人間をだます“人狼知能”の実現は5年後、いや15年後、もしや50年後!? 難題に挑む人工知能研究者とゲームクリエイター・イシイジロウ氏が激論!【CEDEC 2014】

2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催されている。ここでは、開催2日目に行われたセッション“将棋の次は人狼か?”をリポートしよう。

●人気の人狼がコンピュータと遊べるようになる日は、はたして来るのか?


 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催されている。ここでは、開催2日目に行われたセッション“将棋の次は人狼か?”をリポートしよう。
 本セッションは、人工知能人狼(“人狼知能”)、つまりコンピュータのAIに人狼をプレイさせるプロジェクトを進めている研究者たちが、その意図と進捗状況、今後の課題などを解説していくというものだ。本セッションの登壇者は、人工知能人狼プロジェクトのメンバーである、公立はこだて未来大学・松原 仁氏、筑波大学・大澤 博隆氏、広島市立大学大学院・稲葉通将氏の3人と、“人狼”プレイヤーとしても知られるゲームクリエイターのイシイジロウ氏。
 なお本セッションは、人気の対話型ゲーム“人狼”のルールやプレイ内容についての知識があることが前提となっている。ご存じない方は、まず動画などで人狼について把握しておくことをおすすめする。


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▲松原氏。

 まずは松原氏から、人工知能人狼プロジェクトの趣旨が説明された。人工知能研究の題材としてゲームが用いられてきた歴史は古く、近年では将棋でもコンピュータソフトがプロ棋士に勝てるようになるなど、AIの研究は非常に進んできている。そんな中、人工知能研究のグランドチャレンジとして、より困難でおもしろい題材として選ばれたのが“人狼”なのだそうだ。
 松原氏は、人狼が“より困難でおもしろい題材”となりうる理由として、人狼には以下のような特徴があると指摘する。

・不完全情報ゲーム(プレイヤーにすべての情報が与えられていない。逆に将棋や囲碁などは、盤面を見てすべての情報を把握することができる)
・多人数ゲーム
・非対称ゲーム(村人と人狼とで与えられている情報や能力が異なる)
・強い人間が存在する(AIのお手本となる上手なプレイヤーが存在する)
・対話が重要な役割を果たしている
・嘘をつく(見抜く)高度な知能が必要

 そしてこのプロジェクトの目標は、将棋や囲碁の強さのような意味での強いAIを作り出すというよりも、より人間らしいもの、プレイヤーが対戦したときに、人間と対戦しているのか、AIと対戦しているのかわからないほどのものを作ること。人工知能の研究においてよく言われる、“チューリング・テスト”に通るほどのものを作ることが最終目標となるのだと言う。


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 続いては稲葉氏が登壇し、“人狼知能”プロジェクトのより詳しい説明が行われた。稲葉氏は、人狼を“対面人狼”と“オンライン人狼”に分類。対面人狼は、実際に一ヵ所に人が集まって行うパーティーゲーム形式の人狼で、本プロジェクトで扱うのは後者の“オンライン人狼”となる。


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▲稲葉氏。

▲対面人狼とオンライン人狼にはそれぞれに特徴があり、ゲーム性が異なる。人工知能研究の対象として扱うには、オンライン人狼のほうが適しているわけだ。

 “人狼知能”を作るうえで鍵となるのが、前述の“不完全情報ゲーム”であるということ。プレイヤーがすべての情報を知り得ないからこそ、「“自分がこう思っている”と相手は思っているだろう」といった、“多段階の思考”を予測する必要が生まれてくる。こうした部分で、プレイヤーにすべての情報が与えられているタイプのゲームと比べて、飛躍的にAIの思考の組み立てが難しくなるのだ。

 さらに人狼知能実現のためには、思考だけではなく、さまざまな課題が山積しているという稲葉氏。その中で、現在おもに取り組んでいるのは、“エージェントの対話プロトコル設計”、“戦略の構築”、“エージェント同士を競わせるプラットフォームの開発”だそうだ。
 人狼は会話型ゲームであるから、会話は外せない要素だが、コンピュータのプログラムが自然言語をそのまま扱うのは困難。そこで、人狼ゲームでの会話で使われる言語をモデル化し、プログラムに扱える範囲内で、いわば“人狼言語”的な形で構築することで、コンピュータが扱いやすくするというわけだ。これは実際に形になっているそうで、“エージェント同士を競わせるプラットフォーム”が、すでにプロジェクトページ(→<こちら>)で公開されており、将来的には人間との対戦も実現できる見通しとなっているという。


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 そして現時点での成果として、シンプル化した人狼ゲームを用いた、実験の結果が紹介された。この実験では、“襲撃、処刑等の対象選択方法”、“発話内容(どんなタイミングでどんな発話をするか)、“人狼側が嘘をついて装う役職”、“プレイヤーの疑い度”を学習させたところ、勝率の向上が得られたのだそうだ。これにより、人狼知能は戦略の学習が可能であること、ひいては人狼知能が人狼ゲームをプレイ可能であることが示された、と稲葉氏は語る。
 さらに興味深い点として、人狼知能は、人狼BBSなどでは広く知られている“生き残り人数が5人のとき、襲撃における最適戦略は誰も襲わないことである”という、上級者が用いる戦略も学習するに至ったのだそうだ。


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 今後の方針としては、2014年度中に人狼知能の大会を実施するべく準備を進めているそうで、参加者を広く募集しているという。興味がある人は、人狼知能プロジェクトの公式サイト(→<こちら>)をチェックしてほしい。


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▲大澤氏。

 続いては大澤氏が登壇し、“社会的知能”という側面からの説明が行われた。大澤氏の専門は、“ヒューマンエージェントインタラクション”と呼ばれるもので、人と人間らしい人工物とのインタラクションを設計する学問。家電製品の擬人化や、さらには人間自身の擬人化なども研究しているそうだ。また、大澤氏は初期のころからオンラインの人狼をプレイしており、人狼が“社会的知能”を要求される課題であることがわかっていたこともあって、本プロジェクトに参加することを決めたのだという。


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▲大澤氏が古くからプレイしてきたという人狼BBS。プレイヤーはキャラクターになりきってプレイするため、見た目の男性や女性、年齢などもゲーム性に影響する。また、人狼どうしでこっそり会話をすることも容易だ。

▲人狼を標準問題として研究する利点は多い、と大澤氏。

 そして、大澤氏が本プロジェクトで担当しているのは、人狼BBSの思考をもとに、それをプロトコル化する部分だ。ここで用いられるのが、“Believe-Desire-Intention論理”。これは、単純な真偽だけではなく、相手の信念や欲求、意図なども記述できる論理体系であり、これを使うと、人狼における思考を論理的に記述できるのだという。


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▲ここでサンプルとしたのは、人狼BBSにおいて“伝説の名勝負”とされるもの。大澤氏が熱っぽくその魅力を語っていた名勝負のログ、ぜひ一度ごらんあれ。→http://ninjinix.x0.com/wolf/index.rb?vid=1

▲BDI論理での記述例。とんでもなく難しく見えるが、「これは僕がやるわけではなく、扱うのはコンピュータですから(笑)」(大澤氏)。

 さらに大澤氏が注目するのは、人狼ゲームにおいては、しばしば不注意で間違えるからこそ、その人間を信じられることがあるという点だ。人に信じられる(=人を説得できる)、“社会的知能”を持つ人工知能を研究することで、ゲームキャラクターのAIはもちろん、スクリーンの外、実世界でのロボットの制作などにも応用できるだろうとのことだった。



 続いて登場したのは、ゲームファンにはおなじみのゲームクリエイター、イシイジロウ氏。イシイ氏は、人狼好きなゲームクリエイターの集まりである“ゲームクリエイター人狼会”を主催するほどの人狼フリーク。ファミ通.comでも、
著名クリエイターが『人狼』で激突! “ゲームクリエイター人狼会”ってなんだ?
ゲーム開発者の人狼の腕前はいかに!? イシイジロウ氏らゲームクリエイター人狼会vs人狼スペシャリスト“人狼TLPT”の人狼勝負リポート!
などの記事で、イシイ氏の人狼フリークぶりは何度もお伝えしている。

 上記の記事で紹介しているゲームクリエイター人狼会vs人狼TLPTの対決は、ニコニコ生放送でも中継され、約10万人の視聴者を集めるほどの人気ぶりとなった(詳細は→<こちら>
 人狼TLPTとは、クリエイターユニット“セブンスキャッスル”が主催する、人狼をプレイしつつ役を演じる舞台公演のことだ。(詳細は→<こちら>


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▲イシイ氏。

 ゲームクリエイターであるイシイ氏が、なぜこのような活動をしているのか? じつはイシイ氏も、人狼BBS時代からのプレイヤーだが、一度は飽きていた時期があったのだという。それは、人狼には、「ゲームとして不完全なところがある」(イシイ氏)からだ。たとえば、早々に処刑されてしまった人は見ているだけになるためおもしろくないし、そもそもかなりの時間食いだし……とイシイ氏。
 しかしその考えは、人狼TLPTに出会って変わったのだそうだ。『オウガバトル』シリーズなどでおなじみの松野泰己氏などのTweetを見たことがきっかけで人狼TLPTの芝居を見に行ったイシイ氏は、衝撃を受ける。それまでは、TRPGのリプレイなどはありはするが、ゲームを見せることに、お金を取るほどの価値があるのか半信半疑だったというイシイ氏だが、人狼TLPTの芝居には、確実にその価値があると確信させられたという。
 人狼TLPTの芝居では、本当に人狼ゲームをプレイするため、展開はランダム性が強くなる。しかし役者たちは、処刑されるときは泣き叫ぶなど、きちんとキャラクターの芝居をする。また、公演をくり返すうちに、戦略もレベルアップしていっているのがわかったそうだ。ここからイシイ氏は、人狼は、プレイヤーがレベルアップすることで、ゲーム自体もレベルアップするのではないか、と考える。そこから、ゲームクリエイターを集めてのプレイを試みるようになったというわけだ。
 またTLPTでは、目的が“見ている人を感動させること”なのだから、ゲームの勝敗だけではなく、いかにおもしろくするかを考えることになる。「どうせ負けるならすごく、無様に負けよう」とか、「お客さんをだまして負けてやろう」といった意図が巡らされることで、ただのゲームではない、よりレベルの高いエンターテインメントにできるのでは……とイシイ氏は語った。


●白熱のパネルディスカッション、人狼知能の完成形とは!?

 4名それぞれからの説明が終わったところで、セッションはパネルディスカッションに移った。ここではその内容をまとめてお伝えしよう。


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大澤氏 私も、TLPTを見たときに、演じるというファクターが非常に効いているというのは感じていました。よりしゃべろうとする、といった部分がそうだと思いますが、ほかに、演じるということで変わってくることってあるのでしょうか?

イシイ氏 僕もまだつかみ切れていませんが、僕はゲームデザイナーなので、人狼でも、まず論理で入って、読み切ってやろうと思ってしまうんですね。でも役者さんは、元不動産営業マンとかがいたりするんですが、人間力で、嘘ついてるんだけど信じられちゃったり。そこの強さって、しゃべっていかないと生まれないんですね。僕らのように、頭でシミュレーションしたりもしているのでしょうが、どんどん人を巻き込んで動かしていく強さというか。そこの強さを思い知らされましたよね。

稲葉氏 僕は戦略に興味があって。やはり人狼知能を進めていくと、戦略も高度化していくと思うんです。演劇のほうでは、戦略はどのようになっていますか?


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イシイ氏 あんまり話すとTLPTにおこられてしまいますが(笑)。まず、人が見てわかりやすくないとおもしろくないので、そこに縛りはあります。あと、人狼は、プレイヤーのレベルが揃っているか否かで別ゲームになりますよね。TLPTでは、最近になって、100回以上舞台に立った人が2~3人出てきていて、高度な戦略が生まれ始めています。
 最近は、一斉CO(カムアウト)、つまり「予言者の人、手を上げて!」とか、よくありますよね。最初慣れないうちは、人狼側が準備ができなくて戸惑うんですが、慣れてくると、とりあえずみんな手を上げちゃうようになる。すると、人狼側のほうが持っている情報が多いわけだから、後々、情報を操作しやすくなるんですね。それで結果的に村人側が負けるパターンが多くなり、仕方なく、ローラー(COした人全員を処刑しようとする)する展開になってしまったり。そこでTLPTでは、最近では一斉COを止めてしまうようにしているみたいですね。

稲葉氏 かなり先の話になりますが、人狼知能同士で戦うようになったときに、戦略がどんどん生まれてくるようになると思うのですが、その戦略はさらに上、さらに上……となってどこかに行き着くのか、それとも流行のように循環するのか。僕の考えでは、こういう流行があるときにはこうする、こうなったときはこうする、みたいなものが加速されていって、発散するのではないかと思っています。

イシイ氏 「箱庭の人狼」という、ふたりからできる人狼があるのですが、これだとスキルが揃うんですね。人狼側と人間側がひとりとひとりで、10人くらいを動かす。AIでは、これと似たような状況が起こると思うんです。同じ人格のAIが13人いて、同じスキルで人狼をやると、どんな戦略が生まれるのか。スキルが揃わないところも人狼の特徴だと思っていて、スキルが揃うと別ゲームになると思いますが、研究はすごく進むでしょうね。

大澤氏 発散するかどうかは、僕も興味があるところで。将棋とかであれば、最適手段が決まると思うのですが、社会的知能の場合、あるセオリーができてくると、それを裏切ることが最適解になり、それがセオリーになると、またそれを裏切ることが最適解になり……といういたちごっこになるんですね。人間社会ではそういうことがけっこうあって、自分がマジョリティーになることが損になるゲームであれば、つねに先端を目指していく必要がありますよね。ファッションなどはまさにそうで。そうなると、単にセオリーを見つけていくだけじゃなくて、流行に追いついていけることが知能なのかな、と。そこにチャレンジしていきたいですね。


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松原氏 深いですね(笑)。何年くらい先になるでしょうね。将棋は来年には、、囲碁は10年後には……というのは、私の考えでは信憑性があると思っているのですが、人狼知能が何年後になると思います? まあ定義の問題はありますが。

稲葉氏 まずはネットワークのプロトコル、先ほどのBDI論理のようなかなり自由なプロトコルも使って勝つという話ですよね。でもAIのことになると、50年前から、「50年後には人間を超えるAIができるでしょう」と言われてきたんですよね。でも、いまでも、やっぱりあと50年と言われています(笑)。ですので、とりあえず50年と言っておけばお茶を濁すことはできるとは思うのですが(笑)。けっこう難しいですね。50年はかからないと思いますが、10年、15年とかいうレベルになるのではないかな、と思います。


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大澤氏 やはり定義によるのですが、統計的手法による解析は進むと思っています。オンライン上でプレイされたデータを集めて、その中で最適なセオリーはこれだ、と見つけることはできると思います。もちろん自然言語ではなく、制約された条件下の話ではありますが、5年くらいで、ある程度のクオリティーまではいけるかもしれない、と思っています。ただそれはゴールではなくて、そこがスタート地点だと思っていて。そういう人工知能が出てきたときに、人間が「なにくそ!」と戦い始めるのが、つぎスタート地点なのかな、と思います。

稲葉氏 そうですね。先ほど僕がいったのは、嘘をついてだましてくる人工知能、といった高いレベルでの話です。いまやられている戦略、たとえば誰がCOして、偽って……というのを、シミュレーションするだけのレベルであれば、5、6年でできるのではないかな、と思います。おもしろくはないと思いますが。

イシイ氏 テキストベースでのチューリングテストの突破と、人狼がまともに動き出すことは、似ている感覚がするんですよ。両者の違いとか、どちらが先になるかとか、訊いてみたいです。

稲葉氏 どちらが難しいかというと、どちらかというと、チューリングテストのほうが難しいだろうとは考えています。とくに、対面人狼だといいですが、BBSだと雑談も入れたりしますよね。むしろそいういう意味では、音声認識や音声合成の問題はありますが、オンライン人狼でチューリングテストを突破するほうが、かなり難しいのではないかと思います。

イシイ氏 人狼は誰かプラス、AIは誰かを当てるみたいな(笑)。

稲葉氏 そうですね(笑)。

大澤氏 チューリングテストに関しては私も興味があるのですが、チューリングテストって、どうしても何が勝敗であるかが、非常に人間、タスクに依存してしまうので難しい。どちらに取り組みたいかという意味では、人狼のほうがいいですね。勝敗が決まってわかりやすいので(笑)。ただ、両方目指したいとは思います。

稲葉氏 人狼プロジェクトのゴールとして、ふつうに強いものを目指す方向と、人間らしさを目指す方向があると思います。人間らしくするには、あまりにも強すぎてはダメで、うまくだまされるところも重要になるのではないかと。でも、それってかなり難しいですよね。だまされる、人間がだますことができるコンピュータを作る。これは非常にチャレンジングだけど、おもしろいテーマだと思います。



 さらに、会場から質問を募っての質疑応答も行われた。その内容も一部紹介しよう。

――過去の人狼BBSなどでのプレイデータを分析されているとのことですが、蓄積されたデータのなかに、参加している人間が男性、女性、そういった区分けデータは集積されているのでしょうか?

稲葉氏 あいまいですが、確かなかったと思います。

――研究の中で、ジェンダーの区別はされていない?


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稲葉氏 人狼BBSではキャラクターが割り当てられていて、それをロールプレイされる方が多いので、難しいですね。テキストからジェンダーを解析する研究は進んでいますが、そこにロールプレイを重ねるというというところまでは至っていません。ただ、人間と人狼知能を戦わせる段階では、個性も重要になるので。そこも扱わなければならないと考えています。

大澤氏 ロボットなどがジェンダーを持つことにはいろいろ議論があるんですね。実際に、プレイヤーが男性、女性を演じることのメリットは、人狼BBSにはあって。

稲葉氏 キャラクターによる生存率を出したことがあって、最終的には記号化、平滑化されてはいるんですが、初期を見ると、明らかに女性キャラクターのほうが生存率が高かったりするんです(笑)。最終的には、戦略重視で平均化されていきましたが。

――簡易なプロトコルで、すでにコンピュータ同士の対戦が始まっているとのことですが、それと人間の対戦は試みられたことはあるのでしょうか?

稲葉氏 まだやってはいないですね。やろうと思えば可能ですが。

――やったら勝てそうですか?

稲葉氏 うーん、どうでしょうね。

大澤氏 やってみないとわからないところがありますが、いまはプロトコルが非常に制限された状態ですので、この状態だとおもしろくない可能性が高いです。自分が言いたいことがうまく言えなかったりするので。まずは我々がやりたいレベルまで上げていきたいな、と考えています。


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 最後に、各登壇者の締めのコメントを紹介しよう。

大澤氏 私は人狼が好きな人間なので、これを解いてチャレンジしたいです。夢は、AIといっしょに、ひとりでも楽しめるというところがゴールかな、と思っています。

稲葉氏 僕は対話システム、対話エージェントの研究者なのですが、研究をしていると、たまに、意外なことを言ってくれて笑ったりすることに出くわすんですね。そういう意味で、人間といっしょにプレイできる人狼エージェントを作って、コンピュータに上手にだまされたい。あっと言わせるような人狼知能を作れたらいいな、と考えています。

イシイ氏 人狼は解析が難しいんですね。ひとりではできないゲームなので。ゲームデザイナーってゲームを解析するのが好きなんですが、AIがあれば、初めて解析できるようになると思うんです。今日皆さんとお話をして、人狼とはどういうものなのかを、本当に知りたいな、と思いましたし、その可能性があるということにワクワクします。個人的には、ここで生まれた戦略ノウハウを最初にもらって、対戦人狼に活かさせてほしいな、と思っています(笑)。

松原氏 人狼は勝敗がありますが、魅せるのがプロであって、勝つのがプロではないんですよね。ということは、AIの目標も、人間に勝つというよりは、人間を楽しませる、魅せる人狼知能を作れれば、このプロジェクトは成功だと思うんです。だから私のイメージでは、人間型ロボットが13台並んでいるのがいいか、それともCGで13人並んでいるのがいいのかはわかりませんが、そういう番組ができて、それを人間が見て楽しめるような人狼の試合ができれば、それがこのプロジェクトの目標だと思います。
 将棋や囲碁は勝ち負けが目標になりがちですが、人工知能は人間が勝ち誇りたいわけではなく、あくまで道具です。そういう意味でも、人狼はいい題材なのかなと。人工知能研究者としてまとめると、そういう感じだと思います。
 これからも人狼知能の研究を続けていって、研究成果は学会やインターネットなどで発表していきますので、注目していただければと思います。



 動画やBBSなどで、楽しそうに展開される人狼ゲームを見て、「やってみたいけど相手が……」と寂しい思いをしていた人にとって、“人狼知能”は、まさに夢のプロジェクト……かと思ったが、セッションを聴いてみた限り、実現までの道程はかなり困難なようだ。改めて人狼の奥深さを思い知らされた感があるが、困難な課題に対しても、研究者たちの意気は軒昂の様子。社会的知能の研究が進むことは、人狼AIのみならず、さまざまな点で意義深いことでもあるようなので、今後ますます研究が盛んになる可能性もあるだろう。
 コンピュータと気軽に人狼を遊べる日、さらにはコンピュータAI同士の人狼ゲームを固唾をのんで見守る日が、はたして何年後に訪れるのか。研究の進捗を楽しみに見守りたい。