講演者がオリジナルのTシャツ姿で登場!

 2013年8月21日~23日の3日間に渡ってパシフィコ横浜で開催された、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC2013”。最終日となる23日に、メインホールで“拡散性ミリオンアーサーをPSVITAに展開した事例について”のセッションが行われたので、その模様をリポートしよう。

 『拡散性ミリオンアーサー』は、2012年4月9日にスクウェア・エニックスから配信されたカードバトルRPG。人気ライトノベル作家の鎌池和馬氏がシナリオや世界観、キャラクターの性格設定、作曲家や歌手など幅広く活躍する前山田健一(ヒャダイン)氏が音楽を担当しているほか、総勢50名以上ものイラストレーターがキャラクターデザイン、カードイラストを手掛けたことで話題になった。

 2013年4月11日には、プレイステーションVitaでの配信がスタートしたが、このセッションではスクウェア・エニックス、特モバイル二部のプロデューサー、古川雄樹氏と、ビサイドの代表取締役社長、南治一徳氏が登壇し、プレイステーションVita版における『拡散性ミリオンアーサー』の開発・運営事例の紹介や、プレイステーションVita市場の最新の動向が伝えられた。

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▲古川雄樹氏(写真左)、南治一徳氏(写真右)。
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 講演に先駆けて、古川氏から語られたのが、当日ふたりが着ていたニムエというキャラクターがプリントされたTシャツについて。「CEDECはまじめな印象が強いので、おふざけでニムエのTシャツを着て出ようと決めていた」という古川氏たちだったが、「初日にメインホールだと知って、ヤバイなと思った」そうだ。さらに、当初はTシャツの襟の部分にキャラクターの首がくるようにして、“あまりにもニムエちゃんが好きすぎて、合体しちゃいましたTシャツ”を作ろうとしたそうだが、「デザインがあがってきたものがあまりにもキモすぎて、NGになった(苦笑)」ために、お蔵入りしたという。

特モバイル二部の新たなチャレンジ

 Tシャツの紹介が終わった後、セッションの前半には、古川氏から『拡散性ミリオンアーサー』の紹介や、プレイステーションVita版を開発するきっかけが伝えらた。もともと、ケイブに入社し、携帯ゲームサイトの運営プランナーとして従事していたという古川氏。2010年2月にモバゲータウンにて箱庭ソーシャルゲーム『しろつく』を立ち上げ、同年6月にGREEでもリリース。2011年には『くにつく』をリリースし、ケイブを退社後、2012年5月にスクウェア・エニックスに入社した。同社では特モバイル二部に配属され、『拡散性ミリオンアーサー』のプレイステーションVita版の運営を中心に、そほのかの案件を担当しているそうだ。

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 古川氏は、『拡散性ミリオンアーサー』のプレイステーションVita版を開発するきっかけとして、特モバイル二部は、“モバイルを主軸にしつつ、枠組みをこえてさまざまなことに挑戦しよう”とする部署なので、「コンシューマー機で何かやりたいと思っていた」とコメント。その結果、プレイステーションVitaでF2P市場に挑戦してみようと決断したそうだ。

 そして、2012年夏にスクウェア・エニックスの安藤武博氏や岩野弘明氏とともに、『拡散性ミリオンアーサー』をプレイステーションVita版で展開することを決め、同年秋よりビサイドと開発をスタート。スマートフォン版の一周年記念に合わせる形で、2013年4月11日にプレイステーションVita版配信を開始した。ちなみに、スマートフォン版とプレイステーションVita版のワールドを同じにしなかった理由として、「配信から1年が経っていたので、みんなで最初からスタートしたほうがいいだろうと思ったのと、主人公が3人いるので、違う主人公を選んで遊んでもらえるのではないか」という考えがあったそうだ。

 また、古川氏はプレイステーションVita版の開発で苦労したこととして、以下の3つを挙げた。

【1】ボタン操作:スマートフォンにボタンがないので独自に開発
【2】画面を16:9に:画面が横長のため、見栄えをよくするため調整
【3】ソニーの申請周りや規約の確認:想定した以上に時間がかかった

 とくに力を入れたというのが、ボタン操作。「プレイステーションVitaを持ってタッチパネルで遊ばせるのはつらいよね」と話し合った古川氏たちは、ボタン対応はしっかりやろうと、独自の新規開発の工数を割いたそうだ。また、運営を始めてみて、「GREEやMobageの市場とだいぶ違う」と思った5つのポイントをそれぞれ紹介してくれた。

【1】新規ユーザーを獲得するのが難しい。純広告がメインで、youtubeに動画をあげたりした。コラボイベントが非常に大事であるとも
【2】プレイステーションVitaを購入された方がゲームユーザーなので、ゲームに対してお金を支払うことへの抵抗が少ない傾向にある
【3】利用シーンがスマートフォンと異なり、自宅Wi-Fiが中心。「夜メインで遊んでいます」とのコメントも多い
【4】「初めて遊びます」というコメントが多く、新しい顧客層にリーチできている
【5】タイトルのリリース頻度が低く、継続して利用していただけている傾向にある

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 そのほかに古川氏は、「最初のダウンロード時間が想定外にかかってしまったため、クライアントの容量をもっと小さくすればよかった」、「発売日を優先してしまったため、デバック期間がやや短くなってしまい、細かい不具合が多く出てしまった」という反省点も明かした。

 最後に古川氏は、プレイステーションVita版には独自のアップデートを入れていくことと、集客の問題をクリアーすべく、さまざまなタイトルとのコラボイベントを行っていくことを発表。市場の今後については、3つの予想を披露してくれた。

【1】プレイステーションVitaにもF2Pタイトルが増えるかも
【2】iOS、Android、PC、プレイステーションVitaなど、ハードを超えて同じゲームを楽しめるようなタイトルが増えるかも
【3】スマートフォンアプリに画面が横型のゲームが増えるかも(横型はプレイステーションVitaでの展開を視野に入れられるひとつの強みになる)

 近年、存在感が増してきているF2Pタイトル。古川氏は、F2Pタイトルの開発者に「これからもがんばりましょう!」とエールを送り、南治氏にバトンタッチした。

プレイステーションVita版の制作体験談

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 セッションの後半では、南治氏が登場し、ゲーム開発のよりテクニカルな話が展開された。最初に紹介されたのは、なぜ南治氏が『拡散性ミリオンアーサー』の開発に携わることになったのかというエピソードだ。南治氏は、人気キャラクター“トロ”を生み出した『どこでもいっしょ』を企画・制作したクリエイター。ベクトルの違うタイトルの開発を担当することになったのは、2012年4月13日に行われた“Unity Asia Bootcamp”にて、スクウェア・エニックスの“@seasons”さんとのやり取りが発端で、ラインが空いたことを報告したところ、開発を担当することになったとのこと。

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▲南治氏と@seasons氏とのやり取り。

 その後、順調に話が進んで開発がスタートし、プレイステーションVita版『拡散性ミリオンアーサー』は無事に完成したそうだ。ここからは、制作における体験談をもとに、プログラムやネットワークなどの開発エピソードが語られた。以下にそれらのポイントをピックアップしよう。

<プログラム全般>
●アプリ本体のプログラムはAndroid版(C++)をもとに移植。ObjectiveCよりかなりの工数削減に
●サーバプログラムは最新ではなく、古いバージョンのものを流用&改良。当時、大規模アップデートの準備中だったので、最新版をさけた
まとめ:できるかぎり、オリジナルのリソースを利用

<グラフィック>
●プレイステーションVitaには、OpenGLライブラリがないので、オリジナルはOpenGL ES1.1範囲の機能を利用
●プレイステーションVitaは、SCEの独自ライブラリ
●OpenGLのラッパーライブラリを制作して対応
●工数的に使用しているAPIに限定して対応
●圧縮テクスチャは使用せず、RGBAとindexedのみ
まとめ:グラフィックはそれほど障害にならなかった

<グラフィックの唯一の障害点>
●フレームバッファの扱いについて、OpenGLでは、その数に制限がなかった
●プレイステーションVitaのSDKは制限があり、オリジナルソースではこれを超えることがあったため、回避策の導入が必要だった

<α付きindexed color PNGについて>
●α付きindexed color PNGを多用
●クオリティ&サイズのバランスがよい
●制作にはOPTPiX imasta7を活用
●実質的にほかに対応しているツールがない

<ネットワーク関係>
●UIWebViewがない! Webレンダリングのライブラリがないので、外部呼び出しのアプリで対応
●エラー/切断時のケア。表示内容、タイミングを含めて細かくルールが規定されている。AdHocが絡んでくるとさらにめんどうに
●通信をhttpからhttpsに変更
まとめ:ネットワーク関係の工数は多めに見積もっておく必要アリ

<PlayStation Network>
●PSN IDの表示。ユーザー識別子としてPSN IDの表示が必須。ユーザー名表示すべての箇所で表示が必須
●PSNにログインするだけで遊べる。ユーザー任意のID&PASSWORDはNG。PSN ID&チケット認証に移行が必須
●雑誌などについている独自発行の招待コードはNG。SCE発行のプロダクトコードが必須
●課金の仕組みも、PSNの利用が必須
まとめ:対応は多少めんどくさいが、かなりセキュアな環境

ゲーム機の得意分野を中心に強化された機能

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 古川氏が苦労した点として物理ボタンの対応、画面サイズを16:9にしたことをあげていたが、問題をクリアーできれば、これらはプレイステーションVita版ならではの強みになる。たとえば、物理ボタンは、頻繁に使うメニューにボタンを割り当てることで、より快適なプレイを実現することに成功。南治氏によると、あえて画面ごとにボタンの割り当てを変えることで、連打によるミスを防ぐなどの工夫がされているそうだ。また、背景画像はもともと大きなサイズで作られていたため、16:9にしてもそのままの画像をきれいに使うことができたという。

 そして、力を入れて実装した新要素として、南治氏は“ホロ・リアルシミュレーション”を紹介した。これは、本体を傾けることで、画面に表示されたカードのきらめきかたが変わるというもの。いくつかパターンが用意されていて、ユーザーの好評を得れたという。

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▲ホロ・リアルシミュレーションが施されたカード。
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▲トロの新規スキルムービー。

 ダウンロードで新規のスキルムービーを追加したり、独自システムとして“PPS”システムを実装したのも大きなポイント。“PPS”システムは、キャラクターの胸が“ぷるぷる”揺れるというもので、本体の傾きに合わせて揺れるという強いこだわり(?)も。「夏の水着イベントに合わせて作ったんですが、爆乳ハイパーバトルの『閃乱カグラ』とコラボすることになったので、バッチリだと思いました(笑)」(南治氏)。

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F2Pのプラットフォームとして、プレイステーションVitaはアリなのか!?【CEDEC 2013】_13
▲多くのユーザーを虜にした“PPS”システム。

 南治氏はまとめとして、以下のポイントから、F2Pのプラットフォームの候補として、「プレイステーションVitaは十分アリ!」だと語り、“コラボレーションコンテンツ大募集!”の告知をしてセッションを終えた。

【1】プレイステーションVita版はそれなりに好調です
【2】スマートフォンはF2P&ネイティブアプリの時代に
【3】ゲームエンジンなどを活用して効率化が可能
【4】プレイステーションVitaのユーザーはとても熱心です!

 その後、残った時間で質疑応答が行われ、アプリを追加する方法や、横型のゲームの開発するメリットなどについて、熱いやり取りが展開された。多くのゲーム開発者がプレイステーションVitaのプラットフォームに関心を寄せていたようなので、今後の動向に注目したい。

(取材・文:ジャイアント黒田)