自らの経験のもと、育休取得予定の部下がいる上司に心得を解説
2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。最終日の9月4日に行われたビジネス&プロデュース分野のセッションから、“産休・育休取得者の上司の心得 課長が育休とってみた”をリポートする。講演を行ったのは、バンダイナムコスタジオ NE開発総括本部 NE開発本部 NE制作2課 課長の村北美夏氏。2001年にナムコへ入社して以来、企画としてゲームの開発に携わり、現在は家庭用『テイルズ オブ』シリーズや『太鼓の達人』のスマートフォンアプリなどに関わるプロデューサーだ。
同業他社に勤める夫の仕事への理解もあって、以前は夜遅くまでバリバリ働いていたという村北氏は、昨年8月に産休を取得して10月に出産。約半年間の育休を取ったのち、今年の4月に職場復帰を果たし、現在は時短勤務をしているという。セッションでは、管理職として自らが産休・育休を取得した経験から、今後産休・育休を取得予定の部下がいる上司向けに心構えを解説した。会場には、女性の部下を持つ管理職はもちろん、いつかは産休・育休の取得をと考えている女性開発者も多く集まった。だが、産休・育休取得経験者となると少数派で、村北氏は「ウチの会社でも、まだまだ少ない印象がある」「育休は楽しいので、男性も取ってみるといい」とコメントした。
部下が産休に入る前に上司が気を付けること
本題に入る前に、そもそも産休・育休とはどんな制度かについて説明があった。基本的に、産休は女性しか取得できず、出産前6週間+出産後8週間。育休は男女を問わず、子供が1歳半になるまで取得可能で、期間については会社によって多少の違いがあるという。これを踏まえ、産休前、産休・育休中、育休復帰後と時期を分けて、上司の心得が解説された。
まずは産休前。妊娠期間は約40週間で、見た目でわかりにくい初期、安定する中期、突然の出産もあり得る後期に分かれる。上司としては、仕事の引き継ぎなどを考えると、なるべく初期の段階で相談してほしいところだが、実際には言い出せずにいるうちにお腹が大きくなってしまう女性もいるのだとか。ふだんから、「育休とるヤツって使えないよな」といったうっかり発言に気を付け、「妊娠したら早めに相談して」などと話しておき、言い出しやすい空気を作ることが重要なのだそうだ。ちなみに、一度産休・育休を取ったあとの第2子妊娠は、さらに言い出しづらいとのこと。
いざ、「妊娠したから産休・育休を取りたい」と相談を受けたときには、妊娠自体をお祝いするのはもちろんのこと、産休・育休を取る=職場復帰を考えていることについても喜んであげて、と村北氏。上司としては、部下に産休・育休を取られるのもたいへんだが、妊娠を理由に退職されたらもっとたいへんになるワケだ。産休・育休の場合は、退職するケースと比べて、仕事の引き継ぎ期間が長く取れるのも強みだという。
産休取得が決まったら仕事の引き継ぎを行うことになるが、緊急入院などに備え、妊娠6ヵ月までを目安とすると安心だそうだ。また、出産後の事情で復帰できないケースもまれにあるので、完全に引き継ぎを終わらせておくのもポイント。そしてお互いのため、復帰後にどのように働きたいのか、イメージを共有しておくことが重要とのことだった。出産前と同じように働きたいというひともいれば、出産後は負荷を減らしたいというひともいるからだ。これがわかっていれば、上司は産休中に復帰後を想定した準備ができるし、部下も上司も「こんなハズじゃなかった」というミスマッチを軽減することができると、村北氏は述べた。
ほか、本人がタバコやお酒を控えるのは当然だが、「外部での打ち合わせで取引先の方が喫煙すると、部下からは遠慮を求めづらいので、上司がケアしてあげられるといい」といった、経験者ならではのきめ細かいアドバイスもあった。
■育休から復帰するタイミングは保育所の事情に左右される
産休・育休中に上司ができることとしては、月1回程度、メールや面談などで会社の状況を部下に伝えることが挙げられた。村北氏自身も、産休中に上司からレクリエーションに誘われたり、育休中に子供を連れて会社を訪ねるなどして、職場の情報を比較的把握できていたことが、スムーズな復帰につながったという。
さて、育休からの復帰のタイミングだが、これは部下本人の希望のほか、保育所の空き状況に大きく左右されるという。一般的には、次の3つのタイミングが想定されるそうだ。
・0歳の4月
・1歳
・1歳の4月
0歳の4月については、「生後5ヵ月目から預かり可能」などの制限を設ける保育所が多く、早生まれだったりすると制限に引っかかってしまう可能性も。1歳については、0歳児よりも預かり枠が多いが、卒入園シーズンの4月と違い、定員に空きがないと保育所に入れない。そして1歳の4月については、いちばん一般的なだけに激戦なのだとか。
こんな事情もあり、復帰のタイミングが事前の予定からずれ込む可能性があることに注意が必要ということだ。
■育休から復帰した部下をうまく活用するには
さて、育休明けにスムーズな復帰をサポートするには、どうしたらいいのか。村北氏は、自身の復帰後の勤務状況を具体的に示し、アドバイスを行った。
まず、復帰後は長時間勤務が難しくなるというのが大前提。また、急な休みも多くなるという。子供が急に熱を出し、保育所に受け入れてもらえないことが度々起きるのだとか。村北氏自身、今年の5月にはゴールデンウィーク前後に子どもが2回熱を出し、そのたびに有給を1日と、夫と交代での半休を取らざるを得なかったそうだ。
では、そんな復帰者をどうすればうまく活用できるのか。量ではなく質で勝負できる仕事を任せるのがよい、というのがひとつの考えだ。逆に、出産前に物量勝負の仕事をしていた部下には、あえてそのまま続けさせるのもアリだという。勤務時間が短いぶん作業量は減ってしまうが、そのぶんは査定に公平に反映できるので、お互いに気がラクというワケだ。いずれにせよ、事前によく話し合っておかないと、部下に配慮したつもりが「復帰後に大事な仕事を回してもらえなくなった」といった行き違いを生むとのこと。
じつは、働く時間が短いということ自体は支障でもなんでもなく、時間が短くて成果が少ないとなった時点ではじめて支障になるのでは、というのが村北氏の考えだ。また、急な休みも有給の範囲内ならなんの問題もないハズ、とも加えた。村北氏自身も、課長として部下を査定する際、ついつい「長い時間がんばってるな」という評価をしてしまうそうだが、この価値観から脱却し、評価軸を仕事内容へとスライドさせることを訴えた。
また、時短勤務や週休3日といったフレキシブルな働きかたは、出産後の女性だけでなく、親の介護が必要になったり、定年を迎えたあとなど、誰もが選択する可能性があることを指摘。労働人口が減っていることもあって、短時間でもいいから有能なひとが欲しいというケースも増え、特別なものではなくなるハズと、多様な働きかたへの理解を求めた。
最後に、上司としてできることのひとつとして、「チャンスがあったら1ヵ月でもいいので実際に育休を取ってみてほしい。いろいろな気づきがあり、このセッションに出るよりも得るものは大きいハズ」と、村北氏はメッセージを送った。