古き良きアニソンのイイところが散りばめられた1曲

 
 カプコンより発売中のニンテンドー3DS用ソフト『ガイストクラッシャー』。本作と、本作のテレビアニメ版主題歌である『爆アツ!ガイストクラッシャー』の作曲担当・田中公平氏、作詞担当・藤林聖子氏、そして主題歌を歌うきただにひろし氏に、主題歌の魅力を聞いてきました。

『ガイストクラッシャー』 主題歌を手掛けた田中公平氏&藤林聖子氏&きただにひろし氏のスペシャルインタビューをお届け!_01
▲田中公平氏(左)、藤林聖子氏(中央)、きただにひろし氏(右)

 
──仕上がった『爆アツ!ガイストクラッシャー』を聴いてみて、いかがでしたか?

田中公平氏(以下、田中) まあ、このメンバーですからね(笑)。どういう曲になるかはわかっていました。編曲は、『ウィーアー!』などを手掛けた根岸貴幸さんなので、そちらのサウンドがちゃんとできていれば問題ないと思っていましたね。スピード感もあるし、いいロックになっていると思います。最近の、子どもたちが聴くものがあまりないという状況で、ちょうどいい仕上がりになりました。

藤林聖子氏(以下、藤林) 作曲より先に作詞を行う詞先方式だったので、作業的には私がいちばん最初で、曲も歌も何もない状態でした。ですので、デモテープを聴いたときは「すごい曲になった!」と驚き、きただにさんの歌が入って、すごくド派手になって、なんだか安心してしまいましたね(笑)。

──この3人で、という安心感がとても大きかったのですね。

藤林 そうですね。いつも公平先生にはよくしていただくので……仕事もそうですけど、食事とかお酒とか(笑)。今回も、コーラスを増やすとか、構成を少し派手に工夫していただけて、すごくいい曲になったので、本当に安心してお任せしています。

──なるほど。きただにさんは、いかがですか?

きただにひろし氏(きただに) やっぱりこのメンバーですので、期待以上のものを吹き込んだ結果、「いい曲ができたな」と思えましたね。この曲を聴いてくれている『ガイストクラッシャー』のファンの方にも、そう思っていただけるような仕上がりにできたと感じています。子どもたちに向けて、“古きよきアニソン”のいいところが散りばめられている楽曲になっていると思いますよ。

──ありがとうございます。では、楽曲にはどのような思いを込められていたのでしょうか?

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田中 いつも言っていることなのですが、アニメ業界は成熟してきていて、作り手側のレベルもどんどんアップしています。ですが、初めてアニメ音楽を聴くという子どもたちは、昔の歴史なんか知らないで、まっさらな状態でアニメ音楽を聴くわけですよ。そういう層に、僕たちは毎年毎年、ちゃんと応えていかなければいけないのにも関わらず、そういう作品が少なくなりつつあるんです。いま幼稚園くらいの子が見る番組と言えば、日曜日の朝にやっている“戦隊もの”や、NHKの“みんなのうた”くらいで……いわゆる“ロボットもの”も、大人に近い年齢層を対象にしているものがほとんどですしね。そんな状況の中で『ガイストクラッシャー』をいただき、まあ厳密にはロボットではないですが(笑)、子どもが初めて見る作品としては非常に適切な作品だと感じました。ですので、初めて作品を見る子どもたちのために、単純だけどすごく燃えて、勇気・正義・友情を真正面から歌う曲を作りたかったのです。そういう機会を与えてもらえて、うれしいと思いましたし、いい曲に仕上がったと思います。ただ、子どもが歌うには、ちょっとだけ難しくなったかもしれません。大きなお友だちも意識した、というところもありまして(笑)。そんな感じで、子ども向けの歌に携わる者として、そのような思いでやっていかなければいけないなと、日ごろから思っているわけです。

──なるほど。藤林さんは、いかがでしょうか?

藤林 『ガイストクラッシャー』は原作などがあるわけではなく、これからゲームやアニメが始まるという状況だったので、そういう意味では自由でしたね。さっき公平先生も仰っていたみたいに、まっすぐ熱さを伝えていくような、ストレートなものを書くチャンスだなと思いました。

田中 藤林さんには、何かキーワードが欲しいと言ったんですよ。いくつか出してもらって、“ガイ”にしようということになりました。

──確かに、歌詞の出だしから「ガイ、ガイ、ガイストクラッシャー」と、“ガイ”が連続で入っているのが印象的ですよね。では、きただにさんは、どのような思いで歌われたのでしょうか?

きただに サビがすごくキャッチーですよね。子どもたちが学校帰りに給食袋をぐるぐる回しながら、ひとりが「ガイ、ガイ、ガイストクラッシャー」と歌ったら、別の子が重ねて歌うという場面が想像できるような、そんなキャッチーな部分。それと、やっぱり田中公平節ですね。ふつうでは終わらないぞという、いろいろと考え抜いたメロディー。難しいところも散りばめられていますので、大人も子どもも楽しめる曲になったと思います。歌詞も、タイトルを連呼するとか、変身するときの掛け声や必殺技を叫ぶとか、そういうキーワードが散りばめられていて、すごくいいなと思いながら歌いましたね。

──こっそり1番を歌ってみたのですが、バッチリ歌うためには、もっと練習が必要そうです(笑)。では、今回の主題歌を制作する、収録するうえで、注意した点などはありますか?

田中 私の場合は、根岸くんと共作でアニメ版の劇伴(BGM)も書いています。その劇伴の中で、いちばん大事にしているのがバンクシーン。発進、合体、必殺技とあって、そこで必ず流れる音楽をいちばんかっこよく書くのがロボットものでは必須なのですが、主題歌は、そのバンクシーンで流しても、まったく遜色ないようなものを作ろうと思いました。実際、主題歌は劇伴でもけっこう使用していますが、劇伴の中でいちばんかっこいいのは主題歌、という感じになっちゃっています(笑)。つぎに劇伴を書くときは、もっとかっこいいのを書かないといけないなと思いましたね。あと、『ガイストクラッシャー』を実際に見させてもらって、バカ正直でいいねと(笑)。もちろん、いい意味で。「何故戦うのだろう」というふうに悩むのではなく、「何でもいいから、ぶっ飛ばせばいいだろ!」みたいなノリは戦隊ものくらいで……最近は、戦隊ものも悩みますしね。『ガイストクラッシャー』の主人公はいい意味でバカ正直で、最高です。こういう作品は必要ですよ、絶対。

きただに ドジっ子ですよね。遅刻はするし勉強できないし、家が弁当屋でご飯はモリモリ食べるし(笑)。

田中 お姉さんに叱られるけど、お姉さんのことは大好きで。そういう、お決まりのパターンって、僕らは何度も見てきているけど、子どもたちは見たことがないわけですよ。だから、作品にしろ曲にしろ、作り続けなきゃいけないと思います。

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藤林 私は、とにかく“爆アツ”というところで打ち合わせをしましたね。キャラクター設定とか、いろいろ見せてもらいましたが、とにかく“爆アツ”だと(笑)。

──歌詞の最初の部分、「手にした者の目的で“善”にも“悪”にも変わるという」が、歌い出しから深いことを言われているなと少し驚きました。

田中 あれは『鉄人28号』のリモコンのようなイメージですね。リモコンが悪人の手に渡ったら、鉄人は悪になってしまうという。最近のロボット作品は大体、パイロットが機体に乗り込んでしまうので、そういうことは起こらないでしょうけれど。

──では、収録する際に注意された点を教えてください。

きただに 歌のタイトルにもありますが、とにかく“爆アツ”ですね。歌い出しも「ガイ、ガイ」ですし、最後の「ガガンガガンガン……ガイストクラッシャー!」も、クレッシェンドで歌いきるっていう(笑)。汗だくになりましたし、そういう暑苦しい感じが出ていればいいなと思います。

──歌詞の中でゲームのタイトルが歌われ、変身の掛け声や必殺技も叫ぶなど、本当に古き良きアニメソングのキーワード的なものがすべて揃っているという感じですね。

田中 カプコンの方から、「タイトルはぜひ入れてほしい!」と言われましたしね。そういえば最初から、“田中公平・藤林聖子・きただにひろし”の3人でぜひ! という形で頼まれましたね。ふだん、そういう頼まれかたはしないんですけど(笑)。この3人では『ウィーアー!』も『ウィーゴー!』もやっているし、言ってみれば“ツーカー”の仲なので、言っていただいて逆にうれしかった。と同時に、同じようなものは作りたくないなという思いもありました。「やっぱりな」という感想もあっていいけど、その中に「あれ、ちょっと違うな」と感じられるようにもしたかった。だから、最後のほうは、きただにくんがふたりいるように、すごい掛け合いをしてみたりね。

きただに あれ、すごかったですよね。まだ重ねるのかっていう(笑)。そういえば藤林さん、Dメロの歌詞って、Dメロって思いながら作ってるんですか?

藤林 いえ、あれは後から田中さんに調整してもらいました。

田中 CDになったときに、大人用の少し難しい部分を作ろうと思って(笑)。

きただに Dメロいいですよ! CDを聴いたときに、ゲームやテレビで聴いていたのと違う! っていうふうになる感じがすごくいい。あとは技の名前を叫ぶ“投げ込み”ですね。あれはボーカル冥利に尽きますよ。

藤林 めちゃめちゃ叫んでいましたよね(笑)。

田中 ライブとかだと本当すごいんだから。みんないっしょに叫ぶんだよ、技名。

きただに 見せ場ですからねー。あれやると、みんな「おおおおおっ!」って盛り上がりますよ。

──ありがとうございます。では、楽曲制作時に苦労した点などはありましたか?

田中 先ほども言ったように、同じものは作りたくなかったので、最初にザーッと書いたものに少しずつ手を加えていきました。まぁ、ちょっと難しくなってしまいましたが(笑)。目立たないけど、けっこう転調もしているんですよ。何故、私がいつも詞先でやるかというと、メロディーが単調になりがちだからです。詞が先にあれば、その詞に合わせるように、全然違う発想をしなくてはならない。言葉がメロディーを持っていたりしますし。藤林さんには、いつも「暴れろ」とお願いしています。もちろんプロなので、整然とした詞なども書かれますけどね。

藤林 そうなんですよ。「暴れろ」命令が出ます(笑)。歌詞を書くとき、イントネーションを考えるのもたいへんで、たとえば“爆アツ”というフレーズは少し難しいですね。“ばくはつ”に聞こえかねないし。曲先だったら私がそれをどこに入れるか考えなきゃいけないんですけど、詞先だったらどこに入れても公平先生が何とかしてくださると思って(笑)。

──詞先、曲先でほかに違いはありますか?

藤林 詞先だと通りがいいんですよね。文脈も流れていくし、文字として見たときにわかりやすいんです。曲先だと、曲に合わせていくので、コード進行に合わせて端折っていく感情表現なんかがあって、文字として見たときにわかりにくくなってしまうし、ちょっとピンとこないという感じになってしまうんですよ。

田中 演歌なんかはいまでも詞先が多いですよ。J-POPはほとんど曲先。言いかたは少し悪いけれど、それだけ歌詞の重要性が低くなっているという形ですね。洋楽が流行るのと同じような状況で、耳からは入るメロディーが大事という。

──なるほど。きただにさんは、収録時に苦労された点はありますか?

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きただに やっぱり、田中さんの難しいメロディーを把握して実現する、というところは苦労しましたね。「ガイガイ、ガイストクラッシャー」で、1回目のガイは低いところから入って、2回目のガイで音が上がる。低い音はなかなかガンッとは出しにくいんですが、サビの最初だしパンチはないといけない。そういうテクニック的なところも含めて、苦労しましたかね。でも、このチームはいいですよ! ほかの現場だったら、曲をいただいて詞をいただいて、レコーディングするんですけど、このチームの場合は、まず藤林さんに詞の説明を受けるんです。なので、すぐ歌詞に感情を込められるんですよ。歌詞の意味もすぐに聞けるし。

田中 僕もデモテープを自分で録るときは感情込めて歌ってますしね。細かいところを伝えられますし。

──ありがとうございます。少し話が変わるのですが、仕事のお供、みたいなアイテムがあれば教えてください。

藤林 私はハーブティーを飲んでます。毎日違う種類のものにして楽しんでますね。

田中 そういえば、きただにくんは喉どうしているの? 飲み物とか気を付けてる?

きただに いや、僕あんまり過保護にはしてないですよ。日本酒とか飲んじゃいます(笑)。いざ辛いときにちゃんと処置が効くように、慣れさせないようにしてますね。田中さんは、ワインとかいっちゃったりしないんですか?

田中 僕のいいところは、お酒が入った状態で仕事しないということです(笑)。お酒を飲んで書いたものって、夜中のラブレターみたいなもので、恥ずかしいんですよ。

きただに 詞もそんな感じですか?

藤林 暴れすぎですかね(笑)。

一同 (笑)。

──それでは、最後にメッセージをお願いします。

田中 古き良き、と言うと古臭いものに聞こえるかもしれませんが、小学校低学年から大きいお子さんまで楽しめるような作品に対して合う曲を書いたつもりです。ぜひアニメを観ていただいて、ゲームをやっていただいて、長く愛されればいいなと思っています。

藤林 1曲の中に、タイトル名も技名も掛け声も入っているなんて、いま聴くと本当に珍しい歌だと思います。こんな楽しい歌もあるよということで、愛していただければいいなと思いますね。

きただに いまこの歌を聴いている小学生たちが成人式を迎えたり、同窓会をやったりして集まったときに、「そういえば『ガイストクラッシャー』っていうゲームやアニメあったよな」という話になって、みんなが口ずさんだりして……アニメソングって、大人になっても1番は全部歌えるくらいに刷り込まれているじゃないですか。この歌も、そういう存在になってほしいですね。それで、「懐かしのアニソンシンガーのきただにひろしさんです!」みたいな番組に呼んでもらって、60歳くらいの俺が出てきてこの歌を歌えればいいかなーなんて(笑)。

田中 カラオケでぜひ歌ってほしいですね。

──田中さん、藤林さん、きただにさん、ありがとうございました!

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