ワーナー・ブラザース ゲーム開発の秘訣をゲーム事業部のトップに聞く 世界ナンバーワンのメーカーを目指して

『バットマン』シリーズを筆頭に、ここ数年立て続けにクオリティーの高いタイトルをリリースして大きな存在感を放っているワーナー・ブラザース(日本でのブランド名はワーナー エンターテイメント ジャパン)。躍進著しい同社のゲーム開発の方針とは? ゲーム事業を取り仕切るマーティン・トレンブレイ氏に、同社の戦略を聞いた。

●躍進の戦略とは?

 『バットマン』シリーズを筆頭に、ここ数年立て続けにクオリティーの高いタイトルをリリースして大きな存在感を放っているワーナー・ブラザース(日本でのブランド名はワーナー エンターテイメント ジャパン)。躍進著しい同社のゲーム開発の方針とは? ゲーム事業を取り仕切るマーティン・トレンブレイ氏に、同社の戦略を聞いた。(聞き手:本誌編集長・林克彦)

※本記事は、週刊ファミ通2014年10月16・23日合併号(2014年10月2日発売)に掲載された記事に加筆したものです。

ワーナー ブラザース インタラクティブ エンターテイメント
プレジデント
マーティン・トレンブレイ氏

ユービーソフトモントリオールのCOOやビベンディ・ゲームスなどを経て2008年に現職へ。ゲーム部門のトップとして、ワーナー・ブラザースタイトルを取り仕切る。

■自分たちの大切なIPは自社でしっかり展開すべき

――まずは、ワーナー・ブラザース(以下、ワーナー)がパブリッシャーの事業を始めるに至った経緯を教えてください。
マーティン ワーナーがゲームパブリッシャーとしてのビジネスをスタートしたのは2008年からです。それまでは他社さんに権利を提供する形でゲームコンテンツを提供していたのですが、大切なIP(知的財産)は、しっかりと自社で展開すべきだという判断になったんですね。世界中で成功されているパブリッシャーを見ても、鍵となるフランチャイズを自社でしっかりと展開していらっしゃる。“自分たちのIPは宝物”というわけです。そこでまずは自社タイトルのセルフパブリッシングから始めて、優秀なデベロッパーを取得するところまで事業を拡大していきました。この7年でロックステディ・スタジオを筆頭に、7つの開発会社を傘下に収めています。そういった環境を整えつつ、現時点では54ヵ国でゲームが提供できる体制になっています。ワーナーは、もともと世界中でBlu-rayやDVDのディストリビューション(流通)のインフラを持っているので、非常に役立ちましたね。

――自社でタイトルを展開したほうが、開発のノウハウも貯まりますしね。
マーティン はい。鍵となったのは『バットマン』ブランドですね。2005年にクリストファー・ノーラン監督の映画『バットマン ビギンズ』が公開されて以降、『バットマン』に対する認知度がさらに高まっていたんです。自分たちがIPの所有者であり、価値を創出していかないといけない。自分たちが開発に深く関わることで、『バットマン』シリーズをもっとも最適な形で展開できると考えました。結果として、『バットマン:アーカム』シリーズは、全世界で高い評価をいただき、シリーズ累計2000万本を販売するほどの大人気作となりました。1作目の『バットマン アーカム・アサイラム』シリーズは、“いままででもっとも高い評価を得たスーパーヒーローゲーム”としてギネス・ワールド・レコーズにも登録されており、私たちも、シリーズの成功を誇りに思っています。以降は、『シャドウ・オブ・モルドール』はモノリス・プロダクションと、『レゴ』シリーズはTTゲームズと、といった形で、自社IPを優秀なデベロッパーと組んで開発するという流れがメインになっています。実際のところ、メディア企業として、映画、テレビ、ゲームとすべて共通のIPで展開できるのは、ワーナーの強みと言えるかもしれません。

――『バットマン』シリーズに関しては、2015年に発売される『バットマン:アーカム・ナイト』で三部作が完結してしまいますね。『バットマン』シリーズはこれで本当に完結してしまうのでしょうか?
マーティン ロックステディ・スタジオの作る『バットマン:アーカム』シリーズは三部作で完結します。これは間違いないです。ただし、ロックステディ・スタジオはワーナーにとってプレミアムデベロッパーであり、本当に高い開発力を誇っています。そして、新世代機でできることはまだまだある。ロックステディ・スタジオからは、『バットマン』シリーズではないけれども、いずれ何か違うものが出てくるでしょう。

――『バットマン』シリーズではない、何か?
マーティン そうです。一方で、『バットマン』シリーズが今後どうなるかについては、現時点ではお話できません。いまは最新作の『バットマン:アーカム・ナイト』を楽しみにしていただければ……と思っています。同作は新世代機ならではの新しい体験をもたらしてくれる革新性に富んだ作品です。本作は、オープンワールドを舞台にしているのですが、東京くらいの大きさを持っていて、ロード時間がほとんどないんです。それは、ロックステディ・スタジオだからこそ実現できたテクノロジーと言えます。

▲2015年発売予定の『バットマン:アーカム・ナイト』。ロックステディ・スタジオによる『バットマン:アーカム』シリーズは、本作にて完結する。

――今年のE3(※)では、往年の人気格闘ゲーム『モータルコンバット』の最新作である『Mortal Kombat X』も大きな話題を集めました。ワーナーとしては、過去のIPを復活させる取り組みにも積極的に取り組むのですか?
マーティン 『Mortal Kombat X』は、E3で発表してトレーラーをYouTubeに公開したのですが、閲覧数が1200万ビューを超えたんですよ! 『バットマン:アーカム・ナイト』のPVが200万ビューだったことを考えると、いかに同作が熱心なゲームファンに待ち望まれていたか、おわかりいただけますよね。『Mortal Kombat X』に関しては、ワーナーとしても格闘ゲームに力を入れていきたいということで、4年前に『モータルコンバット』の権利を持っているミッドウェイゲームズを取得しました。『Mortal Kombat X』は映画でいうところの“リブート”にあたります。どちらかというと、新しいIPのような扱いですね。過去のIPの掘り起こしに関しては、毎年展開するといったことは考えていないのですが、技術的に卓越したものが出せることを課題にして、数年に1回くらいは展開していくかもしれません。ちなみに、『Mortal Kombat X』も新世代機専用のタイトルで、開発はネザーレルム・スタジオが担当しています。本当にクオリティーは高いです。

※E3……エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ。毎年6月にロサンゼルスで開催される世界最大規模のゲーム見本市

――日本で『Mortal Kombat X』がリリースされる可能性はありますか?
マーティン 個人的には、ぜひ! と思っているのですが、レーティング次第ですね(笑)。とても暴力的なゲームなので、国によっては販売がNGになってしまうんですよ。日本のゲームファンに楽しんでほしい1作です。

――一方で、最近だと『ダイイングライト』のように、自社ブランドにこだわらずにゲームを展開されていますね。タイトルセレクトの基準はどのような形で?
マーティン 鋭いところをつきますね(笑)。まず、『バットマン』や『ロード・オブ・ザ・リング』、『ハリー・ポッター』、『レゴ』など、定期的にリリースしていきたい自社IPがあります。一方で、私たちはディストリビューターとして、パートナーさんといっしょにタイトルを展開するということも手掛け始めています。私たちがグローバルの販路を持っているということに対して、魅力的に感じてくださるデベロッパーさんもけっこういらっしゃるんですよ。将来的には、こういったパートナーシップも非常に重要になると考えておりまして、『ダイイングライト』のようなビジネスモデルを持ったタイトルも、今後いくつも予定しています。

▲テックランド開発による『ダイイングライト』。オープンワールドを舞台にしたゾンビゲームの新機軸だ。

■新世代機+モバイルで真のグローバル企業に

――近年ワーナーのタイトルはクオリティーが高いですが、数多くのブロジェクトを抱える中で、どのようにクオリティーコントロールをしているのですか?
マーティン そうですね。強いていえば、デベロッパーとのコミュニケーションでしょうか。いま当社では、世界中の1700を超えるデベロッパーと仕事をしているのですが、どのデベロッパーとも密接にコミュニケーションを取りながら作業をしています。そういった連携の部分は大きいです。肝心なのは、ワーナーは品質管理がものすごく重要だと認識しているということです。コンシューマーゲーム機のビジネスにおいては、とくにその傾向が顕著です。私たちはパブリッシャーとして展開するときから、“ベストクオリティーのタイトルがベストセラーに結びつく”という考えを念頭に置いていたんです。私たちはそのための努力を惜しみません。

――そういった意味では、クオリティーコントロールの方法論はなくて、ただ地道な積み重ねがあるのみといったところでしょうか。
マーティン さらに言えば、私たちにとっては、品質イコールイノベーション(革新性)でもあります。遊んでいただける人につねに驚きを提供すること。もし、ワーナーのゲームのクオリティーが高いと思っていただけているのでしたら、それは驚きを与えることに成功したからだと思っています。

――なるほど。“革新性”こそが、ゲームにおいてもっとも重要なことというわけですね。
マーティン ただし、世界のマーケットで成功していくためには、“連携”が必要になってくると思っています。デベロッパーチームがいいものを開発したら、マーケティングチームがしっかりとした市場リサーチをして、セールスチームがちゃんと訴求していく。ワーナーでは、“まずはゲームありき”で、チームワークを組んでしっかりと展開していくというやりかたをしています。さらに言えば、家庭用ゲーム機では、発売後もしっかりとした継続的なサポートが不可欠だと思っています。従来は、一度ゲームをリリースしたらそれで終わりだったのですが、いまはそうではありません。リリース後も、最低12ヵ月はダウンロードコンテンツを用意しているんです。ゲームを遊んでくださる方たちと、私たちがしっかりとコンタクトを取れるような形で進めているというのが現状です。

――では、今後のゲーム市場で、どのような戦略を考えているのですか?
マーティン モバイルを重要視しています。当社では2018年にはゲーム業界全体に占めるモバイルの割合が40%を超えると考えているんです。とくにアジアではその傾向が顕著で、ワーナーが真の意味でグローバルに成長するには、モバイル戦略は不可欠だと思っています。とくに、日本、韓国、中国ですね。

――そのために、最近スマートフォン向けアプリを積極的に展開しているのですね?
マーティン そうです。『トムとジェリー ざくざくトレジャー』や『境界の黒翼 アサルトレイヴン』などのアプリは、日本のモバイルチームが日本市場をターゲットにしっかりと作り込んでいます。いずれ韓国や中国展開なども視野に入れております。韓国にも投資をして、インプレイ・インタラクティブという開発会社を傘下に収めたのですが、アジア地域の戦略拠点として考えているんです。

――モバイル向けゲームに注力していくとのことですが、今後は同一IPをプレイステーション4などの新世代機向けゲームと同時展開という戦略もあり得る?
マーティン なかなか興味深いご指摘ですね! じつは私たちは、『インジャスティス:神々(ヒーロー)の激突』というタイトルでちょっとした取り組みを行ったんですね。同作は、家庭用ゲーム機とスマートフォンで同時展開したのですが、家庭用ゲーム機版をプレイするとスマートフォン版のキャラクターがアンロックされるといった、連動を実施したんです。その結果、家庭用ゲーム機版が世界累計500万本、スマートフォン版の利用が累計3000万人という大ヒットとなりました。同作は北米では2年前にリリースされたタイトルですが、スマートフォン版はいまだに毎月かなりの収益を上げています。ユーザーさんの“エコシステム(※)”ができたというわけです。家庭用ゲーム機とモバイルのどちらでも使っていただけるような状態にしたおかげで、ふたつのゲーム体験をつなげられる状況ができました。ワーナーはそこにさらに、映画を絡められるわけですからね。

※エコシステム……複数の企業が商品展開をするにあたり、事業活動などでパートナーシップを組み、それぞれの強みを活かしながら共存共栄をしていく仕組み。

――今後、そういった取り組みも積極的に?
マーティン はい。たとえば、来年に『バットマン:アーカム・ナイト』がリリースされるのですが、同様の展開を検討しています。

――新世代機に対する戦略はいかがですか?
マーティン もちろん注力していきますよ! 私たちはハードウェアのパフォーマンスに深い感銘を受けています。とくに西洋では新世代機に対するシフトが早く、75~80%の人たちが、すでに新世代機向けゲームに移行しています。日本では若干そのスピードが遅いように感じていますが……。新世代機への移行はユーザーの動向にも大きな影響を与えまして、デジタル化が加速していると思っています。プレイステーション3やXbox 360の代に比べると、ダウンロード版での購入比率がぐんとあがっています。新世代機では、75%がパッケージ、25%がデジタル版くらいの比率になっています。デジタル化の波を見ても、今後ダウンロードコンテンツなどはさらに有効な戦略になってくると思っています。

――では最後に、ワーナーの今後のゲーム事業における目標を教えてください。
マーティン 世界でいちばん大きなパブリッシャーになりたいですね。“いちばん”というのは、“売上げ”の部分ではなくて、“利益”の部分でグローバルパブリッシャーとしてしっかりと成功したいと思っています。アジア市場もすごく重要視しておりまして、積極的に投資をしていく予定でいます。ただいま中国では、ビジネスパートナーを見つけているところです。もちろん日本市場でも存在感を高めたいと思っていますので、今後のタイトル展開にご期待ください。