VR専用タイトルや、他にはない要素だらけのオンラインゲームを、知らない人にどう伝えるか? CCP Gamesのマーケティングのトップに聞いた_01

 プレイヤー間で行われる大戦争がしばしば話題になるオンラインゲーム『EVE Online』や、VR専用タイトル『EVE: Valkyrie』など、普通のゲーム会社のタイトルとはちょっと異なるユーザー体験ができるタイトルを揃えるCCP Games。そんなタイトル群をどうPR/マーケティングするのか? チーフ・マーケティング・オフィサーのDavid Reid氏に話を聞いた。

――最初はアホな質問から失礼します。……EVE of Destructionの試合の前に見事なラスベガススタイルのアナウンサーぶりを発揮していましたが、どこで覚えたんですか?
David 元々スポーツファンだったっていうのもあるけど、練習とカラオケの賜物だね。Fanfestでマーケティングチームが集まってカラオケをするんだけど、その時に「お次は~~だぁ!」と紹介するのが役に立ったよ。

――次は少しまじめに行きましょう。『EVE Online』で大きな戦いが起こると、ゲームメディアだけじゃなくて新聞とかにまでニュースとして載ることがありますね。これはマーケティング担当として、広告価値にするとどれぐらいだと思いますか?
David 正確な数字を示すことはできないが、とても大きいのは確かだ。BR-5RBの戦い(最大級の戦艦であるタイタンが75機沈んだ)も大きなニュースになったが、直後の新規プレイヤーの増加は『EVE Online』の歴史の中でも最高の数字を見せた。

――今年の基調講演では『EVE Online』のアップデートサイクルをこれまでの年2回の大きなエクスパンションからもっと小さく、6週間隔で提供していくことが発表されました。マーケティング/PRの観点からすると、大きなアップデートの方がテーマを示しやすかったのでは?
David 確かに。これまでのモデルであれば、エクスパンションのたびに広告を出したりしていたし、その内容についての記事が出ていたりしたと思う。今後は広報活動としてはアップデートの内容を宣伝するのではなく、『EVE Online』そのものを発信するという形になっていくだろう。
 今度のKronos(6月3日実装)からそうしていくつもりだし、EVEというツールによってプレイヤーが何を出来るのかという部分を知ってもらうような所から改めて始めていきたい。我々のゲームは他のゲームとまったく異なる部分が多いわけで、そこで何が出来るのか知ってもらうのが大事だ。その上でアップデートによる最新の内容も織り交ぜるといった具合だね。

■サンドボックスタイプのゲームをPRする難しさ

――いろんなことが出来るし、起こり得るゲームだからこそ、知ってもらう難しさもあるのでは? 例えばFPSだったら、まず撃って殺すゲームであるのは大体の人がわかって、そこから作品なりのテーマや設定や独自のプレイ要素に入っていけばいいですよね。この点について何かマーケティングで心がけていることはありますか?
David それは確かに我々にとって最大のチャレンジだ。日々正解を探しているよ。他のゲームなら、選択肢ぐらいはあっても、デザイナーが想定した方向、そうなるように作った方向でゲームが進んでいく。EVEの場合はそれがない。選択は自由で、プレイヤーが何を成し遂げるかは、起こってからしかわからない。

――“True Stories”(プレイヤーから募集した体験談や事件録。コミック版も出ている)などに力を入れているのは、やっぱりEVEのようなサンドボックス型のゲームの特徴である、プレイヤーの行動によって物事が生み出されていく部分を活用しようと考えているからですか?
David もちろんだ。True Storiesのコミックブックなどで描かれている事件や出来事は我々ではなくプレイヤーが引き起こしたことで、プレイヤーが「CCPのゲームを遊んでいる」というよりも、プレイヤー同士で遊んでいて起きたことが、歴史書のように記録されたんだ。自分が引き起こしたことがダークホースコミックスのような大きな会社にコミック化されるなんて、他のゲームではなかなか味わえないことだと思う。それが起こりえる場であるということを押し出していくのが我々の戦略のひとつであるのは間違いない。

――僕が持っている巻はMittani(大手アライアンス・Goonswarm Federationの代表)を大きくフィーチャーしていましたが、一般のひとりのプレイヤーがコミカライズのメインキャラクターとして出てくるゲームなんて、なかなかないですよね。
David 誇りを持っているよ。まさにこのことが、EVEユニバースそのものの世界観や背景を説明していくよりも、EVEとは何であるかを示しているしね。「スターウォーズ」はジョージ・ルーカスが、「スタートレック」はジーン・ロッデンベリーが書いたものだ。でもEVEで起こったことはプレイヤーみんなが築いたものだ。だからこそ力強い。プレイヤーこそが世界に影響を与える存在なんだということを、もっとわかりやすく伝えていきたい。それが私の使命だと思っているよ。

■体験に意味がある、それだけに体験しなければわからないVRゲームをどう伝える?

――僕は『EVE: Valkyrie』をロサンゼルス、ラスベガス、サンフランシスコ、あらゆる土地のイベントでプレイしました。業界からVR専用に作られたゲームとしてすごい注目されているわけです。でもVRの問題点は、体験しないとわからないこと。トレイラーを見てもスゴさは絶対に伝わりません。これからは業界の外の前提知識がない人にも広めていかなければなりませんが、まだVRを体験したことがない人に『EVE :Valkyrie』をどう伝えていきますか?
David 大変だということは認識している。被ればVRのパワーや没入感は一発でわかるが、逆に言うとそれまではわからないということだ。(動画のように)2Dで体験をシェアするというのも難しい。だが例えば、プレイしている人のリアクションを見せるというのは一定の効果があると思う。今年の基調講演でケイティー・サッコフ(「バトルスター・ギャラクティカ」などに出演した女優で、本作に声優として参加する)のリアクションを見せたのもそんなところ。彼女はいっぱいFワード(放送禁止用語)を使ったけど(苦笑)、興奮したエナジーを感じることができたんじゃないかな。

――去年のFanfestでプロトタイプのEVRをプレイして、周囲の知り合いに「ヤバいよアレ!」って言ったんですが、トレイラーだけ見て「うーん、ただのスペースシューティングじゃん」って返されてしまって、こっちは「あー、うーん、そうじゃなくて、でもヤバいんだよ」としか言えなかった。僕らメディアも、それがどんな体験なのか、正しい言葉や定義をまだ持っていないわけです。「没入感が~」とか長々と説明すればなんとかなるけど、VRの感覚を示す表現がまだない。
David これはメーカー側とメディアの皆さんで考えていかなくてはならないものだと思う。グラフィックの部分に限れば、EVRではまだ作り込みが甘かった部分を今年はUnreal Engine 4に移行してかなり改善することができたから、その部分でがっかりされることはなくなったと思うが、それで体験が伝わるようになったわけではない。
 ただ今はVRが広まりつつある初期段階で、体験した人があまりにも少ないことが障壁のひとつでもあるわけだ。いずれ広まれば、友達が「あれ良かったよ、体験してみなよ」と言ったりするようなことになるんじゃないだろうか。そこに行くまで、記事や広告でどういう言葉で表現していくのがいいのか、皆さんと模索していければいいなと考えているよ。

■『DUST 514』はまだまだ続く

――PCを中心に展開してきたCCP Gamesが、『DUST 514』ではプレイステーション3のプレイヤーにリーチしました。そこから生まれたProject LegionはまたPCということで、『EVE Online』のファンはコアなPCゲーマーが多いので嬉しいと思いますが、会社としてはコンソールのプレイヤーへのリーチが難しくなるのではないでしょうか?
David まず言いたいのは、Project Legionが発表されたからといって『DUST 514』がどこかに行ってしまうわけではないということだ。すでに『DUST 514』のコミュニティはある程度確立されているので、そのコミュニティとともに進んでいくと思う。また長期的な視点で見れば、Project LegionをPCベースで開発していって、機能が拡充されて行く中で、将来的にそれをまたPCに近い形のコンソールに持って行こうということもありえないわけではない。その点については特にネガティブには考えていないな。

――最後の質問は多分まだ答えられないと思うんですが、それでも聞きましょう。ドラマ化計画はまだ生きてるんでしょうか?
David まだ生きてるよ! この手の制作にはとても時間がかかるものだから、まだ成果としてお見せ出来るものがないというだけだ。お願いしている監督も、やっていた映画の撮影が終わって集中できるようになってきたばかりだしね。
――それは良かったです。ではもうひとつ。ここはアイスランドで、僕はアメリカに住んでます。友達や読者はもちろん日本在住。全員このドラマを見ることが出来るんでしょうか?
David 基本的にはその方向で計画を進めているよ。最初は一部の地域から放映スタートして、次第に誰でも見られるようになっていく。「ゲーム・オブ・スローンズ」みたいにね。

(文・取材・写真・編集:ミル☆吉村)