“ファミキャリ!会社探訪”第4回はフロム・ソフトウェア!
ファミ通ドットコムにオープンした、ゲーム業界専門の求人情報サービス“ファミキャリ!”。ゲーム業界での転職を目指す人たちに向けた“ファミキャリ!”が、ゲームメーカーを訪問し、実際にお話をうかがうこのコーナー。第4回となる今回はフロム・ソフトウェア!
プレイステーション発売と同時にゲーム業界へと参入した同社。デビュー作となる『キングスフィールド』をはじめ、『アーマード・コア』や『DARK SOULS』など、ハイエンドなグラフィックと斬新なゲームシステムで多くのファンを獲得している。今回は、CEDECでも講演したグラフィックシステムセクション リーダーの安藤隆佑氏と、設計セクションのリーダーを務める西田新一郎氏へのインタビューを行った。
学生時代に受けた『アーマード・コア』の衝撃
フロムソフトウェアに2002年入社。『アーマード・コア フォーミュラフロント』(PSP)、『クロムハウンズ』(Xbox 360)、『アーマード・コア 4』(PS3、Xbox 360)などの開発に、メインプログラマやグラフィクスプログラミング担当として携わる。現在はグラフィックシステムセクションのリーダーとして、おもに次世代環境に向けてのグラフィクスライブラリ開発を行っている。
――社内では、どういった業務を担当されているのですか?
安藤隆佑氏(以下、安藤) グラフィックシステムセクションという部署でリーダーをしています。この部署はプログラマとグラフィックデザイナーが所属している部署です。おもに新世代機に向けてのグラフィック表現の研究開発の役割を担っていて、新しい技術開発やリサーチ、ライブラリの保守や管理業務などを行っています。
――ゲーム業界や、フロム・ソフトウェアを志望した理由を教えてください。
安藤 もともとゲームがとても好きで、また数学や物理が得意だったということもあり、コンピュータの勉強がしたくて、大学は情報工学科に進みました。そこでプログラムの勉強をしていく中で、プログラムの楽しさを実感しましたが、同時にゲームを作りたいという思いも持ち続けていたので、独学で簡単なゲームを作っていました。そのことから、いちエンジニアとしては、通常のアプリなどを作るより、ゲームを作るほうが楽しいと感じ、将来はゲームを作る仕事に就きたいと考えるようになりました。フロム・ソフトウェアを選んだのは、『アーマード・コア』が好きで、発売された当時、衝撃を受けたんです。そのころのスペックから考えても、いちユーザーの自分にもわかるくらい相当ムチャをしているなと(笑)。それで印象に残っていて、いろいろとチャレンジできる会社なんだなと思っていました。
――フロム・ソフトウェアに10年以上在籍していますが、社風や雰囲気はどのように感じていますか?
安藤 妥協を許さないというか、本当にギリギリまで作り込みをする会社ですね。ふつうの人なら、ほとんど気づかないようなところまで作り込んでいます。でも、そういった作り込みの細かさに期待してくだざっているユーザーも多いので、フロムの作るゲームの独自性や競争力に繋がっているのだと思います。
――入社する前からそう感じていたと思うのですが、実際に入社してどうでしたか?
安藤 より強く感じました。やっぱりか、と(笑)。10年間在籍して、会社自体も変化してきた部分があるのですが、作り込みに対するこだわりは変わっていないし、フロム・ソフトウェアのDNAとしてスタッフに刻み込まれているのではないかと思います。あとは、いまはそれほどではないですが、いわゆる“職人気質”のような人も多いです。また、とにかくまずはやってみようという雰囲気はありますね。これは、無計画に作るということではなくて、おもしろさという感覚的なものを説得力のあるものにするために、まず作ってみて、それをベースに議論したり、考えていくという感じです。
――他部署間の交流はいかがですか?
安藤 業務外では、社員による自主的な勉強会やサークル活動などで交流があります。たとえば、ボードゲーム部では、業務後にメンバーが集まってボードゲームをプレイしたり、自分たちでオリジナルのゲームを制作したりすることもありますね。
新世代機でグラフィックレベルをさらに一段階引き上げたい
――今年は、いわゆる新世代機が発表になりました。エンジニアとしての印象を教えてください。
安藤 メモリやCPU、GPUのパフォーマンスが上がりました。それによって、当然いままでできなかった表現ができるようになります。おかげで、いままで作るうえでガマンしていたいろいろな制限やストレスを感じることが減りました。その反面、作るうえでのハードルは上がってきていると感じています。僕はグラフィックが専門なので、他社タイトルのグラフィックも気になるのですが、グラフィックのレベルが上がってきたことによって、ユーザーの目もどんどん肥えてきました。それで、「最低限ここまでは作らないと」というハードルが上がってきて、ともすれば、ゲームの本質とは関係ないようなところまでキチンと作る必要が出てきています。ゲームの本質に関わる以前に、その前段階に労力をかけることになっていくのが、いちばんたいへんなことではないかと思います。ゲーム全体の品質として、もちろんグラフィックだけがキレイならいいわけではなく、トータルで品質を上げていかなければいいものにはなりません。そういう意味で、我々の部署で作っているライブラリの重要性が増してきていると感じています。いちプレイヤーとしては、純粋に「早くプレイしたいなぁ」と楽しみにしているんですけどね(笑)。
――これからのゲーム業界に必要なエンジニア像はありますか?
安藤 いろいろなことに興味をもってほしいですね。ゲームの開発分野もいろいろありますが、今後は純粋なスペシャリストという性質だけでは、やっていくのは難しいのではないかと思います。分業化がさらに進み、スペシャリスト的な部分が強く求められるようになってきてはいるのですが、スペシャリストだけではゲームは完成しません。一方で横に広がっていることを把握できる能力が必要です。スペシャリストとしての技術を持ちつつ、ゼネラリストとしての視点を持てるのがいちばんだと思います。
――CEDEC(※日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス)で講演されたそうですね。
安藤 CEDECで講演したのは、“GPGPUを活用した、実践的なインタラクティブ・パーティクルシステム”という内容です。それはどういうものかというと、つぎのDirectX11やプレイステーション4、Xbox Oneの時代になり、GPGPUという、GPUのパワーを使ってさまざまな計算をさせようという機能が、より手軽に、汎用的に扱えるようになってきました。それを活用してどういうことをやろうかというところで、単純にパワーを使おうとすると、パーティクルの数が増えたとか、キャラクターの数が増えましたとか、そういう方向に行きがちなのですが、それだけだとストレートすぎるし、ユーザーの没入感を高めることに対して大きな期待はできません。そこで私たちは、よりゲームに深く入り込めるような演出のひとつとして、パーティクルエフェクトにプレイヤーやキャラクターを干渉させる例を上げました。たとえば、煙が立ち込めているところでキャラクターが手で煙を払ったりとか、飛び散った火花が地面に当たって跳ね返ったりすることをどうやって表現するかというエンジンの作りかたです。講演では、実際の開発事例を交えて話をしました。
――どういった将来のビジョンをお持ちですか?
安藤 私はグラフィックをやっていますので、短期的な目標としては、グラフィックのレベルを一段階引き上げたいですね。日本のゲームメーカーは、欧米に比べて、ゲームエンジンやミドルウェアは一歩遅れている印象があります。まずは海外勢のメーカーに追いついて、「日本のゲームメーカーもやるじゃないか」と思わせたいですね。そこからさらにプラスアルファとして、フロム・ソフトウェアならではの独自性や魅力をさらに引き出し、私が中学生のころに『アーマード・コア』で感じたような、10年後でも驚きを覚えて心に残るゲームを作れる、ライブラリや体制作りに注力していきたいですね。
――最後に転職を希望する人にメッセージを。
安藤 ゲーム業界を志望する学生さんだったら、ゲームと直接関係がないことでも、「僕はこういうことがしたい。だからこういう勉強をしている」というところを見せてほしいと思っています。たとえば、面接で研究の話をすることもあるのですが、何を研究しているかに終始してしまっていて、それをどう活かすのかを考えている人はあまりいないんですよ。少し工夫すればゲーム開発にも役立ちそうな、おもしろそうな研究をしている人もいるんですが、「それをどう活かしますか?」と聞くと「いや、とくに考えていません」と返ってくることも多いんです。それはすごくもったいないなと思います。ゲームだけに限らず、生活の中で、勉強している中で、それをどう活かしていこうかを意識できる方だと心強いですね。転職を考えている方に向けては、大手ゲームメーカーに比べると小さい会社ですが、フットワークは軽いですし、個人の裁量や工夫でできることも広がります。会社が大きすぎたり、逆に小さくて悶々としている(笑)クリエイターの方には向いていると思います。
20年来、フロム・ソフトウェアの成長と変貌を見続ける
業務用アプリケーション開発をしていた1993年に入社し、プログラマ(業務用アプリ→ゲーム)、プロデューサーなどを経て、
現在は設計セクションのリーダーを務める。
――社内ではどういう業務をされているのですか?
西田新一郎氏(以下、西田) 私は、設計セクションという部署でリーダーをしています。設計というと、あまりゲーム業務らしくないのですが、一般的にいうとSE(システムエンジニア)にあたるもので、ゲーム内の画面の設計や、アイテムのデータにおける関連性をどうするのかといった仕様を決めたり、ネットワークのサーバーの仕様などを担当しています。
じつは私の場合は、フロム・ソフトウェアがまだアプリケーションを作っていたころに入社したという、いまいるスタッフの中では数少ないメンバーです。ですから、特別ゲームが作りたくて入社したという感じではないんですよ。
――なるほど。フロム・ソフトウェアには20年在籍されているわけですが、ひと言でいうとどんな会社ですか?
西田 社風というと変ですが、“あきらめが悪い”というか(笑)。ほかのメーカーなら、やりたくてもたいへんだからやらないようなことまで、敢えてやっている部分があります。ギリギリまでこだわって作っていて、「そこを直すとマスターが間に合わない」などとは決して言わないんですよ。なにせ、あきらめが悪いので(笑)。
――社内の雰囲気はどんな感じですか?
西田 意外と静かですね。開発チームによって差があると思いますが、口頭で簡単に打ち合わせをして、すぐその仕事に取り掛かることが多いです。職場で喧々諤々と議論をしているといったことは少ないですね。あと、取材に来られた方には「社内がキレイですね」とはよく言われます(笑)。
――確かにキレイですよね。まるで、引っ越した直後のような(笑)。
ネットワークをゲームのスパイスとして使いたい
――業務用アプリの開発からゲーム開発へと業務体系が変わったわけですが、そのころから在籍されている西田さんからみて、どんな変化がありましたか?
西田 変わらない部分としては、まずやってみようという考えかたや、代表の神(直利氏)が以前と変わらずパワフルなところとか(笑)。神は「ゲームだから」という考えかたをとても嫌うタイプなんです。まず根底に「ここは会社で、プロが仕事をする場だ」という考えかたがあり、私たちが作っているのはコンテンツであって、モノづくりをどういった視点で行うべきかという話をしつこいくらいしますね。それは、アプリケーションであろうが、ゲームだろうが変わらないものです。アプリケーションの場合、このボタンがなぜここに配置されているのか、この機能は画面ではどういう表示をされて、そこにどういう理由があるのか、その意味をきちんと考えてやります。それはゲームに置き換えると、コマンド情報や画面の表示といったものになるわけです。
――いわゆる新世代機が発表になりました。エンジニアとしての印象を教えてください。
西田 私は、プレイステーション時代から数えると、つぎが4代目になるわけですが、間違いなく“やれること”が増えました。同時に、“やらなければいけないこと”も増えました。以前なら、完全なパターンや記号でよかったものが、いまは3Dモデルになり、キャラクターにはAIや3Dアニメーションが必要と、やらなければいけないことがどんどん増えています。たいへんさもありますが、ただ絵がキレイになっただけにならないよう、ゲームとして進化したものを作れるように、ここは気合いを入れて作らないと、と思っています。
――西田さんはネットワーク周りも担当していますよね。
西田 現在では、ネットワークは特別なもの、という意識ではなくなってきています。弊社のタイトルでも、『アーマード・コア』は実際にケーブルで接続して対戦もできますが、そうしたいわゆる“オンラインモード”のようなものを指すのは古いと感じています。もう「オンライン対戦ができます」というのがネットワークの使いかたではない、ゲームのスパイスとして使うのだというのをもっと突き詰めていかなければいけない。ネットワークにつなげていることをユーザーに意識させていること自体が不自然なのであって、“自然につながっている状態”をどう表現しようかというのが、課題だと思っています。
――ネットワークについて、未来像のようなものはあるのですか?
西田 うーん、たとえば、各自が制作したダンジョンのマップをアップロード&ほかのユーザーがダウンロードしてプレイするといった仕組みは、ネットワーク前提のものです。これまではそれほど活用されていませんでしたが、積極的に利用できるタイプのものだと思います。ほかにもいろいろとアイデアは考えていますが、このようにゲームの中の要素として、ネットワークを使う場所を増やしていきたいと思っています。
――ゲーム業界に必要なエンジニア像はありますか?
西田 一般的なアプリケーション開発の考えかたと違う点があって、「ゲームの企画趣旨が○○だから、本来は最適な処理の方法ではないかもしれないが、こういったやりかたのほうがいい」というのがゲームの作りかただったりするので、まずはそういう考えかたの違いは知ってもらえたらと思います。ただ、そのほかのことは、ゲーム業界だから特別ということはあまりないと思っています。たとえば、ゲームが少人数で作られていた時代と違って、いまはプロジェクトに関わっている人数も多くなりました。エンジニアも以前は自分の担当する仕事をこなしてさえいればよかったのですが、いまはそれだけではダメです。コミュニケーション能力がないと、ただ“使われるだけの人間”になってしまい、けっきょくは自分の能力を活かせない。そうしたコミュニケーション力やロジカルな思考能力が必要という点では、ゲーム業界も同じです。
――将来のビジョンはどのようなものですか?
西田 個人的に、ゲームというコンテンツが今後どのように変化していくのか、興味があります。ネットワークはその中でもキーになるでしょう。また、極端な言いかたになりますが、“絵がキレイになった”だけではダメで、それは遊びの本質がおもしろくなるのとは違います。ネットワークは、まだまだいろいろなことをやりつくされた分野ではないので、そこを積極的に活用することで、ゲームがどう変化していくのか。そういったことに興味がありますね。『Demon’s Souls』を作ったときに、“ゆるいネットワーク”というキーワードがありました。サーバーに置いてあるリプレイデータやその人が残した痕跡はゆるいよね、というアイデアからああいったゲームになり、一定の評価をいただいたと思っています。今後はそうした要素を複数のものを組み合わせた中で、ネットワークがどれだけゲームに対して、ネットワークであることを意識せずに影響を及ぼせるか、新しい“ネットワーク表現”を作っていければいいなと思っています。
――最後に転職を希望する人にメッセージを。
西田 まず、箱を作って、それからその箱をだんだんキレイにしていく。ゲーム開発もそういった側面がありますが、その箱をどのようにブラッシュアップしていくのか、フロム・ソフトウェアでは個人の裁量にゆだねられている部分が多いと思います。そういうことにやりがいを感じる方は、ぜひ一度お話させていただければと思います。また、お話してきたように、ネットワークを活かしてやりたいことがたくさんあるので、ネットワーク、とくにサーバーサイドの技術者、リアルタイム処理の経験のある方に来てもらえるとうれしいですね。安藤のやっているようなグラフィックをつきつめたような業務は、ゲーム業界の中でも特殊な仕事ですが、ネットワークの部分は、アプリケーション開発と共通することが多いので、経験を活かしていただけると思います。何より、いいものを作りたい、ゲームをもっとおもしろいものにしたい、そのためにこれまでの経験や知識を活かしていきたいと考えている方といっしょにゲームが作れたらうれしいですね。
フロム・ソフトウェアってどんな会社?
1986年に、ビジネス系アプリケーションを開発する会社として設立。1994年のプレイステーション登場に合わせて、ゲームソフトウェア開発に参入し、同年『キングスフィールド』、1997年には『アーマード・コア』を発売する。以後、1998年にドリームキャスト、2002年にゲームキューブやXbox用ソフトを発売するほか、『Demon's Souls』や『Another Century's Episode』、『重鉄騎』といった、他社発売作品の開発も多数手がけている。
また、同社に所属するコンポーザーで編成されたサウンドチーム“FreQuency(フリーケンシー)”は、CDをリリースするなど、近年活躍の場を広げている。
<会社概要>
株式会社フロム・ソフトウェア
●代表取締役社長:神直利 ●設立年月日:1986年11月1日
●従業員数:218名(2012年4月現在)
●事業内容:ゲームソフトの企画・開発・販売、インターネット上のコンテンツの企画・開発
PS3、Xbox 360で9月26日発売予定のシリーズ最新作。
PS3、Xbox 360、PC用ソフトとして、2014年3月発売予定のアクションRPG。