『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』スペシャルインタビュー
週刊ファミ通2014年9月25日増刊号(9月11日発売)の取材にて、巧舟ディレクターと小嶋慎太郎プロデューサーにインタビューを実施した。本記事では、その完全版をお届けしよう。
『逆転裁判』シリーズの生みの親。2001年より『逆転裁判』成歩堂三部作のディレクターと脚本を兼任。
『モンスターハンター』シリーズや、『エクストルーパーズ』などを手掛ける。今回、『逆転』シリーズに初参加。
『大逆転裁判』ならではの倫敦(ロンドン)
――すでに明治時代の日本が公開済みですが、倫敦(ロンドン)も舞台になるのですね。
小嶋慎太郎氏(以下、小嶋) 日本がずっと舞台かと思いきや、倫敦に旅立ちます。『大逆転裁判』の世界の中の架空の倫敦なのですが、イメージイラストを見ていただくと、倫敦らしい、晴れだけどモワッとした感じや空気感が伝わるのではないかと思います。
巧舟氏(以下、巧) 物語は日本から始まって成歩堂龍ノ介がイギリスに渡り、ホームズと出会うという流れになります。メインの舞台は、倫敦になりますね。日本は、龍ノ介が弁護士を目指すキッカケを描く舞台になります。
小嶋 当時の日本は、まだ弁護士という職業自体がしっかり確立されていなかった時代だったそうなんです。
巧 そのため、世界の最先端であるイギリスに司法を学ぶ留学生を送り出していたとう設定です。プロローグでは龍ノ介がイギリスに向かうことになる、とある事件が起こるんです。
――イギリスへは、ヒロインの御琴羽寿沙都も同行するということですが?
小嶋 寿沙都は、龍ノ介のサポートというか、法務助士として渡英します。そして、ふたりはシャーロック・ホームズに出会うことになります。
――本作のシャーロック・ホームズは、どのような人物なのでしょうか?
巧 ホームズの小説は“ストランド・マガジン”という雑誌に連載されていて大人気でした。今作では、小説で知られているホームズと、実際のホームズのギャップを描く、というコンセプトでシナリオを書いています。
小嶋 倫敦ではホームズと名乗れば、「あの高名な名探偵」と反応があるくらいに知名度があるんです。
巧 ホームズは、名声には興味はなくて、あくまで自分のために真実を知りたいだけなんです。彼はすべてを超越していて、自分でいろいろな捜査用の装置を作ったりしていたのではないかと、想像の翼を広げて好き勝手に描いています。
――腰の薬品のようなものや、頭のゴーグルのようなものも彼の発明なんでしょうか。
巧 そうかもしれませんね。世間に発表したりせず、自分で作って楽しんでいるんでしょうね。
小嶋 驚く人々に「初歩的な技術だよ」なんて言いそうですよね(笑)。
巧 決してイヤミな男ではないんですけどね。“愛すべき少年”的なところがあって。いっしょに暮すアイリスに、うまいこと転がされているみたいですね。
――アイリス・ワトソンは、どのような少女なのでしょうか? 彼女はホームズの相棒としておなじみのワトソンなんですよね?
巧 そうですね。書きなから想像を膨らませた結果、こういう形に……(笑)。
小嶋 細かいところは、まだお伝えできないのですが、ホームズの同居人です。ホームズの小説をストランド・マガジンで連載しているのも実は彼女です。天才少女ということで、皆さん意表を突かれたのではと思います。
――ちなみに、おふたりは倫敦へは行かれたことはあるのでしょうか?
巧 ありません。出張で取材に行きたいなあ。
小嶋 そうですねとしか言えないじゃないですか、そんな風に言われたら(笑)。じゃあ今度、神戸の異人館に行きましょう(笑)。
――(笑)。本作では、どのような事件が起こるのでしょうか?
巧 ガス灯や馬車など、19世紀の倫敦の世界観を反映した事件を考えています。現代は指紋などの科学捜査が定着していますが、当時はありませんでしたし、写真の技術もできたばかりの時代です。現代とは文化や風俗、考えかたも異なる舞台で起こる事件になります。現代人のぼくたちからみれば、「このころはこんなことがあったんだ」と、豆知識が得られるような楽しさもあると思います。
小嶋 そこでの調査、弁護士と名探偵の出会いによる化学反応も見どころだと思います。
――犯人や証人もイギリスの方になるのですか?
巧 そうなりますね。登場人物の名前をどうするか、悩ましいです。
小嶋 これまで『逆転裁判』のキャラクターは、どんな人物かわかりやすすぎるくらいの名前でしたからね。
共同推理とは?
――ふたりで行う“共同推理”とは、どのようなシステムになるのでしょうか?
巧 ホームズはあまりにもスゴすぎて、真実の向こう側まで行ってしまうんです。彼の推理を龍ノ介の手で、きちんと真実に着地させてあげようというのが共同推理です。
小嶋 ホームズには、ふつうの人では気づかないところに気づくという、天才的なひらめきがありますが、推理が行き過ぎてしまうんです。
――龍ノ介たちは、ホームズのとんでもない推理を聞いたうえで、実際に何が起こったのかを解き明かしていくわけですね。
巧 成歩堂家がツッコミ体質になったのは、龍ノ介がその起源というか、そもそもホームズのせいかもしれませんね(笑)。
小嶋 ホームズに悪気はないんですけどね。龍ノ介が「こうじゃない?」ってツッコんだのに対して、ホームズも素知らぬカオで乗っかるんです。そこで新たに得た情報で、さらなる新事実に近づいていくんですよ。ホームズは、やはりキレ者なので。
巧 味わい深いヤツですね(笑)。
――シナリオを書かれる巧さんとしては、彼のようなキャラクターは扱いやすいですか?
巧 僕はこういう人物が好きなので扱いやすいですね。ただ、真相とまったく違う方向のようなことを言って、それをつなげて正しい結論を導き出すという話を考えるのは難易度が高いですね。ホームズを描くこと自体は楽しいですね。僕の頭の中に、彼がいるような気がします。
――ホームズ像ができ上がっていると?
巧 中学生のころからホームズの小説が大好きで、原作に対するリスペクトは絶大です。オリジナルのイメージを壊さないように崩すという、さじ加減には気を遣っています。彼はふつうの人の発想力を超越しているので、どれだけとんでもない推理を語るのか、シナリオを書きながらヒヤヒヤしています。これまで『逆転裁判』シリーズを体験していない方も、ホームズをきっかけに手に取っていただけたらうれしいですね。
――龍ノ介とホームズは、ずっと行動をともにするのでしょうか?
巧 物語の主人公は龍ノ介なので、ずっといっしょ、というわけではないですね。ホームズは気分屋なので、自分が興味のあるときにだけ顔を出す感じです。彼自身が追っている事件もあるでしょうから。
――では、お互いに影響し合う部分などはあるのでしょうか?
巧 うーん、ホームズは神の領域の住人ですからね。龍ノ介ごときには影響されないと思います(笑)。
小嶋 対して龍ノ介は、この時点では一人前の弁護士ではないですから、少しずつ経験を積んでいくことになります。彼の成長が、本作のテーマです。あるとき、弁護士としての何かをつかむ瞬間が訪れるところも見どころですね。
――前回のインタビューではシナリオを書きながら“キャラクターとの対話”を進めているとお聞きしましたが、現在は?
巧 ひと通り、大まかな話を書きあげたので、龍ノ介や寿沙都の距離感がどんな感じなのか、見えてきました。僕は書いているうちに、人物像が見えてくることが多くて、書きながらいろいろ発見することもあります。初代『逆転裁判』のときも、事件の会話よりも、何かを調べたときの会話など、本筋から離れたところで雑談しているシーンを書いていると、その距離感がよく見えてきますね。
小嶋 僕はシナリオのいち読者として楽しく読ませてもらっています(笑)。「えっ、そうなんだ」という驚きがありますね。『逆転裁判』シリーズは、シナリオを仕上げてからゲームを組み込んで、ゲームのテンポを含めてまたシナリオも調整されるので、これから磨き上げられていくのが楽しみですね。
スピーディーな演出
――今回はゲーム画面も初公開となりました。
巧 はい、キャラクターも背景も3Dで作っています。ホームズのスピーディーな思考を表現するには、カメラが動き回って見せるスピーディーな演出が必要だろうということで、背景も2パターン用意したり。奥行を使った演出も、シリーズで初の試みです。
――背景だけではなく、キャラクターの動きも滑らかですね。ホームズの手の動きなどは、指揮者のように感じられました。
巧 そうですね、ホームズが推理世界を支配するイメージです。ホームズ劇場ですね(笑)。
小嶋 それいいですね。共同推理のところのホームズたちのアクションとかキメポーズもキマっていますよね。
――日本の法廷のシーンも奥行を感じますね。
小嶋 そうなんです。日本の法廷でも裁判が行われますから、しっかりと作っていますよ。倫敦の法廷についても今後の情報にご期待ください。
――では、最後にファンへメッセージをお願いします。
巧 今回、ホームズとアイリスをご紹介できまして、ようやく本作のメインキャストが揃いました。現在は、龍ノ介がどうして弁護士になろうと思ってイギリスに渡り、そこでホームズに出会い……、というところのドラマを詰めているところで、僕自身もこれからゲームになるのが楽しみな状況です。チームのみんなも、この世界をつかんで、本格的に走り出したところです。これまで作ってきたシリーズに負けない、最高のクオリティーのものをお届けするためにがんばっています。ぜひ、東京ゲームショウ 2014に見に来ていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。
小嶋 龍ノ介とホームズ、弁護士と探偵という、ふたりの出会いが本作のキーになっています。僕はシナリオを読んでいますが、これまでのシリーズと違う展開が楽しいですね。今回初めて倫敦を公開できましたが、動画も近々公開しますので、ぜひ新しい『逆転』プロジェクトに期待していただければうれしいです。