上映を記念するトークイベントが開催。任天堂の宮本茂氏と、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏による対談という形式で行われた、その模様をお届け。
『ピクミン ショートムービー』は、『スーパーマリオ』や『ドンキーコング』、『ゼルダの伝説』など、数々のゲームシリーズを生み出してきた任天堂のプロデューサー、宮本茂氏が、ゲームでは描ききれないキャラクター表現の研究として始めたプロジェクトの成果である、短編アニメーション作品。『ピクミン』シリーズが短編アニメーション作品となるのは今回が初めてとなる。現時点では“第27回 東京国際映画祭”で特別3D上映されたのみだが、後々、ニンテンドー3DSでの配信を予定しているとのこと。
◇『ピクミン ショートムービー』あらすじ
ピクミンは、頭に葉っぱや花を生やした、不思議な生きもの。宇宙飛行士のキャプテン・オリマーといっしょに、星にあるさまざまな宝物を集めて暮らしています。3本の短編を収録したオムニバス作品です。
・“真夜中のジュース”(2分)
・“ビンの中のお宝”(8分)
・“たいへんな一日”(13分)
特別上映が終わると、最後列から来場者とともに観覧していたというふたりが登場。拍手でステージへと迎えられた。宮本氏が「Wii Uの『ピクミン3』をプレイしてもらえれば、今回のショートムービーのネタが3倍わかりますよ」と笑顔で挨拶しつつ、トークイベントがスタートした。
まずは、「何故、今回のショートムービーを手掛けることになったのか」という話題。宮本氏は「任天堂のゲームのキャラクターを映像化する、というお話はこれまで何度もありましたが、インタラクティブなゲームを作ることと、映像で観客を説得する、楽しませる作品を作ることとはまったく違うものです」と切り出した。また、「ゲーム以外のところでキャラクターに関してのネタ、設定などが作られると、後でゲーム制作に制限がかかってしまうかもしれないし、映像だけで納得してもらえるものを作るのは、とてもハードルが高い」ということで、そもそも映像化には興味がなかったとのこと。
しかしピクミンというキャラクターに関しては、「ゲーム内でもかなり細かいところまで動きを作っているのに、とっても小さいから画面を拡大しないとしっかり見ることができないんですよ。もっと注目してもらいたいなと思って、アニメーションを作ったほうがいいと思いました」(宮本氏)。
学生時代に4コママンガを描いていたという宮本氏は、「『ピクミン』はそういった4コママンガのような、2~3分くらいのショートコントをたくさん作るのに向いていると思いました。また、ニンテンドー3DSですでに映像配信などもやっていたので、そこで配信する用に、3Dアニメーションを作れないかと、なんとなく決めていきました」と制作の経緯を説明。宮本氏が宮本氏がニンテンドーDSiウェアの機能である“うごくメモ帳”(うごメモ)で絵コンテを制作して、それを基にCGアニメーションの制作会社が映像部分のほとんどを手掛けたという。会場では、宮本氏直筆の“うごメモ”絵コンテも公開された。
同プロジェクトのひとつとして、“E3 2012”で公開された映像も紹介。“Nintendo All-Access Presentation @ E3 2012”のオープニングムービーとして上映されたもので、楽屋で待機している宮本氏の周りをピクミンたちが遊びまわり、さらにステージへと呼ばれて登壇する宮本氏についていってしまうというもの。ステージに登場した後は、ステージ上や来場者たちの周りでピクミンたちが遊んでいるように同時合成を施した映像を見せる、といった仕掛けも行われていた。
こういったアニメーション制作の過程で「“自分の周りにピクミンがたくさんいる”ような状態を作りたくなったので、“動画シール”というものも考えました」と宮本氏。ピクミンの動きだけを切り出して、実写映像に貼り付けて遊べる……という想定のものだそうだ。実際に遊べるものとしては、ニンテンドープリペイドカードのおまけ“いっしょにフォト”があり、ピクミンたちがかわいく動いている様子はもちろん、“?”カードを使えば、ピクミンたちを食べてしまう敵キャラクター、チャッピーからピクミンたちが逃げ惑う、といった写真も撮影できる。
続いての話題は、映像のコンセプトについて。宮本氏は「親子で見てほしい。親子で楽しく見ることができて、なおかつ親も思わず入り込んでしまうものを作りたかった」と説明。また、国際的に配信することを想定して、いわゆるサイレント映画のように言葉(セリフ)を入れていないほか、あわよくば日本文化を世界に輸出する、という狙いで、ラムネの瓶や漢字といった“日本ローカル”なものを映像内に取り入れたとのこと。「ゲームで無茶なことをしてしまうと、遊ぶ側、プレイヤーが付いてこれないかもしれないですが、映像作品の場合はかなり大胆にしないと驚きがありませんからね」と、制作時のポイントについても語った。
公開されたショートムービーは2分、8分、13分の3本立てだったが、当初は3分程の映像を10本くらい作る予定だったという。しかし1本目を作った後に、いろいろネタを加えたり調整していった結果、どんどん長くなってしまったという。とくに3本目は、「ゲームではできないことをしたい」という宮本氏の思いの結果、最大500匹のピクミンたちが登場しているほか、群れているピクミンの大群など、さまざまなピクミンなどを表現するためにどんどん絵コンテが伸びていき、「気付いたら10分超えてました(笑)」(宮本氏)とのこと。ピクミンのモデリングのベースはゲームのものが流用されているが、大きなスクリーンで上映されることなどを想定すると、最新のゲームの約10倍の精緻なグラフィックスが必要とのことで、ほとんどは今回のショートムービー用に制作されているという。
ドワンゴ代表取締役会長であると同時に、スタジオジブリでは“プロデューサー見習い”の川上氏。会場では、川上氏がプロデューサーを務めている3DCGアニメーション『山賊の娘ローニャ』(NHKほかで10月より放送中)の紹介も行われ、宮本氏とはプロデューサーつながりということで、“プロデューサー業”についても語られた。川上氏は、「プロデューサーには二通りいると思います。細かいところまで口を挟む人と、お金周りを整える人。ちなみに私は、最初は口出したりしたけど、宮崎さん(『山賊の娘ローニャ』の宮崎吾朗監督)に採用されなかったですね(笑)」とコメント。
宮本氏は、「クレジットに自分の名前が入っている作品に関しては、企画を出したり、大まかなネタを出したりしています」としつつ、それだけでは作っている実感がないと語った。「作っている実感がないなと思って、入り込みすぎて作っていると、そこに酔ってしまう自分がいるんですよね」と、宮本氏。ちなみに今回のショートムービーに関しては、「多分、ゲームより入り込んで作っていたんじゃないかな。ショートムービーを作っていなかったら、ゲーム2本くらいは作れたかも(笑)」と、冗談を交えてコメントした。
また、トークイベントの模様はニコニコ生放送で中継されており、そのコメントに応える場面も。今回のショートムービーの続編を期待するコメントが多いことに対し、宮本氏は「あと何本、ゲーム作らなくていいかな?(笑)」と笑顔で応えつつ、「『ぼのぼの』みたいなショートフィルム的なものをもっとたくさん作りたい。“うごメモ”でネタを募集するのも楽しそうですし、いろいろな道を考えています」と語った。
最後は、来場者からの質問を受け付け。「『ピクミン3』で登場した新種ピクミンが好きではなかったが、ゲームをプレイして、とくに岩ピクミンがすごく好きになった。何故、ショートムービーには登場していないのか」という男性の質問に、宮本氏は「『ピクミン3』と同時に作っていたので、いろいろ決まっていなかったんです」と回答。
また宮本氏からは、「『ピクミン3』制作時に、スタッフから岩ピクミンのアイデアが提案されたときはさすがに驚きました。ピクミンは植物だから困ると(笑)。しかし、ガラスなどを壊すというギミックがあり、岩のほうがわかりやすいだろうという意見に納得したので、採用しました」と、“岩ピクミン誕生秘話”も語られた。さらに、「Wii Uの『スターフォックス』も作っていますよ(笑)」という宮本氏の近況報告も。
気になる『ピクミン ショートムービー』の配信時期については、まだ未定とのこと。“第27回 東京国際映画祭”で公開された3本の映像作品に加え、TOHOシネマズで流れるロゴムービーや“うごメモ”の映像など、さまざまな映像をセットにして配信予定だという。また、映像配信のタイミングに合わせてWii U用ソフト『ピクミン3』の体験版など、いろいろなイベントも準備しているとのこと。宮本氏は、「映像作品を入り口に『ピクミン』を遊んでもらえればと思います。また、すでに『ピクミン』を遊んでいる人にも見てほしい」と締めくくった。