中高生のためのプログラミング学習キャンプ

 スクウェア・エニックスとLife is Tech!は、2014年6月7~8日と14~15日、中高生のためのゲームクリエイター育成プログラム“SQUARE ENIX GAME CAMP”をスクウェア・エニックス本社にて実施した。6月7~8日、14~15日の2回合計で約200名の学生が参加し、全員が自分の手でゲームを作り上げていったこのイベントのなかから、2014年6月7~8日に開催された第1回キャンプの模様をお届けしよう。

 本キャンプを主催するLife is Tech!社は、中学生、高校生を対象に、スマートデバイスのアプリ、ゲーム開発やプログラミング、デザインなどIT分野の技術を教える短期間のキャンプや通年型のスクールなどを手掛ける企業。今回はゲーム業界の雄、スクウェア・エニックスと本格的なタッグを組み“SQUARE ENIX GAME CAMP”という形でキャンプを開催することとなった。

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▲会場は、スクウェア・エニックスのラウンジ(社員食堂)! 会議室や講堂などと異なり、リラックスできる雰囲気で臨める場所だというのが最大の理由だ。

 キャンプに参加した受講生は、『Unity(※1)』を使いこなす経験者から、プログラミング未経験の初心者までさまざま。そのスキルや経験などに応じて、5~6名ずつに分けたグループを作り、それぞれのグループに“メンター(※2)”と呼ばれる指導スタッフがついてカリキュラムを消化していく。

※1 Unity(ユニティ)……ユニティ・テクノロジーズが開発した統合開発エンジン。iOSやAndroidなどを搭載したスマートデバイスから、プレイステーション3などの家庭用ゲーム機まで、さまざまなゲーム開発の現場で実際に使用されている。
※2 メンター(mentor)……目の前のことに限らず、進路や目標など個人的な問題まで広く相談に乗って助言を与えたり、指導する役割を持つ人のこと。

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▲受講生は皆中学生か高校生。受講生に参加理由を聞くと「去年、別のキャンプに参加しておもしろかったから」という、いわゆるリピーターが多いのが印象的だった。
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▲主催側が用意したマニュアルや、開発ソフトを使ってゲームを自分の手で作り上げていく。なかには、3Dゲームを作っている上級者も。

 ちなみに、このメンターのほとんどはLife is Techで60時間以上の訓練をクリアーした現役の大学生。より受講生たちに近い視点と、きびしい訓練を受けてもスタッフとして携わりたいという熱意、そして確かな技術……。メンターの方々は受講生たちとすぐに打ち解け、初対面とは思えないほど和やかな雰囲気でキャンプは進んでいった。

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▲第1回のメンター&運営スタッフたち。それぞれが全体を見ながら自分で役割を考え、お互いに指示を出し合ったりフォローをするなどして、運営は非常にスムーズに行われた。

“?”の札の使いかたとは? 随所に見られる独自の工夫

 今回の目的は、“自分の手でゲームをひとつ作り上げ、発表すること”。2日間のうち、開発にあてられる時間はわずか3時間程度であったが、受講生たちはあらかじめ配布されたテキストにしたがってプログラミングを進めていき、全員がゲームとしての形を作り上げていった。ユニークだったのは、各グループのテーブルに “?”と書かれた札が置かれたいたこと。これは、メンターに質問したくても恥ずかしくて声をかけづらい受講生のために用意されたもので、このシステムを導入したことで飛躍的に質問の数が増えたのだという。

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 カリキュラムでは、現役のクリエイターによる講演やプログラミング、開発フロアの見学、モーションキャプチャーの実演などが行われた。講演では『ドラゴンクエストX』のディレクター、齋藤力氏が登壇。齋藤氏は、プログラミングを独学で学び、挫折をくり返しながらも情熱を捨てずにいたことがゲームの作り手として成長できた要因であること、加えて、ゲームクリエイターのさまざまな仕事内容やゲーム作りの流れなど自身の経験も交えて紹介した。そんな齋藤氏が最後に語ったのは“人生とゲームにおける最大の違い”について。「(人生は)失敗したときにもっとも大きな経験値が手に入る」と述べ、失敗を恐れずチャレンジすることの大切さを語った。

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▲“りっきー”の愛称で親しまれる齋藤氏。ゲームクリエイターのいいところは、「同じ趣味や志を持つ仲間が多いこと、年齢や容姿に関係なく実力勝負ということ」、残念なところは「スゴいとはよく言われるんですが、モテないところですかね(笑)」と語っていた。
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▲プレゼントを懸けたゲームをするなど、ゲームクリエイターらしい掴みのうまさを披露した。
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▲質問タイムでは「いままでボツになってしまった作品は何本くらいあるんですか?」という、グサリとくる質問も。「私の場合は、10本くらい作ってきて、3本くらいですかね……。意外に打率(成功率)は高いんですよ」と齋藤氏。

 2日間に渡った催しの最後には、それぞれが制作したゲームの発表会と認定式が行われた。発表会では、受講生たちひとりひとりが作品の概要に加え、苦労した点や工夫したところをメンターのフォローを受けながら説明。伸ばすべきところ、直すべきところを自分の言葉できちんと整理することで、“今後”にもつながっていくはずだ。

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▲2日目の途中からは、希望する保護者の方々も参加。メンターの手助けを借りながらも、受講生が自分の力でゲームを作り、発表していく過程を見守っていた。
▲発表会後は試遊時間が設けられ、受講生たちは自由に移動して他のグループの作品を見学したり、試遊を楽しんでいた。試遊に際しては、誰に言われることもなく“説明書”を用意していた受講生も。
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▲Life is Tech!副代表小森氏、執行役員松井氏の司会で2日間を総括。それぞれのグループで認定証が授与された。
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▲全体を代表して認定状を受け取った、ゆうかちゃん。認定証右側にびっしりと書いてある手書きのコメントは、メンターが「前日に夜なべして書いた」というからびっくり!

 認定式では、各グループのメンターが受講生ひとりひとりに手書きのコメントを記した認定状を授与。全受講生を代表して、最初に認定状を受け取ったゆうかちゃんに感想をいただいた。「このキャンプには、『スクエニに行ける!』というミーハーな動機で来てしまいました(笑)。これまで、ゲームはプログラムを独学で身につけたりして、ひとりで作ってきましたが、ここでは方法論や手順など、いろいろなものを教わることができました。それに、生の開発現場も見せてもらえてうれしかったです」と、突然の取材にもハキハキと淀みなく対応して、取材した記者のほうがしどろもどろになってしまうほど。最後は、キャンプと同時進行で編集されていた、2日間をまとめたVTRが流され、キャンプは閉幕した。

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ゲームを通した教育で社会を豊かに

 就職活動に直結する、即戦力の養成を目指す“専門学校”とは異なり、将来の可能性のひとつとしての“ゲーム”の教育を行うという、新しい形を示した“ゲームキャンプ”。このプロジェクトは、どのようなことがきっかけで始まったのか? そして、今後どのように展開されていくのか? 運営に携わった、ふたりのキーパーソンに話を伺った。

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▲Life is Tech!代表 水野雄介氏。1982年生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間勤める。その後株式会社ワイキューブを経て、2010年にライフイズテック株式会社を設立。

 ひとり目はLife is Tech!代表、水野雄介氏。

――まずはLife is Tech!はどんな会社なのか、教えていただけますか?

水野 Life is Tech!は2010年に設立した会社で、中高生を対象に、各地の大学のキャンパスを利用したアプリ制作などを学ぶキャンプやスクールを運営しています。このプロジェクトを始めた当初は、たった3人しか参加がなかったこともありましたが、数年かけて認知されてきたこともありまして、いまではこの規模で実施できるようになりました。もともと、僕は高校の教師をしていたこともあって、“人を育てる”ということが大好きなんですよ。今回のキャンプも、ここまでこぎつけるのはたいへんでしたが、子どもたちの笑顔を見ているとその苦労も吹き飛びましたね。

――スクウェア・エニックスさんと組んでキャンプを実施したのは、どのようなことがきっかけだったのでしょうか?

水野 スクウェア・エニックスさんにお声掛けさせていただいたのは、これまで『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といったゲームを作ってきた、子どもたちの“憧れ”であることが大きな理由です。スクウェア・エニックスの社員さんがいる環境でゲーム作りができたら、人生変わるくらいの衝撃ですよね? 実際、「スクエニだから」ということで参加してくれた人もかなりいたようです。

――今後の目標を教えていただけますか?

水野 業界全体では、2020年の段階で20万人の中高生がデジタルなもの作りに携わっているような状態を目指したいと考えています。20万人というのは、高校の野球人口が18万人なので、それを超えたい、というところから出した数字です。ITについては「興味はあるけどどうしたらいいかわからない」という子どもはかなりいると思うんですよ。そんな子どもたちにどんどん参加してもらって、ゆくゆくは甲子園大会のようなイベントを開いてみたいですね。

 もうひとりは、スクウェア・エニックスの窓口担当として、社内の取りまとめや調整、Life is Tech!との連絡などを担当した人事部の平岡朋代氏。

――このプロジェクトは、どのようにしてスタートしたのでしょうか?

平岡 最初はLife is Tech!さんから開発系の部署へ企画を持ち込んでいただきました。それが2014年1月のことです。とにかく、熱意と企画の独特さが印象的でしたね。教育という分野に力を入れることで、自社だけでなくゲーム業界全体の発展に寄与することができるといった、CSR活動にもなると判断し、協業させていただくことになりました。他社やほかのキャンプの見学などを踏まえ、具体的な企画を詰め始めたのは3月になります。

――本格的に動き出してから、3ヵ月弱で開催までこぎつけたということですが、苦労された点は?

平岡 弊社はゲームで大きくなった会社ですので、教育という分野は未開拓で、企画はすべて手探りでやることになりました。実際に開発チームに相談していくうちにどんどん話が膨らんできて、「どうせなら、よりきちんとした形でゲーム作りの全体を見てもらおう」と、会社全体を巻き込んだプロジェクトになっていったんです。プロジェクトが大きくなるに連れて、連絡する人数もどんどん増えていったのがたいへんでしたね。

――実際、このような形で実施してみて、社内の反応はいかがでしたか?

平岡 反応については、後日あらためてヒアリングしてまとめていくつもりですが、土日にも関わらず気になって見学に来た社員もかなりいましたし、社員の関心は高いと思います。また、「どのようにすれば仕事の内容を理解してもらえるか」という準備を通して、クリエイターたちも自分の仕事の再確認ができたりして、数字に表れないところでも大きなメリットがあったのではないかと感じています。

――今後、こういったプロジェクトを行っていく予定はありますか?

平岡 ラウンジ(食堂)を会場にしてみたり、開発の現場に社外の人間を入れるなど、弊社にとってははじめてづくしのプロジェクトでしたが、このキャンプを通じて、会社のポリシーでもある“ワクワクの提供”を行うことはできたのではないかと思っています。今後については、ヒアリング後に検討していく予定です。

 大学生以上を対象としたGAME CAMPはこれまでも催されてきたが、ゲームメーカーが中高生を対象に実施したGAME CAMPとしては、おそらくこれが初めて。今回の体験がゲームクリエイターを目指すキッカケになり、将来、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』シリーズを作ることになるかも!?