PS4版は“150点”の作品に!?
プレイステーション4(以下、PS4)で、新世代のゲーム開発を進めているトップクリエイターに聞く、連載インタビュー企画。第8弾となる今回は、プレイステーション4本体と同時に発売される『龍が如く 維新!』(※)について、セガの名越稔洋氏と阪本寛之氏にお話をうかがった。
※プレイステーション3版も同時発売予定。
セガ
『龍が如く』シリーズ総合監督
名越稔洋氏
【写真右】
セガ
『龍が如く 維新!』ディレクター
阪本寛之氏
オールキャストで贈る『龍が如く 維新!』
――『龍が如く 維新!』(以下、『維新!』)は、『龍が如く』シリーズの中で、どのような位置づけのタイトルなのでしょうか?
名越稔洋氏(以下、名越) 以前、『龍が如く 見参!』(以下、『見参!』)という歴史ものの作品があったのですが、『維新!』はこの『見参!』に続く、歴史ものスピンオフ第2弾になります。『見参!』は非常に評判がよく、俺自身、「このチームって、こういうテイストのゲームを作ることにおいても優秀なんだな」と自覚できたので、ぜひ何かまた作りたいなと思っていたんです。
――では、なぜこのタイミングで制作を決めたのですか?
名越 現代劇については、『龍が如く5』という、我々なりにひとつのケジメがつけられる作品ができたので、そろそろ『見参!』のような作品を手掛けてみたいな、と思いまして。ファンの皆さんからも、『見参!』のようなタイトルは作らないんですか? とお話をいただくことが多かったので、これはいいタイミングじゃないかなと思って、決断しました。
――『見参!』はシリーズの中でも人気が高いタイトルですが、名越さんにとっても思い入れが強いタイトルだったのですね。
名越 そうですね。『龍が如く』シリーズを始めたころは、日本が舞台の現代劇を成立させることが大命題だったんですけど、『見参!』で、時代を変えても、シリーズのテイストが脈々と生きるということが証明できたと思います。『龍が如く』のキャラクターたちは活き活きしているので、どの時代に飛ばしても、きっとおもしろいものになるという予感は、つねにありますね。『維新!』でも、そのおもしろさは守れると思ってます。
――いろいろな時代が考えられる中で、幕末という時代を選んだ理由は、どこにあるのでしょうか。
名越 じつは『見参!』を作っていたとき、坂本龍馬というアイデアをスタッフから提案されていたんです。ですが、『見参!』では剣劇をメインに作り込みたかったので、幕末は諦めました。そのころから、幕末はおもしろい舞台だとは思っていたので、今回はわりとすんなり時代が決まりましたね。
――阪本さんは、『維新!』を作ることになったとき、どう思われましたか?
阪本 日本の歴史を考えていくと、幕末の坂本龍馬というのは、一種のヒーローですよね。桐生一馬という存在と、かぶる部分があるというか、すごく自然に重ねられたので、ファンの皆さんも「待ってました!」と感じるのではないかと思いました。皆さんの期待を損なわないように、幕末の志士たちのカッコよさを描きつつ、『龍が如く』ならではの物語の構図やノリを活かしていけば、すごくおもしろくなるんじゃないかな、という感触がありました。
――では、『維新!』を発表した後の、ファンの皆さんの反応はいかがでしたか?
名越 ファンの皆さんの反応は、正直、めちゃめちゃよかったんじゃないかなと思ってます。「なんだ、スピンオフか」とか、「また歴史ものか」と、否定的に言われる可能性もあると思っていましたし、そう言われたら、その意見を払拭するぐらいがんばって、アピールしていこうとは思っていましたけど。まさに「待ってました!」という意見が多かったのは、素直にうれしくて、ああよかった、と。
――『龍が如く』といえばキャストが豪華なことでもおなじみですが、今回はどんな方が出演されるのでしょうか。
名越 新しいキャストの方として、高橋克典さんや船越英一郎さんがいらっしゃいます。ユーザーの方が納得できるキャスティングになるよう、「この人、アタリだったよね」と言われるように、選ばせていただきました。また、『維新!』は過去作のキャラクターがたくさん出演しますので、新旧織り交ぜてのキャスティングになっています。
――まさに、オールキャストですね。
名越 そうですね。スピンオフなりの、というか、スピンオフだからできるファンサービスです。本編ですと、死んでしまっているキャラクターもいますから。スピンオフであれば、彼らが復活できますからね。
――現在の『維新!』への手ごたえはいかがでしょうか?
名越 いままでの作品にはなかった、“我々が伝えたいこと”は出せると思ってます。もうシリーズの8作目になりますので、スタッフも『龍が如く』的なエッセンスを取捨選択するのがうまくなっているんですよね。バトルにせよ、アドベンチャーにせよ、ドラマにせよ。俺が細かいところまで指示しなくても、自然とゲームがいい風になってくれるので、以前より安心して見ています。
PS Vitaとの新しい連動の形
――阪本さんは、『維新!』を作るうえで、とくに気をつけている点、力を入れている点はありますか?
阪本寛之氏(以下、阪本) 『龍が如く』シリーズは、ユーザーの層が幅広いんですね。「ふだんゲームは遊ばないんだけど、『龍が如く』は遊ぶ」と言ってくださる方も多いので、ゲームの導入の敷居が高くならないように、とても気を遣っています。かといって生ぬるいゲームになってしまうと、やり込み派の方が物足りなくなるので、“導入はわかりやすく、その先にはいろいろな要素があって、すごくやり込める”ように作っています。
――今回、バトルでは刀と銃を使うということですが、アクションのこだわりを教えてください。
阪本 『維新!』では、これまでの作品以上に、バトルを爽快感のあるものにしようと思いました。ボタンを連打しているだけでも気持ちいいものにしたい、と。カンタンにコンボがつながる操作性は残しながら、刀で斬ったときの気持ちよさ、銃を使った遠距離での駆け引きを楽しめるように、バランスを調整しています。
――『龍が如く OF THE END』とも違うアクションなのでしょうか?
阪本 『龍が如く OF THE END』は、TPS(三人称視点シューティング)のような形でまとまったスタイルですけど、今回は刀で斬って、銃で連射して、そのままコンボをつなぐようなスタイルです。ボタン操作自体は単純で、相手の距離や武装によって攻撃をどう使い分けるかを考えることになります。アナログスティックで照準を動かす操作にしてしまうと、敷居が上がってしまいますので、その操作は排除しています。
――『龍が如く』の特徴のひとつとして、キャラクターのフェイシャル表現のリアルさが挙げられますが、PS4では、このフェイシャルがさらなる進化を遂げるのでしょうか。
阪本 そうですね。顔のアニメーションやシワの表現が、リッチに描かれると思います。これまでは、表情のパターンをたくさん作るしかなかったのですが、PS4では表情を計算して表示できるので、「すごいな」と思ってもらえると思います。
――グラフィックについて、フェイシャル以外で、とくに見てほしいところはありますか?
阪本 もともと『龍が如く』は、背景や衣服のディテールなど細かい所にもこだわっているので、作り込みの細かさが画面から伝わると思います。幕末の街並みだったり着物の生地だったり、ふつうならのっぺり映ってしまうものが、かなり繊細に描かれます。いままで以上に、ゲームの世界に没入できると思いますよ。
――本作には、PS3版、PS4版ともにPS Vitaとの連動要素があるとのことですが、詳しく教えていただけますか?
阪本 『維新!』では、プレイヤーのレベルや能力、武器の錬成などの、RPGにあるような成長要素を強めているんです。レアな武器を作るための素材が手に入るダンジョンもガッツリ用意していて、そこだけでもずっと遊んでいただけるように作っています。そのような育成の部分を、PS Vitaで遊べるようにしています。外でキャラクターを育成して、そのデータを据え置き機に反映させられるんです。スムーズにデータが循環できる仕組みを作っています。
――それはとても便利ですね! 時間や場所を選ばずに育成できるんですね。
阪本 それから、麻雀や将棋などのミニゲームも、PS Vitaで遊べます。ミニゲームをネットワーク対応させることは開発初期から決まっていたのですが、それをPS Vitaだけでも、ネットワーク対戦含めて遊べるようにしました。また、PS VitaとPS4での対戦もできます。すごくやり応えがありますし、成長要素同様に、稼いだ資金を据え置き機のデータに反映させられます。
名越 そもそも『龍が如く』は、サービス精神旺盛なコンテンツなんですよね。そのサービスの部分を、クロスプラットフォームによって拡散していくようにしました。『龍が如く』が盛り上がって、末永く遊んでもらえるようにするために企画したものなので、ぜひ期待してもらいたいと思います。
――DUALSHOCK 4についてうかがいます。DUALSHOCK 4にはさまざまな機能がついていますが、『維新!』ではどのような機能が活かされていますか?
阪本 SHAREボタンには対応していて、ゲームの一部分の動画をアップロードしたり、生配信したりできます。視聴者側の方が特定のコマンドを入力すると、配信者のゲームプレイに影響を及ぼすというフィードバックみたいなものを入れようとも思っています。たとえば、観ている人が「がんばれ」と入力すると、ゲーム内のキャラクターのパラメータが上がったりとか。まだ実験段階なのですが、ぜひ導入したいですね。
――名越さんは、SHAREボタンについてどのようにお考えですか?
名越 新しい機能というのは、時代の必然性があって付加されていると思うんですね。動画がシェアされたことによって、興味を持ってくれる人が増えるのはありがたいのですが、一方で、「こういうゲームなのか」と満足してしまって、ゲームを遊んでくれないという懸念もあります。ですが俺は、ユーザーの見る権利・知る権利のようなものは、時代に合わせてどんどん発信していくべきだと思うんですね。逆にユーザーは、それを拒否する権利を持っていて、新しいリテラシーを持って、そのような仕組みと付き合う。そういう新しいステージに入ってきたんだと思いますね。
――また、PS4には、“序盤のデータをダウンロードしたら、すぐにプレイを始められる”という機能がありますが、こちらの機能についてはどう思われますか?
阪本 昨今はかなりの大容量のゲームが出ていて、始めるまでに長時間インストールしなければなりませんよね。今回、データを小分けにダウンロードして遊べるというシステムは、ユーザー視点で見るとすごくうれしい、むしろ(その仕組みが)あって当たり前なレベルかなと思います。開発側としては、データを小分けにしても動くようにするには、これまでと作りかたを変えなければいけないんですけど、そのフォーマットのありかたはすごく正しいと思います。
名越 時代が進めば進むほど、物事はインスタントに進まなきゃいけないはずなのに、インストールで相当な時間の拘束をするというのは、ユーザーのゲーム離れを促進した要素のひとつなのではと思うことさえあります。インストールを待っているあいだに、インストールをしていたことを忘れてしまった人は少なくないと思います。この“play as you download”という機能は、そんな機会の損失を防いでくれるものですから、どんどん積極的に追及していってもらいたいですし、我々も活用していきたいと思います。
ゲームはまだまだ変わる
――PS4というハードについて、どんな印象を抱いていますか?
名越 新しいハードが揃う時期になってきましたが、その中でもPS4のパフォーマンスが高いということは、重々わかっています。ただ、どう料理するかというのは、ゲームの設定をするディレクターであり、プロデューサーであり、プランナーであり……がひとつのカギになりますし、それを表現するデザイナーやプログラマーの腕が試されるというのは、いままでと変わりがありません。手ごたえのある手段を講じると、ゲームの見た目も、遊んだときの感覚もよくなるということは日々感じているので、これからも励んでいきます。「ゲームはまだこんなに変わるんだ」と皆さんに感じてもらえる機会を増やしていくつもりなので、過去作と見比べてほしいですね。
阪本 PS4はメモリが十分なほど用意されていますし、CPUの処理速度も速く、もう、ウィークポイントがないんですよね。これまではメモリのやりくりに時間を使っていたんですが、PS4は、作ったものがそのまま出るようなイメージなんです。ゆえに、“妥協できなくなった”というのが、現場の正直な意見なんですよね。妥協しちゃうと、ほかのタイトルとの差が歴然としてしまう。このスペックを使って、どういう見せかたをすれば、いいゲームを表現できるか? という次元に突入したのだと思います。ライティングやアニメーションなど、延びしろがある要素が多いので、いままで見たこともない動きを見せてくれるタイトルも出てくるんじゃないかと思います。
――開発のしやすさについてはいかがでしょうか?
阪本 実際にPS4を触って開発している人で、「作りづらい」という人はいませんね。先ほどお話ししたとおり、デザイナーが作ったデータを、そのままドンと出すことができます。正直なことを言えば、僕は早くPS4に専念したいなあ、と思っています(笑)。妥協はできませんけれどね。
――今後、『龍が如く』シリーズはどうなっていくのでしょうか?
名越 『龍が如く』というシリーズの目標は、日本の市場の中で、日本のユーザーを楽しませることです。それはこれからも変わることはないでしょうし、『龍が如く』というIP(知的財産)やキャラクターを使って、世界を広げていくことを追求するスタンスも変わりません。開発チームは、“大作ゲームは開発に何年もかかる”という常識を打ち破ってきたので、これからもそのチャレンジは変えたくありません。シリーズを続けていくことはたいへんですが、コンテンツ作りはしんどい思いをしてまで続けるべきものではないので、ずっと楽しんで作っていられるようにしたいですね。
――『龍が如く』とPS4が合わさったら、どんなアイデアが実現できそうですか?
阪本 開発現場では、PS4をうまく使えば、ネットワーク型の箱庭ゲームがおもしろく作れそうだ、と話しています。PS4は、ネットワークへの接続をかなり意識した作りになっているので、それを活用して。いわゆる“スタンドアローン”、閉じた環境でひとり楽しめる部分の完成度を上げるのはもちろんですが、ソーシャル要素をうまく取り込んだ『龍が如く』というのも、おもしろそうだなと思っています。
――『龍が如く』以外で作ってみたいゲーム、アイデアはありますか?
阪本 僕は「なんだこれ?」と思うようなゲームに惹きつけられるところがあるんです。いまは、ソーシャルフィードバックに特化したゲームっておもしろそうだな、と思っています。たとえばクイズ番組のようなゲームで、観ている人の答えがゲームに反映されるような。まだ漠然としたアイデアですが、ソーシャルフィードバックの遊ばせかたには興味があります。
――皆さんの新しいアイデアが形になる日を楽しみにしています。それでは、最後に読者へのメッセージをお願いします。
阪本 スタッフ一同、全力でがんばって制作しておりますので、ぜひ『維新!』に期待していてください。
名越 『維新!』はPS4でも出ますし、PS3でも出ます。PS3版は、100点満点を当然目指します。そのうえで、「新しい技術に触れたい、とくにグラフィックを中心に150点ぐらいの体験をしたい!」という方は、迷わずPS4を買っていただければと思います。お財布の都合も含めてどちらかを選んでいただければ、我々は幸せです。PS Vitaとの連動も、よろしくお願いします。