日本でも長いキャリアを持つ“レジェンド”マーク・サーニー氏

 2014年3月27日、東京都港区六本木にあるスペイン大使館にて、東京ゲームラボ・カンファレンスが開催された。

ゲーム業界における“レジェンド”マーク・サーニー氏が語る“日本のゲーム業界から得た教訓”と“日本のゲームが世界市場で戦うためのポイント”_01
▲プレイステーション4のリード・アーキテクトであり、『KNACK(ナック)』の総監督も務めたマーク・サーニー氏。

 ゲームラボは、ゲーム業界に関わる人、企業、メディア向けのイベントをプロデュースしている、2005年に設立されたスペイン発の非営利組織。今回は、日本とスペインの交流400周年を記念した事業の一環として、スペイン大使館で開催。本稿では、プレイステーション4のリード・アーキテクトであり、『KNACK(ナック)』の総監督を務めたマーク・サーニー氏による“日本ゲーム業界から得た教訓”と題されたセッションの模様をお届けしよう。

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▲本セッションでは、ゲームラボ・カンファレンス司会者、Ivan Fernandez Lobo氏(写真右)が聞き手となり、マーク氏にインタビューをする形で進められた。

 まずは、マーク氏の経歴が紹介。

 マーク氏は、アメリカと日本で、アーケードゲームとコンソールゲームのゲームデザイナーやプログラマーなど、さまざまな役割に従事し、「“起用な人”として重宝がられた」(マーク氏)という。

 コンピューターゲームには7歳くらいから始め、「最初はそんなに夢中ではなかった」(マーク氏)ということだが、それから数年後に登場した『スペースインベーダー』で初めて夢中になったという。「『スペースインベーダー』からゲームにキャラクター性が生まれ始め、コンピューターゲームの可能性を感じました」(マーク氏)。

 プログラミングとアーケードゲームが趣味だったというマーク氏は、その両方の趣味が満たされるゲーム会社Atariに入社。最初に手がけたのは、Atariのアーケードゲーム機用『Marble Madness』 (1984)の設計とプログラミング。『Marble Madness』は、ゲーム業界ではさまざまな“史上初の技術”が使われたゲームで、マーク氏の名前は世界のゲーム業界に知れ渡ることになる。

 Atari退職後は、セガでセガ・マークIII向けの制作チームに入り、多数のゲームに携わり、メガドライブでは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』の制作などを手掛けた。ユニバーサル・スタジオのゲーム部門総合プロデューサー時代は、初代プレイステーションの『クラッシュバンディクー』や『スパイロ・ザ・ドラゴン』シリーズ、コンサルタントとしてCerny Gamesを設立した後は、プレイステーション2の『ジャック×ダクスター』、や『ラチェットアンドクランク』シリーズ、プレイステーション3では『Resistance: Fall of Man』、『キルゾーン 3』などの制作に参加。2004年のGDCアワードでは、生涯功労賞が授与。そして、前述の通り、プレイステーション4ではリード・アーキテクトとして、そしてPS4ローンチタイトルである『KNACK(ナック)』の総監督を務めた。

■日本から学んだこと、また、日本の開発会社が海外の開発会社から学ぶべきこと

 日本でのキャリアも長いマーク氏だが、日本のゲーム制作で感じたことは、「エンドユーザーのことを第一に考えて開発している」ということだったという。これは当然のような気もするが、当時(90年代)、北米などでは「自分たちが作りたいものを作ることが第一で、ユーザーのことはあまり考慮しない」スタンスだったという。それゆえ、日本で行われていたユーザーテスト(発売前のソフトを一部のプレイヤーにプレイしてもらい、そのフィードバックを製品に反映する)には感銘を受けたとのこと。ちなみに、現在では北米などでも日本を参考にユーザーテストは行われ、クオリティーアップに大いに役立っているという。

 一方、日本が海外のゲーム産業から学ぶべきことは、「メーカーを超えた開発者どうしのコミュニケーション」だという。海外では、GDCに代表されるように、開発者が開発過程で経験したことや役立った技術などをオープンに公表し、開発者どうしで情報交換する機会が多数ある。日本でも同様の催しとして、CEDECなどがあるが、まだまだそういった機会は少ないのが現状だ。必要とされるテクノロジーが高度化すると、社内だけのノウハウより、他社の開発者どうしで情報を共有したほうが進歩が早い。最近、海外のゲームのクオリティーが上がった背景には、そうした開発者の横のつながりが、ひとつの要因としてあるのではないか、というわけだ。

■世界で勝負するには日本人ならではの“アート性”が重要

 現在、ゲームビジネスを語るうえでグローバルに向けた視点は欠かせない要素のひとつ。とくに開発費がかかる据え置きのコンシューマーゲームでは、縮小傾向にある国内市場だけで勝負するにはリスクが高く、市場規模が大きい海外マーケットも意識したゲーム作りが求められる傾向にある。だが、「日本のプレイヤーは海外のプレイヤーと求めるジャンルが違う」(マーク氏)ため、ポイントは「日本で受け入れられるジャンルのゲームを海外でヒットさせるには、どんな工夫が必要か」ということ。マーク氏の考えは、日本人ならではの繊細な感性による“アートディレクションにもっとこだわること”だという。その好例として挙げたのは『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』や『ワンダと巨像』、『大神』など。「どれもディテイルにこだわった、アートワークが素晴らしい作品」(マーク氏)、海外でもヒットしている。そのヒットの要因のひとつは、もはや“匠の技”とも言える高いアート性。そこは日本のゲームが突出している部分であり、海外で勝負するポイントではないか、と語った。

■これからのゲーム制作で目指す方向性

 約30年のキャリアを持ち、黎明期から現在に至るまで、ゲーム業界を知り尽くすマーク氏が、今後の家庭用ゲーム制作において重要なこととして挙げたキーワードは、“驚き”と“未知数なもの”。また、現在はスマホ向けアプリなど利益率の高いゲームのヒットにより、リスクが高い大規模なゲーム開発体制が敷けるケースも限れる現状があり、「小規模なチームで“驚き”と“未知数”なゲームを制作することが必要となってくるでしょう」(マーク氏)。まさにこれを実践しているのがインディー系の開発会社であり、その作品だ。インディー系の開発者会社どうしは横のつながりも強く、前述の情報共有という部分でも(さまざまなしがらみがないだけに)大手メーカーよりやりやすいという側面もある。今後、インディー系開発会社からリリースされる作品のクオリティーが高まり、存在感がさらに増していくだろう、というのがマーク氏の読みだ。

 また、マーク氏は今後のコンシューマーゲーム開発において、注目している要素、技術については「『KNACK』にも盛り込みましたが、今後は家庭用ゲーム機のSNS要素がもっと浸透していくでしょう」と語り、技術については、VRヘッドマウントディスプレイを挙げた。VRヘッドマウントディスプレイについては、先日、アメリカのサンフランシスコで開催されたGDCでソニー・コンピュータエンタテインメントがPS4向けの“Project Morpheus”(→関連記事はこちら)を発表し、いまホットな話題。マーク氏もゲーム体験の新たな可能性を秘めた機器として、開発者の立場からはゲームデザインにも大きな影響を与える機器として大いに注目し、ワクワクしているとのこと。

(text:Tak Sugihara)