3日目の基調講演は、ご存じこの方!

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催されている。ここでは、開催3日目に行われた、セガ 取締役CCO 名越稔洋氏による基調講演“これからのゲームとゲームクリエイター”をリポートしよう。

 先ごろ、自身が総合監督を務める『龍が如く』シリーズ最新作『龍が如く0 誓いの場所』を発表したばかりで、東京ゲームショウ 2014での本格お披露目の準備にも追われ、非常に多忙な名越氏。「なかなか、準備らしい準備もできていないのですが……」と苦笑しつつも、クリエイターとして多数のヒット作を生み出し、かつ現在は開発全体を統括する役割も務める立場から、示唆に富んだ講演を行い、集まった多くの聴講者を惹き付けた。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_04

 まずは、アーケードゲームから家庭用ゲームまで幅広く手がけてきた名越氏にとって、いまや代表作と言える『龍が如く』についてのお話から始まった。話題の中心は、業界内でも驚異の目で見られている、制作ペースの早さについてだ。『龍が如く』シリーズは、第1作がリリースされて以降、おおむね1年~1年数ヵ月程度でシリーズ作品のリリースが続いてきている。名越氏によると、『龍が如く』シリーズの開発チームは1チームしかないそうで、1作品を作り上げたらまたつぎの作品、という具合にどんどん開発を続けていくことで、この驚異のリリースペースを維持してきたのだという。
 作業量の多さから来る困難さは想像するにあまりあるが、じつは名越氏がもっとも苦心するのは、“プロモーションプランに合わせたアセットをどうやって用意していくか”なのだそうだ。たとえば日本でいちばん大きいプロモーション機会である東京ゲームショウでは、どんなプロモーションをかけて、どんなトレーラーを用意するのか? そのためには、どんなアセットが必要になるのか? 1年1作品ペースで作品をリリースする場合、プロモーションプランは企画段階から考えておく必要がある。そしてそれを実際に実施するためには、オープニングから順番に作っていくやりかたでは、効果的なプロモーションに必要なアセットが準備できなくなるため、ゲームファンの興味を引けるものから作っていくことが肝要になるのだという。

 ただし、「本音で言うと、やっぱり時間に勝る価値はないですね」と語る名越氏。本当は、何年もかけて作ってみたいという気持ちもあるのだそうだ。ただし一方で、「かつての『男はつらいよ』のように、“一年に一作品”というコンテンツは、世の中にあってもいいと思うし、そういう作品を作ることも、ひとつのサービスだと思っています」(名越氏)との思いがあることも明かしていた。

スマホ市場はまだまだ伸びる。コンソールは……

 続いては、ゲームの未来についてのお話に。名越氏は、いまだに、こういう講演などでは、「スマホってどうなるんでしょう?」、「スマホ市場はまだ伸びると思いますか?」といった質問をされることが多いのだそうだ。これに対する名越氏の回答は毎回同じだそうで、「もちろん伸びるし、基本的には、取って代わるものだと思っています」(名越氏)。
 ゲームが大きな産業として認知された時期をファミコンの出現だとすると、そこから30年が経つ。そこからいままでの流れを見てきた名越氏の考えは、「インストールが多いものには勝てない。インストールが多いものに興味と時間がとられるのは、絶対的な事実です」(名越氏)ということだ。すっかり普及しきっているように思われがちなスマートフォンだが、絶対数で言えば、まだまだシェアは残っている。そこも埋まっていき、時間の経過とともにスマホで遊ぶゲームスキルの見せかたがよりレベルアップしていくと、どんどんコミュニティーが活性化していくだろう。そうなれば、従来のコンソールで遊ぶ時間が減っていくのは間違いない……というわけだ。
 しかし「市場がどうなるかを決める絶対的権限者はユーザーなので、悲しいとは思わないです」と名越氏。たとえば映画がテレビで見られるようになってからも、映画業界が消滅したわけではない。むしろ近年では、テレビでメジャーになった要素を映画に取り入れるなどして、活況を取り戻している状況があるほどだ。名越氏は、そうしたトレンドには互換性があり、きっとゲームでも同じようになっていくだろう、と推測する。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_05

 ただし注意するべき点として、「ライフスタイルに敏感になっていかないといけないですね。道理がどうなっていくのかを、敏感に感じていかないときびしい」と指摘する名越氏。たとえば、かつて音楽の楽しみかたと言えば、家でレコードを聴くか、ライブにいくくらいしか選択肢がなかった。しかしウォークマンが登場し、音楽は外に持ち出せるものになる。いまでは、外でも家でも、スマホで聴くのがスタンダードとさえ言える状況だ。そしていま。昔は家の中で、テレビや冷蔵庫などと同様にキープできていた“ステレオプレーヤーの場所”が、ほとんどの家庭において消滅してしまっている。名越氏いわく、「いったん場所を失うと、そこには別の物が置かれるようになります。そうなると、その場所を取り返すのはほぼ不可能。ライフスタイルが変わるというのはそういうことなんです」。
 同様にコンソール機も、なくなり始めると一気になくなっていき、そのときにはスマホ市場が何倍にも膨れあがることになっているだろう、と名越氏。しかし一方で名越氏は、「便利さと感動は違いますから」との言葉で、コンソール機の価値を説明する。ここで、「スマホの中身を批判しているわけではないですよ」と釘を刺しつつ、例えに上げたのが食べ物だ。レストランには、高いし、わざわざ食べにいく面倒さもあるが、おいしさから得られる感動や、思い出を作れる空間になりうるという価値がある。そしてスナック菓子には、手軽に、何かをしながらでも食べられたり、持ち運べたりする便利さがある。どちらも人生を豊かにするために、ぜひ存在してほしいものなのだ、というわけだ。
 そして名越氏は、手軽さ、便利さのほうが、強い感動を求められる期待値よりも上回っているのが現状なのだとしたら、コンソールゲームにおいては、「感動するってすばらしいよ」と強くアピールしていかないといけないだろう、と語った。

名越氏が衝撃を受けたタイトル、それは……?

 続いて、コンソールゲームの開発者とスマートフォン向けゲームの開発者の違いについてのお話に。数年前、ソーシャルゲームが全盛を極めていたころに、よく耳にしたのが、「ソーシャルゲームの開発においては、コンソールゲーム開発者のスキルは必要がない」、もしくは「コンソールゲーム開発経験者は、ソーシャルゲーム制作には向かない」といったことだ。名越氏も、それには理解できる部分があるそうで、それは「モバイル、コンソールどちらのゲームも根本は暇つぶしの延長にあるが、つぶしかたの違いがあるぶん、こだわるポイントは違う」(名越氏)からだと言う。
 しかし、じつはここにきて状況は変わってきているそうだ。というのは、スマホ自体の性能向上や、遊びかた、ゲームジャンルの広がりなどにともない、スマホゲームの開発現場において、改めてコンソールゲーム開発者のスキルが求められることが多くなったからだという。この現象は、ゲームの歴史においては繰り返されてきたことだ、と名越氏。25年前、名越氏がセガに入社したのは、メガドライブが現役機種だった時代だ。このころに求められていたのは、アーティスト的人材ではなく、ゲームを作ることに限定したスキルだったという。しかしハードの性能が上がるにつれて、表現力も当然上がっていく。各社が競い合う中で、向上した表現力をより深く広く使えるように、より広く人材を求めていく流れになっていったのだそうだ。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_02

 ちなみにスマホアプリについての話の流れで、名越氏が「やったことがない方は、ぜひやってみたほうがいい」と強く勧めていたのが、『白猫プロジェクト』。本作は、従来一般的、というよりもほぼ定型化していた“スタミナ”課金を廃止。長く遊んでもらい、同時にさまざまな形での課金商品を設けて課金機会を増やすことで、利益を上げていく構造になっている。これを見た名越氏は、「慣れきったようなマーケットができて、どんなゲームを作ってお金儲けをしたらいいのか……と考えていたときに、また頭が痛いものが出てきたな、と思いました(笑)」と、大きな衝撃を受けたことを明かした。ただ、そうした新しいものが出てくることで、業界が活性化することは歓迎だという名越氏。いまは、『白猫プロジェクト』がF2Pのありかたに一石を投じたことで、そこからの新しい動きを注視しているそうだ。
※『白猫プロジェクト』公式サイト→<こちら>

上司からの課題をYahoo知恵袋で相談……!?

 ここで話題は、世代、人材にまつわるお話へと移っていった。名越氏が業界に入った25年前は、インターネットのイの字もない時代。一方、いま新卒として入社してくる社員は、アナログやISDNすら経験がなく、物心ついたころからブロードバンド環境が当たり前にあった世代だ。宿題をGoogle検索で調べたり、Yahoo知恵袋で訊いたりすることが当たり前だった人たちと、価値観が違ってくるのはしかたがない、と名越氏。とはいえ、「昼休みに(若い社員の)PCが目に入ったら、そこにYahoo知恵袋が表示されていたりすると……こいつ、会社の仕事を知恵袋で訊いたりしてないだろうな、と心配になったりします(苦笑)」(名越氏)といったエピソードも。実際、若い社員に「○○向けの企画書を作りなさい」と課題を与えたところ、“○○向け 企画書”でググっていた新人社員が実在したのだそうだ。そのときは、叱るべきかどうかすらわからなかった、という名越氏。「もしその企画で売れたら、これからはその方法を使おう、なんて話をしたりしましたが(笑)」(名越氏)と冗談めかして語りつつも、「楽をするな、と精神論を唱えるのも違う気がしますし……ちょっと困っているのが本音です」と明かしていた。

 世代間の違いは、そうした、デジタルガジェットや情報とのつきあいかたに限らない。セガの入社試験での最終面接も受け持っている名越氏が見たところでは、業界を志望する人材自体に変化が見られるそうだ。十数年前までは、セガの面接に来る人に、他社の志望状況をきくと、ほかのゲームメーカーを受けている場合がほとんどだった。しかしいまでは、「普通に食品、金融などの企業も受けつつ、でもゲームを作りたいです、という人が多い」(名越氏)のだとか。名越氏はこれを、「見かたを変えれば、ゲームを作ることがカジュアルになったということで、喜ばしいことなのかな、と」と説明する。それはつまり、ゲーム業界が、「かつては閉鎖的でどんな世界か想像できない、腹をくくらないと飛び込めない世界だったのが、いまはオープンになって、おもしろそうな業界のひとつと捉えている人が増えている」(名越氏)ということだ。
 そんな中で、「ゲームに強いこだわりを持つ人以外をはじいてしまうと、新しい価値観に合わせた商品企画が生まれなくなる」(名越氏)との思いもあり、最近では人事選考の基準を変えているという名越氏。以前はジレンマを感じることもあったそうだが、「“いまでは、丸大ハムとセガと迷っています”という人にも、笑顔で“ぜひセガにきてください”と言えるくらいの余裕ができてきたかな、と思っています(笑)」(名越氏)。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_01

“四択を意識する”ことが仕事を変える!?

 講演の中では、名越氏流の、興味深い仕事術についてのお話も。とくに詳しく語られたのが、“四択を意識する”ということだ。たとえば仕事のやりかたとして、速く、正確にこなすのがベストであることは言うまでもない。同様にいちばんよくないのが、遅く、不正確であることなのも自明。問題は、その中間のふたつ、つまり“速いけれど不正確”と“遅いけれど正確”のどちらを選択するかだ。これにはもちろん決まった正解はなく、プロジェクトの状況によってどちらがベターかは異なってくる。“速いが不正確”に仕事をする場合、速いぶん、誤りを正す場合にも作業は速い。しかしコストに限りがあることも考えると、“遅いけれど正確”な仕事で、トライ&エラーの工程をカットすることが効率的な場合もある。
 こうした考えかたはさまざまな事例に当てはまる、と名越氏。恋愛で言うなら、“美人で性格がいい”なら最高だし、“美人ではなく性格が悪い”のは好ましくない。では“美人だけど性格が悪い”人と“美人ではないが性格がいい”人なら? 名越氏は、「僕は、性格が悪いのは大丈夫なので(笑)、話は簡単です」と冗談めかしつつ、重要なのは、 “自分が何を大事にするか”であり、そこを間違えないことだと語る。「いま天秤にかかっているのは何と何なのか。そこを意識して仕事をすると、おもしろい結果が出るだろうと思います」(名越氏)。

質疑応答でも秘話が続々!

 ここからは、会場に集まった聴講者からの質問に応えて、質疑応答が行われた。その内容を一部紹介しよう。

――いまは業界全体で若い人材が増えていると思いますが、名越さん流の、若い世代とのつきあいかたや世代感ギャップを埋めるための方策、現場感覚を失わないための秘訣などを教えてください。

名越氏 僕もそれはすごく悩んでいます。ひとつ、まず僕は道理と言う言葉が大好きで。道理に逆らったらダメですよね。ただ、道理に則って、さらにスピードに乗って進めるためにどうするか。そのノウハウは、100年前も、たぶん100年後も変わらないものがあって、長く務めているからこそ溜めている経験値、言えるアドバイスがあると思うんです。若い子が何かをしようとしたときに、「そこにこんな落とし穴があるよ、なぜならこういうことがあって……」と言ってあげる。その精度を上げるのが、長く務めて、キャリアのある人間の務めかな、と思っています。
 もうひとつは、やはり自分の生活様式が変わるのはしかたがないことですよね。昔はむしゃぶりつくように読んでいたマンガも読まなくなるし、子どもがいれば、ジャンプよりも子どもと遊んでいるほうが楽しくなってしまうのもしかたがない。そこのトレンドを追いかけるのは若い人に託します。ただ、若い人がおもしろいと言っているものに対して、「ふーん」ではダメです。どこがおもしろいのか、ちょっとでも触れてみて、「なるほどこういうことか」と。そこからまた広げていって、「最近売れてるマンガってどんなだろう?」と理解していく。そういうところは、必死にくらいついてがんばっています。
 ただ、僕はいま49歳なのですが、僕が入社したときに、取締役で、45歳の鈴木さんという方がいたのですが。部屋に入って、最初にパッと顔を見たときに、「絶対にこの人とは合わないだろうな」と思ったものです(笑)。たぶん、僕も若い人に、同じように思われているだろうな、ということも忘れてはいないです。やっぱりギャップというのはあるもので、そこを無理にいっても、相手にしてみればいい迷惑だったりしますから。よく、「呑みに行こう」って誘っても、「明日、仕事がありますから」って断られたり……そりゃ僕もあるよ、って気持ちだけが残ったりしますが(笑)。

――4つの選択肢の話などをされていましたが、選択に失敗したなど、強く心に残っているエピソードはありますか?

名越氏 選択肢に限った話ではないのですが、勉強になるのは、100%、失敗からですね。うまくいった、儲かったプロジェクトから何を得たかというと、“自信がついた”以外に、何かを得た記憶はないです。ちゃんと道理に沿った仕事ができていたから売れたんだ、とは言えるかもしれませんが、どこがよかったから成功したのかは、日々ぼんやり仕事をしているわけではないですが、本当にわからないです。
 失敗に関して言うと、本当に嫌、身にしみて嫌なので、強く残りますね。ただ、痛い目を見ても、性根の部分は変わらないので、気がつくと、失敗した方向に向いてしまっていたりするものです。だから、失敗から勉強することはとても大事です。
 その点、スマホのゲーム開発をしている人がうらやましいと思うのは、コンソールに比べてプロジェクトの規模も小さめなので、トライ&エラーを繰り返しやすいんですね。プロジェクトを多くこなせるのは、とてもいいこと。コンソールは長くて重いプロジェクトが多いので、人によっては、10年でようやく3本目、なんてこともあります。かたやスマホ開発では、「2年で7タイトルに関わりました」というのも珍しくない。そうなると、キャリアの積み重ねが違ってくるし、失敗の経験もたくさんできますよね。
 僕も、たくさん失敗させてあげたいのですが、不景気なもので……上からは、「絶対に失敗するな」と、ありえない指令がくるので(苦笑)、なかなか。
 とにかく、僕は山ほど失敗してきましたが、人と比べると少なかったかもしれないですね。それは、死ぬほど悔しいからです。失敗という落とし穴に落ちて、顔に“バカ”と書かれたような恥ずかしさ。ついてきたスタッフも、みんな不幸になりますよね。その1年間、給料が上がらなかったり。「あっちのチームに行けばよかったな」なんて言われたら、本当に落ち込みますよ。やはりそういう、背負っているものを感じられないと、いいゲームは作れない。でも、それを考えすぎると、守りに入って、冒険できなくなってしまったりする。そのバランスは難しいですね。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_03

――アーケードの企画があがってきたときの、名越さんなりの選別の基準を教えてください。

名越氏 ゲームセンターはコアなユーザーが多くいる場所なのだから、彼らに向けたものを作るか。または、それだけでは広がりがないので、コア向けではないものを作るか。その二択で、真ん中、コアにもライトにも通じるものは、なかなかないですね。
 でも正直に言うと、僕としては、ゲームセンターが大好きな人たちにミートしているかどうかを大事にしていますね。それと、プリクラやUFOキャッチャーだけでは寂しいので、そこのバリエーションが欲しいかな、と。ぶっちゃけ、開発中のものもあります。

――いまのゲーム業界では、作りたいものが作りにくくなっていますよね。メーカーから離れて、インディーでの活動を選ぶクリエイターも増えています。そんな流れについて、どのようにお考えですか?

名越氏 基本的に、そもそも、作りたいものは作れないですよ(笑)。僕は比較的選んできたほうですが、作れるものの中からの取捨選択をしてきました。僕らが押し出したい、提案していきたいものを作るだけでは、飯は食えません。
 それを前提に話を進めますが、やはりいろいろな面で二極化しています。たとえば日本のゲームって、20年くらい前までは、世界のトップ20のうち10本くらいを占めていましたが、いまは月に1本も入っていないこともあります。大型投資に躊躇しない海外の開発には、なかなか勝つのは難しい。土着という意味では、それが当たり前だとも思うし、やはり海外の市場は海外のものになってしまうだろうと思います。そんな中で、小島さん(KONAMI・小島秀夫監督)は、ロスにスタジオを作って、すごい戦いっぷりでがんばっていて、すごく応援していますが、ああいうふうにはなかなかなれないです。
 そういったマーケットの話がある中で……ですが、“やりたいこと”と“売れるもの”、その重なっている部分を必死に探すことですね。基本的に、“やりたいこと”と”売れるもの”があった場合、躊躇なく後者を選ぶのがプロです。でも、もしもその両者が重なるものが見つかれば、自分がやりたいことなのだから一生懸命やるだろうし、たぶん売れるでしょう。やりたいことを探すというのは、そういうことです。ただし、重なり部分は、本当に何ミクロン、というくらい狭いです。そこを数ミリに広げるには、自分の興味や知識を広げ、いろいろな経験をして、“やりたいこと”を広げること。自分自身を広げることで、“売れるもの”との重なりが広がるようにしていけばいいと思います。

――『龍が如く』は大勢のクリエイターが集まって制作されていますが、チームをうまくまとめていく、名越さん流のリーダー論を教えてください。

名越氏 そんな、偉そうに言えることではないですが……(苦笑)。僕は本当に、このゲームがやりたくて、売れると思ったんです。ヤクザと裏社会という、誰もが知っていて、それでいてゲームになっていないもの。雑誌でいえば、読み飛ばされない何か。そのエネルギーは持っていました。ただ、スタッフを説得するのは本当にたいへんでした。最終的には100人規模のチームになりましたが、ひとりひとりに、どういうゲームにしたいのか、何がおもしろいのかを説明しました。
 スタッフも、最初は懐疑的でした。社内プレゼンも2回落ちて、3回目に泣きでお願いして通したほどです。それで、いろいろなことも言われました。「たぶんあの人は、このゲームを作って、この会社を去るんだ」って、勝手な噂もたくさん立ちましたし(苦笑)。何より辛かったのは、ある日スタッフがやってきて、泣きながら「僕はこの仕事をやっていていいんでしょうか。こういうものを作るためにこの会社に入ったんじゃない」と言われたり。「子どもが生まれるんですが、子どもに自慢できないものを作りたくないです」と、真剣な顔で言われたりもしました。でも僕は、誇りにできるようなものに変えてみせたかったし、その自信もありました。
 これがリーダー像の話になるかはわかりませんが、自分がぶれちゃダメですよね。それは当たり前ですが、いちばん難しいことでもあります。「違うんじゃない?」と言われれば、「そうかもしれないな」と思えてきたりもします。でもまずは、信じられるまではスタートしないこと。そして、スタートしたら一切ぶれないこと。ただ、間違いを一秒でも早く正すことも、リーダーのあるべき姿ですね。
 そして、不特定多数の人の支持を得るには、「何を考えているかわからない人」ではダメですね。わかりやすい人になったほうがいい。怒っているなら怒っているでいい。僕は、下手にフォローしたりはしません。怒るときは怒るし、褒めるときは褒めちぎる。リーダーには、そういうわかりやすさが大事なのかな、と。とくに、特殊なゲームを作る場合には、より大事なのかもしれないと思います。

セガ・名越稔洋氏が描く“これからのゲーム”とは? 独自の“四択”理論や世代感ギャップ、コンソールの未来などを名越氏が語る!【CEDEC 2014】_06