歌手として、人間として大きく成長した姿を見せた
2014年7月27日、東京・渋谷の渋谷WWWにおいて、声優・歌手として活躍する原由実さんの1stライブ“Catch my voices”が開催された。本記事では、たくさんのファンで埋め尽くされたこのライブをリポートする。
声優として活動し、数々のキャラクターソングを歌ってきた原さん。その歌唱力が評価され、歌手としての活動が待ち望まれる中、ソロデビューを果たしたのが2012年8月22日のことだった。それからおよそ2年後となる2014年7月27日。すべてのファンが夢見た1stライブの開催ということで、渋谷WWWには、熱心なファンが多数詰めかけた。昼すぎに会場付近を襲ったゲリラ豪雨は、開場を前にぴったりと止んでいたが、あれは、ファンの熱気が雨雲を吹き飛ばしたということか。はたまた、原さんはイベントがことごとく晴れになる“晴れ女”と言われているだけに、原さんのパワーによるものかもしれない。
午後5時。定刻の開演時間をまわり、ファンが開演をいまかいまかと待つ中、会場の照明が落ちる。それを合図に原さんによるナレーションが始まり、バンドメンバーが呼び込まれると、会場からは大きな歓声が上がった。今回のバンドメンバーは、だいちゃん(ギターの野村 大輔さん)、つっくん(ギターの西尾 司さん)、るいくん(ベースの沼原 類さん)、Johnny.k(ドラムの川羽田 敍新さん)、モッチー(キーボードの持山 翔子さん)、たまちゃん(マニュピレーターの花岡 環さん)の6人。それぞれを紹介するコース料理風のナレーションは、「ふつうにやってもおもしろくないので、工夫したいんです」という原さんの提案だ。
オードブル、スープ、サラダと“コース料理”が続々と運び込まれて来る中、最後にメインディッシュとして、本日の主役がお目見え。4thシングル『Rose on the breast』で着用した赤い衣装を身にまとった原さんは、『HANABI』、『Spiral Moment』と2曲を披露した。1曲目の『HANABI』は、原さんがソロデビューを果たした際の、1stシングルの表題曲。“最初の一歩”という意味で、まさにこの1stライブの幕開けにふさわしい楽曲だ。曲後に嬉々として大好きな水を飲むその姿は、さきほどまで凛々しく歌っていた人と同一人物とはおおよそ思えないが、そのギャップも原さんの魅力のひとつだろう。人心地ついた原さんは、同じ舞台で1stライブを行った今井麻美さんから「お客さんの顔が見やすい、いい会場だよ」と教えてもらったことを明かし、「皆さんの顔が本当に見えるんですよ! ……照明がついていれば(笑)」と、ファンの顔を覗き込んでいた。
「もう止んじゃったけど、さっきまで雨が降っていたでしょ? だから、それにぴったりの曲をお届けします」という言葉で始まったつぎなる曲は、文字通り“雨”の曲である『In the rain』。続けて『蛍火』、『風のオーケストラ』と、計3曲を披露された。過去のイベントなどで曲の入りが苦手と語っていた『蛍火』をしっかりと決めるその姿は、歌手活動を続けてきた2年間の成長を感じさせた。
歌い終えて再び喉を潤した原さんは、自身とバンドメンバーの楽曲について語る。まずメンバーの衣装は、“リゾート系”を意識。原さんの衣装は先に述べた通り『Rose on the breast』のときのものだが、PV撮影で着用した際に肩の部分が開いていたのが恥ずかしかったそうで、ライブ用に少し作り直してもらったという。なお、この流れで「この衣装を作った曲を歌います」と『intention』の曲フリを行ったが、もちろんこれは誤り。『Rose on the breast』を歌った際に、「間違っちゃいました~」と自身で正していた。この『intention』と『Lights in the sky』の2曲が終わると、原さんはいったん退場。バンドメンバーによるインスト演奏が始まった。
原さんの音楽プロデューサー・濱田智之氏が作るライブでは、このインストも聴きどころのひとつ。今回は1stライブということで、どんな楽曲を演奏するのか大いに期待されたが、聴こえてきたのはアニメ『天空の城ラピュタ』のメインテーマ『君を乗せて』のアレンジバージョン。ジャズロック風に変わった同曲に最初は驚いていたファンも、後半からは手拍子でメンバーに声援を送っていた。このチョイスはまさかのひと言だが、これも“みんなが知っている曲を弾いてほしい”という原さんなりのおもてなしなのかもしれない。
インスト演奏後に現れた原さんは、オレンジ色のTシャツに衣装替え。このオレンジ色のTシャツは、原さん自身のデザイン。はらまるくん(自身がパーソナリティーを務めるWebラジオ『原由実の○○ラジオ』のマスコットキャラクター)が描かれたものだ。ここからは、カバー曲のコーナー。最初に歌われた『READY STEADY GO』は、原さんが大好きなバンドL'Arc~en~Cielの大ヒットソングで、『原由実の○○ラジオ』で募集したリクエストの中から、原さん自身が選んだものだ。原さんは会場のファンに、サビの「READY STEADY GO」の部分をいっしょに歌うようにお願いしたが、ノリノリのファンは、追っかけの部分もしっかり合いの手を入れていく。これには原さんも大喜びし、「すごーい! みんなすごすぎるよ~!」と目を輝かせていた。テレビアニメ『鋼の錬金術師』のオープニングとして使われた有名な楽曲とはいえ、即座に追っかけを入れるファンの練度は、さすがのひと言だ。
カバー2曲目となった中島みゆきの『糸』は、今回のライブでファンをもっとも驚かせた楽曲のひとつだろう。何しろ、わずか1ヵ月半前にピアノの練習を始めたばかりの原さんが、弾き語りに挑戦するというのだ。「譜面も読めないし、先生の動きをそのまま覚えただけなので、あまり期待しないでくださいね(苦笑)」という原さんの言葉や、『原由実の○○ラジオ』におけるギターの弾き語りの様子などもあり、「恐らくそんなにうまくはないだろうけど、がんばって練習したんだろうな」くらいに思っていた方も多かったのではないだろうか。
しかし原さんは、ファンの予想をいい意味で裏切る。ステージ上でくり広げられたのは、まぎれもない“弾き語り”だった。少し失敗してしまうこともあったにせよ、大きく間違えるところはひとつもなく、フルコーラスを歌い上げたのである。演奏後、照れて笑う原さんに送られた拍手と歓声の大きさが、ファンの驚きと感動を代弁していたと言えるだろう。この余韻の中、最後のカバー曲である猿岩石の『白い雲のように』へ。こちらも、『原由実の○○ラジオ』に来たリクエストメールから選ばれたものだった。
2曲目のインストである『となりのトトロ』が演奏されるあいだに着替えた原さんは、今回のライブ用に作られた新衣装にチェンジ。合間にトークを挟みつつ、『Rose on the breast』、『オレンジ色の季節』、『Snow Drops』を披露した。『Rose on the breast』は、2014年9月25日発売のプレイステーション3用ソフト『神様と運命覚醒のクロステーゼ』のエンディングテーマ。原さんは同作で東江アルル役を演じており、ライブパンフレットではアルルのコスプレも見せていた。また『オレンジ色の季節』では、原さんの提案で、ファンといっしょにサビの部分を歌うことに。
『Snow Drops』が終わると、原さんから、5thシングル『Crossover』の発売が発表された。『Crossover』は、原さんのシングル表題曲としては初のノンタイアップ。カップリングには、プレイステーション Vita&プレイステーション3用ソフト『この大空に、翼をひろげて クルーズ サイン』で使用される『Dear blue sky』など2曲が予定されているということだ(詳細はこちらの記事にて)。この発表を受けて披露された『Dear blue sky』は、爽やかなロック調の楽曲。ゲーム画面と合わさったときにどう見えるのか、いまから楽しみだ。
この後、バラード風にアレンジされた『天ノ紅』と『Blue Moon』を歌い上げると、ファンの皆にあてた手紙を書いてきたことを報告。“大好きなみんなへ”と題名を読み始めると、すぐに涙声になってしまったものの、ファンや家族、友人たちへの思いを込めた手紙をしっかりと読み上げた。原さん自身の言葉で、不安や迷いなど思いの丈をつぶさに表現したその内容はファンの心を打つもので、読後には会場が温かい拍手で包まれた。
■大好きなみんなへ
こうやってお手紙を書くことがほとんどないので、書きながら、めっちゃドキドキしています。
私、文章書くのへたくそだから、何を言っているかわからないところもあるかもしれませんが、私が皆さんに対して出す初めてのお手紙なので、ちゃんと気持ちが届くように書きたいと思います。
まずは、今日ここに来てくださって、本当にありがとうございます。
パンフにも書きましたが、私にとってソロライブは、とてもハードルの高いことでした。
「ライブをやりましょう」って言うのはすごく前から言われていたのですが、なかなか「はい」って言えずにいました。
会場を埋めることができるくらいのお客さんが来てくれるのかとか、たったひとりでたくさんの曲を歌えるのかとか、いろんな不安がありました。
でも、そんな不安な私の背中を押してくれたのは、やっぱり皆さんからのお手紙や声でした。
いつもいつも、皆さんは、温かく接してくださいます。
こんなにもたくさんの方が支えてくださっているいまを、声優を志したときや、東京に出てきたころは、想像もしていませんでした。
大阪にいるときは、大好きな家族にべったりの“甘えた”(甘えん坊のことを指す方言)で、学生時代も社会人になってからも、ほとんど寄り道することなく、家にまっすぐ帰っていました。
だから、東京に出てきたら、「ひとりぼっちでがんばらなあかん」って覚悟してました。
引っ越しの日も、家族が東京に出てきてくれて、作業を手伝ってくれたのですが、両親が大阪に帰るときがすごく寂しくて、「駅まで送っていくよ」って言ったら、「雨降ってるし、風邪引いたらアカンから家におっとき」って言われて。
両親が帰ったあと、初めてのおうちでひとりになって、わんわん泣きました。
初めてひとりで住んだおうちは、田無というところで、すごくいい街だったんですけど、家が駅から徒歩15分くらいのところだったので、とにかくあたりになんにもなくて、夜はもう真っ暗でした。
都心から少し離れているから、新しくできたお友達もなかなか呼べなくて、夜は毎日のようにホームシックな気持ちになって、よくベソベソひとりで泣いていました。
そんな私がお仕事を始めるようになって、さらにお友達や仲のいい先輩もできて、応援してくださる皆さんも少しずつ増えていきました。
悩みがあると、先輩やお友達が聞いてくれたり、応援してくださる皆さんが温かいお手紙で元気づけてくれたりしました。
夜遅い時間にどうしても眠れないときは、イベントでいただいたお手紙を眠くなるまで読み返していました。
いまではこんなにたくさんの方に支えられて、昔ひとりぼっちで寂しいよって泣いてたのがうそみたいです。
いつも私に勇気をくれる皆さんには、感謝してもしきれません。
いつも本当にありがとう。
まだまだ未熟な私ですが、皆さんに少しでもご恩返しができるように、これからも全力でがんばります。
最後に。みんな、大好きです。
ありがとう。
由実
手紙でファンへの感謝を告げた原さんは、「皆さんを想って作った曲です」と、『あふれる想い』を歌う。ここでいったんバンドメンバーとともに退場したものの、アンコールを求めるファンの声に応えるようにTシャツ姿で再び現れ、『splash mind』と『Place of my life』を熱唱。『splash mind』では、「髪をおろしてみた」という歌詞に合わせて自身のポニーテールをつまみ、「髪の毛を上げて来ちゃった!」とアピールする茶目っ気を見せていた。最後は、バンドメンバーといっしょに手をつなぎ、「ありがとうございました!」とファンに一礼。「たったひとりでたくさんの曲を歌えるのか」という体力的な心配もなんのその、最後まで声はしっかりと伸び、会場に響きわたっていた。こうして原さん初のソロライブは、大成功で幕を閉じた。
原由実という人は、人を喜ばせるのが大好きな人だ。先日の『原由実の○○ラジオ』第100回放送において、スタジオ観覧を行ったのは、ファンに喜んでもらいたいという原さんの発想によって生まれたものだし、今回のピアノの弾き語りにしたってそうだ。ピアノ教室に通いたてのころ、「モノになるかわからないので、濱田さんたちにはまだ言っていないんです」とラジオの現場で話してくれたことがあったが、そんなド素人の状態から“ファンを喜ばせたい”という一心で練習し、きちんと弾き語りができるレベルまで持ってくるのは、ものすごいことだと思う。
そんな原さんだから、ファンがライブの開催を待っていたことは、恐らくわかっていたはずだ。しかし、手紙でも書いている通り、ソロライブはハードルが高く感じ、自信がなかったという。実際、過去に「自分ひとりでお客さんを呼べるかわからないし、たくさん曲を歌うと息も切れちゃって……」と漏らしていたこともあった。原さんはとても前向きな人で、“つらい”とか“やりたくない”とか、そういうことをめったに言わない。しかも、10000人や20000人という規模の会場でライブをやったことだってある。にも関わらず、これだけ尻込みしていたのは、“自分ひとりですべてをやり切る”ということに対して不安を感じていたからにほかならなかった。
そんな原さんを変えたのは、これまで支えてきたファンの声だ。原さんはいつも、「私のファンの方は本当に優しくて、いい方ばかりなんです」と言っているが、この2年間の歌手活動を、ファンは温かく見守ってきた。CDのお渡し会や握手会、マチ★アソビ、千葉マリンスタジアムでのファーストピッチセレモニー、日本橋ストリートフェスタ 2014などなど、参加したイベントだけ見ても枚挙に暇がないが、そういったイベントに参加したり、あるいはCDを買った人たちが、手紙や『原由実の○○ラジオ』へのメールなどで、たくさん感想を寄せてくれた。だからこそ、そうやって支えてくれたファンに対して恩返しがしたいと考え、ソロライブをポジティブにとらえられるようになったのだろう。ファンの声が、原さんの成長を後押ししたのだ。
これだけいい形でソロライブを終えられたのだから、ファンとしては、次回の開催にも期待したくなるというもの。きっと原さんも自信をつけて、さらなるパフォーマンスを見せてくれるに違いない。まずは、目下の5thシングル『Crossover』に注目しつつ、今後も原さんの活動を見守ってほしいと思う。毎週土曜深夜1時からファミ通.comで配信中の、『原由実の○○ラジオ』もお楽しみに!(最後に番宣)
(取材・文:『原由実の○○ラジオ』スタッフK)
■原由実1stライブ“Catch my voices”セットリスト
01. HANABI
02. Spiral Moment
03. In the rain
04. 蛍火
05. 風のオーケストラ
06. intention
07. Lights in the sky
08. instrumental(君を乗せて)
09. READY STEADY GO
10. 糸
11. 白い雲のように
12. instrumental(となりのトトロ)
13. Rose on the breast
14. オレンジ色の季節
15. Snow Drops
16. Dear blue sky
17. 天ノ紅(Ballad Ver.)
18. Blue Moon
19. あふれる想い
【アンコール】
E01. Splash mind
E02. Place of my life