光田氏の新たな挑戦――クラシック曲アレンジ

『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』のクラシック曲アレンジを手がける作曲家・光田康典氏に特別インタビュー!_06

 複雑に絡み合う策略と陰謀に翻弄される幾多の英雄たち……中世ヨーロッパの戦乱を疑似体験できる、“愛と悲しみの中世騎士道シミュレーションRPG”『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』。本作の舞台は、中世ヨーロッパをモデルにした、架空の世界“ユーロ大陸”。“イングランド王国”、“フランス王国”が、歴史上名高い“百年戦争”をくり広げる世界が物語の中心となる。プレイヤーは傭兵騎士となり、多彩なバトル、重厚なグラフィック、アクチュアルな城砦や街作りとともに、本作独自の奥深いストーリーも楽しめるのだ。

 本作には、荘厳なクラシックのアレンジ曲が随所に使用されている。そのアレンジを手がける作曲家・光田康典氏に、楽曲制作や聴きどころについて伺った。

『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』のクラシック曲アレンジを手がける作曲家・光田康典氏に特別インタビュー!_04
■光田康典 氏(文中では光田)
1972年1月21日生まれ。1995 年『クロノ・トリガー』で作曲家デビュー。
1998年に独立しフリーランスで活動後、2001 年に有限会社プロキオン・スタジオを設立し、同社の代表を務める。
ゲームやアルバムなどでロンドン・フィルハーモニー交響楽団やチェコ・フィルハーモニック・コレギウム、ブルガリア国営放送交響楽団、スカイウォーカー・サウンドなど、海外のオーケストラを多数起用するなど、海外レコーディングを積極的に作品に取り入れ話題となる。
最近ではTVアニメ、映画などマルチメディア展開中の『イナズマイレブン1~3』、『イナズマイレブンGO2』やニンテンドー3DS用ソフト『新・光神話パルテナの鏡』、PS Vita用ソフト『Soul Sacrifice』を担当するなど、多方面に渡って活躍中。

――『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』の楽曲を手がけることに当たっての率直なご感想はいかがでしょうか?

光田 "百年戦争"をテーマにしたゲームということで、クラシックの楽曲をメインにアレンジしてほしいという依頼をいただきました。これまで、多くの方がクラシック曲のアレンジを手がけてきましたが、ポップなものから王道まで、さまざまなアレンジがありました。そんななかで、どういったアレンジを求められているのか、心配な部分はありましたね。でも、僕自身クラシックが好きですし、今までやったことのないことでしたので、これは勉強になると思い、「ぜひやりたい」と快諾しました。

基本的には、皆さんが知っているクラシック曲のメロディーを極力崩さない形で作ってほしいという要望がありました。僕もそのほうがいいと思っていましたので、聴いてすぐに気づくように原曲を活かしつつも“百年戦争”に合ったサウンドを実現できれば、とてもかっこよく仕上がるのでは、と思いました。

――誰もが聞き覚えのあるクラシック曲をアレンジすることに対して、難しさを感じた点はありましたか?

光田 そうとうプレッシャーでしたよ(笑)。すごい作曲家の曲ばかりですからヘタなことはできませんし、こだわりのあるクラシックファンも多いですし。「え、ここをこう変えるの?」という批判もありそうですから(笑)。最初はなかなか大胆にアレンジすることができず、カプコンさんとも「もうちょっと変えても大丈夫?」、「ここまでやったらまずいかな?」といったやりとりがあって手探りだったのですが、ゲームができていくにつれて世界観がしっかりと見えてきたので、徐々にやりやすくなりました。

――とは言え、光田さんらしさはしっかりと残っていますよね。

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光田 原曲のままのフレーズを残している部分もあるのですが、選ぶ音などで自分らしさが出てきましたね。「あれ、自分の曲みたいだな(笑)」と錯覚するほど自分のなかに溶け込んでいったというか。非常におもしろい現象でしたね。

――バッハがなんぼのもんじゃい、と(笑)。

光田 恐れ多いです(笑)。でも、バッハがもし現代にいたら、自身の曲をどうアレンジするんだろうな、といったことは考えましたね。

――クラシックに対して新たな発見があったりしたのでしょうか。

光田 これまでクラシック曲の譜面を見ることは数え切れないほどありましたが、あらためて眺めてみると、クラシックの曲ってやっぱりよくできているんですよね。演奏するには難しいとか、このフレーズはバイオリンには合わないと感じる部分もあるのですが、昔からある曲なので、ミュージシャンの方たちはすんなりと弾けるんです。ですので、レコーディングは非常にスムーズにいきましたし、楽しんで演奏してもらえたというのは大きな成果でしたね。自分の曲ですと、「弾くのが難しい」とよく言われるのですが(笑)。

クラシックというものにひととおり触れてみると、なぜこの曲が後世に受け継がれているのか、なんとなくわかる気がするんですよね。メロディーもさることながら全体のバランスがすばらしいと感じました。曲ごとに時代背景が明確ですので、メロディーに込められた魂みたいなものが強い。パッと出てパッと消える現代の音楽ではなく、作曲家自身の人生を象徴するようなものですよね。古い家具を買うような……ともすれば“怖い”と感じるほど"強い"音楽だと思います。

――ゲーム音楽として使われることで、クラシックに興味を持つプレイヤーもいるかもしれませんね。

光田 そうですね。とっかかりは何であれ、非常にいいことだと思います。

――パソコン向けオンラインゲームの曲という点で、これまでの曲作りとの違いや制限などはありましたか?

光田 とくにはありませんでした。“百年戦争”がテーマですので、それにマッチした音作りを意識しましたが、それ以外は非常に自由にやらせていただきました。制限もありませんでしたので、言わば「やりたい放題」にやったというか(笑)。心残りはなく、やり尽くした感がありますね。

コンシューマーゲームでも、オンラインゲームでも、なによりプレイヤーの方々がその世界に没頭できることが重要だと思いますので、そのひとつとして音楽がしっかりと作られているというのは大事なことですね。

――今回、非常に多くの曲を手がけていらっしゃいますが、この中からぜひこれは聴いてほしいという曲を選ぶとしたら、どれでしょうか?

光田 クエスト選択時に流れるヘンデルの「水上の音楽」は、僕の中でおもしろくアレンジできたので、聴いていただきたいですね。あと、酒場で流れるバッハの「ブランデンブルグ協奏曲5番 第1楽章」は、僕がブズーキ(※)を弾いています。じつは買ったばかりの楽器だったので、なんとか使ってみたかったんですよ(笑)。この曲だけ特殊なアレンジをしたので浮いちゃうかな、と思ったのですが、意外とマッチしました。

※ブズーキ……アイルランド音楽などに取り入れられているリュートに似た弦楽器。

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※一部の楽曲は公式ビギナーサイトで視聴可能 → コチラ

光田 今回、プロキオン・スタジオのメンバーを含めたチームで制作を進めましたが、それぞれが担当する曲をほかの人が聴くことで、ひとりで作るのとは違って多様性が生まれますし、逆にいらない部分をそぎ落とすことができていたりと、意見交換ができていい仕上がりになりました。僕の場合、ひとりでやっていると、だんだん「沈んで」いっちゃうんですよね(笑)。何人かいてくれたほうが心強いです。

――意外なお話が聞けました(笑)。それでは、『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』のゲーム自体の印象はいかがでしょうか?

光田 インストール不要で始められるオンラインゲームというとライトな印象がありますが、やることがすごくあって、じっくり腰を据えてプレイできるゲームだなと思いました。バトルがよくできていて、戦略性も楽しめましたね。街作りにも没頭してしまい、収穫をするとまた次をやりたくなって……なかなかゲームから離れられないという(笑)。

――たしかに。時間があるときはそうなっちゃいますよね。バトルの音楽についてはいかがでしょうか?

光田 どれもすごくシーンにマッチしてると思います。戦略性があるバトルですので、テンションが上がりつつもちゃんと考えられる音楽、と言いますか。考える必要があるバトルの時は、曲がアップテンポだとジャマになったりするんですよね。今回の曲は、テンポが速くメロディーが立っている曲なのですが、昔からあるメロディーなので、すんなり入ってくると思います。これは、やはりクラシック曲ならではなのでしょうね。クラシックをバトル曲にするというのは、理にかなっているのかな。新しい感覚だと感じました。全体的によくできているなぁ、と(笑)。

――もしご自身のオリジナル曲が追加されるとしたら、新たに挑戦してみたいことなどはありますか?

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光田 今回、個々のクラシック曲が時代背景ごとに音の重ねかたなどが異なる曲で、そこに対するアレンジやアプローチをいろいろと考えてみたことで、さまざまな発見がありました。オリジナル曲を作るとしたら、ヨーロッパ、クラシック、バロックといった側面を持ったような、自分なりの現代クラシックが実現できればいいな、とは思います。

でも、すでにそうそうたる作曲家の曲が先に実装されているわけですから、そこに自分のオリジナル曲が肩を並べるというのは……ちょっと困りますよね(笑)。バッハとかドヴォルザーク、そんな大先生たちがいっぱいいる飲み会とか、イヤでしょ? 誘われてもやっぱり僕は帰ります、みたいな(笑)。

――(笑)。チャレンジする分野としてはやりがいはありますよね。

光田 たとえば、ボレロのように長い曲を作りたいとは思いますね。1曲が20分あるような。そういう曲がゲームにあってもおもしろいですね。使いどころはわかりませんが(笑)。

――まだ公開されていないアレンジ曲もありますか?

光田 はい。これからゲームに実装される予定のものもあります。こちらも耳にしたことがあるクラシック曲ですので、ご期待ください。

――最後にファンの方にメッセージをお願いします。

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光田 今回はオリジナルではなくクラシックのアレンジなのですが、「光田テイスト」はふんだんに入っていますので、楽しんでいただけると思います。クオリティーにも注意して作りましたので、ゲーム全体としても完成度の高いものになっています。ぜひプレイしていただき、多くのクラシックの楽曲に触れていただけるとうれしいです。

『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』
メーカー:カプコン
ジャンル:愛と悲しみの中世騎士道シミュレーションRPG
対応機種:パソコン(Windows/Mac OS) ※オンライン専用
プレイ料金:アイテム課金制
利用方法:カプコンオンラインゲームズ、その他ポータルサイト
公式サイト:http://www.euro-h.jp/