ゲーム内でのリアルタイムな演出映像"In-Game Cinematics(IGC)"の現状をゲーム開発者が語り合うパネルディスカッション【CEDEC2013】

2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2013”。開催3日目に行われた、“In-Game Cinematics(IGC)パネルディスカッション”の模様をお届けしよう。

●現状のIn-Game Cinematics(IGC)表現手法について

 2013年8月21日~8月23日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的とした“CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2013”が開催された。

 開催3日目となる8月23日、ゲーム開発者によって“In-Game Cinematics(IGC)パネルディスカッション”が行われた。本パネルディスカッションには、バンダイナムコスタジオ ET開発本部未来開発部プロジェクトサポート課 主任 / テクニカルアーティストの長舩龍太郎氏、ネイロ株式会社 代表取締役/プロデューサーの平井武史氏、株式会社サイバーコネクトツー 開発部 リードアーティストの竹下勲氏、株式会社セガ 第一CS研究開発部 リードアニメーションデザイナーの豊田卓也氏、株式会社 スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏の5名が登壇。長舩氏を司会に、ゲーム内でのリアルタイムな演出映像"In-Game Cinematics(IGC)"について討論が展開された。
 最初に現状のIGC表現手法について解説された。それによると、国内では「リアルタイムデモ」が一番近い用語だが、定義は曖昧で似た用語が複数あるのが実情とのこと。続いて各パネラーが、開発した各ゲームをもとにIGCを解説。さらに未来のIGC表現がどのように進化していくべきかについても討論が展開され、今後のIGC表現についてのヒントになるセッションとなった。会場は満席になるほどで、メモをとりながら真剣に聞いているゲーム開発者が多数見受けられた。


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▲バンダイナムコスタジオ 長舩龍太郎氏

▲ネイロ株式会社 平井武史氏

▲株式会社サイバーコネクトツー 竹下勲氏

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▲株式会社セガ 豊田卓也氏

▲株式会社 スクウェア・エニックス 三宅陽一郎氏

●現状のIGC表現手法を4つに分類解説

 まず、長舩氏が、現状のIGC表現手法を「Cutscenes」、「Scripted Event」、「Quick Time Event(QTE)」、「Full Motion Video(FMV)」の4つに分類して解説を行った。

・Cutscenes
 Cutsceneは、リアルタイムデモに近いもので、ゲームエンジン上でリアルタイムに生成して描き、それを再生された映像になる。ストーリーテリングの中心的役割で、プレイヤーは基本操作ができず、再生される映像を見ていく。

・Scripted Event(Scripted Sequence)
 ゲームプレイシーンとイベントシーンをシームレスに行き来させ、ゲームが中断すること無くゲームプレイと映像が楽しめる表現手法で、プレイヤーの没入感を高める効果がある。スクリプト言語やノードエディターで遷移状態を制御しており、シネマティックでインタラクティブな演出が可能。

・Quick Time Event(QTE)
 リアルタイムデモのCutscene再生中に、画面上に表示されたボタンをタイミング良く押すことが求められ、その結果に応じてシーン展開が変化(条件分岐)していく。そのため、インタラクティブなシネマティックシーンになる。このQTEは、SEGAの『シェンムー』において鈴木裕氏が定義した手法と言われている。

・Full Motion Video(FMV)
 一見、Cutsceneと変わらないが、リアルタイム再生ではなく、あらかじめオフラインでレンダリングした映像を再生したもの。いわゆるCG動画で、Cutsceneより高品質になるが、リアルタイムで描かれない故に、プレイヤーが装備品などのパーツを変更してもまったく反映されないという弱点がある。


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●没入感を向上させるIGC事例~『Uncharted3』

 続いて長舩氏が、IGCを有効活用してゲームへの没入感を高めている良い例として、PS3版『Uncharted3』を紹介。このゲームでは、FMV・Scripted Event・通常のゲームプレイの3つのモードを活用しているとのこと。例として上映された火事の古城から主人公が脱出していくシーンでは、Scripted Eventを効果的に活用し、通常のゲームプレイシーンとScripted Eventが絶妙なタイミングでシームレスに切り替えられており、プレイヤーに飽きさせずに没入感を高めている。これは、どちらもゲーム中のキャラやオブジェクトを使用しているのでシンプルに実現できる。この“シームレス”の実現には、FMV終了後のプレイヤーキャラの立ち位置と、ゲーム中のキャラの立ち位置を、エディターで手動調整して、あたかも同じであるように見せる必要があるとのこと。
 総括して長舩氏は、『Uncharted3』は、Scripted Eventやレベルデザイン、ゲームのストーリー展開をバランス良く組み合わせることで没入感を高めているゲームなのだと、改めて痛感させられたと語った。


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●『シェンムー』でQTEが誕生した秘話

 以前セガに在籍し、『シェンムー』のメインプログラマーを務めた平井氏からは、同作でQTEが誕生した経緯が明かされた。


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 まず、『シェンムー』のサッカーボールで悪者を退治する場面。画面上に表示されたボタンを押すことでシナリオが分岐し進んでいくゲームプレイ映像が流され、QTEについて説明が行われた。
 『シェンムー』のゲームデザインを手がけた鈴木裕氏は、それ以前は『アウトラン』や『バーチャファイター』など、短時間で楽しめるアーケードゲームを開発してきた人物だ。しかし、10時間以上もプレイする家庭用ゲームにおいて、できるだけ多くのユーザーに楽しんでもらうためには、1/60秒単位でボタンを押し分けるアクション要素は不要で、初めてゲームをプレイする人でも操作説明の必要がなく、タイミングを計るだけで直感的操作で遊べるものを……と考えたとのこと。
 そして、インタラクティビティのあるゲームとノンインタラクティビティの映画を融合させ、限りなく映画に近いインタラクティビティのある“能動的な映画”にするために、QTEが生み出されたのだという。映像が流れているシーンに直感的なゲーム操作を取り込み、ゲームの流れを止めずに映像をシームレスに流すことにより、プレイヤーは没入感を味わいながらゲームを楽しめるようになった。


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 また、鈴木裕氏のゲーム開発スタイルについても明かされた。鈴木氏は、一般的なゲームデザインと違って、「まずやってみて」とトライ&エラーを重視する人物で、そこから新しい発見の可能性を模索し、ケミストリーを生み出していった人なのだそうだ。ところがQTEの考案実装時には、開発チームからは「このもったりした操作のゲームシステムではユーザーの満足度はかなり薄い」、シナリオチームからは「見たこともないシステムでおもしろいかどうかすらわからない」と非難されたのだそうだ。
 しかし、発売して10年以上が経過したいま、『龍が如く』など、QTEシステムを導入したほかのゲームタイトルが多数登場しているのはご存じの通り。平井氏は、改めて鈴木裕氏の先を見越す力の凄さを思い知らされた、と語った。


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●『ナルティメットストーム3』のIGC開発事例

 竹下氏からは、リードアーティストとして開発に携わったPS3・Xbox 360用『NARUTO-ナルトー 疾風伝 ナルティメットストーム3』(以下、『ナルティメットストーム3』)のIGCの開発事例と、どのようにして没入感を高めているかについて解説が行われた。


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 『ナルティメットストーム3』は、原作をもとにしたタイトルであるため、ストーリーはあらかじめ決まっている。なおかつプレイヤーの大半はその原作のファンだ。ゲームとしても、『NARUTOーナルトー』のドラマを楽しめること、プレイヤーがドラマの主人公になって体感できることが重要で、それが没入感にもつながる、という考えかたが基本となる。
 『ナルティメットストーム3』では、映像が流れているドラマシーン中に、画面に表示されたボタンを押して進めていくインタラクティブアクション(QTE)を採用している。ただし入力ミスによる失敗は存在せず、成功を前提としたゲームシステムとなっているのが肝。しかも大成功させることで“シークレットファクター”が発生する。これにより、プレイヤーの“成功したときの満足度”を高めるようにしているとのこと。
さらに、原作に基づいたアクションをプレイヤーの手で行うことで、原作の名場面を再現できる仕組みとなっているため、キャラクターになりきってゲームを楽しむことができる。また、下記のようにプレイヤーの手で状況が変化していくように感じさせるゲームの流れになっているため、バトルをひとつの大きなドラマとして楽しむことが可能になっているのだ。

(1)前半デモ中に行動の選択(究極の決断)
(2)前半バトル(究極の決断により変化)
(3)前半インタラクティブアクション(ドラマ重視のアクションデモ)
(4)後半デモ(シームレスに展開をつなぐ)
(5)後半バトル(究極の決断により変化)→状況よってシークレットアクション発生
(6)シークレットファクター

 最後に竹下氏は、まとめとして、決まったストーリー展開の中でもプレイヤーを没入させることは可能で、大事なことは、プレイの邪魔をせず、いかに感情移入をさせるかであると語った。


●『バイナリードメイン』のIGCシーン制作における具体例

 豊田氏からは、PS3・Xbox 360用『バイナリードメイン』のIGCシーンにおける制作時の具体例が、映像とともに明かされた。最初は、プレイヤーたちが通路を奥に向かって進んでいくと、突然前方から敵のロボットが出現するシーンについて解説。ここでは、敵の出現するシーンの位置は固定だが、プレイヤーは、通路の右側も左側も通れるため、シチュエーションを固定することができない。このような場面でシームレスに映像を繋げるためには、特殊なカメラ制御が必要で、プレイヤーを基点にローカルでカメラを制御して、注視点をグローバルで制御しているとのこと。左と右で進んだときの違いを見せるために、それぞれの画面を横に並べて比較し、違いをわかりやすく解説した。


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 つぎに画面奥から巨大なロボットがゆっくりと侵入してくるシーンでは、プレイヤーが自由に動けるうえに装備も変化するため、プレイヤーの行動に対応したIGCを用意する必要がある。また、プレイヤーがどのタイミングでどの方向から攻撃するかは不明なので、固定のモーションを基本に、プロシージャルでリアクションのアニメーションを生成してあるとのこと。
 最後に豊田氏は、話のテンポや盛り上げかた、レベルデザインなどを調整するうえで、IGCが非常に効果的な手法であると語るとともに、複雑なIGCを作るためには、開発環境(編集エディター)も重要になる、とまとめた。


●今後のIGCの進化や方向性について

 続いては三宅氏から、今後のIGCの方向性について語られた。三宅氏は、フロム・ソフトウェア在籍時に『アーマードコアV』などを手がけ、現在はスクウェア・エニックスでリードAIリサーチャーを務めている人物だ。
 三宅氏によると、今後技術が進歩していけば、AIや物理シミュレーション技術によって、コンテンツの流れに応じてIGCを自動生成するようになったり、あらかじめ用意された短いIGCを自動的につなぎ合わせてIGCの映像を流せることになるかもしれないと語る。
 また、AIシステムの“チェイニング(連鎖)”を例に、チューニングを用いたIGC生成についても解説。IGCを「開始状態」→「短いIGCデータ」→「終わり状態」の3つをデータでひとつの単位(パック)として用意しておき、ひとつの開始パックを流した後でゲームの進行状況に応じてつぎに繋がるパックを検索して流していく。これらを繰り返し、連鎖(チェイニング)してつながるようにしていけば、ひとつのIGCを生成することも可能と述べた。


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▲長舩氏は、「Leap Motion」、「Oculus Rift」、「Kinect」などの新規デバイスを活用することで、新たなIGCが生まれてくる可能性も示唆していた。

 最後にまとめとして、長舩氏は、“ユーザーの没入感をいかに向上させて、ユーザーの操作感をいかに遮断しないか”が、IGCにとって重要な課題になると語る。また、没入感を高める要素としては、「シームレス」、「インタラクティブ」、「操作感・自由度」、「プロシージャル」、「プレイヤーとの一体感」がキーポイントとなるとのこと。
そして、今回紹介した表現手法は、あくまでも“手段”であり、レベルデザイン、ストーリーテリング、演出がバランス良くかみ合うことも重要になると述べ、セッションを締めくくった。

 なお、長舩氏によると、理想のIGC実現について語り合うためのFacebookグループ「In-Game Cinematics(IGC)開発コミュニティ」(https://www.facebook.com/groups/igc.jp/) を開設しているとのこと。興味のあるゲーム開発者の方は、登録申請をしてみてはいかがだろうか。


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(取材・文:川村 和弘)