大震災以降の原発問題は自分で考える

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▲黒川文雄氏。

 2014年5月9日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”(黒川塾)の第18回が開催された。
 今回は、“シリアスゲームの現状 日本の不都合な真実~福島第一原子力発電所事故 ゲームにできること~”という、文字どおり、シリアスかつセンシティブなテーマを扱っている。今回は二部構成で、第一部は『エネシフゲーム・インタビューズ』と原子力発電について、第二部は菅直人元首相を招いてのトークセッション。
 第一部は、『エネシフゲーム・インタビューズ』から、開発プロデューサー・小関昭彦氏(ダイスクリエイティブ)とディレクターの二木幸夫氏(グランディング)。原子力問題の専門家として、澤田哲生氏(東京工業大助教)と高木直行氏(東京都市大教授)の4人をゲストに招いて、シリアスゲームである『エネシフゲーム・インタビューズ』と原子力問題についてのトークが行われた。

※関連記事:“3.11東日本大震災をきっかけに企画開始! エネルギー問題と向き合う『エネシフゲーム』”

 ちなみに『エネシフゲーム・インタビューズ』とは、2011年3月に発生した東日本大震災により発生した、福島第一原子力発電所の事故をきっかけに立ち上がった“シリアスゲーム”プロジェクトにより開発・制作された、Android/iOS用のゲームアプリのこと。一般的に“シリアスゲーム”というジャンルは、エンターテインメント性のみを目的とせず、社会・教育・医療用途(学習要素、体験、関心度醸成、喚起など)といった、社会問題の解決を全目的とするコンテンツを指す。また、『エネシフゲーム・インタビューズ』の開発資金は個人からのクラウドファンディングを活用し、ゲームの企画、開発はボランティア有志によるもので、営利目的のコンテンツではないのも特徴と言える。
 同プロジェクトの発起人で、プロジェクトオーガナイザーを務める小関昭彦氏は、ゲーム業界で20年以上活動してきたゲームクリエイター。二木氏も『パンツァードラグーン』シリーズなどで知られるゲームクリエイターだが、以前から“シリアスゲーム”というジャンルに興味があったという。小関氏がFacebookで『エネシフゲーム』プロジェクト制作の呼びかけを始めたときにいち早く反応し、連絡を取ったそうだ。
 エネシフ=エネルギー・シフトのことだが、3.11の大震災以降、小関氏も何かできることをやろうということで、まずは2011年4月に、“自然エネルギーで行こう!”というFacebookのページを立ち上げた。“反原発”というスタンスではなく、いいものを推進しようという考えからページを開設。ただ、ずっとゲームに携わってきたので、そのゲームを使って、なんとかうまくエネルギー問題の提案ができないかという考えから、“エネシフ・プロジェクト”がスタートしたのだという。
 二木氏は「アフリカの農民がいかにヒドイ生活をしているかという体験ができる『3rd World Farmer』という有名なシリアスゲームをプレイして、ショックを受け」、何かを体験させることでプレイヤーに理解してもらうという、ゲームの可能性のひとつに気づいたそうだ。そういったゲームを作りたいと思っていた二木氏が、Facebookでの小関氏の呼びかけに対し、Facebookを通じてコンタクトを取ったのだが、当時小関氏との面識はなかったとのこと。

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▲『エネシフゲーム・インタビューズ』の開発を手がけた小関昭彦氏(左)と二木幸夫氏(右)。

 今回は、原子力問題の専門家も参加。現在は東京都市大学教授として、原子炉物理を担当しているという高木氏は、大学教授になる2008年以前の16年間、東京電力に勤務していて、「学生時代から原子力を専攻し、“完全に原子力人間”です。東電での最後の直属の上司は、吉田昌郎氏(震災当時の福島第一原発所長。2013年7月に死去)でした」。『エネシフゲーム・インタビューズ』には、インタビュイーとして登場しているが、福島原発事故発生後、1年も経たないころに同作の話を聞いたそうだが、元東電の社員としても、なんとかしたいという思いが強く、快く参加した高木氏は「とくにイヤな質問もされず、当時はテレビ局のほうがつらかったですね(笑)」と語った。澤田氏は“御用学者”、高木氏は“東電の工作員”とまで言われたと当時を振り返った。
 ちょうどここで所用で到着が遅れていた澤田氏が登壇。駆け付け一杯と言わんばかりに、「僕は自他ともに認める“原発右翼”、原発推進派です。現在全国に20近く原発関連施設の立地地域がありますが、そのひとつの関係者から、いま原発が一基も動いていない現状をなんとか打開したいという相談があり、じっくりと話をすることになりました」と、この日遅れた理由を説明した。「私は“御用学者”じゃないんですよ。政府や東電からも一銭ももらっていませんから(笑)」と話す。小関氏によると、「3.11で澤田さんにインタビューを申し込んで、その時に高木さんと原発推進派の奈良林さん(直氏。現在、北海道大学大学院工学研究院教授)を紹介していただきました」とのこと。また、二木氏は開発当初を振り返り、ゲームの方向性として、反原発だったり、エネルギー問題を体感できる内容など、試行錯誤したという。「話せば話すほど、僕たちは専門家ではないので、詳しいことがわからない。誰の話を信じればいいのかわからないので、ならばいろいろな人の意見を聞いて、そのインタビューの過程をアドベンチャーゲームにすること」にたどり着いた。澤田氏はご子息もゲームをプレイするということもあり、ゲームでいろいろな立場の発言が横並びに扱われることについて興味深かったとし、「“御用学者”と言われ、ネット上でもボコボコにされていた時期でもあり、“原子力発電”というオプションもあるいう主張が少しでも取り上げられるのはありがたかった」と語った。
 高木氏は現在のネガティブな原発に対する状況のため、研究者の減少を危惧。澤田氏は、今後中国で増え続ける原発増設により、中国での研究がさらに発達。このままの状況が続けば、いずれ日本も中国から原発を輸入するようになる時代が来ると分析した。小関氏は、前述の奈良林氏とのインタビューにおいて、日本の原子力の安全面に対する認識はまだまだ不十分で、奈良林氏がもっとも安全だと思う北欧とは、かなりの認識の差があるそうだ。

 『エネシフゲーム・インタビューズ』では、さまざまな立場の意見をインタビュアーとして追体験することで、判断をプレイヤーに委ねている。黒川氏は、「現在原子力に関わっている方々というのは、ある種の使命感を持っていると思います。また、エネルギー問題には大きな権力も動いている世界なので、それらをどのように使うのかも今後の課題だと思っています」と語った。

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▲原子力の専門家として参加した高木直行氏(左)と澤田哲生氏(右)。
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▲006年ごろ、東工大で作られたという原子力教育に関するミニゲーム『げんパズル』。公開されていないが、遊びながら原子炉内で起こっている核反応を学べるというものだ。
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▲黒川氏が最近見たというドキュメンタリー映画『パンドラの約束』。反原発から原発支持へと転向したストーン監督は、本作で原子力こそが化石燃料に代わる唯一のエネルギー源としている。
▲第一部終了後、『エネシフゲーム・インタビューズ』にも登場している、衆議院議員の河野太郎氏からのビデオメッセージが流された。「廃炉や汚染水問題など、福島原発事故は現在も続いているものであり、真摯にこの問題に向き合う必要がある」と語った。

3年が経過しても終わっていない……福島第一原発事故

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▲講演会さながらの熱弁をふるった、菅直人元首相。

 第二部は、福島原発事故当時、内閣総理大臣だった菅直人氏が登壇した。現在の菅氏は、「原発に依存しない日本と世界の実現と再生可能なエネルギー促進」をライフワークに掲げている。
「(震災が起きた)3年前の3月11日、午後2時46分、自分がどこにいたか、多分これからの一生覚えているのではないでしょうか。私の場合、参議院の決算委員会というところで、総理として質問を受けておりました。天井の大きなシャンデリアが揺れ始め、何人かの国会職員は机の下に入っていました。揺れが収まってきて、委員長から「今日はこれで休憩にします」と言われ、すぐに国会の隣の官邸の地下にある危機管理センターに駆けつけました」と、地震発生直後の状況を振り返った。震源地やマグニチュードなど、地震の情報がつぎつぎと判明するなか、原発については、最初に「無事に地震地域の原発が停止した」という報告が届いたそうだ。しかし、それから約50分後に福島第一原発の全電源が喪失し、冷却機能も停止したという報告が入る。菅氏は東工大理学部応用物理学科を卒業しているため、専門家ではないが、一般の人よりは少し知識があり、全電源・全冷却機能が停止したらどうなるかについては、ある程度の知識があったという。当時の東電からの報告では、夜の段階でも燃料棒より上に冷却水があり、メルトダウンしないということだったが、その後の調査・検証で、地震発生から約4時間後の午後6時50分ごろには、燃料棒の頭部分が水の上に出て、メルトダウンが始まったことが明らかになった。
 菅氏は、1979年にアメリカ・スリーマイルで起きた原子力発電事故と福島原発事故の違いも説明してくれた。スリーマイルの場合、人為的ミスで起こったメルトダウンだったが、原子炉の圧力容器のなかで起こったもの。一方福島原発事故の場合は、溶けた燃料が圧力容器を溶かし、一部が漏れたものだという。この場合、圧力容器の外側にある格納容器でギリギリ止まったのだそうだ。
 現在の状況として、2週間ほど前、国会で東電・広瀬社長に質問をしたときの模様が語られた。福島第一原発の2号機の状況や格納容器内の放射線量などを質問し、現在でも原発事故が一向に収束に向かっていない現状を明らかにした。3.11以前は、菅氏自身も“原発の安全神話”を信じ、染まっていたと振り返る。しかし3.11以降、もし福島第一原発から250km圏(神奈川を除く関東地方がほぼすっぽり収まる)の約5000万人が避難の必要があるかもしれない可能性と直面し、それまでの考えを改めたそうだ。菅氏は、国家が機能しなくなるかもしれないというほどの大きな被害を出すのは、戦争以外には原発事故しかないと考える。そうしたリスクを冒してまで、原発を使い続ける必要があるかを考えてほしいと訴えた。首相在任時に大震災、原発事故を体験したことで、「原発を使わないで済む社会にしていきたい」と語った。

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 “シリアスゲーム”により、さまざまな社会問題に接する機会が増えることはたいへん有意義なこと。なかには、今回の原子力問題のように、今後決して避けて通ることのできない問題を扱っているものもあるので、自分自身で何かを考えるきっかけとして活用してほしいものだ。

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