寂しくも美しい湖畔で、霊視探偵が最後に視たものは――トリックが張り巡らされたアドベンチャー『The Vanishing of Ethan Carter』

The Astronautsの『The Vanishing of Ethan Carter』を紹介する。

 美しい自然に囲まれた湖畔の集落レッドクリークバレーで、イーサン・カーターという名の少年が消えた。人の最期を幻視する特異な能力を持つ探偵への、助けを求める手紙を残して。やがて到着した探偵は、すでにその土地に隠された闇が迫ってきているのを感じていた。
 「遅かったか」こうして霊視探偵ポール・プロスペロー最後の事件が始まる……。

 The Astronautsの『The Vanishing of Ethan Carter』は、一人称視点のアドベンチャーゲームだ。対応プラットフォームはPCとPS4で、PC版はすでに配信されており、Steamでは1980円、GOG.comでは19ドル99セントで販売中。プレイヤーは探偵ポール・プロスペローとなり、数々の変死体の謎や不可思議な現象に直面しながら、イーサン・カーター少年の後を追っていく。

 さて本稿は、基本的なゲームの基礎を紹介する【紹介編】、序盤をプレイしたり、ちょっと配信を見た人で察しのいい人なら気付く内容も踏まえた【詳細編】、エンディングまで辿り着いた人向けの【謎解き編】の三部構成でお届けする。

●紹介編:圧倒的な美しさと、ガイドやヒントなしで謎に巻き込むギミック

 本作で描かれるレッドクリークバレーの景色は、それだけで価値があるほど美しい。使っているエンジンはアンリアルエンジン4ではなく前世代の3なのだが、The Astronautsはその性能を最大限に活かしていると思う。同エンジンの開発元であるEpic Gamesのグループ内スタジオPeople Can Fly(現Epic Games Poland)の中心人物たちが集まって結成したチームならでは、といったところだろうか。
 それにしても、“股間を撃ったら高得点”の『バレットストーム』や、“敵がすげーいっぱい+でかい敵=超スゲェ”の『ペインキラー』のPeople Can Fly組から、こんなに美しく心に訴えかける情景が飛び出てくるとは!(失礼)

▲美しく、ちょっと不気味で、優しさと寂しさが同居するレッドクリークバレーの風景。

 冗談はさておき、『The Vanishing of Ethan Carter』は一人称視点の探索ゲームでもある。ヒントやガイド的なものは一切示されず、イーサンが巻き込まれている状況を探る上での手掛かりとなる変死体や怪異に遭遇するには、プレイヤーがとにかくレッドクリークバレーを歩き回らなくてはならない。
 ある殺人事件の謎解きが終わって、幻視により次の事件現場への手掛かりが示されることもあるが、「Aに行ったらしい」という情報が得られてもマップがないので、道なりにそれらしいところを歩いてみたりするしかない(予約特典には簡素な手描き地図がヒントつきとヒントなしの2種類収録されていて、詰まった時にはかなり役立つ)。

 しかしそういう趣旨の設計であるがゆえに、レッドクリークバレーの地形の作りや建物の配置は考え抜かれており、セミオープンワールドの世界をなんとなく自由に歩いていたつもりが見事に誘導されていたなんてことも多々ある。
 「線路沿いに森を歩いて、パッと開けたら橋の向こうに建物が見えたから、再び森に続いている線路を外れて気分転換にそっちに行ってみたら正解」といった塩梅で、できればファーストプレイはできるだけ情報を断ってプレイして欲しいのも、推理のネタバレどうこうより、ヒントのない探索で唐突に出くわす『フォールアウト』的な楽しみを味わって欲しいからだ。

 また同時に、世界が美麗に作り込まれているのも、本作において探索の比重が大きいことと無関係ではないだろう。レッドクリークバレーには、人気のない寂しさと、どこか心休まる懐かしい感じが同居する不思議な光景が広がっており、(個人的には)次の手掛かりを見つけるための作業ではなく、誰にも知られていない秘密のスポットの散策のような感じで心地よく探索を楽しむことができた。
 ちなみにロケハンの様子が予約特典のメイキング資料に収録されており、地元ポーランドの古い教会(1800年代中盤にノルウェーから移築)や実際の廃屋、寂れたトンネルなどを写真で撮影し、山奥の霧や空気感などにもこだわって再現しているようだ。

▲人の活気がない、終わってしまった田舎の風景。実際、プレイヤー以外の人間と出会うことはほぼない。しかし単なる廃墟美ともちょっと違う、どこか郷愁めいた感情を抱かせるのも事実だ。

 そうした探索の果てにプロスペローが遭遇する事件は、大きく分けて殺人と怪奇現象の2種類に分けられる。怪奇現象の謎解きはワンオフの作り(行ったら体験するだけのものもある)なので、ここでは殺人事件の推理パートの流れを紹介しよう。
 すでに説明したように、プロスペローは死者の最期を幻視する力があるのだが、変死体と遭遇しただけでは死者の記憶を呼ぶことはできず、死亡後に犯人によって動かされたものなどを元の場所に戻し、状況を再現してやらなくてはならない。いかに殺人が起こったかを推理するよりも、まずは死者にそれを語ってもらうために何が不足しているのかを推理するのだ。

 この思考過程の表現がユニークで、例えば公式コメンタリービデオに出てくる最初の事件では、軌道車を見つけて調べると、「血が付いている……」、「動物か?」、「人間か?」、「事故?」、「殺人か?」、「クランクがない」、「傷が新しい」、「最近使われたようだな……」、「クランク?」、「そうだクランクだ」、「クランクはどこにいったんだ?」といったような具合に、数ワードの言葉が浮かんでは消えていくという、海外ドラマ「SHERLOCK」さながらの表現がなされる。
 そして周囲を見渡すと何個も浮かぶ「クランク?」という言葉が一箇所に重なりあう方角があり、ビジョンを開くとその先に転がっているクランクの周囲の映像が見られるという仕組み。

▲死者の記憶を呼び出すには、現場から持ち去られた物品などを元の場所に戻してやる必要がある。その欠けたピースは特殊能力で捜索可能。「消防斧がなくなっているのでは?」というプロスペローの思考が文字となって浮かび、辺りを見回すと文字が重なりあう部分がある。

▲そしてビジョンを開くと、室内の床に消防斧が落ちているのがわかる。位置関係からすると2階か?

 こうして辺りを調べて行って必要なピースすべてを揃えると、今度は死者が複数の断片的なビジョンを示してくれるので、今度はそれを登場人物の持ち物などを参考に時系列順に並べてやらなければならない。正しい順番に並べるとビジョンが一連の流れとなって再生され、実際そこでどのように殺害が行われ、どのような会話がなされていたのかが判明。さらにおまけとして死亡直後に現場で交わされた会話も示され、新たな謎を抱えながら、また次の現場を探して歩くことになる。

 霊視能力を活かして殺人の真相が見えてくるギミックは面白いものの、本作に推理小説的なものを期待して臨むと、序盤早々に「あれ?」と肩透かしを食らったり、場合によってはちょっとがっかりしてしまうかもしれない。説明した通り、プレイヤーがイチから推理するような仕組みではなく、ちょっとした推理ドラマに干渉しながら体験するといった設計だし、そもそも本作においてハードボイルドな推理物としての側面は構成要素の一部でしかないのだ。

 そういう位置づけである以上仕方ないのか、実は最初の事件の出来が一番よく、後半になると話を進めたいのが優先して、ストーリー上意味はあるが謎解きの複雑さのない雑な作りのものも出てくるのは「うーん」といったところなのだが、この不思議な探偵物語の魅力はちゃんとある。「いいんじゃない? 雰囲気よさげだし」という人はもう情報を遮断して自分で遊んでもらうとして、詳細編に進むとしよう。

▲ここで読むのをやめる人もいると思うのでおまけ。日本語ローカライズはされていないが、実は一般ユーザーが文字データを編集しやすい形式になっているので、“有志翻訳”の類が続々とリリースされるのではないだろうか。画像は記者が個人的にテストしてみたもの。

▲字幕はもちろん、プロスペローの思考を「ぽわんぽわーん」と単語で浮かべる例の表現も置き換えできる。